カチクラ電波 #115|採点くんでゴミ記事を排除した
15,000文字の「魂」を込める前の、冷酷な足切り
「稲葉さん、AIで記事を書くと、どうしても『どこかで見たような文章』になりませんか?」
同業の社長からよく聞かれる言葉だ。正直に言おう。私も、最初はそう思っていた。AI、特にGeminiやChatGPTを使えば、それなりの文章は一瞬で出てくる。しかし、それをそのまま自社のウェブサイト「増改築.com」に載せられるかと言えば、答えはNOだ。なぜなら、そこには「現場の脂っこさ」が全くないからだ。
中小零細の建築業者が生き残る道は、大手ハウスメーカーにはできない「泥臭い専門性」を伝えることにある。それなのに、AIが吐き出した「リフォームのメリットは3つあります」なんていう薄っぺらな記事を並べたところで、目の肥えたお客様の心には1ミリも響かない。それどころか、プロの同業者が見れば「ああ、この会社は中身がないな」と一瞬で見抜かれてしまう。
私が直面したのは、AIによる「ゴミ記事の大量生産」という罠だった。これを突破するために開発したのが、Geminiをベースにした「採点くん(GEM)」だ。これは単なる添削ツールではない。私という、木造性能向上リノベーションに命をかけている建築屋の執念を、AIにアルゴリズムとして叩き込んだ「検品システム」なのだ。
検索1位を取っても、客が来ない「ゴミ記事」の正体
ウェブマーケティングのコンサルタントとして、私は数多くの建築会社のサイトを見てきた。SEO(検索エンジン最適化)を意識しすぎて、キーワードを詰め込んだだけの記事。あるいは、AIに丸投げして「断熱は大切です」「耐震診断を受けましょう」と、教科書通りのことしか書いていない記事。これらはすべて、私に言わせれば「ゴミ記事」だ。
なぜゴミなのか。それは、読んだ後に「で、この会社は何が凄いの?」という疑問が残るからだ。建築の現場はもっと複雑で、もっと不条理だ。例えば、築40年の古民家をスケルトンリフォームする時、柱が腐っているのは日常茶飯事だし、基礎がそもそも入っていないこともある。そうした「現場のリアリティ」が欠落した文章は、どれだけ検索順位が上がっても問い合わせには繋がらない。
「採点くん」を作る際、私はGeminiに徹底的に教育した。「当たり前のことを書くな。現場の職人が唸るような、具体的な納まりや数値、そして建主の不安に寄り添った深い洞察がないものは、すべて0点だ」と。
Geminiを「上司」に据えた、私なりの反乱
私は、AIを「部下」として使おうとするから失敗するのだと考えている。中小企業の社長は往々にして、自分が一番詳しい。だから、AIが書いてきたものに対して「まあ、こんなもんか」と妥協してしまう。だが、それでは「社長の劣化コピー」しか生まれない。
私は発想を逆転させた。Gemini(採点くん)を、私よりも厳しい「鬼上司」に据えたのだ。私が書いたプロットや、AIが生成した下書きを、採点くんに叩き込ませる。「この記述は、2025年の建築基準法改正を考慮しているか?」「断熱等級6を目指す場合の気密処理について、具体的に言及しているか?」「お客様が一番知りたい『費用対効果』について、逃げずに書いているか?」
こうして、AIに自分自身の分身を投影し、さらにそれを超える厳格さを持たせることで、初めて「ゴミ記事」を入り口でシャットアウトできるようになった。
採点基準を建築現場の「墨出し」レベルまで落とし込む
建築の現場で最も重要な工程の一つが「墨出し」だ。ここが1ミリ狂えば、後の工程すべてが狂う。ウェブコンテンツ制作も全く同じだ。記事を書く前の「基準」が曖昧なら、出来上がるのは傾いた家と同じ。
「採点くん」における採点項目は、多岐にわたる。しかし、同業の社長たちに伝えたいのは、その項目がいかに「実戦的」かということだ。我々が日々、お客様と対峙し、見積書を出し、工事請負契約書に印鑑をもらうまで。そのプロセスで必ず聞かれること、必ずぶつかる壁。それを記事が解決しているかどうかが、採点の生命線だ。
