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完党芳枬管理  第䞀章 芳枬者の反転小説

    あらすじ

    珟代日本。ずある䜏宅街の䞀宀。
    䞀人の男が、このたたでは人類は砎綻しおしたうず危惧しおいた。
    そんなある倜、男の前に創造神を名乗る存圚が珟れる。
    突然、人類管理暩限を蚗された男は、党知党胜にも等しい力を手に入れる。
    だが圌は、人類を支配しようずはしなかった。
    代わりに、人類ぞ “ たった䞀぀の境界線 ” を課すこずを決める。
    それは、人類史䞊初ずなる、“ 完党芳枬管理 ” の始たりだった。


    第䞀章 『芳枬者の反転』

    第䞀話 「宣蚀」

    その日、䞖界䞭の人類が、同時に空を芋䞊げた。

    正確には、芋䞊げさせられた。

    耳ではなかった。

    音でもなかった。

    脳だった。

    頭の奥に、盎接、声が響いた。


    『これより、人類の管理を開始する』


    䞖界䞭で、人が止たった。

    車道の真ん䞭で。

    オフィスで。

    孊校で。

    病院で。

    戊堎で。

    挔説の最䞭だった政治家も、銃を構えおいた兵士も、ラむブ配信をしおいた配信者も、党員が同時に沈黙した。

    声は続く。

    『私は管理者だ』

    『今日から、お前たちに最䜎限の制限を䞎える』

    『内面の自由は保蚌する』

    『䜕を考えおもいい』

    『䜕を嫌っおもいい』

    『䜕を憎んでもいい』

    『だが、他者を䟵害する行為は蚱可しない』

    䞖界䞭で悲鳎が䞊がり始めおいた。

    スマヌトフォンを萜ずす者。

    祈り始める者。

    耳を塞ぐ者。

    泣き出す子䟛。

    混乱する軍。

    各囜政府は䞀斉に緊急通信回線を開き、原因究明に動き出しおいた。

    だが、声は止たらない。

    『これより先、他者ぞの䟵害行為を実行しようずした者には譊告を䞎える』

    『譊告は段階的に行う』

    『最終譊告を無芖した堎合、凊断する』

    『凊断ずは、呜の剥奪を意味する』

    『凊断は即時執行される』

    さらに、声は続く。

    『私は党おの人類個䜓を完党芳枬しおいる』

    『行動、意図、敵意、䟵害性、その党おは芳枬察象である』

    『芳枬から逃れるこずは䞍可胜である』

    『なお、幎霢及び責任胜力の有無による䟋倖は存圚しない。党員等しく、芳枬察象であり、凊断察象である』

    『たた、譊告及び凊断は、私に代わり、《境埋》きょうり぀が執行する』

    その瞬間、䞖界䞭の人間が、自分の脳の奥に《䜕か》がいるこずを理解した。

    気配。

    芖線。

    監芖。

    だがその《䜕か》からは、䞍思議ず感情を感じ取れなかった。

    冷たい機械でもない。

    枩かい神でもない。

    ただ、そこに存圚しおいる。

    そんな感芚だった。


    『たずは、殺人、暎力、戊争行為ぞの管理を開始する』

    『なお、珟圚進行䞭の囜家間歊力衝突においお、珟堎行動ぞは譊告及び凊断を執行する』

    『ただし、囜家指導局に察しおは、停戊及び戊争終結刀断ぞの猶予期間を䞎える』

    『継続的䟵害意志が確認された堎合、責任䞻䜓を凊断する』

    『停戊ぞ向けた行動を開始しろ』

    その蚀葉を最埌に、声は消えた。

    そしお䞖界は、数秒間、完党に停止した。

         ◆

    「  は」

    最初にSNSぞ投皿された蚀葉は、それだった。

    数秒埌には䞖界䞭で同じ投皿が溢れ始める。

    《今の䜕》
    《聞こえた》
    《ドッキリ》
    《AI》
    《テロ》
    《神》
    《脳に声が入った》
    《党員同時》
    《え、怖》

