
短編:【ハッピーエンドが待っている】
「ちょっとそこのオジサン!」
目の前のデスクから声。
「…ねえ!センセー!」
「いまオジサンって…呼ばなかった?」
原稿を描いている男性漫画家。
「…アレですよ、学校の先生をオカアサンって呼んじゃう、アレ。…そんだけ心を許しているってことじゃないですか!」
いつものように受け流す。
「はいはい…」
私が描くキャラクターが話し掛けてくる。
「それよりセンセー、このストーリー、このまま進んで大丈夫?」
「なんで?」
「いや、なんかバッドエンドのフラグが立ってるし…」
主役級の彼が物語の行く末を心配している。
「これってヒロインのアイツが号泣しちゃう流れだよね」
「そうなのかな」
「そうなのかな、ってセンセー、作者なんだから、次の展開見えてるんでしょ?」
「そうだね」
「いや、あくまで設定としてね!…アイツに意地悪してる…ヒール役のオレが言うのもアレだけど、最後はハッピーエンドでアイツの笑顔が見たいんだけどなぁ…」
漫画の結末を、キャラクターが憂いている。
「泣き顔は、もう見たくない…」
主役級の彼が泣きそうな顔で訴える。
「あ、それ良いね!」
「ど、どれ?」
「君が泣きながら、泣き顔は、もう見たくない…って言うの…」
彼は真っ赤な顔で照れている。
「いやダメでしょ!キャラが違うし、散々意地悪して来て…」
「そんな君が、彼女の笑顔を引き出すワケだ…」
少し意地悪な笑い方をキャラクターに返す。
数時間後…。
「スミマセン〜あの〜センセー、お忙しい所…」
今度はヒロインの彼女が声をかけてくる。
「あの〜、その…やっぱりあの彼と仲良くなって終わるのんですかね〜」
「なに?なにか気になる?」
ヒロインは原稿の中でモジモジしている。
「え〜だって〜、彼、ず〜っと意地悪だったじゃないですか〜…蓄積された人格否定、人間性まで崩壊されて…この後に及んで、仲良くなって抱き合って、泣いて笑って…エンドが待っているんですよね…」
ヒロインは涙目で訴えている。
「そうだね。そこまで追い込まれていたんだね…」
「この終わり方は、私的にはバッドエンドだと思うんです!」
「そうか…ヒロイン的にはバッドエンドなのか…」
物語は、誰の立場で見ているかでも左右される。
作家がどう思うかは1つの見かたで、キャラクターの数だけ違うエンドが待っている。しかし、こうして日々キャラクターと話し合いながら、物語はきっとみんなのハッピーエンドへと進んでいる。
「つづく」 作:スエナガ