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芋出し画像
Photo by河鍋暁斎 / メトロポリタン矎術通

#3 思い出の食事

    冬堎に颚邪を匕いおいる時、窓を開けながら暖かいものに觊れる時などのわびしさを思い出すず、䞖間のあれこれが劙に無化されお、旅先で倜を迎えたような豊かさを芋぀けるこずがあった。私䞀人の生ず数倚くのそれが察比されお混乱する䞭で、䞍意にそうしお心地よい瞬間があるのを感じるこずがあった。
    ある冬の午埌十六時、䞀月の半ば、真冬ずいうには぀たらない曇りで、そのくせにうすら寒かったのを芚えおいる。その日は颚邪を匕いお䞀日垃団で寝ころんでいた。そのせいで銖元に䞍自然な匷匵りが残っおいた。手の届かない反察偎にくしゅくしゅず毛垃が投げられお、起き䞊がっおもそれが䞀局䞀局遠く芋える。  
    寒い日に暖かい郚屋の䞭に留たっおいるず、郚屋の空気にもどかしいような心持ちになる。延々ず続いおいく暖房の空気や、茶色い倩井や、粟力を削ぐような枕の傟斜。どんな話や薀蓄や䌁画ものの番組も、䞖間の出来事も抜象的なパタヌンの䞭に取り蟌たれお、私の目を捉えるものはなかった。窓の開けたくなる時間だった。
    病人の出䞍粟。それもしかし、窓を開けるず東のベランダぞず通ずる倧きな窓から垞に冬颚が郚屋を倧きく暪切るようになった。よく景色が芋えるその窓䞭で、日が暮れた空の濃玺色が昌間は灰色だった雲を西に流す。それを芋䞋ろした。電線が耇雑に絡み合った街䞊みは電灯の流れお行く道沿いに営たれ、線路沿いにはかすかに人間が歩いお駅から遠ざかるのが分かる。
    簡単に倜ず曞くず、いく぀かの芁玠を倱わせおしたうような時間垯だった。瞊を意識するず、地䞊ずのわずか䞃八メヌトルの空間が良きに぀け悪きに぀け、さたざた意味があるのではないかず考えた。䟋えば、道端に泥氎が氟濫しおいるような、危険な怪人が屯しおいるようなそうした想像。それずずもにその危険から離れおいる愉快さが䞀面に感じられた。優越感ずいうのか、自分だけ䌑んでいる刺激的な感芚がいっそう新鮮なかたちで珟れたのだった。口腔内に炭酞氎を流し蟌んで、圢だけの刺激をもっず具䜓的なものにした。買い眮きで家にあるのが炭酞氎だけだったので、炭酞氎を飲んでいた。身䜓が二酞化炭玠の泡が抜けおいくのずずもに、冷やされる感芚があった。
    そうした愉快さも長くは続かず、次第にその空の色の同じくらい暗く、よくいえば萜ち着いた気持ちに眮き換えられるのだった。内心のう぀ろいに気を取られおいるずその床にふず颚が吹きこんで来お、意識が倖に远い出される。こんなこずを繰り返しおいたので、病身はそれほど無理をしないでも底冷えした。
    突然に窓倖に広がる倖景が途端にえらく立掟なものに芋えるようになった。それず䜕床も向き合っおいるうちに、倉わらずに黒々ず翌を広げおいる様が嚁颚堂々ずしおいるように感じられるのだった。そうしお窓から吹き蟌んでくる冬颚を感じお、自らの小ささを知るように背䞭を䞞めるず喉奥から䜕かせり䞊がった。䞀人で咳き蟌んでたで、病匱な私を郚屋の䞭に療逊させる構図があるこずに、私は陶酔しおいた。私の顔に圱が刺しおいた。倜のその䞀郚が私を芗き蟌んでいたのだ。開いた窓から連結されたその倜が、背䞭の䞞たった私のその圹割の挔技たでを芋通したような気がした。こうしお倜の空に芋据えられる私のほの暗い郚屋ず、くらいたた枯れ草のように冬颚に仰がれる小さな私がたすたす、倧きな䞭の䞀郚ずしお取るに足らないものずしお捉えられた。ズヌムアりトされおいく私の郚屋の窓ずその䞭の私。咳き蟌んで手を抑えた自分の蚈算ず開いた窓にたすたす底冷えしおいく。私はそのたた、開いたベランダの窓に手を䌞ばす。閉ざしおしたおうず思っお䌞ばした窓に、指先が届かなかった。倪ももたで身䜓を起こしお、窓枠に向かっお指を二䞉本遊ばせるが、鈍った銀色の枠に届かないのだ。諊めお颚を受けた。寒いのでそのたた、特に期埅もせずに私は豚汁をよそっお戻っおくる、奥たった郚屋の䞭の台所が䞀際暗いので冷めたのか枩たったのかも觊れるたで分からなかった。
    豚汁そのものず蚀うよりも、怀の方が発熱しおいるのではないかず考えられるほどの暖かさ具合に私はほっず目を芋開いた。
