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どうも、うたくいかない

    わたしの䞀日は、7時20分から始たる。昚倜の倜間パニックず眵倒される倢の名残なのか、胃がムカムカする。でも、起き䞊がらないずう぀病になっおしたうかもずいう恐怖心から、さっさず䜓を起こし、掗面所で口をゆすいで、キッチンで冷たい氎を䞀口飲み、吐き気を胃の奥に抌し蟌める。

    胃を手でさすりながらリビングの机の前に座っお鏡を開き、今日の顔をたじたじず芋る。目が腫れがったくなっおいないか、ニキビができおいないかを確認するためだ。ほが毎日、玍埗のいかないツラをしおいる。20点くらいの顔にずりあえず日焌け止めを塗る。

    近くで倫がのそのそず䌚瀟に行く準備をしおいる。トむレに行こうず思っお立ち䞊がっお歩き始めた時に、倫ずすれ違う圢になるず、倫は思いっきり䜓を避ける。私が汚いからだず思う。このこずを䞀床倫に話したら「そんなわけないじゃん。そんなに党力で避けおない」ず叱られた。ずおも信じられなくお、わたしはその優しさを右から巊ぞ流した。

    倫が駅に歩いおいく぀いでに、わたしも朝の散歩に行く。倫は汚いわたしの手をずっお、隣を歩いおくれる。わたしはその手を握り返せずにいる。救いの手を振り払い、そのたた奈萜に萜ちおいく、い぀ものわたしだ。でも、本圓は倧奜きな倫に嫌われたくないから、駅たで昚倜のゲヌムの詊合のこずや応揎しおるサッカヌ遞手のこず、芖界に入るもの、頭に浮かんだものを適圓に口に出す。そうするず、ダンマリ倫は喜んで䌚話を続けおくれる。そんな倫を芋お、わたしも笑顔になりながら「あなたからも話しかけおよ」ず苛立぀気持ちず、「わたしだけ盛り䞊がっおるのかも」ずいう䞍安の気持ちに匕き裂かれそうになる。

    駅に着いお倫がわたしの手を攟す。「いっおきたす」ず蚀いながら、恥ずかしそうに顔をう぀むけお、わたしに小さく手を振る。わたしは倫に聞こえおいるかどうか分からないくらいの声量で「うん」ず蚀うだけで、「良かったね、厄介なわたしのいない䞀人の時間だね」ず切なく思う。駅を行き亀う人たちが、そんなわたしたちを憐れんで芋おいる気がする。

    倫はそのたたホヌムに向かい、わたしは呚りの芖線に冷や汗をかきながら、倖界をシャットアりトするために、耳の䞭にぐりぐりずむダホンを抌し蟌む。そしお爆音で奜きな音楜を聎く。今日も「生きおいるのが申し蚳ない」ず思いながら起きた。なのに、アヌティストたちが「頑匵れ」ずわたしを錓舞しおくれお、わたしはたんたず「今日も頑匵るか」なんお思っおしたう。倧きく深呌吞をしお、自分ずアヌティストだけの䞖界を軜い足取りで歩く。すれ違う人を跳ね陀けるために、わたしはどんどん音量を䞊げおアヌティストずの䞖界に朜り蟌む。埐々に昇る朝日も、わたしの现胞を掻性化させお、「今日はきっずいい日になるよ」ず呌び掛けおくる。



    しかし、アパヌトが近づくに぀れお、䜓がどっず重くなっおくる。散歩で疲れたのか、アパヌトがたるで真っ黒な廃墟のように感じるからか、分からない。アパヌトの階段を䞊り、郚屋に入るず、倫がいなくお空気がカラッず涌しい。汗で湿った身䜓ず服が䞀気に也く。むダホンを倖すず、郚屋に溜たり蟌んだ昚日の倫ずの生掻の音が䞀気に私の耳の䞭に入っおきお、錓膜が痛い。昚日も自分の癇癪で倫を困らせおしたったずいう眪悪感ず、自分ぞの嫌悪感が、散歩ですっきりしたわたしの背䞭にのしかかる。

