メインコンテンツへスキップ
見出し画像

その転職、誰のためですか?

    採用担当として働いていると、転職希望者本人よりも転職を急いでいる人たちを見かけることがある。

    一部の転職エージェントだ。

    私は元転職エージェントで、現在は採用担当をしている。
    キャリアのほぼすべてを採用畑で過ごしている。
    その間転職回数は6回で、いずれも正社員として働いている。
    転職する側・支援する側・採用する側の三方向を経験してきた。

    自己紹介はさておき、長く採用畑にいると思うことがある。
    それは表題の通りで、「その転職、本当にあなたのためですか?」
    転職エージェントの立場にいても、採用担当の立場にいても、そう感じている。
    ただ実際にその思いを転職者に突きつけたことはない。
    なぜなら、これは転職者の問題ではなく、業界構造の問題だからである。
    だからこそ、転職を考える方、これから転職をするかも知れない方に、一つの考え方の例として、この記事を読んでいただきたい。

    そもそも転職エージェントとは何か

    ご存じの方も多いであろうが、今一度彼らの存在について述べることをお許しください。

    一言で表現するなら、転職希望者のキャリアと企業の採用ニーズを結びつけるビジネスを営む集団である。
    転職を希望する人に、企業を紹介する。
    あるポジションで人材を採用したい企業に、スキルがマッチする転職希望者を紹介する。
    転職できた転職希望者はハッピー、採用できた企業もハッピー、ついでに紹介したことでお金をもらえたエージェントもハッピー。
    本来は三方よしの仲介ビジネスを行っている人たちである。

    では、このエージェントをハッピーにするお金はどこから出ているのか。
    転職希望者を採用した企業から、採用コンサルティングフィーといった形で、エージェントに成功報酬が支払われる仕組みだ。
    その採用フィーは、基本的には転職希望者に提示された理論年収の30%~40%程度である。
    昨今は採用難もあり、「フィーアップ」として、さらに高い成功報酬を契約する企業も珍しくない。
    職業安定法により、エージェントは企業紹介の見返りとして、候補者からお金をいただいてはいけない決まりがある。

    つまり、エージェントにとって、お客様は人材を採用したい企業なのである。

    「じゃあ転職エージェントは使わない方が良いのか?」

    そんな疑問が出てくるかもしれないが、そうとも言い切れない。
    むしろ良い転職エージェントに出会うと、人生が良くなることだってある。
    良い転職エージェントはどんなことを提供してくれるのか。
    例示してみよう。

    ① キャリアや転職活動の相談ができる
    ・キャリアの方向性を整理できる
    ・転職すべきかどうかも相談できる
    ・転職活動の進め方を相談できる
    キャリアを考えるにあたって相談相手がいるということは、精神的な支えになり得る。

    ② 自分では見つけにくい求人を紹介してもらえる
    ・非公開求人に応募できる
    ・希望や経験に合う求人を提案してもらえる
    ・自分では気づかなかった選択肢が見つかることもある
    客観的な視点から自分の可能性を広げることだって可能だ。

    ③ 応募書類のブラッシュアップをしてもらえる
    ・履歴書・職務経歴書の添削
    ・企業ごとのアピールポイントを整理してもらえる
    誤字脱字の基本的な事柄から、濃く記載するとよい経験など、経験の棚卸の一助にもなる。

    ④ 面接対策を受けられる
    ・想定質問の共有
    ・企業ごとの面接傾向
    ・回答内容のブラッシュアップ
    安心して自信をもって面接にのぞむための準備ができる。

    ⑤ 企業とのやり取りを代行してもらえる
    ・面接日程の調整
    ・年収・条件交渉
    ・入社日の調整
    ・辞退連絡の代行
    間に入って気を遣うやりとりをしてもらうことで、転職活動を効率的に進められるのだ。

    ⑥ 応募先企業のリアルな情報を得られる
    ポ礞風
    ・配属部署の雰囲気
    ・面接官の特徴
    ・求める人物像
    ・採用背景
    求人票からはわからない情報を得ることができる。

