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モラトリアムに逃げるな。逃げ続けた僕が未来を「確定」させるまで

    「モラトリアムに逃げるな。未来を『確定』させに行け」

    初めてお話しする機会をいただいた、第一線で活躍している「アーティスト」からの言葉。この言葉は、そのときから自分の指針になっています。

    ありきたりな内容なのかもしれません。ですが、あの日確かに、僕の内側で何かが小さく灯ったのを、今でも鮮明に覚えています。

    ずっと、周囲の期待に応えることを勝手に自分に課してきました。「心から本当にやりたいこと」なんて大層なものは自分にはない——心のどこかで、そう諦めていた僕にとって、それは一生手に入れることはないと思っていた高級ブランド品のようなものでした。

    申し遅れました。CGを中心に映像制作やデザイン、企画・演出を手がける合同会社PLANEON代表の上平うえひら康太と申します。あわせて「黒鷹くろたか」という名義で、自主制作アニメやオリジナルのTRPGを同人サークル「StudioULTウルト」で制作しています。

    正直に言うと、僕は職人気質のクリエイターではありません。人と衝突したり、強い感情をぶつけられるのが苦手で、突出した才能があるとも思っていません。

    ですが、そんな僕が映像制作の仕事の傍ら、費用はすべて持ち出しで自主制作アニメを制作しているのは、まさに先ほどの言葉があったからでした。

    ここからは、「ハードな生き方なんて絶対に無理だ」と思っていた僕が、どうして今のような考え方にたどり着いたのかを、少しだけ話させてください。

    「後悔したくない」「本当にやりたいことを思いきりやってみたい」——そんなモヤモヤややるせなさを抱える誰かの、ささやかなヒントになればうれしいです。

    「よい子」という名の安全地帯

    「後悔しないように」「過去に背を向けない」。たくさんのアニメやゲームに触れるうちに、そうした想いは僕の大切な価値観の一つになっていました。

    とはいえ、自身の選択の結果、家族や大切な人を不幸にしたとか、深いトラウマが残ったとか、そんな劇的な話があるわけではありません。

    「挫折」と聞いて真っ先に浮かぶのは、鉄棒の前で立ちすくむ小学生の僕です。逆上がりの話ならまだ格好がついたのに、どうしても怖かったのは「前回り」でした。地面が正面から迫ってくる感覚に勝てず、頭が触れるはずがない高さの鉄棒でも体は動いてくれません。

    両親は「逆上がりができるなら前回りができないはずはない」と、できるまで玄関のドアを固く閉ざしたのです。締め出された状況で僕が考えていたのは、「この時間をやり過ごせばいい」ということだけ。挑戦を、早々に手放していました。

    ギターもそうです。自分から「やりたい」と言って、比較的高価なギターを買ってもらいました。ですが、小学生によくある衝動的な欲求は自然にフェードアウトしていき、のめり込むだけの覚悟も情熱も、結局自分にはなかったのだと思い知ることになりました。

    それでも「自分で言い出したのだから」「高いギターなのだから」と、何年も言い出せないまま、呪いのように引きずることになりました。

    どちらの挫折もエピソードとしてはあまりに弱いものです。挫折経験も大したものがない——それが、当時からの長く沁みついた、僕の自己認識でした。

    だから僕は、周りと調和する方向性を意識するようになりました。不利な状況や不条理な場面を、とにかく回避すること。「立ち回り」に特化して生きることにしたのです。

    期待に応えるのは、得意なほうだったと思います。誰かが望む自分を演じているうちは、少なくとも嫌われないし、波風も立てずに済みます。けれどそうしているうちに、「自分が本当は何をしたいのか」を感じ取る力そのものが、少しずつすり減っていったのでしょう。

    自分ではなく「みんな」で立つ集団制作

    転機となったのは、高校のSF同好会でした。映像制作に関わって、調和や人の良さを活かし、一人では届かないものを皆で創りあげる——その集団制作の楽しさに、すっかり夢中になりました。

    同好会で制作した映像作品は映画甲子園で賞をいただき、それは確かな自信になりました。いま思えばあの頃から、僕は「自分の名前」で立つよりも、「みんなで」立つほうが、ずっと呼吸がしやすかったのだと思います。

    その後、大学ではシステムエンジニアの学科を選びました。社会的に安定した生活を得やすい職種に逃げた「立ち回り」です。しかし、気がつけばそこでもサークル活動としてCGの映像制作を行っていました。

    クリエイティブの分野に優劣はないですし、このときの選択のおかげで、プロジェクションマッピングや3DCGの大型案件に関わる機会にも恵まれました。

    それでも、心のど真ん中で勝負できていない、「自分はまた逃げた」という想いが、消えないキズのように残り続けていました。

    「30歳の呪い」と、安全な場所から降りる日

    明確に何かが変わったのは、27歳のときです。
    大手クリエイティブカンパニーを辞め、会社員と個人事業主を兼ねる生活も終え、個人事業主一本になったタイミングでした。

    このまま「デザイナー」として依頼を受け続けた先に、自分の未来はあるんだろうか。本当にやりたいことは、いまの仕事の延長から少しずつ離れていく——その感覚が、おぼろげながら確かに日々色濃くなっていきました。