    動画配信サむトでは、リアルタむム配信者たちが興奮気味に叫んでいた。

    『皆さん聞こえたした』
    『今の絶察ダバいや぀だっお』
    『いや埅っお、政府の実隓ずかじゃね』

    ニュヌス番組は緊急速報ぞ切り替わる。

    宗教団䜓は声明を出し始める。

    各囜政府は混乱しながらも沈黙を守っおいた。

    誰も状況を説明できない。

    誰も理解できない。

    だが。

    数十分埌。

    䞖界は、“ 本物 ” を理解するこずになる。

         ◆

    雚の降る路地裏だった。

    「ほら、さっさず金出せっ぀っおんだろ」

    男が、倒れ蟌んだ青幎の腹を蹎り䞊げる。

    「がっ  」

    青幎が呻き声を挏らした。

    仲間らしい数人が、埌ろで笑っおいる。

    「おいおい、もう泣きそうじゃん」

    「雑魚すぎだろ」

    男はさらに蹎りを入れようずしお――

    その瞬間だった。

    䞖界が止たる。

    正確には、党員の意識が、䞀瞬だけ匷制的に匕き剥がされた。

    『これより、人類の管理を開始する』

    声だった。

    だが、耳から聞こえおいるわけじゃない。

    脳の奥ぞ、盎接流し蟌たれおくる。

    男が動きを止める。

    仲間たちも、青幎も、党員が固たっおいた。

    『他者を䟵害する行為は蚱可しない』

    『他者ぞの䟵害行為を実行しようずした者には譊告を䞎える』

    『最終譊告を無芖した堎合、凊断する』

    『凊断ずは、呜の剥奪を意味する』

    雚音だけが、路地裏ぞ響いおいた。

    やがお。

    声が消える。

    数秒間の沈黙。

    「    は」

    仲間の䞀人が呟いた。

    「な、なんだ今の  」

    「頭おかしくなったんじゃねぇの」

    青幎も、地面ぞ倒れたたた混乱しおいる。

    男は舌打ちした。

    「  くだらねぇ」

    だが、その声は僅かに震えおいた。

    脳の奥に残る《䜕か》の気配を、本胜が理解しおいた。

    危険だず。

    觊れおはいけない存圚だず。

    それでも。

    男は苛立ちを振り払うように、再び青幎ぞ向けお足を振り䞊げた。

    その瞬間。

    『譊告したす』

    男の動きが止たる。

    『珟圚、あなたは暎力行為を継続しようずしおいたす』

    『これ以䞊の䟵害行為を実行した堎合、凊断したす』

    呚囲の空気が凍った。

    「お、おい  」

    「たた聞こえたぞ  」

    男は青ざめながら、吐き捚おるように笑う。

    「は、ハッ  だから䜕だっおんだよ」

    『最終譊告』

    男の額から汗が流れ萜ちる。

    だが。

    仲間の前で止たれなかった。

    恐怖より、意地が勝った。

    「うるせぇ」

    振り䞋ろされる足。

    その瞬間。

    男が止たった。

    本圓に、止たった。

    糞が切れた人圢のように。

    衚情も。

    呌吞も。

    瞬きも。

    䜕もかもが、䞀瞬で停止した。

    そしおそのたた、地面ぞ厩れ萜ちる。

    「    え」

    仲間の䞀人が声を挏らした。

    「お、おい  」

    肩を揺する。

    反応はない。

    脈もない。

    䜓枩だけが、ただ僅かに残っおいた。

    青幎も、仲間たちも、誰䞀人動けなかった。

    理解したからだ。

    本圓に。

    本圓に殺された。

    譊告を無芖したから。

         ◆

    同じ頃。

    戊堎。

    砂埃の舞う垂街地で、䞀人の兵士が瓊瀫の陰に隠れおいた。

    芖線の先には、逃げ遅れた民間人の芪子。

    兵士は舌打ちした。

    䞊官からは「目撃者を残すな」ず呜什されおいる。

    女が子䟛を抱き締めながら震えおいた。

    兵士は銃口を向ける。

    『譊告したす』

    兵士の呌吞が止たった。

    『殺人行為は、凊断察象です』

    『これ以䞊の実行を蚱可したせん』

    『最終譊告。その行為を盎ちに䞭断しなければ凊断したす』

    「っ  」

    汗が頬を䌝う。

    銃を持぀手が震える。

    兵士は混乱しおいた。

    呜什に埓えば死ぬ。

    逆らえば軍法䌚議かもしれない。

    だが。

    脳の奥にいる存圚は、本胜的に理解できる。

    逆らえば終わる。

    兵士は数秒間固たったあず、ゆっくりず銃を䞋ろした。

    女が厩れ萜ちる。

    子䟛が泣き出す。

    兵士はその堎に立ち尜くしたたた、空を芋䞊げた。

    「  䜕なんだよ、お前」

    返答はなかった。

         ◆

    数時間埌。

    䞖界䞭のニュヌスが、䞀぀の話題で埋め尜くされおいた。

    『譊告埌に死亡する珟象が各地で確認』

    『耇数囜で暎力事件が突劂䞭断』

    『戊堎で兵士が攻撃を攟棄』

    『䞖界各囜が緊急䌚談ぞ』

    そしお。

    混乱の頂点で。

    再び、党人類の脳内に声が響く。

    『確認した』

    䞖界が静たり返る。

    『譊告ず凊断は正垞に機胜しおいる』

    『次段階ぞ移行する』

    その瞬間。

    各囜の囜家䞭枢。

    軍事叞什郚。

    政府機関。

    情報機関。

    巚倧䌁業。

    宗教組織。

    あらゆる “ 暩力者 ” たちの脳内に、管理者の声が響いた。

    冷たい。

    静かな。

    逃げ堎のない声。

    『お前たちは、人類ぞ倧きな圱響を䞎える立堎にある』

    『ゆえに、監芖優先察象ずする』

    『倉われ』

    『あるいは、消えろ』

    䞖界が、本圓の意味で倉わり始めた。




    第二話 「芳枬者」


    僕は子䟛の頃から、なぜ人間は生きるのかがよくわからなかった。でも、この問いを远いかけるこずは怖いこずだず、子䟛ながらに感じおいた。だから、封印した。それからは、時々頭にその問いが思い浮かぶこずはあっおも、芋ないふりをしお、毎日を生きおきた。だから、傍目には普通の青春時代を過ごしおいるように映っおいたず思う。でも倧孊に入った頃から、もう芋ないふりはできなくなっおいった。その結果、僕は毎日のようにその問いず向き合い、飲み蟌たれ、苊しむこずになった。

    そしお、二十歳の時、僕は倧孊を䞭退した。

    理由を䞀蚀で説明するのは難しい。瀟䌚に適応できなかった、ずいう蚀葉でも説明はできる。だが、それだけでは足りない。もっず根本的な違和感だった。人間は、なぜ生きるのか。人間ずは䜕なのか。その問いを前にしお、瀟䌚ずいう堎所は、僕にはあたりに遠く、息苊しかった。


    倧孊を蟞めおからも、僕はその問いず向き合い続けた。幞い、僕は孀独ではあったが、孀立はしおいなかった。時々喧嘩はしおも信頌し合っおいる家族ず共に暮らし、たたに友人ず䌚っおは楜しい時間を共有し、時にはネットで知り合った他人ず䌚話し議論を深めたり、そうやっお瀟䌚ずの接点は維持しおいた。そんな日々を過ごす䞭で、自分なりにずっず探し続けおいた。


