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映画は再び「現代の神話」になれるか――ストリーミング以後のハリウッド、停滞と反転

    マーク・アンドリーセンは、「映画は古代の神話や伝説が担っていた役割を、現代において引き継いでいる」と語る。
    100年前、文化の記録や象徴を担ったのは小説だったが、20世紀後半からは映画こそが文明の精神を封じ込めるメディアとなった。彼によれば、映画は単なる娯楽ではなく「文明の鏡」であり、後世の人々が100年、200年後に「当時の人々が何を信じ、何を恐れ、何を夢見ていたか」を知る手がかりになる存在だという。

    しかし、アンドリーセンは、この10年で映画文化が大きく変質したと指摘する。
    特に2019年を境に「良質な映画が忽然と消えたように感じる」とし、その理由をハリウッドの構造変化に求める。

    1. ハリウッドを変えた3つの地殻変動


    1-1. ストリーミングが奪った“アップサイド”

    NetflixやDisney+などのストリーミング戦争は、当初ハリウッドに莫大な資金をもたらした。
    しかし、収益構造は劇的に変化した。従来の映画は、「劇場収入→テレビ権利→DVD→再放送」という“長い尻尾”で利益を積み上げられたが、ストリーミングでは「買い切り型のコスト+数%の利益」で終わる。
    この仕組みが「挑戦的でリスキーな作品」を生み出すインセンティブを奪い、ハリウッドから“冒険心”を消し去ったとアンドリーセンは語る。

    1-2. 「The Message」――文化的イデオロギーの支配

    彼がもっとも強調したのは、「The Message」と呼ばれる現象だ。
    近年の多くの映画が、ストーリーよりも政治的・社会的メッセージの提示に傾き、「白人は悪」「男性は加害者」「アメリカは抑圧者」といった固定化された価値観を繰り返してきた。
    批評家が絶賛する作品ほど“教条的”になり、芸術としての自由が失われた。
    その結果、映画人たちは「一つの言葉でキャリアが終わる」ような恐怖のもとで制作を行うようになった。
    彼はこれを「ハリウッドにおける文化的恐怖政治」と表現する。

    1-3. コロナ以後の空白と、遅れて出てくる“過去の作品”

    多くの観客が劇場から離れたことも確かだが、アンドリーセンは「COVIDは原因ではなく加速装置だった」と言う。
    映画制作には通常4〜5年かかるため、2024年に公開される作品の多くは2020年以前に企画されたもの。
    つまり、現在スクリーンに並ぶ“古い価値観の映画”は、過去の延長線上にある「タイムカプセル」なのだ。

    2. 「ポスト・メッセージ時代」と新しい潮流


    2-1. “醒めた熱狂”と次の波

    2025年現在、ハリウッド内部では「熱が冷めた」との声が多いという。
    プロデューサーや脚本家の間では、「もう“メッセージ映画”では観客が動かない」という共通認識が広まり、徐々に“脱政治化”が進みつつある。
    アンドリーセンは「今後3年ほどは惰性で同じタイプの映画が出続けるだろうが、2028年前後に真に新しい作品群が登場する」と予測する。

    2-2. 反転の兆し:『Eddington』という例外

    彼が“希望”として挙げたのが、若手監督エリック・アスターによる映画『Eddington』である。
    この作品はジョージ・フロイド事件、COVID、トランプ時代、SNS文化といった過去5年間の現実を正面から描いた“初のアート映画”だという。
    アンドリーセンは「ようやく現実をスクリーンで見た」と称賛し、「AI時代の『大いなる小説』に相当する映画」と評した。

    2-3. コメディと“普通の人間”の復活

    さらに彼は、「ようやくコメディが再び作れるようになった」と指摘する。
    笑いとは“聖域を突く”ことにあるが、近年はそれが不可能だった。
    だが2025年の『Naked Gun(裸の銃を持つ男)』リブートは、そうした空気を破り、純粋な娯楽として成功を収めた。
    アンドリーセンはこれを「ポスト・メッセージ映画の象徴」と位置づける。

    3. AIと映画の未来 ― 新しい「神話」へ


    ハリウッドはAIを脅威とみなす声がある一方で、アンドリーセンは「AIは映画を民主化する」と語る。
    「カメラも俳優も持たない創作者が、アイデア一つで映画を作れる時代になる」
    かつて『サウスパーク』の制作者が安価な機材とアイロニーで新時代を切り開いたように、AIは“個人映画のルネサンス”をもたらすという。
    それは、もはやスタジオだけが文化を決定する時代の終わりを意味する。

    4. 結論:再び“神話”を作る時代へ


    アンドリーセンが繰り返し訴えるのは、「映画は文明の鏡である」という信念だ。
    ハリウッドが政治的道徳の牢獄から抜け出し、現実の人間と社会を再び描けるなら、
    映画は再び“神話”としての力を取り戻すだろう。
    AIと新世代の監督たちが紡ぐ次の物語は、もしかすると、
    再び人々の心に「時代の精神」を刻みつけるかもしれない。

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