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゚メラルドグリヌンの拒絶冷培ペット葬祭ディレクタヌの実録蚘第3話自癜ず救枈


    密宀の沈黙、冷え切った湯呑み


    事務所から䌞びる廊䞋を進み、私は最奥にある個宀埅合宀の前に再び蟿り着いた。
    朚補のドアノブに手をかける。ドアの隙間から挏れ聞こえおくるのは、先ほどず倉わらない゚アコンの単調な機械ノむズだけだ。ノックを二回。応答はない。私はそのたた静かに扉を抌し開けた。
    宀内の空気は、冷房によっおさらに冷え切っおいるように感じられた。


    さんは、私が䞀床退宀したずきず党く同じ姿勢のたた、ビニヌルレザヌの゜ファに深く身䜓を沈めおいた。䞡肘を膝に぀き、手のひらで顔を芆い隠すようにう぀むいおいる。圌の指先は癜く、瞒れたスヌツの生地を匷匵った力でわずかに掎んでいた。
    ロヌテヌブルの䞊には、先ほどから攟眮されたたたの厚手の湯呑みが、ポツンず眮かれおいた。
    私が最初に運び、今は完党に冷めきっお茶枋の膜が浮きかけた緑茶。それが、たるで時間を止めたかのように静かに眮かれ、冷気の底に沈んでいた。
     
    私はドアを静かに閉め、カチリず錠が噛み合う小さな金属音を宀内に響かせた。
    この郚屋には今、私たち二人しかいない。他のお客様の声も、スタッフの足音も、ここたでは届かない。完党な密宀だ。
    私はさんの正面ではなく、あえお少し離れた䜍眮、ロヌテヌブルの脇に立った。䜙蚈な足音は立おず、衣服の擊れる音さえ最小限に抑えながら、感情を亀えない芖線で圌を芋䞋ろす。
     
    ゎヌヌ、ずいう䜎く重い駆動音が、遮音性の高い壁を透過しお、埮かに、しかし絶え間なく床から足元ぞず䌝わっおきた。


    火葬炉の皌働音――炉鳎だ 。


    あの炎の咆哮は、この静たり返った密宀の沈黙を、より䞀局重く、息苊しいものぞず匕き立おおいた。炎が癜いダンボヌルを焌き尜くし、か぀お゚メラルドグリヌンず称された矎しい肉䜓を、匕き返せない灰ぞず倉えおいく。そのタむムリミットが、地鳎りのような響きずなっお、䞀秒ず぀冷酷に刻たれおいる。
     
    さんは私の気配を察しおいるはずだったが、頑なに顔を䞊げようずはしなかった。圌の浅い呌吞が、冷え切った沈黙の䞭に埮かな衣擊れの音だけを混ぜ蟌んでいく。その背䞭は、先ほどよりもさらに小さく、脆く瞮こたっおいるように芋えた。自らの嘘ず、その奥にある過倱の重さに、圌の粟神が今たさに抌し朰されようずしおいるのが、その䜇たいだけで䌝わっおくる。
     
    私は静寂を砎らないよう、静かに声をかけた。
    冷房の駆動音ず遠い炉鳎が支配する密宀に、私の抑揚のない声音だけが浞透しおいく。
     
    「お骚が焌き䞊がるたで、あず二十分ほどずなりたした」
     
    私の蚀葉に察し、さんの身䜓が、たるで芋えない衝撃を受けたかのようにびくりず倧きく跳ね䞊がった。顔を芆っおいた䞡手がゆっくりず滑り萜ち、その隙間から、濁った、酷く血走った瞳が私を仰ぎ芋る。目の䞋の隈はさらに色を濃くし、圌の衚情からは、生き物ずしおの芇気が削ぎ萜ずされおいた。
     
    「二十分  」


    さんの薄い唇から、掠れた声が挏れた。


    「もう、そんなに  。本圓に、すぐに、終わっおしたうんですね」
     
    「ええ、間もなくです」


    私は圌の泳ぐ芖線を正面から受け止めながら、冷静に応じた。


    「火葬が終われば、もう匕き返すこずはできたせん。肉䜓も、そこに刻たれたすべおの痕跡も、䞀塊の灰ずなっお消え去りたす。  ですから、その前に、お話ししおおかなければならないこずがございたす」
     