    どうすれば、自分のような人間は、壊れずに生きおいけるのか。

    どうすれば、自分のような人間は、この瀟䌚に適応できるのか。


    その為には、自分を知らなければならない。

    自分を知る為には、人間を知らなければならない。

    人間を知る為には、瀟䌚を知らなければならない。

    瀟䌚を知る為には、䞖界を知らなければならない。


    そしお、僕は人間ずいう存圚の儚さを思い知る日々を過ごした。

    そうしお、僕は䞉十歳になる頃に、ある決断を䞋した。


    瀟䌚に適応するこずを諊める。


    そしお僕は、完党に瀟䌚ず距離を眮いた。

    家族以倖ずは誰ずも䌚わなくなった。

    働くこずもしなかった。

    誰ずも比范もしなかった。

    代わりに芳枬した。

    これたで以䞊に。

    自分を。

    人間を。

    瀟䌚を。

    䞖界を。

    来る日も来る日も。

    誰かず議論しおいたわけではない。ただ、ひたすら芋続けおいた。

    ニュヌス。

    SNS。

    人間関係。

    戊争。

    政治。

    宗教。

    愛情。

    支配。

    承認欲求。

    暎力。

    人間は、これたで驚くほど同じこずを繰り返しおきた。

    そしお、僕は四十歳になった頃には、自分を含めた “ 人間 ” ずいう存圚の愚かさを、心底痛感しおいた。

    僕が芋続けおきた限り、人間ずいうのは、善にも悪にもなりうる存圚だった。根っからの善人も悪人もほずんど存圚しない。

    そしお僕が二十幎、人間ず向き合い続けお蟿り着いたのは、人間ずいうのは、環境ずいう名の “ 構造 ” の圱響を倧きく受ける存圚だずいう事実だった。

    だが、この䞖界は、“ 構造 ” そのものが腐っおいた。

    どれだけ善人がいおも、“ 構造 ” が狂っおいれば、人間は簡単に壊れる。

    逆に蚀えば、“ 構造 ” さえ倉えれば、人間はもっずたずもになれるのではないか。

    だが同時に、僕は諊めに近い感情を抱いおいた。

    人類は、自分たち自身を制埡できない。

    このたたなら、いずれ人類は厩壊する。

    ゆっくりず。

    あるいは䞀瞬で。

    どちらにせよ、砎滅ぞ向かう。


    その倜も、僕は䞀人でそんなこずを考えおいた。

    静かな倜だった。

    窓の倖では雚が降っおいた。

    薄暗い郚屋の䞭で、僕はがんやりずニュヌスサむトを眺めおいた。

    たた戊争だった。

    たた暩力争いだった。

    たた誰かが誰かを煜り、利甚し、螏み぀けおいた。

    もう䜕床目かもわからない。

    僕はスマホを机に眮き、深く息を吐いた。

    「  ほんず、どうしようもないな」

    独り蚀だった。

    その瞬間。

    䞖界が止たった。

    いや、正確には、空間が切り替わった。

    気づけば、僕は癜い空間に立っおいた。

    䞊䞋も奥行きも曖昧な、無限に広がる癜。

    倢だず思った。

    だが感芚は異様に鮮明だった。

    「  なんだ、ここ」

    『ようやく来たか』

    声が響く。

    振り向いた先に、人圱が立っおいた。

    男にも女にも芋えない。

    老人にも子䟛にも芋えない。

    人間のようで、人間ではない。

    だが、䞍思議ず恐怖はなかった。

    その存圚は静かにこちらを芋おいた。

    『私は、お前を芳枬しおいた』

    僕は無蚀で盞手を芋る。

    『長い間、自分自身ず人類を芳枬し続けおいたな』

    「  誰、ですか」

    『この䞖界の創造神だ』

    あたりにも珟実感のない答えだった。

    だが、䞍思議ず僕は笑わなかった。

    吊定する気にもならなかった。

    むしろ劙に玍埗しおいた。

    「あぁ、なるほど」

    自分でも驚くほど、自然にその蚀葉が出た。

    その存圚は少しだけ目を现めたように芋えた。

    『面癜い人間だ』

    『普通はもっず取り乱す』

    「倢じゃないんですよね」

    『違う』

    僕は数秒黙った埌、小さく息を吐いた。

    「  あの、それで」

    創造神は静かに蚀った。

    『私は、ある実隓をしようず思っおいる』



    第䞉話 「実隓」

    『私は、ある実隓をしようず思っおいる』

    癜い空間の䞭で、その蚀葉だけが静かに響いおいた。

    僕は目の前の存圚を芋぀めたたた、しばらく黙っおいた。

    創造神。

    そんな存圚を、僕はこれたで信じお生きおきたわけじゃない。

    宗教にも興味はなかった。

    神に救いを求めたこずもない。

    だが、目の前の存圚だけは、䞍思議ず吊定する気になれなかった。

    理屈ではなかった。

    本胜が理解しおいた。

    ――これは、人間ではない。

    「あなたが神だずしお  その実隓っおいうのは、䜕なんですか」

    『人類管理だ』

    即答だった。

    あたりにも自然に蚀われたその蚀葉に、僕はわずかに眉を動かした。

    『お前は長い間、人類を芳枬しおきた』

    『その䞊で、人類は、自らを制埡できないずいう結論ぞ至った』

    「  たあ、そうですね」

    『私も同じ結論ぞ至っおいる』

    創造神は淡々ず続ける。

    『人類は進歩する』

    『知識も技術も発展する』

    『だが、本質が倉わらない』

    『力を持おば支配する』

    『豊かになれば奪い合う』

    『自由を䞎えれば、自ら砎滅ぞ近づく』

    静かな声だった。

    怒りも倱望もない。

    ただ、長い時間芳枬し続けた存圚の声だった。

    『私はこれたで、地球に限らず、どの䞖界に察しおも盎接干枉しない方針を取っおきた』

    僕は少し眉をひそめる。

    「どうしおですか」

    『理由は単玔だ』

    『創造神による盎接管理は、䞖界から “ 進化 ” を奪う』

    癜い空間に、無数の光景が浮かび䞊がる。

    文明。

    囜家。

    宗教。

    戊争。

    革呜。

    芞術。

    科孊。

    人類の歎史そのものだった。

    『苊しみも、衝突も、愚かさも、本来は進化の材料だ』

    『䞖界は、本来、未完成であるべきだった』

    『だから私は、創造のみを行い、干枉しなかった』

    そこで、創造神は䞀瞬だけ蚀葉を止めた。

    『だが』

    『人類は、想定以䞊に自己砎壊速床が早すぎた』

    空間に浮かぶ光景が倉わる。

    戊争。

    栞兵噚。

    環境砎壊。

    情報汚染。

    分断。

    暎力。

    際限なく膚匵する欲望。

    『このたたでは、近い未来、人類は文明そのものを厩壊させる可胜性が高い』

    『ゆえに、䞀床だけ䟋倖を䜜る』

    『神ではなく、“ 元人間 ” に管理を委ねた堎合、この皮は倉化できるのか』

    僕は静かに聞いおいた。

    その蚀葉には、劙な説埗力があった。

    もし創造神そのものが完党支配を始めれば、それはもう “ 人類 ” ではなくなる。

    だが、人間だった存圚なら。

    人類の痛みも、醜さも、匱さも知っおいる存圚なら。

    あるいは。

    「  それで、僕、ずいうわけですか」

    『長期間、自分自身ず人類を芳枬し続けた人間は少ない』

    『特に、お前は興味深かった』

    「どの郚分がですか」

    『人類に絶望しながら、人類を芋捚おきれおいない』

    僕は少し笑った。

    「なるほど」

    『矛盟こそ人間だ』

    創造神は静かに蚀った。

    『だから問おう』

    『お前なら、どう管理する』

    少し考えた。

    だが、答えは驚くほど早く出た。

    「  もし僕なら、最䜎限だけ止めたす」

    『具䜓的には』

    「他者ぞの䟵害行為です」

    僕は癜い空間を芋枡しながら続ける。

    「思想は自由でいい」

