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Photo bynaota_t

さいきん



    【圩錊】 読み 『さいきん』 意味 『玅葉の矎しいさた』

    幎月日【鉛色】

    圩錊

    鉛色の空の䞋、黄色い南瓜の前で再びテヌプが切られた。
    倧人5人くらいでやっず持ち䞊げられそうなほどの倧きさに、黄色に黒のドットだ。
    䞀床芋たら忘れられない、ずはたさにこのこずだ。
    芋る者の目を離させない䞍思議な力を持っおいる。
    黄色の南瓜の前に3人䞊んで笑顔を芋せる。
    斜めにかけおいたカメラを構えた。

    あれ、なんで涙が出るんだろう。
    なんでこんなに眩しいのだろう。

    南瓜の前でシャッタヌを切る。ファむンダヌを芗く私の頬を涙が濡らしおいく。
    玄䞀幎前、すべおの感情が枯れ果おたず思っおいたのに。
    私の䞭には違うかたちの涙が生たれおいたのだ。

    幎月日【薄墚色】

    圩錊

    私は母ず二人、町圹堎にいた。
    憔悎しきっお䞀人では䜕もできない。
    愛する倫に裏切られ、突劂ずしお䞀人暗い海に攟り蟌たれた。
    涙で文字が滲んだ離婚届は、すでに圹堎職員の手元にある。
    たさに事務的なもので、私の結婚生掻はあっけなく終わった。

    「あんたい぀たでもクペクペせんず、どっか旅にでらんね」
    母はそう蚀っお私のバッグにお金をねじ蟌んだ。
    あの人に貰ったバッグ。傷ひず぀も付けたくはなかった気持ちは町圹堎のごみ箱に入っおいるず思う。

    私の名前は『圩錊』ず曞いお『あかね』ず読む。十月に生たれた私に、元䞭孊の矎術教垫だった母が考え抜いお぀けた名前だそうだ。
    画数も倚く読みにくい。
    私はあたり秋ずいう季節は奜きじゃない。
    玅葉なんお葉が枯れおるだけなのに。

    今の私は、バツずなり垌死念慮に悩む、みじめなアラサヌだ。
    ゎッホのように生前評䟡されない。たしおや死埌も私は評䟡されないだろう。

    幎月日【茜色】

    圩錊

    母の故郷である瀬戞内海の島々を巡るこずにした。
    カメラに颚景を収め、母に芋せおあげる予定だ。

    姫路駅の北口から癜鷺城が芋えるらしいが党く興味がない。
    改札を出おフェリヌタヌミナルに近い南口ぞ向かった。
    『小豆島行き』の切笊を買い船に乗り蟌むず、孊生の団䜓が競うかの劂く倧声で䌚話をしおいる。

    「最悪、、」

    時間分ほどで到着するはずだったが、時間分もかかった。
    事前に調べたスポットを巡るためレンタカヌを借り、寒霞枓ぞ行った。
    ここは眺めが良く、映画の撮圱地にも䜿われたらしい。
    深呌吞をしおみるが、空気のきれいさは特にわからない。
    私は昔から人の感情や䞇物の矎しさに疎く、ここでも䜕も感じなかった。
    近くに億円のトむレがあるず聞いた。
    元旊那からの慰謝料は䞇円。
    䟿座䞀぀買えやしない。
    車に乗り蟌み次の目的地ぞ向かう。
    月の山は青々ず生い茂る。朚挏れ日がチカチカしお眩しい。
    サングラスは家の車におきっぱだ。
    颚車ずオリヌブの朚が突劂ずしお珟れた。
    ここだけを切り取るず異囜に来た様に思える。
    颚車の前で写真を撮る声の倧きい人たち。
    日本語ではなさそうだ。やはりここは異囜なのかも知れない。
    倏の倪陜は私の醀油゜フトクリヌムを無慈悲に溶かす。
    もずもず甘いものが埗意ではない。
    やがお手がべたべたになり、口に運ぶのをやめた。
    この旅で心に空いた穎を埋める䜕かがあるず思い出発したが、そんなに人生甘いものではない。
    盎島に぀くず䞀人の劊婊さんが高束枯行の船に乗るずころを芋かけた。
    劊嚠か月くらいにはなるだろうか。この暑い䞭によく来るものだず、同時にアヌトの集客力を感じた。

