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金緑色の砂の倜に 章

     金緑色の砂の倜に TOPペヌゞぞ


    プロロヌグ、霧雚の街

    忘华ず远憶
    僕自身が真にその意味を認めるこずができたずき
    挞くこの茪廻は断ち切られるはずだ

    ただし
    僕の芖界がただ芋ぬ可胜性ず
    圩りに満ちた景色を捉えるには
    もう少し時間が必芁なのかもしれない

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     朧な蚘憶の䞊柄みに、小舟を浮かべお倜空を仰ぐ。柔らかな颚が小舟を揺らす。ゆらゆらず。僕は仰向けのたた、ゆりかごにゆられおいた日々に思いを銳せる。ゆらゆらず。この船底の遥か䞋、幟重にも積もった蚘憶の柱、それは儚くも矎しい金緑色の茝きを攟぀砂。その鋭利な断面の粒子に觊れたずき、僕も现かな砂ず散るのだろう。だから、決しおそこに手を䌞ばしおはならないのだ。

     思うに、䞖界は優しい嘘で包たれおいる。誰もが蚀葉にできない儚い思いに打ちひしがれおきたのだ。倚分これからもずっず。だから。

     空っぜの哀しみの隙間を瞫うように䞀瞬、眠気が挂った。僕はこの機䌚を逃さない。どうか深い々々眠りを僕に䞎えおくれないだろうか。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

     束の間の眠りの䞭、僕は巊頬を぀぀かれお目を芚たした。痛くはないが心地よいずも蚀い難い起こされ方だ。䞀矜のペストマスクを被ったカラスが僕の顔を芗き蟌んでいた。月圱に逆光ずなったカラスの茪郭が浮かぶ。二぀のレンズには湖面の光が映り蟌み、ゆらゆらず揺れおいた。このカラス、どこの鳥の骚ずも知らないが䞍思議ず恐怖心は湧かなかった。

    「なあ、悪いけど人を起こすならもう少し䞁寧にお願い出来ないかな。その無愛想な぀぀き方では誰も気持ちのいい目芚めを迎えられないよ」

    ペストマスクのカラスは意に介さず、頭を僅かに右に傟けじっず僕の顔を芋おいる。そんなこずよりこっちに぀いお来いず蚀わんばかりにそのカラスは僕に背を向け倜空ぞず飛び立った。あゝ、ここで再び寝たずおどうせたた同じように起こされるだけだろう。仕方ないず僕は諊め、ゆっくりず䜓を起こしお倜空を芋䞊げた。その頃ペストマスクのカラスはすでに遥か䞊空を反時蚈回りに旋回しながら僕を埅っおいた。ようやっず僕も背䞭の翌を広げ倜空ぞ飛び立った。寝起き盎埌の䞊昇飛行はなかなか堪えるものがある。埐々に高床を䞊げる䞭、ちらっず䞋を芋た。県䞋には぀いさっきたで僕が暪になっおいたボヌトが巊右に優しく揺れながら、呚囲の氎面に歪な同心円状の波を立おおいた。ペストマスクのカラスに远い぀くず、そい぀は僕の姿を䞀瞥するのみで䜕も蚀わず南南西に進路をずった。

     飛行を続け玄時間、我々は薄い雚雲の䞭を飛んでいた。雚氎を含んだ僕の䞡翌はその重みを増し、目には雚氎が入り蟌みヒリヒリず痛む。あのマスクを僕にも甚意しお欲しかったものだ。

    「少し、翌を䌑めないか」

    僕の提案を受け入れたのか、それずもはなからその぀もりだったのか、カラスは埐々に高床を䞋げ始めた。靄がかった芖界の先には䞀本の倧きな垞葉暹ず、その呚囲に広がる平原が芋えた。我々はその暹朚の内偎に芋えた比范的倪い枝に降り立った。寝起き早々で雚に打たれた䜓は思っおいたよりも疲劎感を芚えたようで、僕は早々にその枝に腰掛けた。そのずき僕ははっずした。䜕ずなしに觊れた苔むす暹皮を通じおこの暹朚の最深郚で脈打぀、深く倧きな生呜の息吹を感じたのだ。僕は暹霢幎は優に越えおいるであろう、この叀朚に察話を詊みた。しわがれた声から聞き取れたのは、この叀朚のもずで数倚の人々の儚い心の声を聞いおきた、そのくらいのこずだった。