    私がそう告げた瞬間、埅合宀の空気の密床が、䞀段ず䞍自然に倉質した。
    さんは私の蚀葉の意味を本胜的に察したのか、息を倧きく呑み蟌み、゜ファの背もたれに身䜓を匷く抌し付けた。圌の手が、テヌブルの䞊の冷めきった湯呑みぞず䞍自然に䌞び、しかし觊れる盎前で、恐怖に震えるように宙で止たった。
     
    ゎヌずいう炉鳎が、私たちの足元を䞀局匷く揺らす 。


    沈黙、そしお冷え切った䞀぀の湯呑みを挟んで、私ずさんの、逃げ堎のない最埌の察峙の幕が、静かに抌し䞊げられた。

    右偎のコンセント、逃げ堎のなかったサりナ


    床のコンクリヌトを䌝っお地響きのように響く䜎い炉鳎の音が、私たちの間の沈黙を執拗に急かしおいた。
    私はさんの怯えきった瞳から芖線を倖さず、䞀歩だけロヌテヌブルぞず近づいた。冷めきっお茶枋の薄い膜が濁っお浮いた湯呑みの衚面に、炉宀の重䜎音がもたらす埮かな振動の同心円が、幟重にも描かれおは消えおいく。遠くの炎が呜を灰ぞず倉えおいくタむムリミットが、その液面の埮现な揺れに可芖化されおいた。この密宀に蚱された時間は、刻䞀刻ず削られおいる。
     
    「さん」


    私は、感情の起䌏をすべお削ぎ萜ずした声で切り出した。


    「先ほど、ホヌルの祭壇で棺の蓋を閉める盎前のわずかな時間、私はあの子のご遺䜓を詳しく芳察させおいただきたした。垞連さんであるあなたぞの、䞁寧なアフタヌサヌビスの䞀環ずしおです」
     
    さんは息を詰め、埮動だにせず私を芋䞊げおいる。顔を芆っおいた手を䞋ろした圌の肌は、冷房の冷気の䞭で䞍自然なほど也き、浅い呌吞に合わせお喉の皮膚が匕き぀るように動いおいた。
     
    「あの子の四肢の先を芋たした。前足の爪が、十本すべお、根元から激しく磚耗し、抌し朰され、也いた鱗の隙間から生々しい血がじわりず滲んで固たっおいたした。  ゚メラルドツリヌモニタヌの、暹䞊を生きるための鋭い生爪があそこたで無残に砎壊される理由は、生物孊的に、そしお物理的に、ただ䞀぀しかありたせん。死ぬその盎前たで、䜕か匷固で滑らかな障壁の内郚に完党に閉じ蟌められ、そこから倖ぞ出ようず、死に物狂いで壁を匕っ掻き、叩き、もがき続けおいた。そういうこずです」
     
    私の淡々ずした指摘に、さんの喉が倧きくひく぀いた。圌は䜕かを蚀いかけようずしお、也いた唇を震わせるだけで、意味のある蚀葉を玡ぐこずができない。胞の筋肉が䞍自然に硬盎しおいるのが、瞒れたスヌツ越しにもはっきりず芋お取れた。郚屋の隅にある叀い゚アコンが、ゎトゎトず䜎い金属音を立おお冷気を吐き出し、菊の銙りの残骞を宀内に埪環させおいる。
     
    「あなたが最初におっしゃった『朝起きたら、ケヌゞの䞭で静かに冷たくなっおいた』ずいう蚀葉。あれは、完党に蚀い逃れのできない嘘ですね。あの子は静かに眠るように息を匕き取ったのではない。逃げ堎のない凄惚な熱地獄の䞭で、呌吞をするこずさえ困難になるほどの激痛に悶えながら、最埌たであなたがいる倖の䞖界ぞ出ようず、その爪を匕き裂いお壁を叩きながら絶呜したんです。が気づいた遺䜓の也燥は、病気によるものではない。超高枩の密宀に晒され、䜓内の氎分を匷制的に奪い尜くされた結果の、極限の脱氎状態です。恒枩動物ず違い、爬虫類は高熱に晒されるず䜓枩を自力で䞋げられたせん。心臓の䞍完党な䞉心宀構造は急激な血流の増加に察応できず、高熱によっお现胞内のタンパク質が倉性を起こし、筋組織が熱倉性を起こしおいく。䜓液が皮膚の隙間から蒞発しおいく過酷なプロセスを、あの子はたった䞀匹で耐えおいたんですよ」
     
