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#創作大賞2026応募作 短篇小説『6月16日』

    『あらすじ』
    牛乳を買い忘れ、傘をなくし、コピー機の前で立ち尽くす。
    どこにでもいるような一人の人物の日常が、淡々と綴られていく。
    ただ一つ奇妙なのは、日記の日付がすべて未来であること。
    思い出せない昨日。
    何度も繰り返される出来事。
    そして、いつもそばにいる佐藤さん。
    忘れっぽいだけだと思われた日常は、少しずつ違う顔を見せ始める。

    これは生きづらさの物語なのか。
    それとも世界のほうが壊れているのか。

    一年後の6月16日に向かって綴られる、静かな日記小説。

    第一幕

    6月17日

    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    牛乳はなかった。




    6月18日

    洗濯をしようと思った。
    洗剤がなかった。
    昨日買うつもりだった。
    ドーナツはまだあった。




    6月19日

    会社へ着いてから気づいた。
    靴が左右違った。
    誰も何も言わなかった。




    6月20日

    冷蔵庫を開けた。
    牛乳がなかった。
    そうだったと思った。




    6月21日

    コピー機が止まった。
    どうしたらいいか分からなかった。
    佐藤さんが来た。
    動いた。




    6月22日

    傘を買った。
    透明だった。
    名前を書こうと思った。
    忘れた。




    6月23日

    昼ご飯を温めた。
    温めたまま帰りそうになった。
    佐藤さんに呼ばれた。




    6月24日

    ペンがなかった。
    探した。
    机の上にあった。
    三回探した。




    6月26日

    電車で本を読んでいた。
    降りる駅を通り過ぎた。
    本は面白かった。




    6月28日

    ゴミの日だった。
    昨日気づいていた。
    今朝忘れた。




    7月1日

    佐藤さんがチョコをくれた。
    机に置いてあった。
    私のか分からなかった。
    食べた。




    7月4日

    財布がなかった。
    冷蔵庫にあった。
    理由は分からない。
    冷蔵庫には牛乳もなかった。




    7月6日

    スーパーへ行った。
    メモを持っていった。
    メモを見ずに帰った。
    メモには何が書いてあったのだろう。




    7月9日

    今年も半分終わったらしい。
    昨日知った。
    今日も少し驚いた。




    7月12日

    新しいノートを買った。
    どこに置いたか忘れた。
    古いノートに書いている。




    7月14日

    佐藤さんが休みだった。
    コピー機が少し怖かった。




    7月17日

    お弁当を忘れた。
    佐藤さんがパンをくれた。
    お礼を言った。
    二回言った気がする。




    7月20日

    アイスを買った。
    冷凍庫に入れ忘れた。
    飲み物みたいになっていた。




    7月24日

    牛乳を買った。
    賞味期限が昨日だった。




    7月28日

    会社の人の名前が出てこなかった。
    三年くらい一緒にいる気がする。
    違うかもしれない。




    8月1日

    短冊を書く機会があった。
    何を書こうか考えた。
    時間が終わった。




    8月4日

    佐藤さんが机にお菓子を置いていた。
    私のではなかった。




    8月7日

    スマホを探した。
    スマホのライトで探した。
    見つかった。




    8月10日

    スーパーでレジに並んだ。
    かごを持っていなかった。




    8月13日

    洗濯物を干した。
    取り込むのを忘れた。
    雨だった。




    8月18日

    カレーを作った。
    二日分のつもりだった。
    四日分あった。
    五日目も残っていた。




    8月22日

    佐藤さんに
    「大丈夫ですか」
    と聞かれた。
    何のことか分からなかった。
    大丈夫だと思った。




    8月27日

    会議があった。
    窓の外に鳥がいた。
    鳥のことを考えていた。
    名前を呼ばれた。
    驚いた。




    8月31日

    傘が二本あった。
    どちらも私のか分からなかった。




    9月4日

    今日の日付を書くのに時間がかかった。
    昨日が何日だったか思い出せなかった。
    スマホを見た。
    三回見た。




    9月8日

    牛乳を買った。
    帰ってきた。
    ドーナツがあった。
    牛乳はなかった。




    9月12日

    佐藤さんが
    「またですか」
    と言った。
    何のことか分からなかった。
    私も少し笑った。




    9月17日

    冷蔵庫を開けた。
    牛乳がなかった。
    そうだったと思った。
    どこかで見た文章だと思った。
    気のせいかもしれない。




    9月23日

    今日は静かだった。
    佐藤さんはいた。
    コピー機も動いていた。
    特に何もなかった。
    たぶん良い日だった。


    第二幕

    10月3日

    佐藤さんが
    「また牛乳ですか」
    と言った。
    何のことか分からなかった。




    10月8日

    牛乳を買った。
    帰ってきた。
    ドーナツがあった。
    牛乳はなかった。




    10月11日

    どこかで見た気がした。
    気のせいだったと思う。




    10月17日

    佐藤さんが笑っていた。
    理由を聞いた。
    「いえ」
    と言われた。




    10月23日

    冷蔵庫を開けた。
    牛乳がなかった。
    そうだったと思った。




    10月30日

    今日の日付を書いた。
    少し違和感があった。
    理由は分からなかった。




    11月4日

    佐藤さんに
    「去年も寒かったですね」
    と言われた。
    そうですねと答えた。
    去年のことは覚えていなかった。




    11月11日

    ペンがなかった。
    探した。
    机の上にあった。
    三回探した。
    どこかで見た気がした。