    仕事の予定が入っていない真っ白なカレンダーを見るたびに、不安と焦りがこみ上げます。それでも、安全な場所でただ依頼を待っているだけの自分には、もう戻りたくない…。

    焦りに呑まれそうになっていたとき、ふと、大学時代にイベントで関わったアーティストの方々の言葉が聞こえた気がしました。

    「30歳までに『アーティスト』としての方向性を打ち出さなければ、
    創作の道は終わる」

    僕なりの勝手な区分けですが、「デザイナー」は依頼に対して期待を上回るアウトプットを返す仕事。「アーティスト」は自分の内なる衝動の発露だと思っています。

    デザイナー的な仕事も僕は大好きです。反応がわかりやすいし、手ごたえも感じやすいです。ですが、その先でどう生き残るかが、どうしても見えずにいました。

    これは仕事やスタンスにおける優劣の話ではありません。自分がこの業界で生き残り、軸と幅を広げるために、絶対に必要なこと——そう言い聞かせて、仕事がない時期に、いや、仕事がない時期だからこそ、すべて持ち出しで自主制作アニメに没頭する決断をしました。

    「怖くなかった」と言えば嘘になります。ですが、多くの方のご協力もあって作品は無事に公開され、新しいお仕事にも声をかけていただきました。そのクライアントさんとは、公開から4年以上たったいまもご一緒させてもらっています。

    そして何よりうれしかったのは、「この作品に関わったことがきっかけで、新しい仕事やコラボにつながった」というメンバーの報告でした。

    集団制作の素晴らしさを掲げる以上、関わってくれた一人ひとりにとっても良い体験であってほしい。自主制作を始めた当初からの願いが少しだけ形になり、改めてこのプロジェクトを始めてよかったと思えました。

    ▽2021年12月10日に公開したno.1本編▽

    玉座ではなく、「雪玉スノーボール」と一体になる

    プロジェクトのメンバーからよく言われることがあります。「上平さんには、『私を見て』とか『どうだ、すごいだろ』みたいな感じがない」と。

    その通りだと自分でも思います。主張がぶつかる場面は苦手で、エゴを貫くなんてできません。そもそも「自分を見てくれ」という欲も、あまりありません。いや、「全くない」とは言い切れませんが、それよりも僕の中には「審判を受けたい」という気持ちのほうが圧倒的に強いのです。

    この「評価を確定させること」は、アーティストとしての自分を追い込んだあのときに決めた、自分の重要な指針でもありました。

    プロの目に触れ、作品を一般に公開して、たくさんの人に見てもらい評価してもらうこと。怖いからといって、ふわっとした「未確定」のままにしておかないと決めたのです。

    評価を確定させるのは、今でももちろん怖いです。でもそれは、いろんな意見や感想をいただいて、「自分の作品をより早く、より良い方向へ持っていける」ということでもあります。

    不思議なもので、最も怖かったはずの「評価される」ことが、結果として僕を最も自由にしてくれました。判断を下されないままふわふわと宙に浮いているより、白黒つけてもらえるほうが、ずっと前に進めます。

    関わる人を増やしたい。だから制約がある中でも、予算や環境を少しでも良いものにして届けたい。
    そうした想いを大切にし続けた結果、第一線で活躍するプロの方々もプロジェクトに加わってくれるようになりました。

    多くの人の目が入り、多くの手が加わるほど、作品のクオリティは上がっていきます。そして関わってくれた人にとっても、次の仕事やコラボの、いいきっかけの場に繋がりやすくなります。

    坂を転がるうちに大きくなる雪玉のように。これが、合同会社PLANEONの考え方であり、自主制作アニメ『HUEMAN』で僕が大切にしていることです。

    未来を「確定」させる、あなたの中のアーティストへ

    本当にやりたいことって何だろう——もしそうした思いがよぎる頻度が増えてきたら、一度しっかり時間を取って考えてみるのもいいと思います。

    ただ、僕みたいに仕事のない時期に自分を追い込むやり方は、精神衛生上あまりお勧めできません。ただ、悩むことよりも「没頭することが効果的な局面や時期がある」というのが僕の実感です。

    あるいは、まとまった時間が取れなくても、いまは「アーティストデート」や「モーニングページ」など、やりたいことに出会うための方法がたくさん紹介されています。自分に合うやり方を見つけやすい時代だと言えます。

    正直、僕もずっと正しい「ジャッジ」や「評価」を受けるのが怖かったです。ですが、それでも一歩を踏み出せること自体が、その分野が自分にとっての「アーティスト」になれるかどうか、最初の見極めポイントなのかもしれません。

    もどかしさややるせなさを抱えながら、キャリアに悩むクリエイターやビジネスパーソンの——その背中を、ほんの少しでも押せたなら、これほどうれしいことはありません。

    合同会社PLANEON 代表社員 上平康太
    『HUEMAN』プロジェクト 総監督 黒鷹


    HUEMAN 公式HP

    「HUEMAN」制作秘話などのインタビューに黒鷹が答えるシリーズ

    #創作大賞2026
    #エッセイ部門


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