
それぞれの夜:ずっと、縛られてみたかった <第8章>
鞭と羞恥の余韻を抱えたまま、
薄暗いプレイスペースのボックス席で、気持ちを落ち着かせていた。
店内は相変わらず、にぎやかだった。
ここはカップルの客も多いようだった。
カウンター席では楽しそうに会話が弾んでいる。
今日は誰かの誕生日らしい。
ケーキが出てきて、みんなで誕生日を祝っていた。
他にプレイをする人もおらず、なんだか普通のバーみたいだった。
「いろいろ話をきかせてもらうといいよ。」
そう言われて、東京からの出張のたびに来ているという男性と相席になった。
定年間近で、全国各地のSMバー巡りが趣味らしい。
東京ばな奈もいただいた。
彼は、責める側でも受ける側でもない。
いわゆる「見る専」ということだった。
昔から、人が責められている場面を見ることでしか興奮できないと話していた。
自分が責める側になると、段取りとかいろいろ考えてしまって、ダメらしい。
昔はハプニングバーにも行っていたそうだが、
ハプバーだと否応なしに自分も竿の数に入れられてしまうことから、行かなくなったそうだ。
私はきっと、一生ハプニングバーに行くことは無いと思う。
でも、そういう世界の話を聞くのは面白かった。
彼はずっと、女王様に「あなたはMだ」と言われていて、試しに鞭を受けたこともあるそうだ。
ところが鞭を受けても全く興奮しなかったため、「あなたはMじゃないね」と、わかってもらえたと話していた。
なるほど。フェチの世界は奥深い。
興奮する対象も、人それぞれなんだなぁ。
人って面白いなぁ、と思った。
ひとことでSMバー、フェティッシュバーと言っても、店によって雰囲気はまったく違う。
私が、昨日行った「夜想曲」の話をすると、
「あそこは、ハプバー寄りの印象があって、行ったことがないんですよ。」と話していた。
昨日の様子を伝えると、とても興味深そうに聞いてくれた。
彼はいろいろな被虐を見てきたらしい。
「限界を超えると、一段別の世界に入るみたいですよ。」
そう教えてくれた。
…まぁ、そうやろなと(笑)
プレイスペースでは、背の高い男の子と、小柄な女の子のカップルが遊んでいた。
女の子が男の子をX字架に拘束しようとするのだが、身長が足りない。
手首の拘束がゆるゆるで、まったく固定できていない。
「あれじゃ拘束感が足りなくて、没入できないよね。」そんな話をしながら眺めていた。
普段は男の子がSで、女の子がMらしい。
逆の立場で拘束されて、バラ鞭を受けて、「うぎゃー!」と声をあげているのが楽しそうだ。
(バラ鞭はたいして痛くないのを知っているので、面白がって見ていられる。)
しばらくして交代。
今度は女の子が拘束されて、男の子が鞭を打つ。
ママがさりげなく、男の子に、痛そうな鞭を手渡していたのが面白かった。(笑)
話をしていると、ママが
「痛い鞭があるよー」と、見せてくれた。
平たい形状の短鞭で、先が二股に分かれている。
トォーズというらしい。
試しに手を打ってみる。
なるほどそれなりに痛そうだ。
痛いとなると、試してみたくなる。
人の性なのか、Mの性なのか。(笑)
でもあとが残るよーと言われて、
あとが残るのは困るーと思って、葛藤していた。
あとがつかない程度に、お尻を叩いてもらったが、そこそこ痛い。
痛みを希求している自分に気づいて、また羞恥する。
痛いのに、もっと受けたいと思っている自分が恥ずかしかった。
しばらく動けず、クッションを抱えて、羞恥に悶えていた。
見る専のおじとしては、
私がママに責められて悶えていたのも、なかなか良かったらしい。
何よりでございました。(笑)
鞭あとを気にしていると、思い切り楽しめない。
…これはもう、ここに夫を連れてくるしかないのでは。
そう相談すると、ママは笑って、
「連れてきたら、かわいがってあげるよー」と言った。
さて。
なんと言って、夫を誘えばいいものか。
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