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私の歩幅で。

    #創作大賞2026
    #エッセイ部門

    「辞めたい。」
    その言葉は、退職したあとも頭の中から消えませんでした。
    もう会社に行かなくていいはずなのに。
    朝起きても、ご飯を食べていても。
    気づけば口に出していました。
    心だけが、まだ会社に取り残されていたのです。

    私は三度目のうつ病になりました。
    朝になると吐き気がする。
    眠れない。胸が苦しい。
    それでも、「もう少し頑張れば大丈夫」と、自分に言い聞かせていました。

    頑張ることは、昔から得意でした。
    頼られることが嬉しくて、「大丈夫です」が口癖になっていました。
    でも、その「大丈夫」は、本当の気持ちではありませんでした。
    私はずっと、自分は社会人に向いていないと思っていました。

    疲れやすい。
    人より傷つきやすい。
    周りと同じように働けない。
    そんな自分を何度も責めてきました。
    でも、退職が決まってから、少しだけ考え方が変わりました。

    私はHSS型HSPという気質を持っています。
    新しいことに挑戦するのが好きです。
    興味を持ったことには夢中になれます。
    でも、人の感情や空気に敏感で、知らないうちに心が疲れてしまうことがあります。

    挑戦したい。
    でも疲れてしまう。
    前に進みたい。
    でも立ち止まってしまう。
    以前は、この矛盾が嫌いでした。

    でも今は思います。
    向いていなかったんじゃない。
    自分に合わない場所で、一生懸命頑張っていただけだったのかもしれません。

    そしてある日、母と妹に会いました。
    気づけば、たくさん笑っていました。
    「こんなに笑ったのはいつぶりだろう。」
    そう思うくらい、心が軽くなっていました。

    母は私に、お守りを渡してくれました。
    「これ、orinに。」
    その小さなお守りを受け取った瞬間、
    何歳になっても、母は私にとって安心できる場所なんだ。
    そう気づいた日でした。

    私は二人に、これからやってみたいことを話しました。
    自分らしい働き方を見つけたいこと。
    その一歩として、自分の分身のようなキャラクターのピヨ志を育て、
    絵本を作りたいこと。
    自分で事業に挑戦したいこと。

    まだ形にはなっていません。
    不安もあります。
    きっと失敗することもあると思います。
    それでも二人は、
    「やってみなよ!」と応援してくれました。

    その日、帰り道の景色が少しだけ違って見えました。
    何かが解決したわけではありません。
    不安がなくなったわけでもありません。

    それでも、
    「応援してくれる人がいる」
    その事実だけで、人はまた前を向けるのだと知りました。

    私は疲れやすい人間です。
    だから、また立ち止まる日もあると思います。
    思うように進めない日もあると思います。
    でも、それでいい。
    頑張り続けることだけが、前に進むことではないと知ったからです。
    これからは、自分の体調を後回しにしない働き方を選びたい。

    頑張る日があってもいい。
    休む日があってもいい。
    走る日もあれば、ゆっくり歩く日があってもいい。
    そんな働き方を、自分でつくっていきたいと思っています。

    退職は、終わりではなく
    自分の人生を選び直すスタートでした。

    もし今、
    「自分は向いていない。」
    そう思いながら毎日を過ごしている人がいたら、伝えたいことがあります。
    向いていないんじゃない。
    合っていなかっただけかもしれません。

    人には、それぞれ歩きやすい道や歩幅があります。
    速く走れる人もいれば、
    ゆっくり歩くことで力を発揮できる人もいます。

    私は、ずっと誰かの歩幅で歩こうとしていました。
    だから苦しかったのかもしれません。
    今も私は回復の途中です。
    不安がなくなったわけではありません。

    でもあの日、母がくれたお守りを見るたびに思います。
    焦らなくていい。
    比べなくていい。
    自分の歩幅で歩けばいい。

    何気ない一言やきっかけが少しずつ心をほどいて、前を向く力をくれました。

    だから今日も、私は自分の歩幅で歩いていこうと思います。


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