
アサガオの「支柱」について、保護者からの問い合わせに驚いた話
小学2年生の担任をしていたときの帰りの会のこと。
子ども達が「ミニトマトが大きくなってきました」と話していて、「そろそろミニトマトに支柱が必要になってきたなぁ」と思っている内に、「先生のお話」の時間になった。
子ども達の前に立ち、全体を見渡しながら、
「1年生のときに、アサガオを育てたね。」
と、昨年度のことを思い出してもらう。うんうんとうなずく子ども達。
「そのとき、支柱を使ったことを覚えているかな?」
と言いながら、黒板に植木鉢とそこに立てた支柱の絵を描いた。
「支柱?」と最初はピンとこなかった子もいたが、目の前で描かれていく絵を見る内に、
「あぁ!あれ!」
と、わかった表情になっていく。絵の方は、最後に支柱に矢印をつけて、
「この植木鉢に立てた棒のことを『支柱』といいます。
アサガオを育てるときに使って、確かお家に持って帰っているはず。」
と伝えた。うなずく子もいれば首をかしげる子もいる。半年も前のことだもの。覚えていなくても当たり前。
「今みんなが育てているミニトマトも、そろそろ支柱を立てないとたおれてしまいます。ただ、学校にある支柱では数が足りないので、みんなのお家にある支柱を持ってきてくれると助かります。」
少し不安そうに、
「明日持ってくるんですか?」
と尋ねてくる子もいた。
「急がないし、なくても大丈夫。お家にあればでいいよ。」
と伝えると、安堵の表情。とはいえ、一部の子ども達はランドセルから連絡帳を取り出し、メモをしている。
「連絡帳に書いている子もいるね。ありがとう。書き終わるのを少し待ってから帰りの挨拶をしようか。」
2、3分後、帰りの挨拶をして子ども達は元気に帰って行った。
翌日の朝、教室へ行くと、
「先生、支柱持ってきたよ!」
と、早速持ってきてくれた子が支柱を見せながら話しかけてきた。
「おお、ありがとう!」
他にも数人が支柱を持ってきていた。
「先生、忘れました…」
しょんぼりした様子の子もいる。
「大丈夫、あればでいいし、それほど急いでいないからね。」
と安心できるように声をかける。
「先生、お母さんが『無理』って言いました。」
という子もいた。
「そうか、片付けてしまってお家にはないのかもね。持って来なくて良いからね。」
使わないと思って捨ててしまうことだってあるだろうしなぁ…などと思いながら、子どもに声をかけた。
2時間目が終わって、職員室に戻ると、
「保護者の方からお電話がありました。」
と机上にメモがあった。お名前を見れば、『無理』といった子のお家だった。捨ててしまって持って行けないという連絡かなと思いつつ、電話をかける。
「お世話になっています。…」と電話でのいつも通りのやりとりの後、
「それで先生、準備物のことなんですけど…」
「えぇ、○○くんから聞きました。大丈夫ですよ。あれば持ってきてということでお願いしたものなので…。」
「…というか…」
困惑気味の声に、無理をさせてはいけないと、さらに声をかける。
「大丈夫です。去年育てたアサガオの支柱なんて、もう使わないと思いますものね。」
と、保護者の方にも安心してもらえるように話した。
「え?」
驚いたような声に、
「どうしました?」
と尋ねる。
「『しちゅう』ってアサガオの支柱なんですか?」
「はい、そうです。1年生の時にアサガオを育てるのに使った支柱です。」
「あぁ…そうかぁ…」
納得したような声の後、少し笑い声が聞こえた。
「どうしました?」
あらためて尋ねると、
「いや、うちの子、連絡帳に『支柱』をカタカナで書いていて…。」
笑いを押し殺すように話す保護者。
こちらの頭の中には準備物の欄に「シチュー」と書かれた連絡帳が浮かんだ。
「カタカナの『シチュー』ですか?それは持ってくるのは無理ですよね。」
と、話し言葉だけの伝達になったことや、ご心配をかけることになったことについて謝った。
「いえいえ、それにしても『シチュー』だなんて…変だと思いました。」
と、最後は保護者の方といっしょに笑って電話を終えた。