・2025年4月施行の改正建築基準法(4号特例の縮小)への対応が含まれているか・耐震補強において、単なる「金物補強」ではなく「構造計算(許容応力度計算)」の重要性を説いているか・断熱改修において、UA値だけでなくC値(気密)への言及があるか・リノベーションの坪単価だけでなく、解体費用や補強費用の「リアルな上振れリスク」を伝えているか
これらの項目を100点満点で評価させ、80点以下はすべて「ボツ」にする。この基準を設けてから、記事の質は劇的に変わった。
断熱性能、耐震基準、そして「現場の脂っこさ」
建築会社が書く記事で最もつまらないのは、スペックの羅列だ。「弊社は樹脂サッシを使っています」「断熱材は高性能グラスウールです」。そんなことはカタログを見ればわかる。
「採点くん」が求めるのは、その先だ。例えば「樹脂サッシを使うことで、冬場の朝、リビングの温度が何度変わるのか。それは、結露によって壁内が腐るリスクをどれだけ軽減するのか。そしてそれが、30年後の資産価値にどう影響するのか」。ここまで踏み込んでいない記事は、容赦なく減点される。
「現場の脂っこさ」とは、私たちが工事中に経験する「冷や汗」や「驚き」のことだ。「床を剥がしてみたら、大引きがシロアリに食い尽くされていた。その時、お客様にどう説明し、どう追加予算を納得してもらったか」。このエピソードが含まれているだけで、記事の信頼度は跳ね上がる。採点くんには、こうした「ストーリー性」と「実体験の反映」を厳格にチェックさせている。
「言いにくいこと」を言っているかという評価軸
もう一つ、中小零細の社長が陥りがちなのが「良いことしか書かない」というミスだ。しかし、今の消費者は賢い。良いことばかりの記事は、逆に怪しまれる。
・リノベーションよりも新築の方が安くなるケースがあること・部分断熱では、温度差によるヒートショックのリスクを完全には排除できないこと・工事期間中、仮住まい費用や引っ越し費用で数百万円単位の現金が必要になること
こうした、営業マンが対面では言いづらい「不都合な真実」をあえて記事に盛り込んでいるか。採点くんは、この「誠実さ」も評価の対象にしている。これがあるからこそ、読者は「この会社は信頼できる」と確信するのだ。
「採点くん」誕生前夜。不合格の山に見た絶望
実は、「採点くん」が完成するまでには、膨大な試行錯誤があった。最初はGeminiに「プロの建築ライターとして採点して」と頼むだけだった。だが、返ってくる反応は「非常に良い記事です。構成も分かりやすいです」という、中身のない称賛ばかり。
これでは意味がない。私が求めているのは、おべっかを使う秘書ではなく、現場の粗探しをするベテランの検査員なのだ。
そこから、私は自分の脳内にある「評価基準」を言語化し、プロンプトとして組み込んでいった。1ヶ月以上かけて、過去に自分が書いた「当たった記事」と「滑った記事」を分析し、何が違ったのかを抽出した。その作業は、まるで自分の25年間の建築人生を解剖するような、苦しい作業だった。
1,000文字の記事が、1秒で「ゴミ」と判断される衝撃
ある時、他社が書いたリフォーム解説記事を「採点くん」にかけてみた。その記事は、Google検索でも上位に表示されているものだ。結果は「15点」。
・具体性が欠如している・専門用語の解説が表面的・法改正のリスクに触れていない・筆者の独自の視点(こだわり)が見えない
ボロクソである。しかし、その講評を読んで私は確信した。「これだ。この厳しさこそが、中小建築業者がウェブで勝つための武器になる」。
それからは、AIが生成した初稿を採点くんに投げるたびに、不合格の山が築かれた。1,000文字、2,000文字と積み上げた文章が、一瞬で「ゴミ」と切り捨てられる。それは精神的にくる作業だが、その不合格の理由をGeminiと対話しながら修正していくことで、記事はどんどん「本物」に近づいていった。
コンサル仲間も前のめりになった「合格の基準」
このシステムを、仲間の経営コンサルタントや同業の社長に見せたところ、全員が身を乗り出した。「うちの社員が書くブログも、これで採点してほしい」「外注のライターから上がってくる記事の検品に使える」。
