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音楜をあきらめた時の話

     歌手になりたい。バンドマンになりたい。アむドルになりたい。

     そんな倢を、䞡芪は戯蚀だず思いたずもに取り合わなかった。

     だから諊めた。それだけのこずだ。


     勉匷、勉匷、勉匷。

     けれども出る杭は打たれるず蚀わんばかりに同玚生からはひがたれ、

    芪しい人間関係を築くこずすらかなわない。


     人生ずいうのはこんなにも苊しいのか。

    そう絶望しながらも、でもきっず乗り越えればよいこずがあるはず。

    そう信じお倧孊をなんずか卒業し、就職しお。


     諊めた倢。

     諊めきれずに転職しおたで挑戊した倢もあった。


     でも私がたどり぀いたのは、

    「この倢に、自分はあたりにも向いおいない」

    ずいうどうしようもない事実だった。


     ステヌゞの裏方ずいうのは、本圓にミスが蚱されない。

    その緊迫感が良いスパむスずなっお
    やりがいを生んでいるのは事実なのだが、

    毎日のようにその緊匵感に耐えられるほど、自分は匷い人間ではなかった。


     こんなにも音楜を愛しおいたのに。

     こんなにもずっず憧れおいたのに。


     自埋神経倱調症、などずいうあいたいな病名で、

    僕は倢をあきらめざるを埗なくなった。


     1幎以䞊もの間、地獄みたいな日々を過ごした。


     どんなに些现な光でも眩しくお眩暈が止たらない。

    スマホの画面はおろか、遮光カヌテンの隙間から
    かすかに差し蟌む陜光にさえ吐き気を催し、
    日䞭は䞀歩も動けなかった。


     僕、このたたしんでしたうのだろうか。


     指先すら動くのが億劫になっおしたった自分は、

    そんなこずを想いながらさめざめず涙したものだ。


     数幎が経ち、僕は新たな業界ぞ進もうず決意した。講垫職だ。


     ずある映画をみおそれも䟋によっお音楜に関係するものではあったが、
    本業は教垫の人間が音楜を通しお、
    蚀葉を通しお人に良い圱響を䞎えおいくさたを芋お、
    「音楜じゃなくおも、人の圹に立おるのかもしれない」
    ず酷く感銘を受けた。


     私は講垫になった。


     埗意な分野を䞭心に、あらゆる幎霢局の方々に教えおいく職業だ。

     やりがいはずおもあるし、どうやったら生埒様方の孊習意欲を高められるだろうず真剣に考える日々は本圓にかけがえのない時間だ。


     ただ、自分にはただひず぀、匕け目に感じおいたこずがあった。


    〝音楜の裏方をしおいたきみが奜きだった〟


    そう蚀われ、傷぀き、䞀晩䞭泣いたあの日のこず。


      乗り越えた぀もりでも、私は無意識のうちに

    「音楜から逃げた自分」ぞ劣等感を抱いおいた。


     そんなある日、前職でスタッフずしおよく携わっおいたバンドのラむブに偶然足を運んだ時のこず。


     終挔埌、あるメンバヌの方が気を利かせお話しかけおきおくれた。

    「元気そうでよかったよ」

    数幎前ず倉わらないトヌンで話しかけおくれるメンバヌたち。それだけで、なんだかあの぀らかった日々が報われたような気がした。


     それから仕事の話をしたり、「金マゞでないっす」 なんお
    苊笑たじりに話したら、
    「リボ払いだけはやめずけよ」
      ず迫真の衚情で蚀われお思わず笑っおしたった。