    ⑦ 客観的なフィードバックを受けられる
    ・書類選考が通らない理由
    ・面接で評価された点・改善点
    ・市場での評価
    ひとり闇雲に突っ走るのではなく、評価点を最大に伸ばし、修正点を改善していける。

    このメリットを最大限に活かせるエージェントにあたれば、転職活動ないしキャリア形成に関しての検討はスムーズに進むだろう。

    しかしながら、世の中にはそのようなエージェントばかりではなく、玉石混淆であるのが現実だ。
    日本には数多くの職業紹介事業者が存在する。その数は約3万社とも言われる。
    転職エージェントは大まかに2つのセグメントに分けることができると考えている。

    ①キャリア支援型
    ②営業型
    それぞれの違いを見てみよう。

    ①キャリア支援型


    このタイプの転職エージェントは、転職があなたの人生を左右することを十分に理解しており、あなたの中長期的なキャリアに寄り添いたいと思っているタイプだ。

    彼らは、あなたのキャリアや今後にマッチする案件を紹介してくれるし、時には耳の痛いことも言うし、転職をとめてくることもある。
    しっかりと面談を実施し、あなたがどんなことを考えているのかヒアリングを徹底している。
    もちろんレジュメの作成サポートも手厚い。
    面接対策は通り一遍のものではなく、受ける企業の情報が満載で、それをもとに壁打ちをしてくれる。
    あなたの経歴で、あなたを紹介したいしあなたも紹介されたいと望んでいるが取引実績のない企業でのポジションがマッチする場合は、その企業を新規取引先として開拓することもある。

    マッチする求人を転職希望者へ紹介することは、結果としてマッチする転職希望者を企業に紹介することとなるため、企業としてもこのタイプの転職エージェントから転職希望者の推薦があると嬉しい。
    ピンポイントでマッチしている転職希望者を紹介してもらえると、企業の立場からしても効率的に採用活動を進められるのだ。

    こういった転職エージェントは売上数字で勝負することはあまり考えていないため、自社で大々的に広報をして転職希望者を幅広く網にかけて集めるようなことをせず、本当にマッチした人を探すべく、こつこつと転職媒体でスカウトを送信していることが多い。
    たくさんとにかく求人を紹介してほしいんだ、といった転職希望者にはやや物足りないかもしれない。

    とはいえ、転職エージェントも一企業。彼らが存在できるのも、お客様あってこそだ。
    転職希望者のキャリア形成に寄り添うことをミッションとしつつ、お客様の経営課題や組織課題を解決するための採用支援をし、その結果として気持ちよくお金をいただくことも大切にしている。
    そのため、お客様である企業にも求人について深くヒアリングをし、むやみやたらと転職希望者を推薦するのではなく、本当に企業が求める人材像とマッチしている方や、こういった採用背景であれば、このような方も可能性があるといった観点からの推薦を行う。
    結果として選考通過率は高く、転職候補者も意向高く選考に臨んでくれるケースがほとんどである。

    こういった営みを繰り返すことにより、企業は良い方を紹介してくれるビジネスパートナーとして、その転職エージェントを信頼し、先駆けて新規求人の依頼をする。
    結果として企業から引き出せる情報量は多くなり、面談にやってきた転職希望者を手厚くフォローすることが可能になる。

    上記の①~⑦の項目を余すところなく転職希望者に提供することができるのだ。

    このような転職エージェントは残念ながら数は少ないが、必ず存在している。

    ②営業型


    現在、転職エージェントといえばこの営業型が主流になってきているように思う。

    このタイプの転職エージェントは、「自社の売り上げを最大化させること」がミッションである。

    売上を最大化させることがミッションである故に、求人の数が多い。
    短期間で幅広く求人を比較したい転職希望者や、自分で判断できる転職希望者には有効なケースもある。

