幸運と不運
1.
幸運も不運も、それは突然訪れる。僕はただ、いつもよりも少し早く家に帰りたかっただけだ。
2.
僕は、片側二車線の幹線道路沿いの単身者用マンションに住んでいる。最寄り駅から自宅に帰るためには、この幹線道路を渡らなければいけない。普段は、横断歩道を、歩行者用信号が青のときにだけ横断している。当たり前のことだ。
でも、今日はなんとなく道を—つまり両側併せて四車線の道路を渡ってしまいたくなった。いや、なんとなくというのはウソだ。
(1) 会社で上司に怒られ、早く家に帰ってビールが飲みたかった。
(2) サッカー日本代表戦…19:30キックオフに間に合いたかった。
(3) 雨が降っている…にも関わらず傘を持っていなかったので、早く帰りたかった。
この3つ、この3つの理由で、僕は幹線道路を渡ることにした。時刻は、19時25分かそこらだったと思う。帰宅ラッシュが少し落ち着きを見せ始めた時間帯だ。
3.
渡り始めはスムーズだった。小走りで、北行きの二車線をさっさと片付けた。他愛もない。ちょうど信号が赤に変わるタイミングだったことも幸いした。
南行きの二車線に差し掛かろうかというとき、道路の状況を確認すると、少し先に車のヘッドライトが見えた。
待つ‥程のこともない。
僕は足を踏み出した。
瞬間、滑る足、絡まる手足、近づく地面。僕はコケていた。激痛。
痛い、単にくじいた以上の痛みだ。
顔を上げると、車が近づいてくる。あんなに遠くにあったのに。そう、これは僕の走馬灯なのだ。
4.
車のドライバーがよく見える。スマホをいじっている。ちゃんと前を見ろ、人をはねそうになってるんだぞ。
瞬間ドライバーは路上でうずくまる僕に気付いた。咄嗟にハンドルを切る。
僕の鼻を車がかすめていく。助かった。
ほら、幸運も突然やってくる―
「グシャッ」
5.
それが僕の最期だった。
何が起きたのか分からなかったが、一瞬で全てが終わってくれて、幸せだ。