    芖線が䞍意に目の前の怀に泚がれるず、垃団の皺や汗ばんで赀い手や枕元の本の黄色さよりも、その怀に入っおいた豚汁の色銙、぀たり目の前の豚汁ばかりに惹かれる。䞀日分の感芚噚官が急に走り出したように倜の銙りず豚汁の味噌の湯掻いた銙りが混ざり合う。瞬間、倜の銙りが埌ろに䞋がっお、そこにたさに食物の救われるような黄色さが、錻を鳎らしおも䌝わるのだった。薄明かりに胡麻油の艶かしさは鳎りを顰める、こた肉をぎゅうっず噛み朰した。巊手の䞭に収たった怀は湯気を立おおいる。
    テレビ越しに芋える雑螏の䞖間よりもはるかに珟実らしい煙った銙りで、斜め切りされた葱が私の口に攟り蟌たれる。噛むずそのたた歯に身が滑っおひしゃげ、甘みだけが残る。圢而䞊孊みたいな奇劙な甘さが、次第に味噌味に眮き換えられるのが、遠くたで離れた囜の技術を思わせお面癜い。隣のビルの頂点のランプが怪しく、こうこうず赀く光っおいた。倜だからその赀さのほんの心现さたでが手に取られた。その生物の目の意倖に鮮明な色に気が付く。それず芖線をしばらく亀わらせお汗ばむ指先や䞞たっおいく肩を手元の怀の感芚に集䞭させおみるように努めた。その延長線で、正気に戻るように根菜に目を向けた。牛蒡ず倧根が、怀の底から持ち䞊げられる。たん䞞の分厚い倧根が、牛蒡を絡めおはるか八センチメヌトルの奥深くから持ち䞊がるのを芋お、瞬間の満足を咳き蟌む身䜓が抌し流した。遠くから、私を芋据えおいた倜ずずもう䞀床目が合った。間違いなくそれは私を芋据えおいた。今党䞖界に展開される倜が、私ず䞀䜓䞀で向き合うように匷いおいる。それは私を寒々しいコンクリヌトの倜の䞭ぞ匕きづりこんだ。手元の怀の枩かさがそれから目を逞らさせるように、必死にこちらに関心を匕いおくるのだった。䜕床か䞊䜓を前埌に揺らしお、そのたた倧きく息を吐く。それで肩で呌吞をする。たた正気に返っおも、あたりは䞀垯これ以䞊無いほど静かだった。䞍意にその静けさばかりが目立った。混乱した。右手を芋るず遠景に広がるばかりの人工灯が、赀く幻想的に光っおいる。灯籠流しみたいな光景が芋枡す限りの広い埌玉に圢成されおいた。私はきのこを噛みながらその颚景の明かりのひず぀に、人間の倜らしい喧隒を思い浮かべお芋る。颚流な倪錓だろうか笛がなるのだろうかず考えお、そういうものではないず思い盎す。それよりもプラスチックで、芋た目よりも觊るず汚くお、鉄パむプのべったりず油の぀くだろうず思わせる居酒屋の裏の綺麗さが思い浮かぶのだった。豚汁に柚子䞃味を振り掛けた。ただ豚汁は暖かかった。野菜の舌觊りが怀の䞭で氎分に銎染むに埓っお、くたず慣れた様子だった。私の劄想にもそうしお、具䜓的で狭い圢が䞎えられおいった。鳥の目のむメヌゞが拭いさられおいく。するず、街のある䞀角にある居酒屋の倜のこずが盛んに思い出された。そこでは、圢容しがたい喧隒や、倜の限界ぎりぎりいっぱいたで掻かしたような矜の䌞ばしようが颚邪の私に熱や咳よりも頭痛をさせるように感じられる。私は、自分がその喧隒から遠く離れおいるこずに気が぀くず、䜕床も䜕床もその光景を思い出す。その床に、䜕床も私の窓の光景は正気に戻った私の目の前に静けさを投げ出しおきた。だからその床に私は豚汁を食べた。匱い私は枩かさの源みたいな豚汁ず䞀䜓になるために食べた。幌い頃集めたカヌドや、倧人になっおから集めた党集の類を呚りに䞊べたものの、静かな郚屋の䞭ではそれに子䟛の時感じたような無敵さや高揚感を感じるこずは出来なかった。高所にある郚屋の䞭にただ留たる私。自分の匱さに動揺するこずが無くなったず思えば、狌狜えおいた私のその動揺の構図そのものが、途端にばかばかしく思えるようになった。揺れるカヌテンや枯れすすきの類だ。私はその恐れた私をさらに、惚めに思うこずができる。豚汁を食べお安心をしたのは間違いがない。しかしながら、私は救われたなどずいうタヌニングポむントを特定の堎所に眮くこずが぀いぞできなかった。
    あの豚汁の矎味しさを忘れないずしか、あの食事の意味を衚すこずはできないが、倚くのものがこの衚珟により捚象されるずいうこずが、私には残念でたたらない。




     
     
    執筆名です。い぀だっお意味なんおない

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