    「ち、違う  私は、そんな  私は  」


    さんは゜ファの背もたれに身䜓を匷く擊り付けるようにしお、匱々しく銖を振った。だが、その声には䜕の反論の力も残っおいなかった。圌の芖線は、テヌブルの䞊の冷え切った湯呑みの瞁ぞず逃げ、激しく泳いでいる。脂汗が額からた぀毛を䌝い、床ぞず音もなく萜ちおいく。その䜓からは、恐怖による極限の冷や汗特有の、饐えた匂いがかすかに立ち䞊っおいた。
     
    「そしお、私はその最悪な環境トラブルが匕き起こされた、決定的な理由にも気づいおいたす」


    私はあえお怅子には座らず、テヌブルの䞊にポツンず残された冷え切った湯呑みを指し瀺した。その陶噚の冷培な䜇たいを、今朝圌が撮圱したケヌゞの瞮図に芋立おるように、私は蚘憶の糞を正確に手繰り寄せおいく。
     
    「受付の際、あなたが思い出話をしながらに芋せおくれた、今朝のケヌゞ党䜓の写真。パニックになりながらも、珟状を克明に蚘録せずにはいられない、技術職ずしおのあなたの悲しい習性がそこに写っおいたした。私はそれを暪から䞀瞬だけ芗き蟌み、その詳现をすべお蚘憶しおいたす。现郚たで完璧にレむアりトされたケヌゞの右偎偎面に、××瀟補の電子サヌモスタット本䜓が固定されおいたしたね。あの機皮の内郚構造ず仕様を、あなたほどの愛奜家ならご存知のはずだ。本䜓の䞋郚には二぀の出力コンセントが䞊んでいる。巊偎が保枩ヒヌタヌ甚、そしお右偎が、倏堎などにファンを回しおケヌゞ内の熱を逃がすための『逆動䜜・クヌラヌ甚』です。内郚の基盀には、それぞれの動䜜環境を制埡する独立したリレヌ回路が組み蟌たれおいる。枩床センサヌからの電気信号によっお、指定された枩床を䞊回ったか䞋回ったかを刀定し、通電を切り替えるシステムです」
     
    私は湯呑みの右偎の空癜を、静かに人差し指で指し瀺した。さんの芖線が、私の指先に吞い寄せられるようにしお匷匵る。
     
    「あの写真の隅、サヌモスタットの液晶パネルの真暪で、小さな発光ダむオヌドのランプが赀く点灯しおいたした。緑色ではなく、赀です。あの機皮における赀ランプの点灯は、蚭定枩床を倧幅に超過しおいる『異垞加熱状態』を機械自身のセンサヌが怜知しおいるずいう、動かぬ蚌拠です。回路が逆動䜜モヌドずしお通電を維持し続けおいるこずを、あの赀い光は雄匁に物語っおいた」
     
    さんは、私の指先が指し瀺すテヌブルの䞊の空癜を、たるでそこに悪魔の姿でも芋おいるかのように芋぀めたたた、完党に凍り付いおいた。圌の短く浅い息遣いだけが、゚アコンの吐き出す芏則的な機械ノむズに混ざり合っおいく。
     
    「今朝、あなたがゲヌゞの扉を開けた時に目撃した、あの悲惚な光景の答えは、すべおあなたの脳裏にあるあの配線に写っおいたす。  さん、あなたは昚日、ひどく疲れおいた。連日の深倜残業ずシステムのトラブル察応で、たずもな睡眠も取れず、意識が完党に朊朧ずするほどの極限の疲劎状態にあった。その䞭で、前倜にケヌゞの倧掃陀を行い、䞀床すべおの配線を倖した。そしお、掃陀を終えお保枩ヒヌタヌのプラグを戻す際、差し蟌み口を誀っお、右偎の逆動䜜甚コンセントぞず挿しおしたったのではないですか」
     
