
かけがえのない時間(エッセイ)
雨が降る。
しとしと、ぱらぱら、と雨が降る。
雨は、かつて私にとって疎ましい存在でしかなかった。
なぜなら、空が低く垂れ込め、降り始めると途端に気分が沈んでしまう。
湿気で肌はべたつき、空気はどこか冷え冷えとして、外に出るのが億劫になる。
何より困るのは、洗濯物がいつまでも乾かないことだ。
そんな日常の小さな不便が積み重なり、雨の日はただ「損をした気分」になる。
本当に、嫌いな時間だった。
しかし、いつからだろうか。
雨音を聞いて、ふと「慈雨、甘雨、雨恵だなぁ」と感じて好きになったのは。
きっかけは、ダムの用水、貯水率がゼロパーセントになったことだ。
当たり前の事実に改めて気づいたことは衝撃的だった。
ここまで枯渇するのは三十年ぶりだそうだ。
私たちが口にする作物を育て、日々の暮らしを支えているのは、他でもないこの雨だ。
そう思うと、窓の外に広がる灰色の景色が、生命を育むための大切な準備期間のように見えてきた。
それだけではない。
雨の日は、外の世界の喧騒が雨音にかき消され、かえって心が穏やかになる。
晴れの日には「どこかへ出かけなければ」と急かされるような焦燥感がある。
だが、雨は「今日は家で過ごしてもいいのだ」と優しく背中を押してくれる。
そんな雨の日は、お気に入りの飲み物を淹れて、ゆっくりと本を開く。
静かな部屋に響く雨音は、読書やインドアの趣味にこれ以上ないほど心地よい音楽だ。
しとしと、ぱらぱら。
優しく降る雨。
かつては憂鬱の種だった雨。
今では自分を慈しみ、静かに思考を深めるための、かけがえのない時間を与えてくれる。
#エッセイ #ショートエッセイ
#かけがえのない時間 #時間 #雨 #ダム
#貯水率 #恵みの雨 #思索 #創作大賞2026