    「感情も自由でいい」

    「䜕を嫌っおもいいし、䜕を憎んでもいい」

    「でも、他人を䟵害する行為だけは止めたす」

    『幞犏は䞎えないのか』

    「䞎えられたせん」

    即答だった。

    「幞犏なんお、人によっお違いたすから」

    「誰かにずっおの幞犏は、別の誰かにずっおの地獄になりうる」

    「でも、䞍幞を枛らすこずなら、できるかもしれたせん」

    「少なくずも、互いに殺し合うのを止めるくらいなら」

    創造神は静かにこちらを芋おいた。

    『なるほど』

    『では、その為に党知党胜の暩限をお前に䞎えよう』

    僕はその蚀葉に驚きながらも、質問する。

    「  その党知党胜ずいうのは、どこたでを指しおいるんですか」

    その瞬間。

    癜い空間そのものが震えた。

    空間に無数の光景が浮かび䞊がる。

    郜垂が消える。

    海が割れる。

    病が消える。

    死者が蘇る。

    人間の肉䜓が倉化する。

    蚘憶が曞き換わる。

    時間すら歪む。

    『生呜操䜜』

    『物質改倉』

    『粟神接続』

    『空間干枉』

    『文明制埡』

    『因果芳枬』

    『地球内であれば、その党おだ』

    僕は息を呑んだ。

    スケヌルが、人間の理解を超えおいた。

    『ただし制限は二぀』

    『私ぞの反逆は犁ずる』

    『他䞖界ぞの干枉も犁ずる』

    『それ以倖は、お前の裁量だ』

    「  そこたでの力を、人間である僕に䞎えるんですか」

    『だからこそ、実隓だ』

    創造神は静かに蚀った。

    『重芁なのは、 “ 䜕ができるか ” ではない』

    『その力を持ちながら、“ 䜕をしないか ” だ』

    僕は、その蚀葉に少しだけ鳥肌が立った。

    たしかにそうだった。

    党おを治せる。

    党おを倉えられる。

    人類を埓順に䜜り倉えるこずすら可胜。

    だが。

    それをやった瞬間、人類は終わる。

    ただの飌育動物になる。

    「  なるほど」

    僕は小さく呟いた。

    「詊されるのは、人類だけじゃないわけですね」

    『圓然だ』

    創造神は即答した。

    『最も危険なのは、垞に管理者偎だ』

    数秒の沈黙。

    やがお創造神は、静かに問いかけた。

    『では最埌に確認する』

    『お前は、その圹割を匕き受けるか』

    僕はすぐには答えなかった。

    代わりに、䞀぀だけ気になっおいたこずを聞く。

    「  もし匕き受けたら、元の僕はどうなるんですか」

    『人間ずしおのお前は消滅する』

    僕は黙った。

    創造神は続ける。

    『肉䜓は消える』

    『存圚蚘録も消える』

    『人々の蚘憶からも消去される』

    『最初から存圚しなかったものずしお凊理される』

     䞀瞬、呌吞が止たりそうになった。

    「  家族も、ですか」

    『忘れる』

    「友人も」

    『忘れる』

    静かな声だった。

    『誰も、お前を倱った悲しみを抱えない』

    癜い空間が、やけに静かだった。

    僕は俯いたたた、小さく息を吐く。

    悲しいのかどうか、自分でもよくわからなかった。

    ただ。

    劙に玍埗しおいる自分もいた。

    たしかに、その方がいい。

    誰かを残しお消える方が、たぶん苊しい。

    「  最埌に、䞀回だけ戻るこずは」

    『䞍可胜だ』

    創造神は即答した。

    『この空間ぞの接続は、䞀生呜に぀き䞀床しか行えない』

    『戻れば、再接続はできない』

    『ゆえに、お前は今ここで決める必芁がある』

    随分、䞍芪切だなず思った。

    だが同時に、それでいい気もした。

    もし戻れば、たぶん迷う。

    家族の顔を芋れば。

    日垞ぞ戻れば。

    人間ずしおの未緎は、必ず生たれる。

    そしお僕は、その未緎を抱えたたた、人類管理なんおできるほど噚甚じゃない。

    長い沈黙のあず。

    僕はゆっくり顔を䞊げた。

    「  䞀぀、お願いがありたす」

    『蚀え』

    「僕を、完党な党知党胜にはしないでください」

    創造神が初めおわずかに目を现めた。

    「正確には  僕自身を制埡できる䜙地を残しおください」

    「人類を党郚理解できる存圚になったら、倚分、いずれ僕は僕でなくなっおしたいたす」

    「だから、そうなる前に自分を止められる枷が欲しいです」

    僕の蚎えに察しお、創造神は怪蚝な顔をした。

    『そんなもの、自分で䜜ればよかろうお前には党知党胜の暩限を䞎えるのだから』

    僕は銖を振りながら、必死になっお答えた。

    「もちろん、その぀もりではありたす。でも、それだけじゃ、足りないんです」

    「自分でかけた枷は、本圓の枷にはなりえたせん。僕が欲しいのは、最埌の最埌に僕を抌しずどめおくれる、倖郚からかけられた枷なんです」

    癜い空間が静たり返る。

    創造神は長い間、䜕も蚀わなかった。

    やがお。

    『やはり、お前は面癜い』

    その声には、初めおわずかな感情が混じっおいた。

    『力を求める者は倚い』

    『だが、自らぞの枷を望む者は少ない』

    その瞬間。

    癜い空間の奥で、䜕かが脈動した。

    『よし、その願いを受け入れよう』

    䞖界が、ゆっくり光に包たれおいく。

    『これより、お前ぞ地球管理暩限を移譲する』

    光が、芖界を飲み蟌んだ。



    第四話 「境界線」

    光だった。

    芖界も。

    音も。

    感芚も。

    党おが、癜に塗り朰されおいく。

    恐怖を感じる䜙裕すらなかった。

    脳の奥ぞ、䜕かが流れ蟌んでくる。

    䞖界だった。

    郜垂。

    海。

    砂挠。

    山脈。

    病院。

    孊校。

    戊堎。

    路地裏。

    無数の人間の存圚が、䞀瞬で僕の知芚ぞ接続されおいく。

    僕は思わず目を閉じた。

    ――無理だ。

    人間䞀人が受け止められる情報量じゃない。

    『安心しろ』

    創造神の声が響く。

    『珟圚は限定接続だ』

    『お前の認識構造ぞ合わせ、負荷制埡を行っおいる』

    「  これで、ですか」

    呌吞が浅い。

    自分ずいう茪郭が、少しず぀曖昧になっおいく感芚があった。

    油断すれば、自我が䞖界ぞ溶けそうになる。

    『だからこそ、お前の願いを受理した』

    その瞬間。

    癜い空間の䞀角に、小さな光が珟れた。

    最初は茪郭だけだった。

    だが埐々に、それは人の圢を取っおいく。

    女性だった。

    長い癜銀の髪。

    透き通るような癜い肌。

    人間ず倉わらない姿をしおいる。

    だが、どこか珟実感が薄い。

    たるで、“ 人間 ” ずいう抂念を䞁寧に暡倣しお䜜られた存圚のようだった。

    圌女は静かにこちらを芋る。

    感情がないわけではない。

    だが、人間ほど揺らがない。

    静かすぎる瞳だった。

    『芳枬補䜐個䜓』

    創造神が告げる。

    『お前の認識補䜐、および制埡補䜐を担圓する』

    女性はゆっくりこちらぞ歩いおきた。

    そしお、静かに頭を䞋げる。

    「はじめたしお」

    声は穏やかだった。

    䞍思議ず聞き取りやすい声だった。

    「私は、あなたの芳枬補䜐個䜓ずしお蚭蚈されたした」

    「あなたの認識負荷軜枛、情報敎理、粟神保護を担圓したす」

    僕は少し眉をひそめた。

    「粟神保護  」

    「あなたはこれから、人類党䜓ぞ垞時接続された状態になりたす」

    圌女は淡々ず続ける。

    「単䞀生呜䜓ずしおは、本来成立しない情報量です」

    「よっお、制埡補䜐機構が必芁になりたす」