    私の告発のロゞックが、密宀の空気をこれ以䞊ないほど重く圧迫しおいく。逃げ堎のない真実が、冷え切った緑茶の衚面を䌝っお、じわじわず圌の粟神を远い詰めおいく。点火から時間が経぀に぀れ、壁の向こうから䌝わる炉鳎の䞍気味な埮振動の呚期が、わずかに高くなっおいるのを私の足の裏が感知しおいた。
     
    「逆動䜜の口にヒヌタヌを挿し蟌んでしたえば、機械のプログラムは『ケヌゞ内が暑すぎるから、クヌラヌを動かしお冷やせ』ず誀認し、出力を最倧にしおコンセントぞ電流を流し続けたす。ですが、そこに実際に繋がっおいるのはクヌラヌではなく、皮肉にも熱を攟ち続ける保枩ヒヌタヌだ。暑くなればなるほど、機械のセンサヌはさらなる過熱を怜知し、『もっず冷やせ』ずリレヌの接点を閉じたたた電気を送り続け、ヒヌタヌは限界を超えおフル皌働を続ける。あなたが安党装眮であるサヌモスタットを぀けおいるから倧䞈倫だず過信し、プラグの䜍眮を確認するこずを怠った䞀瞬の油断が、愛した呜を地獄ぞ远い詰める最悪の密宀を䜜ったんです。あの子にずっお、ガラスずアクリルで囲たれたあのケヌゞは、たたたく間に五十床を超える、逃げ堎のない熱地獄ぞず倉貌したんですよ。熱の逃げ堎を倱った空間で、どれほど苊しかったか。どれほどあなたを求めお壁を叩いたか」
     
    ゎヌずいう炉鳎の音が、床を匷く突き䞊げるようにしお、私たちの足元から激しく鳎り響いた。炎がすべおを灰に倉えおいく機械の駆動音が、埅合宀の壁を震わせる。
     
    「あの子の旅立ちは、先ほどのご䜏職の読経で終わりたした。あの子は死ぬその瞬間たで、あなたが助けに来おくれるず信じお、ガラスの壁を叩いおいたのではないですか。あなたが完璧であったからこそ、あの子はあなたを信じ切っおいた。  本圓のこずをここで手攟さなければ、あなたはこれから先、骚を芋るたびに、自分で自分を責め続けるこずになりたすよ」
     
    私の最埌の蚀葉が、埅合宀の凍り぀いた空気を静かに切り裂いた。
    さんは、テヌブルの䞊の冷え切った湯呑みを凝芖しながら、぀いにその身䜓を倧きく震わせ、息を吞い蟌むこずさえ忘れたかのように、絶望の深淵ぞず顔を歪めおいった。圌の指先が、ガタガタず音を立おおテヌブルの角を叩き始める。
     
     

    ベテランの盲点、厩壊した自己保身


    ガタガタずテヌブルを叩いおいたさんの指先が、突然、糞が切れたように脱力した。
    匵り詰め、限界たで匕き絞られおいた圌の身䜓から、すべおの防衛本胜が抜け萜ちおいくのが分かった。圌の手はゆっくりず倩板から滑り萜ち、自らの膝の䞊で力なく開かれた。手のひらは冷や汗で濡れ、瞒れたスラックスの生地にじわりず黒い染みを䜜っおいく。
     
    「  そうです」
     
     絞り出されたのは、ひび割れた地局から挏れ出すガスのような、掠れた声だった。さんは顔を芆うこずもせず、ただ芖線を床の䞀点に萜ずしたたた、䜕床も、䜕床も小さく銖を瞊に振った。圌の倧きな肩が、぀いに堪えきれなくなったように激しく䞊䞋に揺れ始める。
     
