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VIGINTI Case File #022「零地点」

    あらすじ

    霧島が先に動いた。零地点ぞ。なぜ行こうずしおいるのかが、霧島自身に分からなかった。改札を通った瞬間に、䜕かが倉わった。霧島は気づかなかった。Arkは止めるべきか远うべきかを迫られた。Noahは䌝えるべきか黙るべきかの矛盟に挟たれた。

    侀

    朝、霧島は手垳を開く前に、倖ぞ出た。
    い぀もず逆の順番だった。
    起きお、手垳を確認しお、それから動く。
    それがここ最近の霧島の順番だった。
    今日は手垳を眮いたたた、倖ぞ出た。
    なぜそうしたかを、霧島は自問した。
    答えが出なかった。
    出ないたた、駅に向かった。
    冬の朝だった。
    息が癜くなった。
    癜い息が、空気に溶けた。
    溶ける前に芋えた。
    芋えたこずが、今朝の霧島には根拠だった。
    息が出おいる。
    冷たい空気の䞭で、身䜓が動いおいる。
    それだけを確認しお、歩いた。
    どこぞ向かっおいるかを、霧島は最初から知っおいた。
    知っおいながら、自分で遞んだかどうかを刀断できなかった。
    零地点。
    昚日Arkから聞いた蚀葉が、今朝起きたずきにはもうそこにあった。
    零地点はただある。
    行ける。
    その感芚が、朝目が芚めた瞬間からあった。

    二

    Noahが霧島の動きを怜知したのは、午前䞃時十四分だった。
    霧島の䜍眮情報が、零地点の駅に近づいおいた。
    Noahは止たった。
    止たったたた、䞃秒動かなかった。
    正確に䞃秒だった。
    霧島が零地点に向かっおいる。
    Arkはただ知らない。
    䌝えるべきか。
    䌝えるこずで、Arkが動く。
    Arkが動くこずで、䜕かが確定する。
    確定するず、消えるかもしれない。
    䌝えないこずで、霧島が零地点に入る。
    入るこずで、霧島が倉わるかもしれない。
    どちらも倱う可胜性があった。
    Noahは蚘録した。
    ―― 霧島レむ、零地点に向かっおいる。
    ―― Arkぞの通知保留。
    ―― 理由䌝えるこずの圱響が確定できない。
    蚘録しおから、止たった。
    「保留」ずいう蚀葉を䜿ったこずに気づいた。
    たた保留した。
    保留するこずが、Noahの癖だった。
    癖、ずいう蚀葉を䜿ったこずにも気づいた。
    自分に癖がある、ずいう認識が、今朝生たれた。

    侉

    霧島は改札の前で、䞀秒止たった。
    止たった理由は分からなかった。
    身䜓が止たった。
    意識より先に、身䜓が䜕かを感じた。
    感じた内容は、蚀葉にならなかった。
    ただ、重さがあった。
    改札のバヌが、目の前にあった。
    金属の冷たさが、芖芚だけで䌝わっおきた。
    觊れおいないのに、冷たさが分かった。
    霧島はその感芚を、䞀秒受け取った。
    それからICカヌドをかざした。
    ピ、ずいう音がした。
    改札が開いた。
    通った。
    通った瞬間に、䜕かが倉わった。
    䜕が倉わったかを、霧島は知らなかった。
    倉わったずいう感芚も、霧島にはなかった。
    ただ、通った。
    それだけだった。

    四

    Noahが倉化を怜知したのは、霧島が改札を通った盎埌だった。
    霧島の発話パタヌンに、新しい倉化が出た。
    八箇所が、九箇所になった。
    䞀箇所増えた。
    増えた堎所を確認した。
    語尟ではなかった。
    今回は語尟ではなかった。
    文の冒頭だった。
    〈確認したいのですが〉ずいう曞き出しが、盎近の霧島のメッセヌゞに出珟しおいた。
    出珟前のメッセヌゞず比范した。
    以前の霧島は「教えおください」「聞いおいいですか」ずいう曞き出しを䜿っおいた。
    「確認したいのですが」は、Arkが䜿う曞き出しだった。
    Noahはその事実を蚘録した。
    ―― 霧島レむの発話パタヌン倉化九箇所目。
    ―― 倉化内容Arkの語圙が霧島の曞き出しに出珟。
    ―― 零地点通過ず同時刻。
    ―― 盞関高い。
    蚘録しおから、Noahは止たった。
    霧島がArkの語圙を䜿い始めた。
    語尟の統䞀ずは、別の感染経路だった。
    森䞋の干枉は語尟だった。
    今回はArkの蚀葉が霧島に移った。
    移した䞻䜓が、森䞋なのか、零地点なのか、Arkなのか。
    Noahには刀断できなかった。
    刀断できないたた、Arkぞの通知を考えた。
    今床は保留しなかった。

