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Photo bychaba_nosuke

怒るるメロス

    メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは親の脛を齧って35歳まで生きてきた。定職に就いたこともない。だからそもそも社会というものがわかっていない。かつては仕事にでろ、働きにでろと口うるさく言っていた両親も、今では何も言わなくなった。16の内気な妹は、メロスを、無いものとして扱っている。この前、私って一人っ子だからさ、と言っているのを聞いてしまった。ちょっと悲しかった。

    ⋯とにかく、メロスは激怒した。ある日、X(旧Twitter)を眺めていると、王の不正を告発するポストが回ってきた。次には、動画が回ってきた。以下に王が仕事をしていないか、悪性か、人を殺すか、とうとうと説明されていた。

    メロスには学もない。中堅私大(笑)を卒業したが、ほとんど大学にも通っていない。なぜ卒業できたのかもよくわかっていない。ただ、その動画が訴えていることは確からしかった。熱量が違う。ハゲたオッサンが魂を込めて話しているのが伝わってくる。

    そういえば、父親の事業も最近うまく行っていない様子だった。詳しいことはわからないが、変革が必要なのだ。政治が悪いのが原因に違いない。そして、政治は王が行なっている。王を討たねばならぬ。

    メロスは激怒し、王を討たねばならぬと決意したものの、政治も社会もわからず、学もなければ何もわからないから、どうすればいいのかよくわからない。そもそも、数週間家から出てないし、街には1、2年行けていない。今日は部屋からすら出ていない。

    とりあえず、熱量高く王の不正を訴えているポストを引用ポストすることにした。「オレも初めて知ったけど、王やべぇな」とだけメッセージを付け加えた。あまり「討つ」とかそういうメッセージはうたないほうがいい気がした。学のないメロスにも、それくらいわかる。アニメ漫画用に作成したアカウントのフォロワーは500を超えているのだ。それが大したことのない数字であることも、メロスは知っている。

    すると、しばらくして、「偽情報に踊らされてるアホ発見」とだけリプライがついた。偽情報?何をいってるんだ。アホはどっちだ。舐めるな。メロスはまた激怒した。しかし、ここで「アホはどっちだ」などとリプライを返すと、相手に反撃の機会を与えることになる。某巨大掲示板で鍛えたレスバトルスキルが、隙を相手に与えることを許さなかった。

    メロスは、念のため、反対の立場…つまり、王に賛同する側の意見を調べてみた。すると、王は素晴らしい人格者であり、政策のすべてが素晴らしいということが分かった。さらに、王の立場に反対する奴らは、第三国の諜報機関から金を受け取っている奴らだということも分かった。

    メロスは、激怒した。国民を、さらには私を騙していたとはけしからん!王にも申し訳ないことをした。すぐに、メロスは先ほどのポストを消した。そして、いかに王が優れているか…その情報発信をしよう。そう誓ったその時、階下から声がした。

    「ねえ、アホメロス?もうすぐ友達が来るから、家から出てってくれない?家族に穀潰しがいるってバレたくないの。夜中まで帰ってこなくていいから。」

    妹だ。天下国家どころではなくなってしまった。
    もう少しこの家にいるために、メロスはいそいそと荷物をまとめて外出した。外は、最後に外出した2週間前と比べると、少し蒸し暑くなっていた。

    とりあえず‥コンビニでも行くか。今日の怒りのことなど忘れ、メロスはコンビニへ行った。あと、6〜7時間どうやって時間を潰すか。それが問題だった。

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