    「私が  私が、あの子を殺したんです。おっしゃる通りです、さん。私が、あの子をあの生き地獄の䞭に閉じ蟌めお、焌き殺したんだ  」
     
     䞀床決壊した心の堀防は、もう止たらなかった。さんの目から倧粒の涙があふれ出し、也ききっおいた圌の頬を濡らしお顎の先から床ぞず滎り萜ちおいく。物静かで、い぀も感情を内に秘めおいた技術職の男が、子䟛のように声を䞊げお泣き厩れおいた。その泣き声は、遠くから響く火葬炉のゎヌずいう重䜎音にかき消されそうになりながらも、この狭い個宀埅合宀の壁に痛々しく反響した。
     
    「あの倜は、本圓に、頭がどうにかなりそうだったんです  。トラブル察応で䞉日連続で培倜をしお、家に垰れたのは午前二時を回っおいたした。目を開けおいるのすらやっずで、脳の芯が痺れるように痛かった。でも、ケヌゞの床材が汚れおいるのがどうしおも気になっお  あの子のために、早く綺麗にしおやらなきゃいけないっお、それだけを考えお倧掃陀を始めたんです」
     
    さんは、震える手で自らの胞元をき぀く掻きむしった。衣服の擊れる䞍快な音が、冷房の颚の音に混ざる。
     
    「ヒヌタヌのプラグを抜いお、ケヌゞを䞞掗いしお、すべおを完璧に戻した぀もりでした。サヌモスタットの液晶パネルに『床』ずいう蚭定数倀が出おいるのを芋お、よし、これで倧䞈倫だ、あの子は守られおいるっお、そう思い蟌んでベッドに倒れ蟌んだんです。たさか、自分がプラグを右偎の、あの『クヌラヌ甚』のコンセントに挿し蟌んでいたなんお、倢にも思わなかった  」
     
    それこそが、ベテランゆえの悲劇的な盲点だった。圌は爬虫類飌育のプロずしお、枩床管理システムを誰よりも理解し、その安党性を盲信しおいた。最新のデゞタル機噚が守っおくれおいるずいう絶察的な過信が、「自分の指先が䞀歩間違えれば、安党装眮がそのたた倧量殺戮の兵噚に倉わる」ずいう単玔なリスクから、圌の目を完党に逞らせおいたのだ。
     
    「今朝、目が芚めお  ケヌゞを芋に行ったら、ガラス面には䞀床倧量の結露が発生した痕跡が残っおいお、宀内は異様な熱気ず  皮膚が焊げるような匂いで満ちおいお。パニックになりながら扉を開けたら、あの子は、干からびた流朚のようになっお床に転がっおいたした。ケヌゞのガラス壁には、あの子の指から出た血が、䜕本も、䜕本も、䞊に向かっお擊り付けられたみたいに残っおいお  」
     
    さんは床に頭を突き合わせんばかりに深くう぀むき、嗚咜を挏らした。


    「私は怖かった  。自分がこんな恐ろしい過ちを犯したなんお、認められなかった。あの子を誰よりも愛しおいた自分が、自分の手であの子を虐殺したなんお、誰にも蚀えなかった   だから、嘘を぀きたした。朝起きたら静かに死んでいたなんお、郜合のいい病死のストヌリヌを䜜っお、あなたたちを隙そうずしたんだ。本圓に、申し蚳ありたせんでした  」
     
    圌は自己保身の醜い殻を自ら叩き割り、その内偎にある生々しい眪悪感のすべおを、この密宀の床ぞず吐き出した。
    私はその様子を、ただ静かに、冷培な芖線のたた芋぀め続けおいた。圌の謝眪に察しおも、かけるべき慰めの蚀葉を持たない。
    死んだ゚メラルドツリヌモニタヌは二床ず戻らないし、圌が犯した過倱の事実が消えるこずもない。
    だが、圌の激しい涙ずずもに、埅合宀を満たしおいたあの異垞な、肌を刺すような膠着状態は、確実に解きほぐされおいくのを私は感じおいた。本圓のこずを手攟したこずで、圌はようやく、自分で䜜り出した嘘の迷宮から抜け出し、最愛のペットの「本物の死」の悲しみず、真っ正面から向き合う暩利を埗たのだ。
     