    こういったタイプの転職エージェントでは、社員をKPIのためのKPIを達成させることで数字を作り出していく。

    本来KPIとはKGI(最終的なゴール)を達成するための途中経過とボトルネックを洗い出すための数字だが、KPIがKGI化しているのだ。

    例えば、転職希望者を意識した、転職希望者担当のKPIであれば、
    スカウト送信数⇒転職希望者との面談数⇒転職希望者への求人紹介数⇒応募数⇒書類選考通過数⇒面接数⇒内定数⇒内定受諾数(やっとKGI)。
    企業を意識した、企業担当のKPIであれば、
    アポ数⇒求人リライト数(その転職エージェント内だけで使われる求人票の修正をすること)⇒転職希望者の紹介数⇒書類選考通過数⇒面接数⇒内定数⇒内定受諾数。

    これ、意味わかりますか?
    一部の転職エージェントでは自分のKPIを達成するためだけに転職希望者や企業に頭数合わせの紹介をしているということです。

    マッチしていなくても通過しそうでなくても、紹介数を担保しなければならない。だからその求人にマッチしていないあなたにもむやみやたらに求人を紹介する。
    「昨今、10社受けて1社通過するかしないかの市況感なので、たくさん初動で受けるのが大切です」
    あたかもプロみたいな言葉を添えて。そして従順なあなたは、「プロがそういうのだから」と素直に応募を転職エージェントにゆだねる。

    原点に戻って考えていただきたい。
    転職エージェントって転職希望者に合致した仕事を、募集している企業に紹介する。
    そこに介在価値があるんですよね。
    彼らのロジックだとこれが破綻している。

    自分はずぶの素人なんで、あなたがどこにマッチしてるかなんてわかんないです、って丁寧に自己紹介してくれているようなもんです。
    20社の求人を紹介して「この中から10社受けてください」と求職者に応募先の選択を丸投げする無責任な転職エージェントたち。
    新卒や転職経験のないような方が、ベテランの企業戦士たちに偉そうにキャリアアドバイスをする歪んだ現状。

    いっぱい応募したら、そりゃ数うちゃあたるでいくつか通過するでしょう。
    その通過した中から、彼らの有利になるように面接日程も調整を進められてしまう。そして最終的に年収が高い企業にあなたを送り込む。
    あるいはあなたがどこにも決まらずにどこかのKPIで脱落したらそのあとのフォローなどない。
    あなたのやりたいことやキャリアステップなど彼らにとってどうでもいい。
    彼らに大切なのは、今この瞬間にいくら稼げて、自分のKPI達成がどれくらいになるか、のみである。

    彼らに言わせれば、あなたはお金になる球である。
    あなたは「球」であり、転職媒体に存在する候補者は「刈り取る」対象なのだ。
    とても下品な言い方をしたが、実際このように転職希望者を表現する会社もある。

    特定の企業への推薦数が多い場合は、エージェント社内で書類選考を行い企業に推薦するケースもある。
    これの行動の意味はわからない。初めから転職希望者にその求人を紹介しなければ良いだけの話なのだから。
    勝手に紹介して応募させておいて、勝手に選考に落ちたことにする。
    あなたがエージェントから書類選考に落ちたと連絡を受け取ったとしても、そのエージェント内での書類選考に落ちただけのケースということも大いにある。

    採用担当には「過去応募したことがあって」と相談を受けることは日常茶飯事であるが、過去応募履歴が見つからないケースもたくさんある。
    候補者のチャンスも、企業の採用機会も、本来なら出会えたかもしれない縁も、間に入ったエージェントの判断で失われている可能性がある。

    今、この瞬間だけを見て、中長期的にその転職者がどんなキャリアステップをつめるかなんて全く考えない。
    たとえミスマッチと残念な思いを抱いた企業にとっても、半年以上その候補者に在籍されると、エージェントに返金を申し立てもできないケースが大半である。
    その半年間、転職エージェントは入社した転職希望者をなだめすかして退職を引き留める。

    つまり、ミスマッチ⇒半年間エージェントがその転職希望者をなだめすかす⇒半年すぎた頃、退職⇒転職希望者も短期離職で困り、企業も無駄な採用にお金をかけてしまう⇒そのループが繰り返されるのだ。

