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「世界最高のAIはTeslaだ」——Antonio GraciasとGavin Bakerが語る、AI・防衛・エネルギーの交差点

    Valor Equityのボードメンバーでありテスラの初期投資家であるAntonio Gracias、そして、Atreides ManagementのCIO Gavin Baker。AIからSaaS崩壊・Tesla・ヒューマノイドロボット・防衛・エネルギーまで、2人の対話は投資家にとって示唆に富む内容だった。

    本稿では、その核心を投資家視点で整理する。

    1. SaaS崩壊——「進化するか死ぬか」


    1-1. HubSpotは$850から$200台へ

    Bakerは、率直に現状を述べた。「SaaSのリスクは確実に株価に織り込まれている。HubSpotは、$850がピークで今は$200台だ。これは市場がすでに判断を下しているということだ」

    vibe coding(AIを使った直感的なコーディング)で、非エンジニアでもCRMを数時間で自作できる時代になった。これがHubSpotのような年間$10万のSaaSツールの存在意義を根本から問い直している。

    1-2. 「ソフトウェアCEOには良い意思決定をする時間が2〜3ヶ月しかない」

    Bakerは、グラディエーターのマキシマス・デシムス・メリディウスの台詞を引用しながら警告した。「今ソフトウェア企業のCEOたちが下す決断は、永遠にこだまし続ける。彼らには良い意思決定をする時間が2〜3ヶ月しかない」

    Gracisは、「純粋なソフトウェア企業には6〜7年間投資していない」と語った。代わりに注目しているのが、既存の民間ソフトウェア企業を買収してAIネイティブ化するという戦略だ。Larry Ellisonがオラクルを作った時の手法——PeopleSoftやSiebelを買収し、人員の80%を削減してソフトウェアをAI化する——と同じ発想だという。

    2. AnthropicとAIモデルの効率性


    2-1. トークン効率がコストと品質を決める

    Bakerは、Anthropicの競争優位をトークン効率という観点から分析した。

    「Anthropicは、OpenAIと比べ資本効率が約4倍高く、急速に成長しているにもかかわらずキャッシュバーンが少ない。そして、AIが単一タスクに取り組める最長時間という軸で、現在最も優れている」

    推論モデルでは、トークン生成量が多いほど回答の質が上がる。Anthropicは、Googleと同等品質の回答を、約半分のトークンで生成できるという。1トークン=コストである以上、トークン効率の差は経済的な競争力に直結する。

    2-2. モデルの「価値観」という新しい評価軸

    Gracisは、より哲学的な観点を加えた。「ナイフや銃と違い、AIモデルは、価値観を持っている。モデルは作成者の価値観を体現している。だから、誰がどういう最適化関数でモデルを設計したかを問うべきだ」

    最適化関数が、「真実の探求」であれば安全性が高まる。Grok 4.2を例に挙げ、複数のエージェントが互いの出力を検証し合う設計が「人間にとって良い」と評価した。

    3. Tesla——「世界最先端のAI」という新しい見方


    3-1. A4チップで最も複雑なタスクをこなす

    Gracisの最も注目すべき発言は、Teslaに関するものだ。

    「トークンあたりのインテリジェンス効率で世界最高は、実はTesla Autopilotだ。なぜなら、A4チップという非常に限定されたハードウェアで動作し、クラウドにもアクセスできず、エッジで人間が行う最も複雑なタスク——車の運転——をこなしているからだ」

    GPT等の大規模モデルは、数百メガワットの電力で学習される。一方、人間の脳の消費電力は約20〜30Wだ。TeslaのAutopilotは、約50Wという人間の脳に近い消費電力で、超人的な判断を実行している。これが「史上初めて、人間の脳と同等の消費電力で超人的AIを実現した」ということを意味すると述べた。

    3-2. Optimusと「特化型か汎用型か」の論争の終わり

    ヒューマノイドロボット分野での大きな論点は、汎用型か特化型かという議論だった。しかし、Bakerは、「その議論はもう終わった」と述べた。

    「ヒューマノイドロボットが人間の動きを撮影した映像から学習できるようになった。そして、私たちは人間の動きの動画を膨大に持っている。これで汎用型ヒューマノイドが勝つことはほぼ確定した」

    そして、その競争はTeslaと中国勢の一騎打ちになると予測した。

    4. 防衛とエネルギー——米国の見えないリスク


    4-1. 中国の無人機と「西側唯一の対抗馬」

    中国の無人機群(ドローンスウォーム)は、軍事的な脅威として実在する。あの美しいドローンショーは実際には軍事演習であり、中国の技術力を世界に示す場でもある。

    「もしOptimus(Tesla)がなければ、中国のプラットフォームに対する米国・西側唯一の真の競合が存在しないことになる。それは非常に危険だ」

    Valorでは、元NATO最高司令官・欧州米軍司令官のChriss Paulを新パートナーとして迎え、防衛技術への投資戦略を本格化させている。

    4-2. 核燃料の100%をロシアから購入していた現実

    エネルギー問題でGracisが語った事実は衝撃的だった。

    「かつて米国の宇宙計画が、ロシアエンジンを使っていたことを知った時のような驚きがあった。そして、核燃料について調べると、米国は、核燃料を国内で全く濃縮しておらず、ロシアから購入していることがわかった」

    Valorは、このギャップをうめるためにUS国内での核燃料製造能力を持つ会社への投資を行っている。

    4-3. 宇宙データセンターという解決策

    エネルギー不足へのユニークなアプローチとして、Bakerは、宇宙データセンターを論じた。

    「よくある誤解はペンタゴン規模の建物が宇宙に浮かぶというイメージだ。実際はラックだ。Starlink V3衛星が20kW消費し、NvidiaのBlackwellラックが130kWだ。Starlinkの消費電力を5倍にすれば、ラック1基分に相当する宇宙のコンピューターになる」

    複数の衛星ラックをレーザーで接続すれば、データセンターが完成する。レーザーが真空中を伝わる速度は光ファイバーより速く、かつStarlinkを通じて直接ユーザーのデバイスに届くため、レイテンシが地上データセンターより低くなる可能性もあるという。

    5. 電力不足がバブルを防ぐという逆説


    最後にBakerが提示したのは、「電力不足はむしろ良いことかもしれない」という逆説的な視点だ。

    Carlotta Perezの著作「技術革命と金融資本」を引用しながら、歴史上あらゆる技術革新にはバブルが伴ったと指摘した。南海泡沫事件・鉄道バブル・ドットコムバブル——いずれも新技術への過剰投資が崩壊を招いた。

    「電力不足とウェハー不足は、過剰投資と過剰建設を物理的に不可能にしている。つまり、AIサイクルはより緩やかで長続きするものになるかもしれない。それはこの場にいる全員にとって良いことだ」

    ただし「バブルが全くない」とは言っていない。「バブルの規模と崩壊の深さ」が限定的になりうるという見立てだ。

    まとめ


    2人の対話が共通して指し示すのは、AIが「ソフトウェア」という従来の枠を超え、物理世界・エネルギー・安全保障・ハードウェア効率に深く入り込んできたという現実だ。

    SaaS企業が生き残るかどうか、TeslaがAI企業として再評価されるかどうか、米国が防衛・エネルギー・半導体で自立できるかどうか——これらはすべて「AIというレンズ」でつながっている一つの大きな問いだ。

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