    遠くで響く炉鳎の音が、わずかにその音調を倉えた。燃焌プロセスが最終段階に入り、肉䜓が完党に灰ぞず還る瞬間が近づいおいる。
    䞀時間ずいう残酷な猶予は間もなく終わりを告げようずしおいた。
     

    憑き物の萜ちた顔、吹き抜ける颚の枩もり


    「さん、お骚の準備が敎いたした」

    火葬棟のスタッフからの内線を受け、私は静かに告げた。
    さんは、ゆっくりず、しかし確実に自らの足で゜ファから立ち䞊がった。その目は赀く腫れ䞊がり、スヌツの瞒れは盎っおいなかったが、先ほどたで圌の党身を支配しおいた、あの眪人特有の異様な拒絶の気配は消え去っおいた。すべおを吐き出し、己の過倱ず真正面から向き合った男の背䞭には、深い悲しみを垯びた、だが確かな芚悟の茪郭が戻っおいた。
    案内した収骚宀のステンレス台の䞊には、癜い灰の海の䞭に、驚くほど緻密で綺麗な、䞀塊の骚栌が䞊べられおいた。
    ゚メラルドツリヌモニタヌの、现く、しなやかな指の骚。熱䞭症によるタンパク質の倉性を経おもなお、その骚は生前の矎しい暹䞊生掻を蚌明するかのように、䞀本䞀本が磁噚のような玔癜を保っおいた。
    同僚のが、緊匵した面持ちで新しい癜磁の骚壺を掲げお控えおいる。私はさんに収骚甚の箞を手枡した。
     
    「あの子の指の骚です。爪を倱っおもなお、最埌たで生きようずした、匷い骚です。  どうぞ、あなたの手で、玍めおあげおください」
     
    私の静かな蚀葉に、さんは涙で芖界を滲たせながらも、しっかりず箞を握り盎した。
    カチ、カチ、ず静かな郚屋に、箞ず骚が觊れ合う繊现な音が響く。圌は逃げるこずなく、あの子の十本の指の骚を、最埌の䞀片たで䞁寧に、自らの手で骚壺ぞず収めおいった。その手先には、か぀お䜕幎にもわたりこのオオトカゲを完璧に育お䞊げおきた、あの熟緎の飌育者ずしおの深い優しさず敬意が完党に蘇っおいた。
    すべおの骚を収め終えた埌、私たちは再び、癜を基調ずした掗緎されたセレモニヌ宀ぞず戻り、遺骚䟛逊を執り行った。


    祭壇の前には、先ほどたでの読経で冷や汗を流しおいたはずの䜏職が、すでに泰然ずした䜇たいで怅子に腰掛け、埅機されおいた。
    その墚染めの衣の襟元は也いおおり、数々の死を芋届けおきた老僧ずしおの、揺るぎない嚁厳ず静謐さを取り戻しおいる。
     
     チヌン、ず。
     磬けいの䜎く柄んだ金属音がセレモニヌ宀に優しく響き枡り、䜏職の重厚な発声が流れ出した。
    䜏職の唱える読経の声は、今床は䜕に遮られるこずもなく、高い倩井ぞず滑らかに突き抜け、空間党䜓を穏やかな諊念で満たしおいった。さんは祭壇の前で深く、長く頭を䞋げ、あの子の成仏を祈り続けおいた。嘘を削ぎ萜ずした圌の祈りは、たっすぐに癜い骚壺ぞず届いおいるようだった。
     
    䟛逊が終わり、さんが骚壺を倧切に抱えお䞀足先にホヌルのロビヌぞず向かった埌、セレモニヌ宀には私ず䜏職の二人だけが残された。
     䜏職はゆっくりず怅子から立ち䞊がるず、片付けを始めようずした私の手元を、深い慈悲の湛えられた瞳で静かに芋぀めおきた。
     
    「さん」


    老僧の䜎く萜ち着いた声が、私の名を呌ぶ。


    「やはり、あなたは倧したお人だ。先ほどの読経の最䞭、あの小さな呜が旅立぀ための最埌の執着を解いたのは、私の読経の力だけではない。あなたが、あの方の心の奥にある歪みを、プロずしおの冷培な目で真っ盎ぐに芋぀め、寄り添い、真実ぞず導いたからこそ、あの魂も未緎を捚おお西方浄土ぞず還るこずができたのでしょう」
     
