メインコンテンツへスキップ
見出し画像

飛ぶ鳥も凍った夜 ― 美唄焼き鳥の思い出 ―

    スー / Sue


    二十代の頃、新人一年目だった私は、職員研修で美唄(びばい)という町へ行った。

    札幌の事務所から車で一時間ほど。

    朝から夕方まで、丸一日みっちり研修を受けて、ようやく解放された頃だった。

    「せっかく美唄に来たんだから、名物の焼き鳥を食べに行こう。」

    そう言い出したのが、ボスの宇野さんだった。

    宇野さんは、その頃すでに全国組織の代表。

    新人の私が気軽に口を出せるような存在ではなかった。

    もっとも、私はその後は結構ツッコミを入れることになるのだけれど、それはまた別の話である。

    「すぐ近くに、僕のおすすめの店があるから。」

    宇野さんはそう言った。

    みんな当然のようにその言葉を信じた。

    新人の一人など、ストールを巻いただけの軽装で外に出てしまったくらいだ。

    真冬の北海道である。

    どれだけ防寒しても足りないくらい寒い季節だ。

    そのうち雪が降り始めた。

    風も強くなった。

    あっという間に吹雪である。

    宇野さんは記憶だけを頼りに歩いていた。

    「あれ、この辺にあったんだけどなあ。」

    歩く。

    「あれ、おかしいなあ。」

    歩く。

    また同じ道を歩く。

    真っ暗な道。

    吹きつける雪と風。

    寒さで震える新人。

    そして、なぜか同じ景色。

    私たちは三十分ほど、美唄の夜をさまよった。

    ようやく焼き鳥屋にたどり着いたときには、ちょっとした遭難から生還したような気分だった。

    ちなみに、店はちゃんと存在した。

    幻の店ではなかった。



    そして、ようやくありついた美唄焼き鳥は、これまで見たことのないものだった。

    一本の串に、色々な部位が刺さっている。

    もも肉、玉ねぎ、砂肝、玉ねぎ、心臓、玉ねぎ、鶏皮、玉ねぎといった具合だ。

    初めて見た。

    なんでも、鶏のすべてを余すところなく大切に使うためにこういう構成になっているそうだ。

    北海道の開拓の時代からの長い伝統だという。

    寒さと疲労でぐったりしていた私たちは、大喜びでその珍しい焼き鳥を味わった。

    北海道の建物は、暖房がよく効いているから、食べ終わる頃には身体も温まった。


    そして食事を終え、ホテルへ戻ることになった。

    歩き始めて、すぐに気づいた。

    近い。

    ものすごく近い。

    あっという間にホテルに着いてしまった。

    私たちは顔を見合わせた。

    では、さっきの三十分は何だったのだろう。

    私たちは一体どこを歩いていたのだろう。

    宇野さんの記憶の中の美唄だろうか。

    それとも吹雪の夜だけ現れる異世界だったのだろうか。

    もちろん、宇野さんだけは違った。

    「ほら、近かったっしょ。」

    そんな顔をしていた。

    私たちは凍死しかけたと思っていたのだけれど。


    後日談がある。

    数年後、私は再び美唄を訪れる機会があった。

    今度は義足の落語家さんも一緒だった。

    さすがに私たちは学習した。

    迷わずタクシーに乗った。

    タクシーの中で、落語家さんが言った。

    「いやあ、美唄は寒いですねえ。飛んでいる鳥も凍って落ちちゃいますねえ。」

    私は思った。

    あの日の私たちも、たぶん焼き鳥になる前の鳥くらいは凍っていた。


    #エッセイ #日常エッセイ #くすっと笑える #スーの記録  #焼き鳥

    小さなNPOで、凍えたり、水道代が払えなくなったりしながら奮闘している様子を次のマガジンにまとめています。読んで笑っていただけると嬉しいです😄☃️

    活動のすみっこで | Field Notes



    この記事が参加している募集

     
     
     
    病気のある人たちの支援に携わっています。 専門分野の共著2冊(うち1冊は韓国語版出版予定)。 当事者団体・支援団体の代表理事、研究団体の事務局長を務めています。 活動のすみっこで起きた、元気がない日にも読める小話を書いています。

    あなたへのおすすめ