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参戦!初の読書会!!~そして惨敗へ~

    子どもの頃ならいざ知らず、大人になると、勝手に人間関係が広がっていくということはない。
    クラス替え、進学、バイト、サークル……
    学生だった時は望まなくても自動的に環境は変わったし、どんどん新しい場所や人に出会った。
    それを「億劫だな」、「ずっとここにいたいのにな」、と思っていた在りし日の自分に教えてやりたい。

    大人になるとね、そんな風にただ受け身でいたら、本当にずっと立ち止まったままになってしまうんだよ……。


    社会人になって、ジョブホッパーなので何度か転職をしていたり鬱になったりしていたら、私はそのことに気づくのが遅れてしまった。
    大人になると、勝手に人間関係が広がっていくことはない、ということに。

    人事異動はあるものの、結局同じ職場の人間というのは経歴や価値観が似ていることが多い。家と職場の往復 ⇒⇒⇒ 鬱一直線。
    固定化された人間関係ほど良くないものはない。
    新しい体験がしたい、新しい自分に出会いたいと思うなら、自分から積極的に動くしかないのだ、大人になってしまったら。これが大人になるということか、と感慨にひたるアラサー。

    だからみんな、社会人サークルとか入るんだな!と私はハッと気がついた。だいぶ遅かった。本来なら社会人2、3年目くらいで動き出すんだと思う。

    なにはともあれ、せっかく司書なので読書会なるものに参加してみよう!と初めて思い至った。なんと今まで参加したことがなかった。アラサーにして初の試みである。

    硬直した人間関係と日々の生活に変化を与えるべく、私は一歩を踏み出した。

    近くで開催されているらしい読書会サークルをネット上で調べて、現在も活動が活発そうなものを1つ選んだ。連絡をして、開催の案内が返ってくる。3週間後の読書会に参加希望です、と返信する。これで良し。やり遂げた達成感ににまにましながらスマホを置く。

    そこで、不意に私は悩んだ。
    読書会とは1人1冊おすすめの本を持ち寄って感想を言うものだと認識している。
    おすすめの本って、何を持っていけばいいんだろう?一体どんな顔ぶれが集まるんだろう。どんな人たちなのかによって、ウケる本のジャンルも違うのではないだろうか?まずは尖った個性を出すよりも、万人ウケを狙わなければならないのだろうか……

    私はうんうん悩んだ末、そうだ、朝井リョウか!とピコン🌟と思い当たった。

    最近流行りの作家だし、『イン・ザ・メガチャーチ』が本屋大賞をとって話題だし、若手作家でビジュアルも良い。なにより最近の私は彼のポッドキャストを毎回聴いているので、作者が早稲田大学のダンス部だったことも、毎年ビーチバレーボール大会に出場していることも、腹が弱いことも知っている。うん、これだ。

    ところが意気揚々と『イン・ザ・メガチャーチ』を持ち込もうとしたら、前回の読書会での課題本がまさに『イン・ザ・メガチャーチ』だったことに気がついてしまった。
    さすが本屋大賞……

    というわけで、急きょ別の本に変えて読書会当日を迎えたのだった。


    読書会当日。
    30人ほどのメンバーが参加したそのイベントは、市内某所の公民館の一室を借りて行われていた。

    どうやらあらかじめ決められている「課題本」を読んだ人たちで集まる「課題本テーブル」と、自由に自分の好きな本を紹介しあう「フリーテーブル」とでわけられているらしい。

    私はフリーテーブルの中の振り分けられた席に座っていた。5人ずつほどの人数になるように席が決まっていたのでホッとしながら席に着いたら、なんと横の席の参加者が持ってきている本は『イン・ザ・メガチャーチ』だった。
    それ持ってきてよかったのかよ!と心の中で叫びながら、平静を装って「こんにちは~」とか言うことで社会性をアピールしておく。こういうのは最初の印象勝負だ。最初からコミュ障認定をされてしまっては地獄の2時間になる。

    その机に集っていたのは、年齢も性別もバラバラな5人の男女だった。
    壮年の男性Aさん。持参本は宮本輝。(芥川賞作家だ。硬派な路線が好きと思われる。)
    20代らしき女性のBさん。持参本はアイドルのエッセイ。(「推し」なんだろうか。これは『イン・ザ・メガチャーチ』と相性がいい。)
    40代~50代の女性のCさん。持参本は前述のとおり『イン・ザ・メガチャーチ』だ。
    同じく同世代の落ち着いた物腰の女性Dさん。持参本は佐藤愛子。(一体おいくつなのだろう……?)