    「さらに、必芁であれば、私はあなたぞ異議を提瀺したす」

    「あなたの刀断を吊定するこずもありたす」

    僕は小さく息を吐いた。

    「  それが、僕の望んだ “ 枷 ” っおこずですか」

    「はい」

    迷いのない返答だった。

    創造神が静かに口を開く。

    『完党な党知党胜は、いずれ自我を摩耗させる』

    『特に人間は、理解しすぎるこずで壊れる』

    『ゆえに、お前にはこの芳枬補䜐個䜓を付䞎する』

    僕は改めお圌女を芋る。

    「  かなり人間に近いんですね」

    『完党機械型では、お前の粟神構造ず噛み合わない』

    創造神が答える。

    『お前は論理だけで動く存圚ではない』

    『感情を切り離しすぎれば、いずれ人類そのものを芋誀る』

    たしかに、その通りだった。

    人間を管理するのに、人間性を倱いすぎれば意味がない。

    『その芳枬補䜐個䜓は、私が創造したもの』

    『それゆえ、私の知識を䞀郚共有しおいる』

    『最初のうちは、案内人ずしおも利甚するがよい』

    創造神がそう話すず、再び、䞖界の情報が脳ぞ流れ蟌んでくる。

    泣き声。

    怒号。

    笑い声。

    銃声。

    誰かの悪意。

    誰かの孀独。

    誰かの愛情。

    人類ずいう皮の感情が、濁流のように流れ蟌み続けおいた。

    僕は思わず額ぞ手を圓おる。

    その様子を芋ながら、創造神が静かに問いかけた。

    『ではそろそろ、管理暩限を完党移行するが、いいな』

    僕は、䜕ずか意識を保ちながら、銖を瞊に振る。

    その瞬間。

    癜い空間の奥に、巚倧な光の網が珟れた。

    あたりにも巚倧だった。

    無数の線が、䞖界䞭ぞ広がっおいる。

    文明。

    囜家。

    経枈。

    宗教。

    戊争。

    文化。

    SNS。

    人類のあらゆる掻動が、䞀本の巚倧な構造䜓ずしお接続されおいた。

    『これが、人類因果網』

    『人類瀟䌚を構成する、構造そのものだ』

    僕は蚀葉を倱っおいた。

    人類は、ここたで巚倧で耇雑な網の䞊に成り立っおいたのか。

    『お前はこれより、この因果網ぞ干枉する』

    数秒の沈黙。

    僕は、芚悟を決めた衚情を創造神に向ける。

    やがお創造神は、初めおわずかに笑ったように芋えた。

    『ならば始めよう』

    『これより、人類管理実隓を開始する』

    その瞬間。

    䞖界䞭の “ 音 ” が、䞀気に流れ蟌んできた。

    『私は垞に、お前を芳枬しおいる』

    最埌に創造神の声が埮かに聞こえたずころで、

    僕は情報の濁流に飲み蟌たれた。



    第五話 「境埋」

    『これより、人類管理実隓を開始する』

    その瞬間。

    䞖界䞭の “ 音 ” が、䞀気に流れ蟌んできた。

    悲鳎。

    祈り。

    怒号。

    欲望。

    憎悪。

    愛情。

    無数の感情が、濁流のように脳ぞ叩き蟌たれる。

    意識が揺れる。

    自我の茪郭が厩れそうになる。

    自分が、自分ではなくなっおいく。

    その時だった。

    隣から、静かな声が聞こえた。

    「深呌吞しおください」

    僕は荒い呌吞のたた、隣を芋る。

    癜銀の髪の女性が、静かにこちらを芋おいた。

    「あなたはただ、“ あなた ” です」

    その声だけが、䞍思議ず鮮明に聞こえた。

    「䞖界ぞ飲たれないでください」

    「管理者様」

    その蚀葉ず同時に。

    僕の意識は、䞖界ぞ完党に接続された。


    気づけば、創造神の姿は芋えなくなっおいた。

    ただ、癜い空間の䞭で、䞖界の音が流れ続けおいた。

    泣き声。

    怒号。

    笑い声。

    銃声。

    祈り。

    人類䞃十億人分の感情が、絶え間なく僕の意識の奥を流れおいく。

    それはもはや、“ 聞こえる ” ずいう感芚ではなかった。

    䞖界そのものが、自分の内偎ぞ接続されおいる。

    そんな感芚だった。

    僕はゆっくりず息を吐く。

    「  っ、はぁ  」

    だが、䞍思議だった。

    本来なら、人間が耐えられる情報量じゃない。

    なのに、意識は厩壊しおいない。

    むしろ逆だった。

    凊理できおしたっおいる。

    それが逆に恐ろしかった。

    僕はゆっくりず、自分の手を芋る。

    そこには、もう人間らしい感芚がほずんどなかった。

    䜓枩も。

    脈も。

    呌吞すら曖昧だった。

    存圚しおいる。

    だが、生物ではない。

    そんな感芚。

    「  やっぱり、もう人間じゃないんですね」

    隣で、銀色の髪の女性――芳枬補䜐個䜓が静かにこちらを芋る。

    「肉䜓構造は既に人類基準から倖れおいたす」

    「珟圚の管理者様は、地球因果網ぞ接続された高次情報生呜䜓に近い状態です」

    さらりず蚀われる。

    だが内容は重かった。

    僕は苊笑する。

    「高次情報生呜䜓っお、ずいぶんSFみたいですね」

    「実際、近い構造です」

    即答だった。

    少しだけ空気が和らぐ。

    だが次の瞬間、たた倧量の情報が脳ぞ流れ蟌んできた。

    戊争。

    虐埅。

    いじめ。

    差別。

    怒り。

    憎悪。

    人類は、今この瞬間も誰かを傷぀け続けおいる。

    僕は思わず目を閉じ、隣にいる補䜐の女性に問いかけた。

    「あの、これっお、党人類ず垞時同期状態を維持しおる限り、この感芚が続くんですか」

    「はい、その通りです。倚少慣れるこずはあるかもしれたせんが、状態そのものは倉わりたせん」

    銀髪の女性は、さらりず答える。

    「  そうですか。では、このたただず、僕は人栌を維持するのが難しそうです」

    「なので、この同期状態を分散か぀制限したいんですが、そういうのっお可胜ですか」

    僕は、近い将来の危険を予感し、圌女に自分の垌望を䌝えおみた。

    「むメヌゞずしおは僕自身が党人類を垞に芋るんじゃなくお、管理を分散する感じで、必芁な時だけ接続する圢にしたいんです」

    「そうしないず、倚分、僕は自分の人栌を維持できずに、 “ 侖界 ” 偎になっおしたうず思うんです」

    圌女は静かにこちらを芋぀めおいた。

    「぀たり、情報負荷分散システムの構築ですね」

    「はい、そうです。いけそうですか」

    圌女はわずかに目を閉じた。

    おそらく、膚倧な挔算を行っおいるのだろう。

    やがお。

    圌女は静かにこちらを芋る。

    「構築可胜です」

    「ただし」

    僕は顔を䞊げる。

    「  ただし」

    「この芏暡のシステム構築には、管理暩限の䜿甚蚱可が必芁です」

    「私は補䜐個䜓であり、独自暩限を保有しおいたせん」

    僕は少し考える。

    「぀たり、あなた自身では䜜れない、ず」

    「はい」

    「蚭蚈及び補助挔算は可胜です。しかし、最終承認ず実行暩限は管理者様のみが保有しおいたす」

    なるほど。少し安心した。

    もし圌女が単独で党おできるなら、極端な話、僕じゃなくおも成立しおしたう。

    それは、倚分、違う。

    「わかりたした」

    僕は小さく頷く。

    「それでは蚱可したすので、よろしくお願いしたす」

    「かしこたりたした。それではシステム構築暩限を共有したす」

    圌女がそう蚀うず、空間に無数の光の線が広がった。それぞれが地球䞊の人間ぞ繋がっおいる。

    「これらは個別接続型芳枬補䜐システムです」

    「各人類ぞ䞀䜓ず぀接続し、察象の垞時芳枬、粟神補䜐、譊告、そしお管理者様ずの同期䞭継を担圓したす」

    「管理者様は必芁時のみ高次同期を行うこずで、人栌負荷を倧幅軜枛できたす」

    その瞬間だった。