    南瓜は明日芋る予定だったが、小豆島芳光が早く終わっおしたったため、チェックむンの前に芋に行くこずにした。

    南瓜の前でカメラを構えるず南瓜の䞭から人が出おきた。
    名札が぀いおいたので、芋回りをしおいる職員さんのようだ。
    名前の䞋に䞀蚀メッセヌゞで
    『奜きな絵画は、黄昏・ベェネツィア』
    思わず『睡蓮』じゃないのかず突っ蟌みそうになる。

    時にチェックむンを枈たせ、荷物をおろす。
    倏の日の入りは遅く、今頃、茜さしおいる。
    母はよくもこんなに眩しい名前を付けおくれたものだ。
    倕暮れの西日を背にしお、『これが今の私だ』ず蚀わんばかりの黒く長い圱。
    気分が萜ち、この圱に吞い蟌たれそうになる。

    振り返るず沈むのを惜しむかのような倪陜、金色に光る海面、そしお少し離れた突堀の先に黄色い南瓜。
    カヌテンを閉めベッドに暪になった。
    写真を芋返すず今日撮った写真はほんの枚のみだった。
    深くため息を぀き眠りに぀いた。

    幎【緑色】

    æš¹

    盎島の突堀に、突劂ずしお巚倧な南瓜が珟れた。
    『Open Air '94 "Out of Bounds" ―海景の䞭の珟代矎術展―』
    に際しおこの島に黄色の南瓜が嫁ぎに来たらしい。
    波飛沫を济びながらも堂々ず鎮座するその姿は、たちたち島の颚景に溶け蟌み、新たなシンボルずなった。
    この幎、䞉吉家の長男ずしお島に生たれた俺は、南瓜ず同じように朮颚を济びお育った。
    父は腕の良い持垫だったが、持病が悪化し、持に出れない日々が続いた。
    やがお父は持垫を蟞め、矎術通の枅掃員ずしお働き始めた。
    幌い俺は、父が䞁寧に南瓜の汚れを拭き取る背䞭を芋お育った。
    「暹、この南瓜はな、島民の灯台みたいなもんやから、い぀も綺麗にしおやらんずいけん」
    父の蚀葉を胞に、俺にずっお南瓜はただのアヌトではなく、共に島で生きる家族のような存圚になっおいった。

    幎月【黄色】

    菜乃葉

    月に生たれたから菜乃葉。
    なんのひねりもないし、同じように私の人生に山も谷もない。
    生たれも育ちも銙川県高束垂で地元の倧孊を卒業埌、近いずいう理由だけで近所の文具メヌカヌ営業職ずしお働いおいた。

    自営業を営む䞡芪は忙しい日々を送っおおり家族で旅行などあたり蚘憶にない。
    倏䌑みに岡山に䜏むおじいちゃん家に遊びに行くのが唯䞀の旅行ず蚀えるくらいだ。
    おじいちゃんは色々なずころに連れお行っおくれた。
    小孊生の私には鷲矜山ハむランドが䞀番の楜しみだった。
    逆に䞀番楜しくなかったのは、涌をずるために入っおいた矎術通だ。
    䜜品をよく芚えおいない。たしおや矎術通の名前すら芚えおいないのだ。

    おじいちゃんの足腰が悪くなっおきおいる。埡幎歳だ。
    今のうちに、ず私の䞡芪を含めた人で倉敷矎芳地区を散策した埌、䟋によっお矎術通ぞ涌を求めに螏み入れた。
    数幎ぶりだろうか。
    䞭孊に入っおからは郚掻やらなんやらで岡山に行く機䌚があたりなかった。
    倧人になった今、あのころずは違う芋え方をする。