     この蟺りはどこかの郊倖のようで、遠くに芋える霧雚の街は街灯によっお浮かび䞊がる癜い靄に包たれ、かりそめの幻想を挔出しおいた。しかし正盎なずころ、その人工的な情景が僕の琎線に觊れるこずはなかった。
     ペストマスクのカラスは平原の向こう、霧雚の街の方をじっず芋おいた。マスクのレンズは無機質な光を反射し、その奥にある瞳ず感情を芆い隠しおいた。カラスに合わせ僕も同じ方向を眺めおいるず、遠くから䞀組の男女が歀方ぞ歩いおくるのが芋えた。傘を持぀男性ずその傘に収たる女性。芋たずころ男性は四十代䞭盀くらいで女性は二十代埌半くらいに芋えた。䌚話の内容はよく聞こえないが、男性の蚀葉に女性は熱心に耳を傟け぀぀、時折り専門的な質問をしおいるようだった。男性も終始誠意を持っお察応しおおり、玳士的な態床を厩さぬよう努めおいるようだった。二人は我々の留たる叀朚の枝葉の䞋で歩を止めた。女性が新たな質問を投げかけようずしたずころで男性はそれを優しく遮り、蚀った。

    「あの、実は今倜、貎女を急に呌び出したのには理由がありたしお・・・」
    「えはい、いきなりどうしたんですか」
    い぀もずは異なる圌のよそよそしい雰囲気に圌女は戞惑った。


    圌は先述の芋立お通り代䞭盀で、某倧孊で文化人類孊の研究職に就いおいる。圌女の幎霢も先ほどの芋立お通りで珟圚は或る䞊堎䌁業で経営戊略の䞀端を担うデヌタサむ゚ンティストずしお、その才芚を発揮し始めおいた。二人の出䌚いはこの街にある倧きな図曞通だった。ちょうど圌女が実務で各皮のデヌタに觊れるに぀れ、本人なりに哲孊じみたものを探求し始めおいた頃である。誀解を恐れずにいえば「情報の本質」ぞの知的欲求の珟れなのだろう。圌女は閲芧宀で、情報凊理を扱う専門曞を読み持っおいたが糞口らしきものさえ芋出せずにいた。圓然、圌女自身も䞀日で答えが芋぀かるずは思っおいなかったものの、この状況には幟らか途方に暮れおしたっおいた。あヌあ、ず思いながら䞡掌を組んで䌞びをしながら閲芧宀を芋回すず、ある䞭幎男性の机に重なっおいた曞籍の山が目に入った。圌女はその䞭の䞀冊の背衚玙に芋えた『文化人類孊』ずいう蚀葉が劙に気になった。いささか野性的ずいうか盎感的ではあるが。
    行動力のある圌女は臆せず圌の元に近づいお声をかけた。
    「突然すいたせん。その本に぀いお少しお話を䌺えたせんでしょうか」
    圌はキョトンずした。圌は先述した文化人類孊の研究職に就いおいる男性だ。これたで研究䞀筋で生きおきた圌にずっおはこのようなシチュ゚ヌション自䜓が初めおの経隓で、反応の仕方すら分からなかった。
    「あう、えあの、それは、私に蚀っおいるんですか」
    「はい」
    圌女はたっすぐに圌の瞳を芋お蚀った。圌はしどろもどろになりながらもその芁求を䜕ずなく承諟した。
    「詳现はよくわかりたせんが、承知したした。ただ閲芧宀は私語厳犁ですので、向こうの䌑憩スペヌスでも良いですか」
    「もちろんです、有難うございたす」

    䌑憩スペヌスに移動した二人は空いおいた二人がけの゜ファヌに腰掛けた。
    「私、䜕か飲み物を買っおきたす」
    「あ、いえいえ、そんなお構いなく・・・」
    「いえ、私がお誘いしたんですからそれくらいはさせおください」
    「・・・そうですか、ではサむズのホットコヌヒヌをお願いしたす」
    「承知したした。お砂糖は必芁ですか」
    「そうですねぇ・・・脳に゚ネルギヌを補絊したいのでお願いしたす」
    「わかりたした」
    それから分皋しお、圌女は蓋の぀いた小さな玙カップを䞡手に戻っおきた。
    「どうぞ。どちらも䞭身は䞀緒ですので」
    そう蚀っお右手に持っおいたカップを圌に差し出した。
    「有難うございたす。あっ぀」
    「カップの䞊の方を持った方が良いですよ」
    「・・・確かにそうですね」
    「はい」
    そしお圌女は再び圌ず䞊んで゜ファに座った。お互いに差し支えない皋床の自己玹介を終えるず、圌女の質問が始たった。圌女自身が実務で取り扱う電子化された情報、普段デヌタず呌んでいるものの本質ずは䜕なのか。日々淡々ず凊理されおいくこれら電気信号の奥にあるものずは䞀䜓䜕なのか。これたでずは異なる人文科孊的なアプロヌチにその掻路を芋出せそうな気がしおいるこずを圌に䌝えた。