    11月18日

    会議があった。
    窓の外に鳥がいた。
    名前を呼ばれた。
    驚いた。
    前にもあった気がした。




    11月24日

    コピー機が止まった。
    どうしたらいいか分からなかった。
    佐藤さんが来た。
    動いた。




    12月2日

    佐藤さんが
    「これで何回目ですか」
    と言った。
    分からなかった。
    佐藤さんも数えていないと思った。




    12月9日

    牛乳を買った。
    冷蔵庫に入れた。
    安心した。
    翌日なかった。




    12月17日

    夢を見た。
    夢の中で日記を書いていた。
    起きたら同じことを書いていた。




    12月24日

    クリスマスらしい。
    佐藤さんがチョコをくれた。
    前にもあった気がした。




    1月3日

    今年になった。
    去年が終わった。
    実感はなかった。




    1月9日

    ノートを見つけた。
    なくしたと思っていた。
    開いた。
    閉じた。




    1月16日

    佐藤さんが
    「開かなかったんですか」
    と言った。
    何のことか分からなかった。




    1月22日

    冷蔵庫を開けた。
    牛乳がなかった。
    そうだったと思った。
    その文章を書いた気がした。




    1月29日

    ノートを開いた。
    自分の字があった。
    知らない文章もあった。
    閉じた。




    2月5日

    佐藤さんがいた。
    少し安心した。
    理由は分からなかった。




    2月12日

    コピー機が止まった。
    どうしたらいいか分からなかった。
    佐藤さんが来た。
    動いた。




    2月19日

    「前にもありましたか」
    と聞いた。
    佐藤さんは少し考えた。
    「ありました」
    と言った。




    2月25日

    夢を見た。
    牛乳を買っていた。
    ドーナツもあった。
    目が覚めても同じだった。




    3月3日

    ノートを開いた。
    最初のページに
    牛乳を買いに行った。
    と書いてあった。
    閉じた。




    3月10日

    佐藤さんが
    「もうすぐですね」
    と言った。
    何がですかと聞いた。
    佐藤さんは答えなかった。




    3月17日

    今日の日付を書いた。
    どこかで見た数字だと思った。




    3月24日

    ノートを開いた。
    見覚えのある文章が並んでいた。
    全部自分の字だった。
    全部知らなかった。




    3月31日

    佐藤さんがいた。
    少し安心した。
    理由は分からなかった。
    佐藤さんは私を見ていた。
    何か言いかけた。
    言わなかった。

    第三幕

    4月7日

    ノートを開いた。
    見覚えのある文章が並んでいた。
    自分の字だった。




    4月14日

    牛乳を買った。
    帰ってきた。
    ドーナツがあった。
    牛乳はなかった。
    少し笑った。




    4月20日

    佐藤さんが
    「思い出しましたか」
    と言った。
    何のことか分からなかった。




    4月27日

    ノートの後ろの方に
    知らない日付があった。
    私の字だった。




    5月2日

    コピー機が止まった。
    どうしたらいいか分からなかった。
    佐藤さんが来た。
    動いた。




    5月8日

    「前にもありましたか」
    と聞いた。
    佐藤さんは頷いた。




    5月13日

    「いつですか」
    と聞いた。
    佐藤さんは答えなかった。




    5月18日

    夢を見た。
    コピー機が止まっていた。
    佐藤さんが来た。
    動いた。
    目が覚めた。
    同じことがあった気がした。




    5月24日

    ノートを開いた。
    去年の日付があった。
    私の字だった。




    5月28日

    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    どこかで見た文章だと思った。




    6月1日

    佐藤さんが
    「もうすぐですね」
    と言った。




    6月3日

    何がですかと聞いた。
    佐藤さんは少し笑った。




    6月6日

    ノートを全部読んだ。
    読んだ気がした。




    6月8日

    去年の日記を読んだ。
    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    牛乳はなかった。
    と書いてあった。




    6月10日

    私の日記だった。




    6月11日

    もっと前の日記を見つけた。
    同じ字だった。




    6月12日

    もっと前の日記もあった。




    6月13日

    全部同じだった。




    6月14日

    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    牛乳はなかった。




    6月15日

    佐藤さんがいた。
    少し安心した。
    理由は分からなかった。




    6月16日

    佐藤さんに
    「一年経ちましたね」
    と言われた。
    何のことか分からなかった。



    ノートを開いた。



    2026年6月17日
    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    牛乳はなかった。



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    2027年6月17日
    牛乳を買いに行った。
    帰ってきたらドーナツが4つあった。
    牛乳はなかった。



    その次も。



    その次も。



    全部同じだった。



    佐藤さんに聞いた。



    「前にもありましたか」



    佐藤さんは少し考えた。



    それから、
    初めて少しだけ悲しそうな顔をした。



    「何回も」



    終


     
     
    短編小説を書きたい人

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