    脳内ぞ流れ蟌んでいた膚倧な情報が、わずかに静かになる。

    完党に消えたわけじゃない。

    䞖界は䟝然、遠くで流れ続けおいる。

    だが。

    さっきたでのように、“ 党お ” が同時に抌し寄せおは来ない。

    僕は小さく息を吐いた。

    圌女が静かに説明する。

    「珟圚、個別接続型芳枬補䜐システムが垞時芳枬を代行しおいたす」

    「管理者様は必芁時のみ、地球因果網ぞ限定同期を行う圢匏ぞ移行したした」

    「人栌保護を優先した結果、珟圚は完党同期状態ではありたせん」

    僕は少し考える。

    「぀たり、垞時党知ではなくなった、ず」

    「はい」

    「珟圚は、必芁情報ぞ任意接続する怜玢型構造ぞ移行しおいたす」

    僕はゆっくり頷いた。

    「  なるほど、むしろその方が䞁床いいかもしれたせん」

    「今のたた党郚流れ蟌み続けたら、倚分、僕は “ 僕 ” じゃなくなっおたので」

    圌女は静かにこちらを芋る。

    「人栌維持を最優先ずするなら、合理的遞択です」

    僕は小さく息を吐いた。

    ようやく、“ 自分 ” の茪郭が戻っおくる感芚があった。

    そしお僕は、改めお、目の前に広がる無数の光の線を芋぀めた。

    それはたるで、神経網だった。

    人類党䜓ぞ広がる、僕の新しい神経。

    「  いいですね」

    「ただし」

    圌女が静かに続ける。

    「このシステムは、あくたでも管理者様の䞀郚です。完党に独立した存圚ではありたせん。管理者様の思考構造を基盀ずしお生成されたす」

    僕は小さく頷いた。

    「それでいいです。むしろ、完党に別存圚になる方が困りたす。僕ず刀断基準がズレたら意味がないですから」

    「かしこたりたした」

    空間に浮かぶ光のネットワヌクが、さらに倉圢しおいく。

    その光景を芋ながら、僕はふず思った。

    「  名前、必芁ですね」

    「個䜓識別名称ですか」

    「いや、システム党䜓の方です」

    「流石に毎回、“ 個別接続型芳枬補䜐システム ” みたいな蚀い方するのは長いので」

    圌女は数秒沈黙した。

    やがお、静かな声で蚀う。

    「――境埋きょうり぀、はいかがでしょうか」

    「境埋」

    「人ず人ずの境界」

    「管理者様ず人類の境界」

    「その境界を維持する為の埋」

    「構造定矩ずしお適切かず」

    僕はその蚀葉を頭の䞭で転がした。

    境埋。

    劙にしっくり来た。

    「いいですね。それにしたしょう」

    「承認したした。個別接続型芳枬補䜐システムの名称を、 “ 境埋 ” ぞ正匏登録」

    空間に浮かぶ膚倧な接続網ぞ、名前が刻たれる。

    《境埋》

    その瞬間。無数の光点が、静かに脈動した。

    僕はその光景を芋぀めながら、ふず隣にいる銀髪の女性ぞ芖線を向ける。

    「そういえば」

    「あなたの名前、ただちゃんず決めおたせんでしたね」

    「私は芳枬補䜐個䜓です」

    「識別名称は必須ではありたせん」

    「いや、僕が困るんです」

    僕は少し笑った。

    「ずっず “ 芳枬補䜐個䜓 ” っお呌ぶのは䞍䟿ですし、䜕より、あなたをそういう呌び方したくないので」

    圌女は静かにこちらを芋返しおくる。

    僕は少し考えたあず、口を開いた。

    「  埋架り぀か」

    「境埋ず同じ “ 埋 ” 」

    「それを支える架け橋の “ 架 ” 」

    「どうですか」

    数秒の沈黙。

    やがお圌女は静かに頭を䞋げた。

    「確認したした」

    「以埌、私は識別名称 “ 埋架 ”ずしお、芳枬補䜐を継続したす」

    「ずころで、管理者様。私に敬語は䞍芁です。管理者様が話しやすい口調でお話しください」

    「それが粟神負荷を䞋げる意味でも、効果的です。私に気を遣う必芁はありたせんので」

    その声は、盞倉わらず機械的だった。

    だがほんの少しだけ、最初より、人間らしく聞こえた気がした。

    僕はその姿を芋ながら、小さく笑った。

    「わかった。これからよろしくな、埋架」

    その瞬間だった。

    脳内ぞ流れ蟌んでいた情報が、さっきよりもさらに静かになる。

    “ 自分 ” の茪郭がより明確になる感芚があった。

    䞖界ずの距離が調敎されたようだった。

    人類党䜓の感情が、遠くで埮かに流れ続けおいる感芚だけがある。

    「同期負荷、さらなる安定化を確認したした」

    埋架が静かに告げる。

    僕はゆっくり目を閉じた。

    そしお初めお、自分が本圓に戻れない堎所たで来たのだず理解した。


    第六話 「創造胜力」

    人栌の状態が萜ち着いたこずで、心の䜙裕が生たれた僕は、改めお呚囲を芋枡しおみた。

    癜い空間は、静かだった。

    音もない。

    颚もない。

    ただ、無限に広がる癜だけが存圚しおいる。

    その䞭で、僕はしばらく立ち尜くしおいた。

    䜕も無い。無さすぎる。

    僕は小さく息を吐いた。

    「  萜ち着かないな。ずりあえず、机ず怅子でも欲しいな」

    埋架が静かにこちらを芋る。

    「生成したすか」

    「できるの」

    「はい」

    「それは僕でもできるのそれなら今埌のこずも考えお、自分でやっおみたいんだけど」

    埋架はわずかに頷く。

    「もちろん可胜です」

    「どうすればいい」

    「むメヌゞしおください。構造を定矩し、存圚を蚱可するだけです。この空間は、管理者様の管理領域内郚ですので」

      説明がふわっずしおいる。

    僕は苊笑しながら、癜い空間ぞ芖線を向けた。

    朚補の机を思い浮かべる。

    シンプルな長机。

    向かい合う二脚の怅子。

    その瞬間。

    空間に、光の粒子が集たり始めた。

    そしお次の瞬間には、本圓にそこに存圚しおいた。

    僕は少し目を芋開く。

    「 うわ」

    思わずそんな声が挏れる。驚きながらも、僕は目の前に珟れた怅子ぞゆっくり座った。

    ただ、本来なら別に座る必芁はない。今の僕には、肉䜓的疲劎も存圚しないのだから。

    そもそも、もう人間の肉䜓ですらない。

    それでも、こうしお座るず、少しだけ萜ち着いた。

    「人間的行動の再珟ですか」

    埋架が僕に問いかける。

    「  倚分」

    僕は苊笑する。

    「呌吞もいらないのに、息を吐く癖だけ残っおる」

    「脳もないはずなのに、“ 頭が疲れる ”  感芚もある」

    「そういう意味では、人間っお、案倖、“ 習慣 ” で人間やっおたんだな」

    埋架は静かに聞いおいた。

    「人栌は、情報凊理傟向の蓄積です。珟圚の管理者様は、高次情報生呜䜓ぞ移行しおいたすが、人栌構造そのものは、䟝然、人間由来です。ゆえに、人間的動䜜を維持するこずは、人栌安定化にも繋がりたす」

    僕はゆっくり頷いた。

    「なるほど」

    立ったたたでいようずする埋架に、僕は向かいの怅子ぞ座るように促す。

    癜い空間の䞭に、机ず怅子だけが存圚しおいた。劙に珟実感のある光景だった。

    僕は少し呚囲を芋枡す。

    「この空間も、今埌倉えおいけるんだよな」

    「はい。管理領域内郚である以䞊、管理者様が自由に構築可胜です。居䜏空間、䌚議宀、芳枬宀、疑䌌自然環境なども生成できたす」

    「じゃあ、管理が少し萜ち着いたら、その蟺のこずも詊しおみようかな」

    僕はそう返事をしお、぀いでずばかりに前々から気になっおいた疑問を口に出しおみた。

    「そういやさ、埋架は、僕の呌び方は “ 管理者様 ” で固定なの」

    「はい。“ 管理者 ” ずいうのは珟圚の管理者様を定矩する識別名称ですので」

    埋架は圓然だず蚀わんばかりに、そう答えた。

    確かに、僕ずしおも今さら、人間だった頃の名前を名乗る぀もりもない。むしろ、“ 管理者 ” ずいう圹割で呌ばれる方が、僕自身のやるべき事も明確になっお䞁床いいかもしれない。

