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海のない街の波音 [第15話]

    第15話 朝日のあたる道

    梅雨明けには少し早い。

    それでも、もう夏だと思えるほど暑い朝だった。

    葵と真知は、防波堤に腰掛けていた。

    足をぶらぶらさせながら、

    呼吸を楽しんでいた。

    夜が明けたばかりの海は、水平線だけが静かに光っている。

    潮の香りを胸いっぱいに吸い込む。

    真知は、葵の左手をそっと握った。

    その手には、古い火傷の跡と、細かな傷跡が残っていた。

    何も聞かなかった。

    聞かなくても分かった。

    葵もまた、長い間、誰かに支配される人生を生きてきた。

    真知も同じだった。

    息が詰まるほど管理され、

    行動を見張られ、

    少しずつ、自分を失っていった。

    それが普通なのだと、

    いつの間にか思い込んでいた。

    けれど、

    あの日。

    二人は気づいてしまった。

    まだ心は、生きている。

    誰かを好きになれる。

    そして、

    呼吸が苦しくなるほど傷つけられることは、

    愛ではないということを。

    真知は立ち上がった。

    葵も立ち上がった。

    海に向かって、

    サーブを打つように腕を振った。

    二つの結婚指輪が、

    朝日にきらりと光る。

    放物線を描いて、

    消えていった。

    続いて、

    二台の携帯電話が、

    小さな水しぶきを上げた。

    波はそれを飲み込み、

    遠くへ、

    遠くへ運んでいった。

    二人はもう一度、目を合わせた。

    照れたように微笑んで、

    そっと唇を重ねる。



    波の音がした。

    それは、

    私たちがもう一度、

    生き始める音だった。

    小さな波だった。

    波は何度も岸へ届いて、

    何度も帰っていく。


    その音を聞きながら、

    私たちは手をつないで歩いていった。





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    ほど

     
     
    夫や親からの抑圧と子育て、責任ある仕事等を真面目に続けながらも羽ばたきたい、と密かに願っている。そんな女性を応援する小説を描いています。

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