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幕が上がらない劇場



    劇場は今日も騒がしかった。

    舞台中央では編集者が頭を抱えている。

    「待ってください! この伏線、本当に回収するんですか!?」

    客席の最前列では読者が身を乗り出していた。

    「いや、むしろ回収しない可能性もあるぞ。これはきっと二重構造だ。いや三重かもしれない!」

    編集者は青ざめる。

    「そんなことになったら収拾がつきません!」

    すると舞台袖から、作家がひょっこり顔を出した。

    「へぇ」

    それだけ言って、また引っ込む。

    編集者は叫ぶ。

    「へぇ、じゃないでしょう!」

    読者は目を輝かせる。

    「今の反応、絶対に何か知ってる!」

    作家は答えない。

    答える必要がないからだ。

    なぜなら、混乱しているその様子こそが、作家にとっては予定通りだった。

    舞台の熱量はさらに上がる。

    編集者は資料を抱えて走り回り、
    読者は考察を重ね、
    作家は何も言わない。

    すると劇場の奥で、カタン、と音がした。

    観客の座席がひとつ後ろへ下がったのだ。

    観客は何も驚かない。

    ただ静かに舞台を眺めている。

    編集者が慌てるほど。

    読者が盛り上がるほど。

    作家が含み笑いを隠すほど。

    座席は少しずつ後方へ移動していく。

    カタン。

    カタン。

    カタン。

    高く。

    遠く。

    けれど見失わない距離へ。

    やがて観客の視界には、舞台だけではなく劇場全体が見えるようになった。

    右で焦る編集者。

    左で興奮する読者。

    奥で何かを企む作家。

    それぞれが必死に動いている。

    それはまるで別々の人物のようでいて、

    実のところ、

    みな同じ一人だった。

    観客はその事実にも特に感動しない。

    ただ、

    「ああ、今日はこういう演目か」

    と心の中で呟くだけだった。

    物語がどう終わるのか。

    伏線は回収されるのか。

    そもそも終わりなど来るのか。

    それは誰にも分からない。

    だが観客は知っている。

    幕が下りようと、

    新しい幕が上がろうと、

    観客であることに変わりはない。

    ただ見つめること。

    ただ在ること。

    劇場に明かりが灯る限り。

    観察は続く。

    終演の予定は、まだない。


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    みわ

     
     
    みわ| 言の葉結ふ人 自分の中に浮かんだ風景や、 日常から受け取ったものを、 言葉や絵に変えて、そっと置く。 それを受け取った誰かの心に、 小さな余白が生まれる。 その小さなものがつながって、 いつか大きなカタチになっていく。 そんなことを、ここで載せています。

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