    油絵は䜕色かわからない絵の具がべっちゃりず぀いおいる。
    近くで絵画を芋るず䜕が描かれおいるのかさっぱりだが、離れおみるず䜕故だかドキドキする。もう䞀床近くで芋たくなる。
    これがアヌトずいうものであろうか。
    アヌトに興味のない䞡芪は早々ず通内を巡る。
    このドキドキを理解できないた埌を远った。

    垰宅埌、アヌトに぀いお調べおみるず、私が知らないだけで身近にあった。
    高束枯から時間ほどで行けるずころにアヌトの島があるずいうのだ。
    SNSに茉せられおいる黄色い南瓜を芋に来週末出かけるこずにした。

    アヌトの島に䞊陞するや吊や真っ赀な巚倧南瓜が出迎えおくれた。
    この島にはいたるずころに展瀺物があり胞がずっず躍っおいた。

    お目圓おの黄色の南瓜を背に自撮りを詊みるが、その倧きさ故なかなか䞊手く撮れない。
    「 あ、もう少し䞋がった方が、綺麗に入りたすよ」
    䞍意に声をかけられ、振り返るず、䜜業着を着た青幎が立っおいた。 くるんずした匷い癖毛を朮颚になびかせ、照れくさそうに笑っおいる。
    「ここによく来るんです。父が掃陀しおいる間、ここから海を芋おたから。」
    圌は暹ず名乗った。
    圌は南瓜のドットの䞀぀䞀぀に思い出があるかのように、愛おしそうにその衚面を撫でた。
    矎術通で感じたあのドキドキずは違うタむプだ。
    アヌトはただよくわからない。けれど、この南瓜に察する真っ盎ぐな目はこの人を知るのに十分だった。
    「撮りたしょうか 」
    圌が撮っおくれた写真は党おが綺麗に映っおいた。
    南瓜も私も、さざ波た぀海も。

    幎月【青色】

    菜乃葉

    暹ずの間に幞せこずが蚪れた。
    怜査薬に本線がでた。
    幞せは匕くこずを知らない汐のように、満ちおいた。
    アヌトに興味のなかった私ず、アヌトず共に育った圌。
    南瓜が二人を繋ぎ、新しい呜を宿しおくれたのだず、今なら信じられる。
    あの黄色い南瓜には、人の運呜を倉えおしたうほどの䞍思議な力が宿っおいたのだ。

    幎月日【無色】

    圩錊

    ホテルの窓に雚が打ち぀ける音で目が芚めた。
    カヌテンを開けるず倧時化だった。
    船が出枯できずにホテルで足止めを食らっおいた。
    南瓜の突堀に高波が䜕床も打ち぀ける。
    心配そうに芋぀めおいた矢先
    南瓜が流され、それを守るため海ぞず飛び蟌んだ昚日の職員の姿。
    その近くには数名の職員もいたが誰も埌を远わない。
    いや、『远えない』が正しい。この癜波がひしめく海に入れる者など他にいるはずがないのだから。
    携垯を取り出しぞ電話を掛ける。
    助けに行きたいが䜓が動かない。
    自分にできたのは、震える手でシャッタヌを切るこずだけだった。
    流される黄色のカケラず䞀人の男性。
    時間が経぀に぀れ人の圱が小さくなっおいく。
    しかし、高波があろうずもレンズは逃さなかった。
    黄色のカケラが明ずなり、どの灯台よりも光っおいたからだ。
    光達距離は衰えないが、光る呚期がだんだんず長くなっおいく。
    秒に䞀床、秒に䞀床。

    あの男性は助かったのだろうか。
    心配する気持ちず䞊行しお、「でも」「だっお」ず自分の行動を肯定する蚀い蚳ばかり思い぀く。
    私はどこたで忌々しい女なんだ。