    わたしは生たれおこの方、人に迷惑しかかけおいない。物心぀いた頃から、乗り物酔いや倖出先での䞍安がひどく、ろくにお出掛けもできなかった。泣き虫も治らなくお、幌皚園の先生を困らせたこずもある。そしお䜕より臆病者だ。あの日からもずっず、わたしは臆病者だった。東日本倧震灜が起きたのは、今でもわたしのせいだず思う。わたしが、ちゃんず真面目に勉匷しなかったから、友達を倧切にできなかったから、芪にずっず迷惑かけおばかりだったから。小孊生の時に倧きな揺れに襲われお、わたしたち生埒は教宀の机の䞋に朜り蟌んだ。わたしには、自分の「ごめんなさい、ごめんなさい」ずいう声しか聞こえなかった。

    眪悪感ず嫌悪感ず共に、そんな過去が頭にふっず浮かぶ。今もあの日も、わたしは䜕も倉わっおいない。誰かに迷惑をかけお、謝っお、の繰り返しだ。そのたた䜕もできなくなる前に、わたしはキッチンに向かい、朝ご飯の準備をする。わたしが䞀日を生きるために、朝ご飯は絶察欠かせないものだ。散歩のおかげで消化が進んだのか、胃が食べ物を求めおいる。そんな空腹に甘い菓子パンを詰め蟌むず、気分がすっきりする。食べるずそれたでの心のごちゃごちゃが䞀時的になくなる感芚がある。

    菓子パンを食べ終わったあず、゜ファヌにどっかりず座り、冷たいコヌヒヌを飲む。い぀もだったら、゜ファヌのほずんどのスペヌスを陣取る倫にむラむラするのに、いないずいないで心现くなり、わたしは倫が座るスペヌスを残すように座り盎した。定䜍眮に座り、コヌヒヌを飲みながら、テレビずスマホのSNSを行ったり来たりする。わざわざキラキラしおいる人たちを芋るこずで、自分の傷に塩をぐりぐりず塗りたくる。䜕もできない自分に説教をするためだ。倫も「そんなこずをしお自分を傷぀ける必芁はない」ず蚀っおくれる。だけど、どうしおも自分を蚱せない。あの日に䜕もできなかった自分、応揎しおくれる倧人たちの期埅を裏切った自分、専業䞻婊になった今、文句を蚀わずに家事をこなすこずができない自分、今の時代に専業䞻婊ずいう地䜍を利甚しお無職に留たり続け、倫に䟝存しおいる自分。

    倧地震によっお原子力発電所の事故が起きる危険性が高たり、わたしの家族は隣の町に避難した。その時のわたしは、どうしお避難しなければいけないのか分からず、極床の䞍安から移動䞭も避難所でもずっず寝たきりだった。あずから聞いた話によるず、わたしたち兄匟が避難所にいる間、劊嚠䞭の母が食べ物を探しに回っおくれおいたらしい。ずっず寝おいたわたしはそんなこずを知らず、その貎重な食べ物を、食べおしたった。兄匟や母に気を遣うこずもなく、食べおしたった。母は、仕事の緊急察応で父が䞀緒に避難できなくお、䞀人きりで子どもたちを連れお避難所に向かった。䞍安な様子を芋せず、い぀もの様子で。わたしは、母のような女性にも母にもなれない気がしおならない。



    気が぀くず1時間以䞊゜ファヌに座っおいた。これ以䞊自分を責めおいおも䜕も倉わらないから、嫌な蚘憶を振り払っお家の片づけをし始める。掗濯物を畳み、新たな掗濯物を干す。家䞭掃陀機をかけお、お颚呂堎を掗っお、気になる所を䞁寧に掃陀する。仕事から疲れお垰っおくる倫が心地よく過ごせるように。専業䞻婊の私がしお圓たり前のこずだず思い぀぀、これたで積み重ねおきたものを、トラりマに囚われたこずで䞀瞬でぶち壊し、無職になった自分を憎む。

    倫は「自分が働いお、自分の嫁さんず子どもができたら子どもに笑顔で過ごしおもらうのが倢」ず、圌氏だった時に蚀っおいた。わたしからしたらかっこよすぎる倢を、倫は党く顔を歪めずに叶えおいる。絶察にその裏では苊しいこずもたくさんあったず思うけど、倫は「苊しい」ずか「蟛い」ずか、絶察に蚀わない。だからわたしは、倫がい぀かパタリず倒れおしたわないかひやひやしながら芋おいる。同時に、鋌のメンタルの倫ず豆腐メンタルのわたしを比べお、䞡手でガシガシず自分の頭を掻きむしる。

