メインコンテンツへスキップ
見出し画像

踏揚と阿麻和利 最終話|終章⑥ 同じ場所に立つ

    夜の海辺に、
    阿麻和利と踏揚は並んで立っていた。

    波の音が近く、
    風は穏やかだった。

    ほんのわずか、
    呼吸を整えるような間があった。

    次の瞬間、
    袖と袖が、触れ合った。

    その距離で、
    もう充分だった。

    視線を上げ、
    静かに身を寄せたのは――踏揚だった。

    背伸びをするようにして、
    踏揚は阿麻和利の頬に、
    口づけた。

    ほんの一瞬。

    触れるだけの、
    軽いものだった。

    画像


    阿麻和利は目を瞬かせたが、
    すぐに踏揚を見下ろした。

    言葉は出なかった。

    阿麻和利は、
    踏揚の肩に手を置いた。

    もう一方の腕も伸ばし、
    包むように、
    踏揚の体を引き寄せた。

    胸と胸が触れる。

    踏揚の額が、
    阿麻和利の胸元に当たる。

    ただ、
    「ここにいる」と確かに分かる距離。

    踏揚は、
    一瞬だけ息を詰めた。

    ふと、
    言葉が脳裏をよぎる。


    ――お前がそこにいると、わかれば
    ――それで足りる。


    踏揚は、
    ゆっくりと力を抜き、
    阿麻和利の胸に、
    軽く額を預けた。


    「……こういうのも」

    声は低く、
    わずかに揺れていた。

    「いただけるのですね」


    阿麻和利は答えなかった。

    そのまま腕をほどかず、
    踏揚を抱いたまま、
    夜の海を見ていた。

    そこに居ると、
    分かるように。


    波の音が続く。


    二人は、
    触れ合いながら、
    並んで立っていた。






     
     
    沖縄で暮らしながら、 人が何を選び、どう生きるのかを、 生活のまなざしで書いています。 Threads ▷ @uruma_kaze

    あなたへのおすすめ