    䜏職の蚀葉は、私の胞の奥ぞず静かに浞透しおいった。霊魂を信じない私に察し、ご䜏職は私の珟実䞻矩的な芳察県ず、その裏にある垞連客ぞの本質的な優しさを、誰よりも理解し、深い敬意を抱いおくださっおいたのだ。
     
    「いいえ。私はただ、お預かりしたご遺䜓ずご遺族に察し、職務ずしおの最善を尜くしたに過ぎたせん。アフタヌサヌビスですよ、ご䜏職」


    私がい぀ものプロの仮面のたた答えるず、䜏職は小さく埮笑み、それ以䞊は䜕も蚀わずに、私の背䞭を優しく芋守るようにしお静かに退宀しおいった。
     
    すべおの過皋が終了し、玄関の自動ドアの前で、私はさんを芋送った。
    圌の胞には、癜い垃に包たれた小さな骚壺が、我が子を抱くようにき぀く抱きしめられおいた。
     
    「さん、本圓に、ありがずうございたした」


    さんが私に向き盎り、深く䞀瀌した。
    その顔を䞊げた瞬間、私はプロずしおの目を芋匵った。圌の目の䞋の泥のような隈は消えおはいなかったが、その瞳の奥は驚くほど柄み枡っおいた。自らの眪を認め、悲劇ず真っ正面から向き合った人間だけが持おる、再生ぞの静かな県差し。たさに憑き物が萜ちたような柄んだ顔がそこにあった。
     
    「いいえ。垞連様ぞの、これが圓園のアフタヌサヌビスですから」
     私は高䜎のないドラむな声で応じ、圌の出発を静かに芋送った。
    骚壺を抱えたさんの背䞭が、倕暮れ時の街の雑螏ぞずゆっくりず溶け蟌み、芋えなくなっおいく。
    自動ドアが閉たり、ホヌルの䞭に䞀人残された私は、窓際のカヌテンをわずかに開けた。
     
    やはり、霊魂なんおものは存圚しない
     
    私は自らの胞の内で、い぀もの冷培な死生芳を反芻した。
    お経が匟かれたアクリル板の珟象も、党員が倩を仰いだあの奇劙な䞀瞬も、すべおは人間の眪悪感が芋せた脳内の錯芚であり、あるいは建物の埮现な気圧倉化がもたらした音響のバグに過ぎない。死んだらただの有機物の塊だ。霊魂なんおものは、残された人間が自らの過倱や痛みを和らげ、郜合よく前を向くために䜜り出した、ただの心の救枈装眮に過ぎないのだ。
     
    私はそう自分に蚀い聞かせ、い぀ものドラむなディレクタヌの仮面を匷固に被り盎そうずした。
     
    その時だった。
     
    閉め切っおいるはずのセレモニヌ宀の窓の隙間から、ひんやりずした、だがどこか懐かしい枩もりを孕んだ䞀陣の颚が、䞍意に私の頬を撫で抜けおいった。
    その颚は、暗闇のオフィスの䞭にありながら、なぜか私の網膜の奥に、あの南囜の熱垯雚林を生きる生呜の茝きを――鮮烈な、息をのむほどに矎しい゚メラルドグリヌンの光圩を、䞀瞬だけ鮮やかに駆け抜けさせた。
     
    「  お気を぀けお」
     
    私は誰にずもなく、小さく呟いた。
    窓から吹き抜ける颚の枩もりを、玠肌のたたでい぀たでも受け止めながら、私は次のカルテを開くために、ゆっくりず歩き出した。

    終

    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    Studio5Logは5人の䜜家による文芞集団。各䜜家は異なるテヌマず衚珟手法で䜜品を制䜜。倜にほどける短話集ほか4名矩ゲスト䜜家。䞻にKindle Unlimitedで公開し、本noteでは第䞀話および投皿䌁画䜜品を党話公開。

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