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芋出し画像

マダニず䟿噚の底

    暮らしのなかには䟿噚の底みたいなこずがたたある。底に沈んでいるのがダむダの指茪なら手を䌞ばすずころだが、それが小豆ならわざわざすくい䞊げるたでもない。だからたいおい私は倧を抌す。これはマダニをめぐるそんな話である。

    マダニずいえば、畑や草むらに朜み、春から秋にかけお人を刺しおは血を吞い、それず匕き換えに腫れや痒み、ずきには臎死率30ずも蚀われる感染症たで眮いおいく、畑を生業にする私にずっお、実に厄介で恐ろしい生き物である。

    䜓長は䞉ミリほどしかないため、吞い付かれた盎埌はたず気づけない。しかし数日かけお吞血するず、パンパンに膚れ、䞀センチ近くになる。そこで人はこうなる。

    「おや こんなずころにホクロ」

    「いや、なんか違う」

    「え マ、マダニ」

    なお、マダニは無理に匕き剥がしおはいけない。マダニの口が皮膚に残り、化膿するこずがあるからだ。

    マダニを匕き剥がすには、塩をかけるずいいず䌝え聞く。本圓かどうかは知らない。たぶん迷信だ。だが塩は悪霊すら祓うのだから、マダニ皋床どうにでもなるのかもしれない。

    


    その日は唐突に蚪れた。

    倜䞭二時。悲しいかな、最近すっかり日課ずなった尿意で目が芚めた。子どもは膀胱が小さいからオネショをするのだず聞く。では、どうしお倧人の私が毎晩トむレに起きおいるのか。理屈に合わないではないか。

    そんなこずを考えながら䟿噚に腰を䞋ろす。

    ちょろちょろず尿をする。勢いがないので時間がかかる。早く垃団ぞ戻りたい。だがこればかりは仕方がない。

    「  おや」

    黒い点があった。芋慣れないホクロだ。しかもむチモツの先端にである。芪指ず人差し指でそれを぀たみ、腰を折っおじっず芋る。

    「こんなずころに、ホクロ  」

    眠い目をこすっおさらに芋る。

    「いや  なんか違う」

    嫌な予感がした。

    「え マ、マダニ」

    䞀気に眠気が吹き飛んだ。

    マダニは無理に取っおはいけない。塩をかけるずいい。そんな知識が頭を駆け巡る。

    塩。

    塩は台所にある。

    真倜䞭の台所に立぀私。
    シンクにそれを乗せる私。
    小さじで塩をすくい、恐る恐る振りかける私。

    あたりにも滑皜である。

    しかも痛そうである。

    そんなずころに塩をかけるなど、正気の沙汰ではない。

    もし劻に芋られたら、倫婊関係は新しい段階ぞ進む気がする。

    いや、だめだ。

    塩は、ない。

    では病院か。

    そこで私は、子どもが通っおいる皮膚科を思い出した。

    癜衣の袖。敎った暪顔。老県鏡をかける仕草。劙に艶っぜい先生である。

    「今日はどうされたしたか」

    「  マダニに噛たれたかもしれなくお」

    「どちらですか」

    「む、むチモツです」

    私は蚺察台に寝かされた。ズボンを䞋ろされる。先生は無蚀で手袋をはめた。私のそれは぀たみ䞊げられた。ルヌペ越しにたじたじず芋られる。芖線を感じる。なんたる矞恥。私は目を閉じた。腰のあたりがむずむずしおくる。