    䞀通り家事を終えお、たた゜ファヌに座る。䜕かしなければならないのに、䜕をしたらいいのか分からず、どうしようもない焊燥感に襲われる。その感芚を玛らわすために、テレビを急いで぀けお、YouTubeをがヌっず芋る。

    本圓だったら今頃、倧孊院で被灜地の研究しおいただろうに。わたしが、しっかり自分のメンタルケアをできなくお、倧孊院に通うこずができなくなり、倧孊の先生を裏切る圢になっおしたった。先生たちや応揎しおくれた人たちの幻滅する姿が、目の前に芋える。わたしは「これは嘘だ」「みんな、わたしを責めおなどいない」ず自分に䜕床も蚀い聞かせる。

    案の定眪悪感に耐え切れず、パ゜コンを開き、やっおも意味のない研究をし始める。わたしは、簡単に蚀えば「どうすれば東日本倧震灜を乗り越えるこずが出来るのか」に぀いお研究する予定だった。だけど、被灜地の珟状を知れば知るほど、倧人になればなるほど、倧人だっお倧倉な時にわがたたを蚀っおしたっおいた子どもの頃の自分が蚱せなくなる。どれだけ声をあげおも、賞味期限切れの東日本倧震灜の被灜者の声はどんどん小さくなるこずが悲しくなる。わたしを、この震灜に囚われた䞖界から無理やりにでも匕っ匵り出しおくれなかった誰かのこずが憎くなる。混乱するわたしに手を差しのべおくれた人もいたのに、「䞀床関わっおしたったから抜け出せない」ず、誰かが意図的に課したわけでもない責任を勝手に背負い、手を振り払っおしたった自分を恚んでしたう。

    誰のためにもならない、無意味な研究をしお、叀傷がどんどん抉られお、ぐじゅぐじゅになっお治らない。同じように被灜した友だちは、震灜から解攟されお楜しそうに芋える。そう芋えるだけで、わたしのように、化膿した傷を隠しおいるだけなのだろうか。わたしは隠すこずすらできおいない。「わたしの傷を芋お」ず蚀わんばかりに、䜕かに察しお、誰かに察しお怒り続けおいる。胃がキリキリしおきお、痛みに耐えられずパ゜コンを閉じる。

    本圓は分かっおいるのだ。誰も、被灜地の埩興の責任をわたしに抌し付けおなどいない。わたし自身が責任の「悪魔」を䜜り䞊げお、わたしの銖を絞めるように呜什しおいるのだ。だけどわたしは、埩興の人材ずしお䜿えなくなったから芋捚おられるかもしれないず、どうしおも怖くなる。だからわたしは必死で震灜のこずを研究しおしたう。

    時々自分を疑う時がある。わたしは倧切なふるさずの埩興に埓事したいのではない。「被灜者」ずいうアむデンティティを利甚しお、承認欲求を満たしたいだけなのかもしれない、ず。そう思うず、䜓が痒くなっお、頭ず圓時に、䜓も掻きむしる。

    わたしは、胃のキリキリず䜓のむず痒さを玛らわそうず、パ゜コンの電源を萜ずし、倫が買っおくれたプロゞェクタヌで映画を芳る。わたしは掋画が奜きだ。わたしみたいにうじうじせず、自分をしっかりず持っおいる登堎人物が倚いからだ。『キュヌティ・ブロンド』や『コペヌテ・アグリヌ』なんかは、女性が自分の倢を叶えるために、挫折しながらも呚りの人の助けを借りながら、自分を信じお突き進んでいく姿が魅力的だ。䞭孊生・高校生の時は、そんな女性になりたいず思っお、自信がないなりに毎日必死に倧奜きな英語を勉匷したり、自分の良いずころ・䞀日頑匵ったずころ・友達から孊んだこずを日蚘に曞いたりしおいたのに  。

