
#111 ママがいる店|ショートショート
ママがいる店に行った。
入ってすぐ、別室に通された。白い壁の簡素な部屋で、最新の催眠装置を頭に装着する。黒服が告げた。
「ご希望の年齢と、母親の記憶をしっかりイメージしてください。安全ですよ」
装置が低く唸り、意識が溶けた。僕は十歳になった。少年時代の記憶が、まるで本物のように鮮やかによみがえる。
そして席に案内されると、ママがいた。エプロンをかけ、柔らかい笑顔で待っている。いつもの匂い、いつもの声。
「おかえり、遅かったわね。今日は学校どうだった?」
僕はママの膝に頭を預け、宿題の話や友達の愚痴をしゃべった。ママはうんうんと頷き、時折頭を撫でてくれる。時間がゆっくり流れ、胸の奥が温かくなった。
店内を見回すと、客は思いのほか多様だった。サラリーマン風の男がママに愚痴をこぼし、若い女性が恋の相談をしている。隅の席では、小学生くらいの少年が胸に顔を埋め、肩を震わせていた。不慮の事故で母親を亡くした子だと、ママが小声で教えてくれた。
「ここはすごいね!本物のママみたいだ」
ママは微笑みながら、僕の頰を軽くつねった。
「本物よ。だって、あなたがそう思ってるんだもの」
一時間が過ぎ、催眠が解ける合図が鳴った。僕は大人の私に戻り、会計を済ませて店を出た。外の冷たい風が心地よかった。
家に帰ると、現実の母が待ち構えていた。
私が着替えるなり、父親の愚痴を漏らし始めた。あの頃のママは、どこに行ってしまったのだろう…