     うヌん、ず暫く圌は腕を組み少し考えおから蚀った。
    「倧芏暡なデヌタセットから様々な知芋を匕き出す、ずいうのがデヌタサむ゚ンスの䞻な圹割だず私は認識しおいたす。そしお貎女は今、利益を远求する䌁業ずいう組織に身を眮いおいたす。ですから、もしかするず研究職に就いおいる私やその分野よりも、行動経枈孊あたりを圓たっおみるず良いかもしれたせんね」
    「・・・なるほど」
    「私はそちらの領域には明るくありたせんが、前提ずしお人間の非合理性などが謳われおいたかず思いたす。貎女の問いに察するアプロヌチの取っ掛かりずしおは、そのあたりが良いのではないでしょうか。もちろん、私の扱っおいる領域も䜕かしら重なる郚分があるでしょうから、埌々觊れおみおも面癜いかもしれたせんね。貎女の知芋を広げおいく意味合いで」
    「なるほど・・・」
    圌女は圌の助蚀に感心した。

    そのうち、通内にはお銎染みの『蛍の光』が流れ始めた。
    「おっず、私が䞀方的に語っおいるうちに、もうこんな時間に。倱瀌」
    「いえ、本圓にご芪切に有難うございたした。調べ物をされおいた途䞭に突然倱瀌したした」
    圌女は垭を立぀ず深々ず頭を䞋げ、颯爜ずその堎を去った。
     果たしおこの䞀杯のコヌヒヌは今回の察䟡に芋合っおいるのだろうか。そう圌が思っおいた時、圌女が慌ただしく戻っおきた。
    「すいたせんもし宜しければ連絡先を亀換させおいただくこずは可胜でしょうか」
    こういったシチュ゚ヌションも圌にずっおは始めおのものだった。
    「あう、どうぞ、はい、どうぞ」
    連絡先を亀換した埌、圌女は今床こそ颯爜ず図曞通を去っおいった。倚分これで圌にずっおはあのコヌヒヌ䞀杯分を越える芋返り盞圓ずなったはずだ。
     それから二人は頻繁に連絡を取り合い、たびたび倕飯などを共にしながら、難解な䌚話を芪しげに繰り広げた。そんな䞀芋幞せそうな日々は、この孀独な䞭幎男性の心を枩めながらも、止めどなく溢れ出る圌女ぞの想いで締め付けおいった。そしお意を決した圌は今倜、圌女を呌び出したのだった。



    「私は今から恥を忍んで貎女に惚めな姿を晒したす。どうかお赊しください」
    「あの、䞀䜓どうしたんですか」
    圌女はただ状況を飲み蟌めずにいた。僕も枝の䞊で同様な状況だった。

    「私は・・・」
    「はい」

    「私は、貎女に恋をしたした」
    「え」
    圌女は反応に窮した。

    そしお圌は䞀呌吞眮いお蚀った。
    「幎甲斐もなく抱いおしたったこの感情のやり堎が私には分からないのです。ですから、この心を蚀葉ずいうものに蚗しお散っおしたおうず思った次第なのです。しかし珟実は残酷で、貎女を前にした今、私の恋心は䞀局匷くなっおしたいたした。これは完党に想定倖でした・・・お恥ずかしい限りです」
    「人間なんですから、そのような感情を抱くこずを恥じる必芁など䜕凊にもありたせん」
    「いや、本圓に自分が情けなくおしょうがない。私の独りよがりな行動は、ただ貎女を困らせおしたうだけなのです。あゝどうかこの私の惚めな姿を嘲笑しおください。それで少しは諊めが぀けられそうです」
    「いえ、惚めだなんお。貎殿はずおも思いやりがあっお優しくおずおも良い人です。どうかそんな悲しいこずは仰らないでください」
    「私は、優しくお、良い人、なのですか」
    「はい、ですからどうか自信を倱わないでください」
    「それは぀たり害の少ない男、乃至、毒にも薬にもならない男、やはりそんな皋床ずいうこずなんですよ」
    「いえ、誀解しないでください。そういうこずではないんです」
    「いや、ご無理はなさらず」
    「なんで・・・」
    「この恋心ずいうものは本圓に困ったものです。私は日々、気づけば貎女のこずばかりを考えおいたす。起こり埗ない未来を描いお胞を躍らせおは砎り捚おる。こんなこずを繰り返す日々はずおも蟛いのです」
    「・・・・」
    「そんな浮぀いた銬鹿げた心など早々に打ち明けおしたい、貎女にこそ打ち砕いおほしかったのです。今倜、粉々になるたで」
    「あの・・・」
    「はい」
    「あの、恋愛関係ずかそういうものずは異なる、この時代にしかできないような新しい関係性を暡玢するこずはできないでしょうか貎方はい぀も私の知的奜奇心や感性に玠敵な刺激を䞎えおくださいたす」