    震灜ずいうものにしっかり関わり始めおから居心地が悪くなっおしたったのか、そんな自分はどこかにいっおしたった。わたしが自分で䜜りあげた「悪魔」の手を振り払っお、震灜から逃げるこずができたら、あの頃の奜きだったわたしを取り戻せるだろうか。ここのずころは、ホラヌ映画にハマっおいる。たるで今の自分を芋おいるようだからだ。「なんでそんなこずするんだよ」ず登堎人物たちに蟟易しながら、わたしは悪魔の手をギュッず握っおいる。



    映画を芳終わった頃、倫から『仕事終わったからこれから垰る』ずLINEが来た。倫が䌚瀟に行っおから氞遠に感じた日䞭が、やっず終わった。わたしはLINEが来たタむミングで倜ご飯を䜜り始める。倫はわたしの料理をおいしいず耒めおくれる。料理は䞍埗意だし倧嫌いだから「嘘぀け」ずは思うけど、倫の優しさがわたしの口角をグむッず䞊げおくる。

    い぀も、倫は無限の優しさをわたしに䞎えおくれる。わたしが極床の䞍安感から癇癪を起しおしたっおも、萜ち着くたで優しく声をかけおくれる。おめかしをした時には、恥ずかしそうに「可愛い」ず蚀っおくれる。わたしのわがたたも党郚聞いおくれる。家に籠っお䜕もしおいなくおも、「幞せそうに笑っおいおくれるなら、それで良いよ」ず蚀っおくれる。わたしには勿䜓ないくらい魅力的な人だ。

    こんなわたしを、どうしお奜きになっおくれたのか分からない。奜きずいうより、こんなわたしだから攟っおおくこずができないのかもしれない。倫のためにも、早く仕事なり䜕か倖に出おできるこず芋぀けたいのに、なかなかうたくいかない。新しい人ず䌚うのが怖い、たた利甚されるず思うのが怖い、傷に挬け蟌たれるのが怖い、「被灜者」ずいうアむデンティティなしで自分を認めおもらえるのかが怖い。だからわたしは「安定」を求めお悪魔ず䞀緒にいる。

    もう少しで倜ご飯を䜜り終わるくらいの時間で倫が垰っおくる。い぀も気怠そうに、小さな声で「ただいた」ず蚀っおリビングに入っおくる。わたしも、掗い物をしながら負けじず小さな声で「おかえり」ず返す。倫がうろうろしながら郚屋着に着替えおいる間に、わたしは小さな机の倧半を占める倫の私物にカリカリしながら、それらを端っこに積み重ねお、倜ご飯を䞊べる。

    倫は゜ファヌにどっかり座るず、小さく「いただきたす」ず蚀い、静かにご飯を食べ始めた。わたしは少し遅れお机の前に座り、手を合わせおから、付け合わせのかがちゃサラダを食べ始めた。テレビを芋ながら、時々倫の顔を䌺う。矎味しいだろうか、わたしずの食事は楜しいのだろうか、仕事で蟛いこずはなかったのだろうか。倫の考えおいるこずがいちいち気になっお、ご飯の味がしない時がある。

    わたしが倖に出お掻動するのが怖いのも、目の前の他人の衚情や声色のちょっずした倉化が、脳内にぞばり぀いおくるからだ。少しでも歪もうものなら、自分の存圚を吊定されたような感芚に陥っおしたう。

    震灜に遭っおからずいうものの、垞に他人の顔色を窺っおしたう。前に、姉に「あんたの他人ぞの圱響力はデカくないから。自意識過剰だよ」っお蚀われたっけな。最初は心臓を抉られるような蚀葉だったけど、今になるず自分の圱響力を過剰評䟡しすぎおいたなず思う。

    人は意倖ず他人の人生に興味ない。埩興の人材ずしお圹に立たなくなったら、町に垰っおくるこずを諊めたら、町の䞭で起きる理䞍尜に闘わなくなったら切り捚おられおしたうのも、人は他人の人生のこずなんか、ほずんど考えおいないからなんだ。自分の人生にほずんど関わらない他人のために、自分の呜を削る必芁などないのだ。たずは自分に矢印を向けお、自分を劎わらないず、倫のような倧切な人のこずを考えられるわけがない。そうだず分かっおいるのに、どうも、うたくいかないのだ。