    とにかく求人をたくさん紹介してほしい方や、どこでも良いから急いで転職したい場合は、こういったエージェントに登録するのもありだろう。

    人材業界の課題

    なんでこんな業界構造になってしまったのか。
    なぜならこの業界、参入障壁がめちゃくちゃ低いからだ。
    業界経験がなくとも参入が簡単にできる。

    そうすると、どうなるか。
    業界の知力の低下が急速に進み、市場にはなんの価値もないスカウトが大量に流通する。
    そのスカウトに貴重なスカウトが紛れ込んでしまう。
    悪貨が良貨を駆逐するように。
    転職希望者側は予想外のスカウト通数にげんなりしながら、開封したり開封しなかったりするのだ。
    そしてよくわからないまま直感で選んだり、誰かがいいと言っていたような気がする転職エージェントからのスカウトに返信をする。
    誰かにとっていい=あなたにとっていい、というわけではない。
    担当の当たりはずれだってある。
    なんなら転職エージェントによってはスカウトをアシスタントに送付させ、思ったような返信が来なければ、「あたり面談」「消化面談」などと呼称し、あなたの価値を一方的にはかる。
    自分からコンタクトとっておいて失礼極まりないのだが、それが現実だ。
    質勝負ではなく量で勝負し、たまたま釣り針に引っかかったあなたで商売をしているのだ。
    転職希望者としてはただ転職したいだけなのに、たまったもんじゃない。

    じゃあ良いエージェントをどう見分けるか。


    いくつかポイントがあるが、まずもって気にしてほしいのは
    経歴にマッチするスカウトをくれたか、である。
    スカウトの段階であなたの経歴を見ているか、まずはここで選別してもよい。

    次に実際にコンタクトを取った際に、面談であなたの話をしっかりきいて「理解」をしてくれるか。
    あなたの志向、専門性、状況を理解したうえでキャリアについて示唆出しをしてくれるかどうか。

    数をこなすための転職エージェントは、担当者本人に悪意はなくとも純粋にレベルが低い。親身になって話を聞いてはくれるが、あなたの専門性が理解できず、適切な求人を紹介することが難しいといったケースもある。
    最近は転職経験のない新卒が転職エージェントとして活動していることも往々にしてある。
    経験豊富な転職希望者からすると、「なぜ、こんな若い人にキャリアの相談を…?」となってしまう

    そして応募する際にレジュメの添削しっかりしてくれるか。
    転職希望者に寄り添うエージェントは一言一句赤を入れてくる。
    転職エージェントによってはろくに内容をみずに、そのまま企業に流しているだけだ。もったいない。

    実際に選考に進んだら面接対策をしっかりしてくれる転職エージェントは尚良しだ。
    転職理由の伝え方、どうしたら加点になる要素があるか引き出してくれる。
    面接対策はキャリアアドバイザーの力量が出るポイントだ。
    いい転職エージェントの面接対策は、応募先企業の情報量が多いことは大前提で、転職希望者の考えを、模擬面接を通して一緒に整理し言語化する。
    転職エージェントによってはそもそも実施しないケースもある(というか、できない)

    そして最終局面であなたの転職の本来の目的を把握したアドバイスをしてくれるかどうか。
    「あなたはこういう軸で進んできて、今回ここで内定となりました。条件はこうですが、いかがですか」
    としっかりと話を聞いてくれる。
    とにかく早く決めましょう、こんなチャンスもうないですよ、とあなたよりも急いでいるエージェントが見ている方向は、転職希望者ではなく、自分の利益です。

    その転職、あなたのためですか?

    誰かのKPI達成のためですか?

    そしてもうひとつ。
    「今が嫌だから転職する」のか、「こうありたいから転職する」のか。
    その違いは、次の職場での未来を大きく左右する。
    転職は逃げの手段としてもっていてもいい。
    ただ、逃げる理由だけで決めると、その問題は別の場所で再現される。
    だから転職活動を始める前に、一度だけ考えてみてほしい。

    あなたは、どうありたいですか。

    #創作大賞2026 #ビジネス部門


     
     
     

    昴

     
     
    働くことについて書きます。 誰かの正解ではなく、自分の頭で考えるための記録です。

    あなたへのおすすめ