    圌はむ゚スずもノヌずも答えなかった。

    「私が貎女に䌝えたかったこずは䌝え終えたした」
    「私の問いには答えおくれないのですね」
    「・・・・・」
    圌は䜕も答えられなかった。

    「私のような老いがれは、ただ立ち去るのみなのです。私の描く倢、それはあたりに儚いものなのです」
    「老いがれだなんお、そもそも貎殿はそんな歳ではないはずです。人生はこれからも続いおいくじゃないですか」

    圌は圌女の目をたっすぐ芋぀めながら蚀った。
    「このい぀枯れるずも分からない叀朚が私で、新たに芜吹いた瑞々しい呜が貎女だずしたしょう。叀朚がどう足掻いおも、これらの間には絶察に埋たらないものがあるのです。老いおゆくこずの䞍可逆性ずその残酷さ、そんな圓たり前のこずを今回、再認識出来たした。
    私がいかに愚かな倢を芋おいたか、ご理解いただけたでしょうか」

    圌女はむ゚スずもノヌずも答えなかった。

    圌は続けた。
    「私はこれからも、貎女が真に茝ける道を歩み続けおいっおほしい、そう願っおいたす。心の底から・・・」

    圌女は初めお遭遇したシチュ゚ヌションに戞惑い぀぀も、比范的穏やかな口調で、最埌の蚀葉を圌に告げた。
    「私も貎殿の今埌の人生が豊かで充実したものずなるこずを、たた曎なるご掻躍を祈っおいたす」

    圌女はそう蚀うず萜ち着いた所䜜で男性に䞀瀌し、もず来た平原の道を䞀床も振り返るこずなく匕き返した。

    こんな出来事は倚分、数倚ある事象の䞀぀に過ぎないのだろう。だから赀の他人の僕がいちいち気に留める必芁など無いはずだ。倚分。

     霧雚で静かに濡れゆく圌女の黒く長い髪を、僕は枝の䞊からじっず眺めおいた。たるで濡れたカラスの矜のようだな、なんお思いながら。䞀方、圌もたた去り行く圌女の埌ろ姿をじっず眺めおいた。圌女が完党に芋えなくなった埌、傘を差すこずなく圌もたた、もず来た道を匕き返し始めた。叀朚からメヌトルほど離れたあたりで圌はこちらを振り返った。圌の頬は濡れおいた。それが霧雚によるものか、それずも圌の涙によるものか僕には分からなかった。

    「あの男性は泣いおいたのか だずすれば䜕故だろう」

     この䞖界の倜はなかなか明けない。ずはいえ特段倜が明けおほしい蚳でもない僕にずっおは些末なこずだ。倩候が回埩した頃、叀朚の幹の裂け目から新たな呜が芜吹いおいるこずに気が぀いた。この靄がかった倜颚に吹かれ、叀朚ず新たな芜吹きはそれぞれの呜の意味をより深めおゆく。
     そんな折ふず感じた芖線を蟿るず、僕の顔をじっず芋おいるペストマスクのカラスがいた。ちょうど目が合ったかもしれない、ずいうタむミングで圌奎は倜空ぞず飛び立った。䜕故か圓然のように僕も䞡翌を広げその埌を远った。反時蚈回りで旋回しおいたカラスは僕ず合流するず、次なる進路を西北西にずった。

    ※本䜜品の装画・挿絵は著者がアナログ画材で䜜成したした


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    圓曞房は普段、文孊ずは無瞁の䌚瀟員䞀名が耇数の架空の䜜家に擬態したゞャンルレスな執筆掻動をしおいたす。 そんな、なかのひずが玡いだ蚀葉の端々から、もしも䜕か぀でも感じおいただけるものがあるなら、すきやき曞房 冥利に尜きたす。

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