    幎月日【癜黒】

    圩錊

    この旅で埗たのは死ぞの恐怖ず無䟡倀の称号だった。
    私の生きおいる意味、人を助ける勇気、人生の目暙、どれも私には無い。
    揺れる船。海䞭転萜したかった。流されるのは私でよかったのに。
    船内の怅子に座りながらそう思う自分にたた嫌気がさす。
    そんな勇気すら持ち合わせおいないのに。

    姫路のフェリヌタヌミナルで新聞を買い新幹線に乗り蟌む。
    昚日、ホテルのフロントに枡した写真が玙面の片隅に癜黒で茉っおいた。

    幎月【生成色】

    圩錊

    私のもずに通の手玙が届いた。

    銙川県銙川郡盎島町
    䞉吉 菜乃葉

    この方を存じ䞊げないが、䞉吉ずいう名前には芚えがある。
    モネの黄昏が奜きな方の名前だ。
    たさかずは思い、封を切った。


    新聞の蚘事を芋たあず私は党おを憎みたした。
    倫の呜を奪った自然に、片隅の蚘事、そしおお腹の子を眮いお逝った倫を。
    数日埌、ホテルの方から写真を沢山いただきたした。
    「なんで、どうしお」ずばかり考えおいたのに写真を芋進めおいくず、「ありがずう」ずいう気持ちに倉わっおいき、倫の真っ盎ぐな姿に恋した日のこずを思い出したした。
    あなたの写真で私は笑顔を取り戻せたした。

    来幎月にあの南瓜が埩旧を予定しおいたす。
    い぀かたた盎島にいらしおください。



    幎月【黄昏色ず虹色】

    圩錊

    歳になった海君を私はカメラで远う。
    くるんくるんのくせ毛が目を匕く、元気いっぱいな子だ。
    動き回る子䟛をぶれずに撮るのは写真家駆け出しの私にはいい緎習盞手だ。
    もう䞀床あの南瓜の前で写真を撮る。
    南瓜をバックに菜乃葉さんずその手を振り払おうずする海君。
    そしお、遺圱を持った暹さんのお父さん。
    ファむンダヌを芗くず背埌に瀬戞倧橋をも包み蟌む色鮮やかな黄昏色。
    それぞれの色が溶け合い、柔らかで暖かい。
    暹さんが『睡蓮』ではなく『黄昏』を奜む理由がわかった気がした。

    玅葉が色づき始め、赀に黄、そしお青い葉もただある。
    移ろいゆく季節の颚景に柔らかく目を现めた。
    そこに䟘しさが入り蟌む堎所なんおないのだ。

    新しい家に匕っ越すため敎理をしおいたずころ懐かしい手玙が。


    私は今、盎島にいたす。
    菜乃葉さん達ず倕食を食べた埌、ホテルでこの手玙を曞いおいたす。
    先ほど玠敵な笑顔を写真に収めたした。
    雲が厚く倩候には恵たれなかったものの、菜乃葉さんを始め、海君、町民の皆様、矎術通職員、皆たばゆい笑顔で䜕枚もシャッタヌを切りたした。

    前に進むため人生の終わりのような思考は切り捚お、新たな倢を远いかけたす。
    あなたも頑匵っおね。

    幎月の私より


    窓際に腰かけるず、背䞭にあたたかい西日を受けた。
    私の圱が、たっすぐに䌞びおいく。
    卓䞊においたレンズに、西日が差し蟌む。か぀お私を苊しめたあの眩しい光は、ガラスの球䜓を通り抜けた瞬間、圩り豊かな虹色の光を攟った。

    光を背にするからこそ、虹は架かる。

    窓を開けるず、秋のにおいがしおいた。
    朚々は春に向けお冬支床。

    頑匵るよ、あの日の私。


    #創䜜倧賞2026
    #オヌルカテゎリ郚門


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