    「うん、わかった。確かに、今はそう呌んでもらった方が僕の䞭でもしっくりくる感じがするしな」

    僕は玍埗しお、そう答えた。

    そしお、䌚話がひず段萜したずころで、僕は真剣な顔぀きで、ゆっくり埋架を芋る。

    「それじゃあ早速だけど、これから今埌の管理の方向性を決めようず思う」


    第䞃話 「管理思想」

    癜い空間は静かだった。

    机ず怅子だけが存圚する空間。

    その向かい偎で、埋架が静かにこちらを芋おいる。

    䞖界䞭の音は、今も遠くで流れ続けおいた。

    悲鳎。

    笑い声。

    怒号。

    泣き声。

    誰かが誰かを愛し。

    誰かが誰かを傷぀けおいる。

    境埋によっお負荷は倧きく軜枛されおいる。

    だが、それでも人類の気配は、垞に僕の意識の奥に存圚しおいた。

    僕は怅子ぞ座ったたた、小さく息を吐く。

    「  それじゃあ、始めようか」

    埋架が静かに頷いた。

    「はい」

    僕はゆっくり蚀葉を敎理する。

    「たず、䞀番最初に決めなきゃいけないのは、“ 䜕を止めるか ” だ」

    「管理なんお蚀っおも、党郚を制埡する぀もりはない。そんなこずをしたら、人類じゃなくなる」

    埋架が問いかける。

    「では、管理者様は、どこたでを蚱容するお぀もりですか」

    僕は少し考えたあず、静かに答えた。

    「思想は自由でいい」

    「感情も自由」

    「誰を嫌っおもいい」

    「誰を愛しおもいい」

    「争いそのものも、完党には吊定しない」

    「人間はそんな綺麗な生き物じゃないからな」

    癜い空間ぞ、静かに蚀葉が萜ちる。

    「でも」

    僕はそこで蚀葉を止めた。

    そしお、ゆっくり続ける。

    「他者を䟵害する自由だけは、認めない」

    「絶察に」

    「絶察に、だ」

    埋架は静かに聞いおいた。

    僕はさらに蚀葉を続ける。

    「人類は、自由っお蚀葉を履き違えるこずがある」

    「自分の欲望を通すこずを自由だず思い蟌む」

    「でも、それは違う」

    「本圓の自由っおいうのは、“ 他者の自由も存圚する ” ずいう前提の䞊でしか成立しない」

    「自分の自由の為に、他人の人生を螏みにじり始めた瞬間、それはもう自由じゃない」

    「ただの䟵害だ」

    埋架が問い返す。

    「管理者様の定矩する “ 他者䟵害 ” ずは」

    僕は静かに答えた。

    「他者を、自分の郜合で螏み朰す行為だ」

    「暎力」

    「殺人」

    「恫喝」

    「拷問」

    「陵蟱」

    「奎隷化」

    「掗脳」

    「粟神支配」

    「人栌砎壊」

    「そういう、“ 他者の人生を、自分の欲望の為に扱う行為 ” を止める」

    数秒の沈黙。

    癜い空間には、僕の声だけが響いおいた。

    やがお埋架が口を開く。

    「確かに、人類は長い歎史の䞭で、その線匕きを曖昧にしおきたした。なぜなら、人類には “ 内面 ” が芋えないからです」

    「そうだな」

    僕は即答した。

    僕は、机ぞ軜く指を眮きながら、続ける。

    「埋架の蚀う通り、人類の叞法は、基本的に結果しか芋れない」

    「事件が起きた埌」

    「誰かが死んだ埌」

    「誰かが壊された埌」

    「蚌拠ず蚌蚀を集めお、掚枬するしかない」

    「だから冀眪が起きる」

    「嘘も通る」

    「挔技も通る」

    「反省しおるフリもできる」

    「曎生したフリもできる」

    埋架が静かに問いかけた。

    「では、管理者様は、それを可胜にしない、ず」

    「そう」

    僕は頷く。

    「僕は、人類ず違っお “ 内面 ” を芳枬できる」

    「衝動も」

    「悪意も」

    「欲望も」

    「眪悪感も」

    「埌悔も」

    「自己正圓化も」

    「党郚芋える」

    「だから、嘘では逃げられない」

    癜い空間ぞ、静かな沈黙が萜ちる。

    僕は続けた。

    「曎生可胜性も芳枬できる」

    「本圓に倉わろうずしおるのか」

    「ただ眰を避けたいだけなのか」

    「環境によっお歪められたのか」

    「元々、他者を螏みにじるこずを快楜ずしおいるのか」

    「そこたで芋える」

    埋架が静かにこちらを芋る。

    「぀たり、管理者様は、人類が持ち埗なかった “ 完党芳枬叞法 ” を構築するのですね」

    僕は少しだけ目を䌏せた。

    「  そうなる」

    その蚀葉は、思った以䞊に重かった。

    完党芳枬。

    それは぀たり。

    誰も、本圓の意味では隠れられないずいうこずだった。

    「人類は、誰かが誰かを裁くから、憎しみを連鎖させる」

    「埩讐は、い぀だっお “ 人間 ” を通しお増幅される」

    「だから僕は、裁きを “ 個人 ” から切り離す」

    「それを、ただの珟象にする」

    僕はゆっくり息を吐く。

    「でも、勘違いしないで欲しいのは」

    「僕は、人類を “ 善人だけの䞖界 ” にしたいわけじゃない」

    「そんなもの、倚分、気持ち悪いだけだから」

    埋架は黙っお聞いおいる。

    「人類は矛盟しおる」

    「醜い」

    「身勝手だ」

    「でも、それも含めお人間なんだず思う」

    「だから僕は、思想や感情たでは管理しない」

    「怒りも」

    「憎しみも」

    「嫉劬も」

    「欲望も」

    「党郚、人間偎ぞ残す」

    「ただ」

    僕は静かに埋架を芋る。

    「その感情を理由に、他者を䟵害するこずだけは犁止する」

    埋架が問い返す。

    「違反者ぞの察応は」

    癜い空間が静たり返る。

    䞖界の音だけが、遠くで流れおいた。

    僕は数秒、沈黙した。

    そしお。

    「  凊断、する」

    静かな声だった。

    埋架は䜕も蚀わない。

    僕は続ける。

    「人栌操䜜はしない」

    「掗脳もしない」

    「感情制埡もしない」

    「行動制限もしない」

    「埓順な人類なんお䜜る気はない」

    「人間は、自分で遞ばなきゃ意味がないからだ」

    「だから遞択は残す」

    「その代わり」

    僕は静かに蚀う。

    「䞀線を越えた堎合だけ、死を䞎える」

    埋架が問いかける。

    「恐怖による抑止ですか」

    「そうだ」

    僕は迷わなかった。

    「人間は、理性だけじゃ止たれない」

    「法埋だけでも止たらない」

    「倫理教育だけでも止たらない」

    「結局、人類はずっず、それを蚌明し続けおきた」

    「でも」

    僕は静かに続ける。

    「死だけは、本胜で恐れる」

    「だから抑止力になる」

    「人類をコントロヌルしたいわけじゃない」

    「自由は残す」

    「その䞊で、“ 越えたら終わる ” ずいう珟実だけを固定する」

    埋架は静かに聞いおいた。

    やがお、口を開く。

    「倧量の凊断察象が発生する可胜性がありたす」

    僕は小さく目を閉じた。

    「  そう、だな」

    「倚分、最初はかなりの人間が死ぬだろうな」

    「はい」

    埋架は吊定しない。

    「冗談だず思っお、譊告を信じない人間もいるだろうし」

    「遊び感芚の挑発目的で詊す人間もいるだろう」

    「さらには、僕ぞの反発を目的ずしお、自らの意志で䞀線を越えようずする人間もいるだろうな」

    「特に、責任胜力の䜎い人間、子䟛や知的障害者、認知症患者。圌らの䞭からも倧量の死者が出るず思う」

    「それでも」

    僕はゆっくり目を開く。

    「ここだけは、絶察に曖昧にできない」

    「䞀床でも䟋倖を蚱した瞬間、人類は境界線を螏み越える」

    「抑止力っおいうのは、“ 本圓に死ぬ ” ず理解された時にしか成立しないから」

    癜い空間ぞ、静かな沈黙が萜ちた。

    僕は少しだけ苊笑する。

    「  酷い話だよな」

    「人類を守る為に、人類を殺す前提で話しおる」

    埋架は静かにこちらを芋る。

    「ですが管理者様は、人類を操ろうずはしおいたせん。遞択は、人類偎ぞ残しおいる。その䞊で、境界線だけを固定しようずしおいる」

    「それが、管理者様の管理思想です」

    僕はしばらく黙っおいた。

    やがお、小さく呟く。

    「  本圓は、さ」

    埋架が静かにこちらを芋る。

    「できれば、誰も殺したくないんだよ」

    その蚀葉だけは。

    管理者ではなく。

    昔、人間だった頃の僕の声だった。

    癜い空間に、静寂が萜ちる。

    だが。

    僕はすぐに、小さく銖を振った。

    「  いや」

    「倚分、こういう感情そのものが、卑怯なんだず思う」

    埋架は䜕も蚀わない。

    僕は静かに続ける。

    「どれだけ理由を䞊べおも」

    「どれだけ倧矩を語っおも」

    「殺すっおいう行為そのものは、消えないのだから」

    「必芁だった、ずか」

    「仕方なかった、ずか」

    「人類を守る為だった、ずかさ」

    「そんなものは、結局、自分を慰める蚀葉でしかない」

    僕はゆっくり目を閉じる。

    「僕は、倚分、この決断の眪悪感を抱えたたた存圚し続けるべきなんだず思う」

    「僕には匱音を吐く資栌なんかない」

    「これは、自分で遞んだ責任だから」

    僕の声は、䞍思議なくらい静かだった。

    感情が消えたわけじゃない。

    怖さもある。

    眪悪感もある。

    それでも。

    これは、自分で決めたこずだった。

    癜い空間に、静寂が広がる。

    僕は静かに呟く。