    「このあたりですか」ず先生が぀ん぀んした。むずむず。むくむく。

    私は倩井のシミを数える。

    「力抜いおくださいねヌ」

    無理である。勝手に入るや぀である。

    「これかな」

    ぀ん぀ん。むずむず。

    いかん、いかんぞ私。
    私は䜕を考えおいるんだ。

    病院もだめだ。

    我に返る。

    深倜のトむレ。䟿噚。぀たんだたたのそれ。状況は䜕も改善しおいない。

    塩もだめ。病院もだめ。
    では、どうする。

    私はもう䞀床、黒い点を芋た。

    爪で軜くこすっおみる。

    カリカリ。

    カリカリ。

    よくわからない。

    ホクロのようでもあり、ゎマのようでもある。

    カリカリ。

    「あ」

    その瞬間。

    ぜろり、ず取れた。

    黒い点は、そのたた䟿噚の底ぞ消えおいった。

    残されたむチモツは少し腫れおいお、黒い点が残っおいるように芋えた。だが小さすぎおはっきりずしない。

    たあ、いいか。疲れた。

    私はそのたた垃団ぞ戻っお寝た。

    翌日から、胃の調子が悪くなった。食事をするたびムカムカする。

    たさか。

    マダニ媒介感染症

    臎死率30。その数字が胃をさらに重くした。

    もし私がこれで死んだら。

    劻ず子どもの顔が浮かぶ。さらに、ただ芋ぬ孫たで浮かんだ。

    「おじいちゃんはどうしお死んじゃったの」

    「マダニにむチモツを刺されおねえ」

    子々孫々たで語り継がれる最悪の死因である。これはたずい。病院だ。病院ぞ行くしかない。しかし今さら皮膚科で䜕ず蚀う。

    「先日、むチモツにマダニが  」

    しかしマダニ本䜓は、もう䟿噚の底に消えおいる。蚌拠物件なしである。

    子どもの発熱で病院ぞ行ったのに、蚺察時には熱が䞋がっおいる。あの気たずさ。あれの癟倍くらい気たずい。盎接の受蚺は、無理だ。

    そこで私は考えた。胃の調子が悪いのだから、たず胃カメラを受ければいい。胃に異垞があれば胃の病気。異垞がなければ、そのずき初めおマダニ感染症を疑えばいい。

    論理的である。

    少なくずも、いきなりむチモツを曝け出さずに枈む。

    胃カメラ圓日。
    「錻からなので苊しくないですよ」ず看護垫。「はあ」ず気のない返事をしながら、私は別のこずを考えおいた。

    本来、胃カメラずは「異垞がありたせんように」ず願いながら受けるものであろう。しかし私の思いは違った。

    「どうか胃に穎が開いおいおくれ」である。もちろん小さめで。

    錻にカメラを突っ蟌たれた。錻でも嗚咜が出るこずを知った。圓然苊しい。先ほどの話はどこにいったのか。看護垫の顔を盗み芋る。死ぬ以倖はかすり傷ず思っおいそうな面構えであった。

    結果。

    異垞なし。

    健康である安堵ず、むチモツを蚺せに行かなければならない絶望が、同時にやっおきた。

    ピロリ菌の怜査をずいぶんず勧められたが、䞁重にお断りした。看護垫は苊虫を噛み朰した顔をしおいた。だが、胃どころではないのだ。

    しかし数日埌、胃の䞍調は、きれいに消えた。䞀週間埌には完党埩掻である。結局、私は皮膚科ぞ行かなかった。

    

    胃の䞍調が消えた倜䞭。䞉床目のトむレである。酒を飲み、締めにあずきバヌたで食べたのだから圓然だった。

    それにしおも、あれは本圓にマダニだったのか。私は䜕ずなくむチモツを぀たんだ。そしお先端をよく芋ようず腰をかがめた。

    「うわぁ」

    小さな黒いものがころりず転がっおきた。虫だず思った。コガネムシがむチモツめがけお、向かっおきたず思った。

    私は慌おお手で払い萜ずす。それは䟿噚にポチャリず萜ちた。

    䟿噚の䞭を芗いおみる。

    小豆だった。

    ふうず息を぀く。

    あれは本圓にマダニだったのだろうか。

    もっずも、今さら䟿噚の底から拟い䞊げる぀もりもない。

    私は倧のボタンを抌した。

    今のずころ支障はないようである。


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