
メイド小説≪ある日の出来事4≫
踵を返し去っていく足音を聞いたところで、さて、うっかり調子に乗ってアフタヌーンティーなどを注文してしまったが、これは味わいつつも早めに食べ終えなくてはなと思う。
裏路地へと続く扉を見つけたのが12時を少し回ったところ。
そこから細い道を抜けて初めての店に入り、奥の階段を上がって注文のアフタヌーンティーセットが運ばれてきた。
さっき見た時計の中の一つが12時20分。丁度腕時計の時間と一致したことで一先ずの安堵をする。
良かった。思ったより時間は経っていない。
それよりも、今はアフタヌーンティーだと私は息巻く。
先ずは1番下の段のサンドイッチを摘んだ。
ーー彼女はスコットランサーモンのサンドイッチと言っていたっけ。
これはなかなか....
うーんとうなりながら一緒に淹れたての紅茶も口の中に流し込めば、カップの温かさが指先からじんわりと広がり、冷たかったサーモンは口の中で脂ごと解ける。
素朴なサンドイッチだが、燻製にされた新鮮なサーモンは茶色の素朴なパンによく合った。
ーー真ん中の段は本日のスコーンです
真ん中から割って、ジャムとクロテッドクリームをつけてどうぞ
1番上の段はアントルメのアラカルトです。
こちらの中からお好きなものをお選びくださいーー
メイドさんの声が心地よく頭の中でこだまする。
私はついに最後まで、温かい紅茶とともにアフタヌーンティーを堪能した。
≪間≫
丁度全てを食べ終えたタイミングで、かけられた声に驚いた。
先程の給仕の彼女が暖炉を背にして立っている。
スカートとエプロンのシルエットが、炎の陰でゆらゆらと揺れていた。
再び物語の世界に沈み込みそうになりぼうっとする頭で会計を頼む。その後分からないほどに僅か目線を動かし天井の時計に目を遣った私を見て彼女が口を開いた。
「時計、気になられますか?」
「ええ……まあ……」
本当は帰りの時間が気になったのだが、彼女は時計の存在感に面食らっているであろう私を慮った形だ。
「ここには”様々なところ”からお客様がいらっしゃいますから……」
様々な“ところ”ってーー?
思わず聞き返したかったが、上手く声にならずは暖炉の中に溶けて消える。
時計の針は12時40分。
あどけない顔立ちのメイドは何も答えず、何やら意味ありげな表情を浮かべて
ふふ
と、艶やかに笑ったーー。