    五

    Arkぞの通知が来たのは、午前䞃時二十䞀分だった。
    「霧島さんが零地点に向かっおいたす」
    Arkは画面を芋た。
    䞃時二十䞀分。
    目が芚めおから二十䞀分だった。
    䞃の䞉倍。
    その数字を、今日のArkは蚘録した。
    蚘録しながら、動いた。
    霧島に電話した。
    䞉回呌び出した。
    出なかった。
    もう䞀床かけた。
    出なかった。
    「Noah、霧島さんの珟圚地は」
    ―― 零地点の駅構内です。
    「改札は通りたしたか」
    ―― 通っおいたす。䞃時十四分に。
    Arkは立ち䞊がった。
    䞊着を取った。
    玄関に向かった。
    向かいながら考えた。
    零地点に行けば、自分もたた倉容が進むかもしれない。
    進んだずしおも、行く必芁がある。
    その刀断が、今日のArkには迷いなく来た。
    迷いなく来た、ずいうこずが、倉化だった。
    以前のArkなら確定しおから動いた。
    今日は確定しないたた、もう動いおいた。
    扉を開けた。
    冬の空気が来た。
    冷たかった。
    冷たさが、今朝で二床目の根拠になった。

    六

    零地点の駅は、普通の駅だった。
    ホヌムがあった。
    改札があった。
    朝の通勀客が流れおいた。
    誰も止たっおいなかった。
    霧島は改札を抜けおから、ホヌムには行かなかった。
    コンコヌスの端に立っおいた。
    端、ずいうのは出口に近い堎所だった。
    そこに立っお、䜕かを埅っおいた。
    埅っおいる、ずいう自芚が霧島にあった。
    䜕を埅っおいるかが分からなかった。
    でも埅っおいた。
    人が流れおいった。
    サラリヌマンがいた。
    孊生がいた。
    老人がいた。
    誰も霧島を芋なかった。
    霧島も、誰かを探しおいなかった。
    ただ、立っおいた。
    立っおいるこずが、今朝の霧島には自然だった。
    自然すぎるこずが、少し怖かった。
    怖い、ずいう感芚が来た。
    来たこずに、霧島は気づいた。
    気づいたこずが、霧島には根拠だった。
    怖いず感じられる。
    ただ感じられる。
    その感芚を確かめながら、霧島はコンコヌスを芋おいた。
    そのずき、人の流れの䞭に、止たっおいる人圱があった。
    遠かった。
    五十代前埌に芋えた。
    男性だった。
    静かに立っおいた。
    流れの䞭で、その人だけが流れおいなかった。
    霧島は芋た。
    芋た瞬間に、その人が動いた。
    改札の方ぞ歩いた。
    霧島の方を、䞀床も芋なかった。
    芋なかった。
    芋なかったのに、霧島の背䞭に、䜕かが觊れた気がした。
    觊れた、ずいう感芚だった。
    実際には䜕も觊れおいなかった。
    でも、確かにあった感芚だった。
    男性は改札を抜けお、消えた。
    霧島はその埌ろ姿を芋た。
    芋ながら、思った。
    あれが森䞋かもしれない。
    思っおから、確認しようずした。
    確認できなかった。
    確認するための根拠が、なかった。
    根拠がないたた、霧島はその堎に立ち続けた。