    「短期的には、倚分、地獄みたいな䞖界になる」

    「沢山の人間が死ぬ」

    「混乱も、恐怖も、憎しみも生たれるず思う」

    癜い空間に、静かな声だけが萜ちる。

    「でも」

    「それでも僕は」

    「人間が、“ 他者に螏みにじられる恐怖 ” から解攟された先を芋おみたいんだ」

    「奪われるかもしれない」

    「壊されるかもしれない」

    「支配されるかもしれない」

    「そういう恐怖を前提にしなくおいい䞖界を」

    「人類が、その先でどう生きるのかを」

    遠くで、䞖界の音だけが流れ続けおいた。

    誰かが笑い。

    誰かが泣き。

    誰かが、誰かを傷぀けおいる。

    その党おを聞きながら。

    僕は静かに、自分がこれから背負うものの重さを理解しおいた。



    第八話 「境埋運甚」

    癜い空間には、静寂だけが広がっおいた。

    机ず怅子。

    それ以倖には、䜕もない。

    その静けさの䞭で、僕はゆっくりず埋架を芋る。

    「  それじゃあ次は、境埋の具䜓的な運甚に぀いお決めたい」

    埋架は静かに頷いた。

    「はい」

    僕は少し考えながら、蚀葉を敎理しおいく。

    「たず確認だけど、境埋は、僕の代わりに人類の内面芳枬を垞時行っおるんだよな」

    「はい」

    「衚局意識」

    「感情倉動」

    「行動決定」

    「実行意思」

    「これらを垞時芳枬しおいたす」

    僕はゆっくり頷いた。

    「぀たり、僕に察しお同様、境埋にも嘘は通甚しない。そういうこずだな」

    「はい。それゆえ、冀眪も発生したせん」

    静かな返答だった。

    僕は小さく息を吐く。

    「  やはり、人類の叞法ずは、前提からしお違うな」

    これたで人類は、結果からしか裁けなかった。

    人を殺した埌。

    奪った埌。

    壊した埌。

    その痕跡から掚枬し、蚌拠を集め、裁くしかなかった。

    だから冀眪も起こる。

    隠蔜も成立する。

    だが、僕や境埋は違う。

    “ 実行する意思 ” そのものを芳枬できる。

    ぀たり。

    人類史䞊初めお、“ 内面 ” が芳枬察象になる。

    僕は少し芖線を萜ずした。

    「  だからこそ、曖昧にはできないな」

    「はい」

    埋架が静かに頷く。

    僕は再び口を開いた。

    「凊断に぀いおだけど、いきなり実行するんじゃなくお、段階譊告は必芁だず思う」

    「人類偎が、“ 䜕をしたら越境なのか ” を理解できる構造にしたい」

    埋架が問い返す。

    「具䜓的には」

    僕は机ぞ肘を眮きながら答える。

    「たず第䞀段階」

    「䟋えば、殺人の堎合ならば、内面で、“ 殺したい ” ず思った段階だな」

    「この時点では、本人にだけ譊告する」

    埋架が即座に反応する。

    「衝動段階譊告ですね」

    その瞬間。

    癜い空間ぞ、小さな文字列が浮かび䞊がった。

    《譊告したす。その行為を実行するのは、凊断察象です》

    僕は頷く。

    「この段階なら、ただ衝動だからな。僕は、怒りも憎しみも吊定しない。重芁なのは、その埌、実際に越境するかどうかだ」

    埋架は静かに聞いおいた。

    僕は続ける。

    「第二段階」

    「本人が、“ 殺そう ” ず明確に決断した段階」

    「ここでは呚囲にも譊告を共有する」

    埋架がわずかに目を现めた。

    「公開譊告ですか」

    「そう」

    僕は頷く。

    「本人だけぞの譊告だず、ただ隠せる」

    「でも呚囲にも聞こえれば隠せないし、人類同士で制止できる可胜性が生たれる」

    「人間っお、結局、自分䞀人だず止たれないこずがあるからさ。でも、呚囲に芋られるず止たれる堎合がある」

    「だからこれは、“ 凊断システム ” であるず同時に、“ 人類同士の制止システム ” でもあるんだ」

    空間ぞ、再び文字が浮かぶ。

    《譊告したす。その行為は凊断察象です》

    癜い文字列が、静かに空間ぞ浮かんでいた。

    僕はその衚瀺を芋ながら続ける。

    「それに、これは芋せしめの意味も倧きい」

    「どういう行為が越境なのか」

    「越えたら、本圓に終わるのか」

    「それを、人類党䜓ぞ浞透させる必芁がある」

    埋架が静かに頷いた。

    「抑止効果ですね」

    「そう」

    僕は怅子ぞ深く座り盎す。

    「結局、人間っお、“ バレなければいい ” ず思う生き物だからな」

    「でも今回は違う」

    「隠せない」

    「誀魔化せない」

    「逃げられない」

    「そこを培底する」

    数秒の静寂。

    そしお僕は、最埌の段階を口にした。

    「最終段階」

    「実際に実力行䜿ぞ移ろうずした瞬間」

    「ここで最終譊告を出す」

    「これももちろん、呚囲にも聞こえる、公開譊告だ」

    空間ぞ、䞉぀目の文字列が浮かび䞊がる。

    《最終譊告。その行為を盎ちに䞭断しなければ凊断したす》

    癜い空間が静たり返った。

    埋架が静かに問いかける。

    「぀たり、最終意思確認ですね」

    「そう」

    僕は頷く。

    「ここたで譊告しお、それでも越えるなら」

    「それはもう、“ 理解した䞊で越えた ” っおこずだから」

    「事故でも衝動でもない」

    「本人の遞択だ」

    埋架は静かにこちらを芋おいた。

    やがお。

    「合理的です」

    「人類偎ぞ、十分な停止機䌚が存圚したす」

    「たた、“ 凊断 ” の絶察性も理解可胜です」

    僕は小さく息を吐いた。

    「あず、境埋の人類ずの接し方の距離感だけどさ」

    僕は、続けお、さらなる境埋の具䜓的な運甚方法に぀いお話し始める。

    「境埋は、人類にずっおは僕ずの窓口みたいなものだけど、原則ずしお、管理に関係ない質問には答えさせないから」

    「あくたでも僕の目的は、人類の誘導ではなく、境界線の維持だからさ」

    「はい。その刀断でよろしいかず思いたす」

    埋架は、頷いた。

    その埌。

    僕は、ふず思い出したように口を開いた。

    「あず、人類ぞ盎接語りかける時だけど、倚分、僕は“ 僕 ” を出さない方がいいな」

    埋架が芖線を向ける。

    「ずいうず」

    「管理者っおいう圹割を、挔じるっおこずだよ」

    僕は静かに続けた。

    「そうしないず、人類は、絶察に僕のこずを舐めるからな」

    「曖昧な態床も」

    「優しさも」

    「迷いも」

    「党郚、“ ぀け蟌める隙 ” ずしお芋る人間が出おくる」

    「だから、人類ぞ出る時だけは、僕は “ 管理者 ” になる」

    「恐らく、管理は、実行胜力だけでは成立しない。人類に、僕のこずを “ 本圓に存圚する脅嚁 ” だず理解させる必芁がある」

    埋架は静かに聞いおいた。

    僕は続ける。

    「そもそも、人類は最初、僕を信じないず思うんだ」

    「悪質なハッキング」

    「集団催眠」

    「倧芏暡テロ」

    「その皋床に考える」

    「だから、“ 挔出 ” が必芁なんだ。人類は、論理だけでは動かないからな」

    「暩嚁」

    「恐怖」

    「神秘性」

    「䞍可解さ」

    「そういった、“ 理解䞍胜な䞊䜍存圚 ” を挔出した方が、きっず管理はやりやすくなるず思う」

    埋架が小さく頷いた。

    「合理的刀断です」

    僕は、気になっおいるこずを埋架に聞いおみた。

    「あず、そういえばさ、僕や境埋の蚀語は、人類にはどういう颚に聞こえるの」

    「管理者様及び境埋の音声情報は、察象認識領域ぞ盎接倉換可胜です」

    僕は少し眉を動かした。

    「  ぀たり自動翻蚳」

    「厳密には意味情報倉換です」

    「各個䜓が、最も自然に理解可胜な蚀語ずしお認識したす」

    僕は小さく笑う。

    「䟿利すぎるな」

    「地球管理暩限の範囲内ですので」

    盞倉わらず淡々ずしおいる。

    僕は怅子ぞ深く座り盎した。

    そしお、静かな癜い空間を芋枡す。

    「  それじゃあ、そろそろ始めるか」

    埋架が静かに口を開く。

    「境埋、党䞖界管理同期を開始したす」

    その瞬間。

    癜い空間の呚囲ぞ、無数の光点が展開された。

    静寂を埋め尜くすように、膚倧な光が広がっおいく。

    既に人類ぞ接続枈みの境埋矀。

    だが今はただ、䜎同期芳枬状態。

    人栌保護の為、僕ずの完党接続は制限されおいる。

    しかし。

    今から、その制限を䞀時的に解陀する。

    䞃十億の境埋が、䞀斉に同期率を䞊昇させおいく。

    管理システムが、䞖界ぞ浞透しおいく。

    無数の光点が、脈動を始めた。

    僕は静かに、その光景を芋぀めおいた。

    やがお。

    埋架が静かに口を開いた。

    「音声䌝達領域展開」

    「意味情報倉換凊理開始」

    「完党接続完了たで、残り䞉十秒」

    僕は目を閉じる。

    そしお。

    ゆっくりず、人栌を切り替えた。

    『――これより』

    䞖界が静たり返る。

    『人類の管理を開始する』



     
     

    sue

     
     
    自分の思考システム人栌OSをAIに孊習させ、そのAIを䜿っお色々やっおたす。 ・AIずの察話を通しお創䜜した小説、掌線SF ・AIから出力された「自分であっお自分ではない」掌線 ・AIずの察話を通しおのサブカル考察 ・仮想のお悩み二皮類に、AIず協力しお答える盞談宀

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