彼らが驚いたのは、AIが「文章の巧拙」ではなく「ビジネスとしての勝機」を採点している点だった。
「稲葉さん、これ、ただの記事制作ツールじゃないですね。会社の『経営理念』の浸透ツールですよ」
ある社長に言われた言葉が突き刺さった。確かにそうだ。何を持って良しとするか、という基準は、その会社のフィロソフィーそのものなのだ。ハイウィルという会社が、お客様に対してどのような誠実さを持ち、どのような技術力を担保しようとしているのか。それが、採点くんのアルゴリズムに反映されているのだ。
なぜAIに「厳しさ」を教えなければならなかったのか
建築業界は今、大きな転換期にある。ウッドショック、円安による資材高騰、そして2025年の建築基準法改正。これまでの「なんとなくのリフォーム」では通用しない時代が来ている。
そんな中で、我々中小零細が生き残るには、圧倒的な「情報の質」で勝負するしかない。大手メーカーが広告費をかけてばら撒く綺麗なパンフレットに対し、我々は「現場の真実」を突きつけるのだ。
そのためには、AIを甘やかしてはいけない。AIは放っておくと、最大公約数的な、耳障りの良いことしか言わなくなる。それは、個性の死を意味する。だからこそ、私はGeminiに「厳しさ」を教え込んだ。
プロンプトエンジニアとしての執念、建築家としてのプライド
私は、自らを「建築業専門の生成AIプロンプトエンジニア」と名乗っている。それは、単にITに詳しいということではない。建築の現場を知り、お客様の悩みを血の通った体験として知っている人間だけが、AIを「真のプロフェッショナル」へと昇華させられると考えているからだ。
「採点くん」に入れている指示の一部を明かそう。「読者がこの記事を読み終えた時、明日自分の家の床下を覗きたくなるような衝動を与えられているか?」「『リフォームって高いね』という感想ではなく、『ここまでやるならこの金額は妥当だ』と納得させているか?」
こうした、数値化しにくい「感情の動き」を、AIに無理やり指標化させている。これは、建築家としてのプライドと、プロンプトエンジニアとしての執念が合体した結果だ。
「うちでもやれるかも」から「これしかない」へ
この記事を読んでいる同業の社長たちに伝えたい。AIを使うことは、楽をすることではない。むしろ、自分のこだわりを100倍の解像度で世の中に送り出すための「拡大鏡」を手に入れることだ。
「採点くん」という仕組みを導入すれば、あなたが現場に出ていて記事を書く時間がなくても、あなたの「魂」が宿った検品基準で記事を量産できるようになる。最初は「うちでもやれるかな?」と思うかもしれない。だが、断言する。今の時代、これなしでウェブ集客を勝ち抜くのは不可能に近い。
ゴミ記事を排除し、磨き抜かれた「一記事」を世に出す。その積み重ねが、やがて「増改築.com」のような、同業者が嫉妬するメディアを作り上げるのだ。
最後に
AIは魔法の杖ではない。しかし、最高に切れる「ノミ」や「カンナ」にはなり得る。
今回紹介した「採点くん(GEM)」によるゴミ記事の排除は、ハイウィルが進めるAI革命のほんの一歩に過ぎない。大切なのは、AIに何をさせるかではなく、私たちが「何を譲れないか」を明確にすることだ。
建築という、人の命と財産を守る尊い仕事をしている我々だからこそ、発信する言葉一つひとつに責任を持たなければならない。AIを使って、その責任をより高い次元で果たすこと。それが、私がこのシリーズで最も伝えたかったことだ。
さて、次回は第3話。採点をクリアした記事が、どのようにして「お客様の問い合わせ」という具体的なアクションに変わっていくのか。その「動線設計の裏側」を赤裸々に公開しようと思う。
あなたの会社のウェブサイトに、ゴミ記事は眠っていないだろうか?もし心当たりがあるなら、今すぐその基準を見直すべきだ。現場で汗を流す職人のように、言葉の現場でも妥協を許さない。その姿勢こそが、中小建築業の未来を切り拓くのだから。
カチクラ電波 #115 / Cブロック「採点くんでゴミ記事を排除した」制作: KACHIKURA360™