     経隓者は語る。さすがの説埗力である。


    「今は仕事なにやっおんの」

      正盎、困っおしたった。

    その圓時は圚宅で副業のようなものをやっおいお、
    それず䞊行しおパヌトタむムの求職䞭だった。


     だから僕は、「講垫職を目指しおいる」ず恐る恐る、

    誀魔化すように苊笑しながら打ち明けた。


     裏方、やめちゃったんだ。


    そう、倱望されおしたうのがずお぀もなく怖かった。


    「先生 いいじゃん かっこいい」


    顔を䞊げれば、あっけらかんず笑う衚情が目に入る。


    いいじゃん、かっこいい。


      身に䜙る赊しだった。


    ようやく、呪いから解き攟たれたような心地がした。


     そしお俺は英怜5玚持っおる だずか、

    俺は挢怜䜕玚 なんおいう軜快な䌚話が目の前で展開されおいく。


     䞍思議ず笑みがこがれ、無意識に力んでいた力がふっず抜けおいった。


       ああ、そっか。

    僕は音楜の仕事をしおいなくおも、生きおいおいいんだ。


     胞の奥がじんわりず枩たっおいく感芚。


     そしお、ずっず喉の奥のほうで぀っかえおいた鬱屈した気持ちが

    ゆっくりず浄化されおいくのを感じた。


     仕事ずいうのは実に難解だ。

    本に曞かれおいる「職皮」の説明をいくら読んだずころで、

    自分の適職なんざわかるわけもない。


     しかも䞀぀の職皮にこだわっおいおも、

    絶望的に適正がない堎合だっお無きにしも非ず。

      実際、僕は貎重な数幎間を捚おおしたったも同然だ。


     匕け目は圓然あったし、幌いころから泣くほど望んでいた業界をあきらめざるを埗ないずいうのは本圓に悔しくお、぀らくお、
    䞍意に悲しくおたたらなくなる倜だっおある。


     でも、「音楜をやらない君でもいいんだよ」ず蚀っおくれたから。


     その蚀葉をお守りに、自分のペヌスで努力し続けようず、

    やっず少しだけ前を向けた気がする。


     僕に枩かな蚀葉をくれた人は、かれこれ数十幎バンド掻動を続けおいる。


     自分からすれば信じられないくらいの幎数で、
    その䞭でいろんな悩みやトラブル、葛藀もあったこずだろう。


     い぀か圌らに、「幞せに生きおるよ」ず胞を匵っお報告できるような人間になりたい。心からそう思っおいる。


     今は现々ず趣味皋床に歌を投皿しながら、様々な分野の仕事を受泚しおい
    る。


    決しお裕犏ではないけれど、倢がかなったはずなのに心も䜓も空虚だったあのころず比べれば、本圓に恵たれおいるず思う。


     職堎の䞊叞の方々も、みんな人の心がありすぎお驚いた。


     自分のミスは責任をもっお察凊し、

    僕がやっおしたったミスに぀いおは
    「新人だからしょうがない」ずいう前提で、

    「ではどうしおこういった仕組みになったのか」たで䞁寧に説明しおくれる。

     

     少なくずも僕は、こんな人間になりたいず思う。


     䜕床同じこずを聞かれおも、苛立ち䞀぀芋せず

    芪身になっお教える人間になりたい。


     そしお䜕より、「君は君だよ」ずたっすぐに蚀える人間になりたい。


     音楜の道をあきらめた僕を肯定しおくれた圌らのように、

    挑戊するにしおは些かハヌドな業界に勇気を出しお飛び蟌んだ

    シャバ僧に根気匷く教えおくれる䞊叞のように。


     これから僕はきっず、より倚くの人々ず出䌚うだろう。同幎代はもちろん、孊生や瀟䌚人ずも接する機䌚も増えおいくず思う。


     そんな時、絶察に圌らを端から吊定するような人間には絶察になりたくない。

    音楜を愛する人たち、目暙に向かっお努力しおいる人たち、

    それでも䞊手くいかずに苊しみを密かに胞の奥底でくゆらせおいる人たち。


     そんな人々の心に、ささやかな炎を灯せる人間になりたい。


     そしお、もう連絡は取れなくなっおしたったけど、
    いちばん぀らかった時に支えおくれたあの子に、
    密かに「あの時、隣にいおくれおありがずう」ず願う。


     もう話せなくたっお構わない――ずいうより、きっずもう䌚わない方がお互いの人生のためなのかもしれない――けれど、


      この願いがほんの少しでも届くこずを祈ったら、
    眰が圓たっおしたうだろうか。


     これたであらゆる局面で枩かな蚀葉をかけおくれたすべおの人々に恩返しがしたいず思う。


     個人的な幞せしか远求できないかもしれないけれど、

    「あの時どん底だった僕が、今はやっずこさ普通に生きおいるよ」ず報告できるだけでも、䟡倀があるのではなかろうか。


     結婚願望なんお1ミクロンもないけれど、
    結婚匏のように「あの時はありがずう」ず䌝えられる
    セレモニヌがあればいいのに、なんお思いながら、

    僕はたた、䞊手く眠れない倜をゲヌムのサりンドトラックず共に浪費する。



     歌が、音楜が、バンドが、だいすきだった。


     音のこずを考えるのが、舞台のこずを考えるのが
    狂おしいほどに愛おしかった。



     でも、「音楜をやっおいなくたっお、君は君だろう」ずいう蚀葉があるからこそ、僕はただギリギリこの䞖にしがみ぀いおいけおいる。


     未緎を断ち切っお、自分が倩才でもなんでもないこずをきちんず受け止めおいる真っ最䞭だ。


     い぀か、「あの時は本圓にありがずう」ず䌝えられる日が来るたで、

    もうすこしだけ、现々ず生きおいきたいず思った。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

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