    私以外の全員が仲良しということもなく、比較的読書会参加歴は浅いメンバーが集まっているらしい。
    適度な距離感のまま全員が自己紹介を終えて、いよいよ持ち寄った本の紹介に入っていく。持ち時間は1人15分。ちょっと長い……と思っていたら、質疑応答も含んでの時間とのことだった。

    こう書くと、「読書会ってなんだか少し固いな」と感じた方もいるかもしれない。
    実際私も、このあたりで一瞬だけ我に返って「私は休日になにをしているんだろう……全員初対面の人たちに囲まれてうっすらストレスなんだけど……」と思ったりした。MBTI 内向型である。

    でも、安心してください。
    全員が「読書好き」という共通の趣味を持っているおかげで、根本の気質が似ているし、基本的に意地悪な人はいない。
    なおかつ読書会に参加しようとする程度の社交性を持ち合わせており、「読書好きな人と喋りたい」という理由でここに集まっている心優しき読書家たちなのだ。

    グループの雰囲気は穏やかで、誰に対しても肯定的な空気があった。
    この点が社内研修のグループワークやらとはえらい違いである。

    さて、AさんBさんと本の紹介が終わって、いよいよ私の番が来た。
    読書会デビュー戦である。できるだけ輝かしい戦績を残していきたい。

    だれと戦っているのかも定かではないまま、満を持して私が持ち込んだ本は……!そう、ご存知、デュマ・フィス『椿姫』だ。

    「え?なにそのチョイス?」と思いましたね?
    朝井リョウからデュマ・フィスへの急カーブを遂げた私の選書にはちゃんとわけがある。
    実は、なにを隠そう私の大学時代の専攻がフランス文学だったのである。
    そうだ、この一点のみで戦おうというのだ。本を選ぶのが面倒になった結果である。

    だが、ちゃんと最初の掴みは考えておいた。
    私は愛想よく、不思議なチョイスにぽかんとしている4人に問いかける。

    「実はこの間、美術館に行ってミュシャ展を見たんですけど……ミュシャ展を見たことがある方、いますか?」

    しーーーーーーーん、とした。だれも手を挙げない。
    えっ⁉ミュシャ展だよ⁉よく全国巡回してるじゃない⁉
    読書好きと美術館というのは重なりあわないジャンルだったらしい。

    まさかの「ミュシャ大先生のお力をお借りしても掴みに失敗する」という失態を犯した私は、慌ててスマホで大先生のポスターを検索する。

    「こ、これです、この画がミュシャの描いた『椿姫』なんですけど、これを見て久しぶりに小説を読みたくなったんですよね~!」
    「あ、この画なんだ!見たことあります~」

    よ、よかった。実際に画像を見るとミュシャの画風に見覚えがあったのか、「あぁ~」という声が広がった。

    「『椿姫』はオペラや絵画が有名ですけど、原作小説はフランス文学なんです。私は大学でフランス文学を専攻してたので、今日は布教したくて持ってきました」

    なんと、という驚きに満ちた視線が私に集まる。
    専攻していた、というのはなんとも卑怯なセリフである。こう言うだけでなんだか「その道の人」のように思えてしまい、言っていることがすべて正しそうに聞こえてくる。
    だが、実際は私の専門はデュマ・フィスではなかったので、正直に言うと本当に浅い知識しかなかった。
    ここからは、いかにそれがバレないように語り続けられるかの勝負だ。
    大した知識もないのにそれっぽく喋らなければならない営業マンの気持ちがよくわかった。

    気を取り直した私は、再び4人の顔を見渡して言った。

    「みなさんは、「ファム・ファタル」っていう言葉をご存じですか?」

    しーーーーーーーん、の再来である。困惑した空気が会場に満ちる。
    なんでだ⁉キタニタツヤも歌ってたじゃないか⁉
    問いかけ型の喋りはもうやめよう、と心に誓った私は、気を強く持ちながら話した。

    「……えっと、「ファム・ファタル」っていうのはフランス語で「運命の女性」っていう意味の言葉です。「男性を破滅させてしまう蠱惑的な悪女」っていう文脈で使われることが多いんですけど……。『椿姫』の面白いところは、「ファム・ファタル」であるマルグリット自身が最終的には悲劇的な死を遂げてしまうところなんですよね」

    三度のしーーーーーーーん、が私を襲った。
    いや、正確には「へーーーぇ」みたいなリアクションを各々取ってくれているのだが、そもそも内容を知らない人たちに語って伝わる面白さではない、ということに今さらながら気づいた。
    私がすべきことは、まずあらすじを紹介することだったのでは……?
    豆知識の披露でお手軽に感嘆を得ようとしていた私は、初歩の初歩から間違いを犯していたのである。
    ……南無三。


    そんな風に参加者の方々の温かいやさしさに包まれながら、私のデビュー戦は幕を閉じた。
    ちなみに、なぜフランス文学を専攻しようと思ったのか、という話題はけっこうウケていた。

    このエッセイを読むほどの根気と時間を持ち合わせているみなさんも、ぜひ地域の読書会に参加することをおすすめする。
    新たな人間関係の発展に繋がるし、家庭と職場以外のサードプレイスにもなりえるコミュニティだ。
    ひとつだけ言えることがあるとするなら、読書会に持ち込む本は最初から変に凝らずに話題の本とかにしておいた方が心は平穏である。
    私の屍を越えてゆけ。

    ちなみに私は、面白かったので次回も参加してみようと思う。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

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