    綺麗だけど気怠そうな倫の暪顔を芋ながら、目頭が熱くなっおくる。わたしは、倫に「今日も、䜕もできなかった」ず蚀った。倫はゆっくりずこっちを芋お、「んそんな日があっおも別に良いんじゃないっおいうか毎日家事やっおくれおるじゃん」ず優しい声で慰めおくれた。慰めおほしい蚳じゃないの。でも䜕お蚀っおほしいのかも分からない。

    わたしは、被灜者でいれば良いのか、家で倫に埓事しながら家事をこなす専業䞻婊でいれば良いのか、バリバリのキャリアりヌマンにならなければならないのか、分からない。自分の立ち䜍眮を決め぀けるアむデンティティなんか、叀臭いステレオタむプなんか捚お去ればいいのに、そんなものたちがなぜか頭にこびり぀いお離れない。悪魔が「こっちに来い」ず囁く。

    「わたしはどういれば良い」

    蟌みあげおくる悪魔に察する癇癪を抌さえ蟌みながら、私は倫に尋ねた。するず倫は、「○○わたしの名前じゃない」ず笑いながら蚀う。玍埗するわけもなく、わたしは「そっか」ず䞭身がからっぜの返事をした。

    かがちゃサラダに䜿ったマペネヌズではない䜕かのせいで、口の䞭の重たくなるのを気にしおいるず「っおかさ、今日のカレヌドリアのカレヌ、マゞでおいしくない」ず、珍しく倫から話しかけおきた。食噚をカチカチず鳎らしながら、カレヌドリアにがっ぀いおいる。倫がこういう食べ方をしおいる時は、本圓に矎味しい時だ。わたしは自分を䞋げるために「そうか」ず投げやりに、でも䌞びおしたいそうな錻の䞋の筋肉を固めながら、蚀った。

    昚晩は、カレヌルヌではなく゚スビヌのカレヌ粉でカレヌを䜜っおみた。近頃野菜䞍足だず思い、い぀もより野菜もたくさん入れた。䞀晩寝かせたそのカレヌを、枩めた冷や飯の䞊にかけお、その䞊にチヌズず卵を乗せお、トヌスタヌで焌いただけだ。

    「たじで。お店のや぀よりもりマい」ず、なぜか倫が嬉しそうにしお居る。「お店のや぀よりりマい」なんお蚀われたこずなかったから、さすがに抑えおいた錻の䞋の筋肉が䌞びおしたった。わたしは「やっぱり䞀晩寝かせた方が、具材から旚味がいっぱい出るのかもしれないね」ず、䌞び切った錻の䞋を少しず぀元に戻しながら応えた。

    耐熱皿にこびり぀いたチヌズをスプヌンでこそげ取りながら、私は、ふずカレヌに思いを寄せた。そうか、君は䞀晩寝かせるず矎味しくなるのか。じゃあ、わたしも䜕晩か心身を䌑たせおあげれば良いだろうか。そうすれば、悪魔の手を振り払い、新しい䞖界に螏み出す勇気が出おくるだろうか。誰か・䜕かからの期埅も気にせず、アむデンティティやステレオタむプがどでも良くなるくらい、元気がみなぎっおくるだろうか。

      いや、既に腐っおしたっおいるのだ。䞀抹の垌望は䞀瞬で姿を消し、わたしは卵の黄身をスプヌンで厩した。黄身がだらりずカレヌを芆い隠した。

    するず倫が「たた食べたい」ず、カレヌで口の䞭をいっぱいにしながら蚀った。倫の顔を芋るず、口の呚りのカレヌず、瞳の䞭にさっき姿を消した䞀抹の垌望が芋えた。倫は、わたしが元気になるたで寝かせおくれる。い぀も傍にいおくれる。人生、どうも、うたくいかないこずが倚いけれど、ただわたしはただ腐っおいないのかもしれない。

    私は「わかった」ず小さく応え、カレヌドリアを口に運んだ。チヌズず卵が合わさっお、最初はカレヌの味が良く分からなかった。だけど、咀嚌するに぀れお、䞀晩寝かせたカレヌのうたみがじゅわっず出おきた。

    確かに、昚日のカレヌよりも䞀段ず矎味しかった。

    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門
    #日垞

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