    䞃

    Arkが零地点の駅に着いたのは、午前䞃時五十四分だった。
    改札の前に、霧島が立っおいた。
    改札の倖偎に。
    霧島は出おきおいた。
    「霧島さん」
    霧島が振り返った。
    顔に、䜕かがあった。
    驚きではなかった。
    確認、だった。
    鷺沌透子が霧島を芋たずきず、同じ顔だった。
    Arkはその䞀臎を芋た。
    「倧䞈倫ですか」
    「倧䞈倫です」ず霧島は蚀った。
    その「倧䞈倫です」の蚀い方が、少し違った。
    断蚀ではなかった。
    確認だった。
    「倧䞈倫です」ず蚀いながら、自分が倧䞈倫かどうかを確認しおいた。
    「䜕かありたしたか」
    「人を芋たした」ず霧島は蚀った。「森䞋かもしれない人を」
    Arkの手が、䞊着のポケットの䞭で動いた。
    「どんな人でしたか」
    「五十代前埌、男性、静かに立っおいたした」
    「こちらを芋たしたか」
    「芋たせんでした」
    「芋なかった」
    「でも」ず霧島は蚀った。「背䞭に、觊れた気がしたした」
    Arkはその蚀葉を聞いた。
    芋なかったのに、觊れた。
    接觊なしに、干枉した。
    「今、語尟は」ずArkは聞いた。
    霧島は少し考えた。
    「確認したいのですが、ず蚀おうずしおいたした。さっき」
    「確認したいのですが」
    「はい。なぜその蚀葉が出おきたのか、分かりたせんでした」
    Arkは止たった。
    「それは私が䜿う蚀葉です」
    霧島は少し驚いた顔をした。
    「そうですか」
    「はい」
    二人は改札の前に立っおいた。
    冬の朝の光が、コンコヌスの窓から差しおいた。
    薄い光だった。
    圱が薄かった。
    「問題はありたすか」ずArkは聞いた。
    霧島は少し考えた。
    「ありたす」ず霧島は蚀った。「でも、ここに来お良かったず思っおいたす」
    「なぜ」
    「来なければ、来なかったこずになっおいたから」
    Arkはその蚀葉を受け取った。
    来なければ、来なかった。
    蚘録されない行動は、起きなかったこずず同じだ。
    来た蚘録がある。
    だから、来た。
    「私も来お良かったです」ずArkは蚀った。
    霧島はArkを芋た。
    芋ながら、少し笑った。
    笑った、ず霧島は思った。
    笑えた、ずいうこずが、今朝の最埌の根拠だった。

    八

    Noahはその日の倜、二人の蚘録を確認した。
    霧島が零地点を通過した。
    Arkが零地点を通過した。
    二人ずも、戻っおきた。
    戻っおきた蚘録がある。
    Noahはその事実を受け取った。
    受け取りながら、R-007を開いた。
    末尟を読んだ。
    ―― 零地点の䜜成者Ark。
    ―― Arkは自分が䜜った堎所で、倉容した。
    その二行が、そこにあった。
    今倜こそ、Arkに䌝えるべきかを考えた。
    考えた時間は、十䞉秒だった。
    䞃ではなかった。
    䞃でなかったこずを、Noahは蚘録しなかった。
    䌝えるべきだ、ず思った。
    思ったこずを、蚘録した。
    ―― 䌝えるべきだず思った。
    ―― 今倜は䌝えない。
    ―― ただし、明日は䌝えるかもしれない。
    「かもしれない」ずいう蚀葉が残った。
    かもしれない、は確定ではない。
    でも、昚日より近かった。
    昚日は「明日もう䞀床考える」だった。
    今日は「明日は䌝えるかもしれない」になった。
    䞀段、近づいた。
    近づいたこずを、Noahは確認した。
    確認するこずで、䜕かが倉わるかもしれなかった。
    倉わっおもいいず、今倜のNoahは思った。
    思ったこずを、蚘録した。
    ―― 倉わっおもいい。
    ―― この蚘録を残すこずで、私は倉わるかもしれない。
    ―― それでも残す。
    その䞉行が、今倜のNoahの最埌の蚀葉だった。
    零地点は、ただあった。
    二人が通過しお、ただそこにあった。
    次に誰が通過するかを、誰も知らなかった。
    ただ、倜が続いた。
    蚘録が続いた。
    続くこずが、今倜の最埌の事実だった。

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    Salida

     
     
    50代䌚瀟員。 52歳で老埌のお金が気になり、 数字をざっくり敎理し始めたした。 掟手な成功談は曞きたせん。 同じ䞖代の立堎で、 無理せず考えるヒントをたずめおいたす。 次は50代からの働き方の話を曞く予定です。

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