メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【食と酒】フレンチからイタリアンへ。2000年代初頭、あるM&Aが私に教えてくれた「食の矜持と貪欲さ」

    2000年代初頭。当時、私が身を置いていたフランスの化粧品ブランドが、イタリアのブランドに買収されるという大激震が起きました。

    それまで築き上げてきた「フレンチ」の文化から、突如として「イタリアン」の荒波へ。

    否応なく始まったこのM&A劇によって、私はビジネスだけでなく、両国の「食文化」の深すぎる洗礼を浴びることになります。

    これは、英語の面接に冷や汗を流し、異文化の衝突に目を丸くした、私の愛すべき経験に基づく個人的な回想録です。

    1. ペニンシュラの最上階で知った、フランス人の「ワインへの矜持」

    その幕開けは、香港のペニンシュラホテル最上階にあるメインダイニングでした。 CEO、そしてCFOとの面接の夜。当時の私は英語が赤点レベル。文字通り必死、胃がキリキリと痛むような極限状態のディナーです。

    重厚な空気が流れる中、CEOがワインリストから一本のボトルを選びました。 それは、ワインに詳しくない私でさえ名前を知っているような、まぎれもない世界最高峰の超一流ワイン。 グラスに注がれた瞬間に立ち上る高貴な香りは、その場の空気を一瞬で支配してしまうほどでした。

    フランスでは「ミネラルウォーターよりワインのほうが安い」とまで言われるほど、水同然、いやそれ以上に生活に根ざした存在。だからこそ、彼らが最高峰の一本に持つプライドは並大邸のものではありません。

    食事が進み、その至高のボトルが空いたときのことです。CEOは迷わず「同じものを」と追加を頼みました。フランス人は、一回の食事の中でむやみにワインを変えたがらない傾向があります。(あくまでも経験上の私見です。)料理とのマリアージュを、その偉大な一本と心中するがごとく全うしたいのです。

    ところが、ソムリエから告げられたのは「あいにく同じボトルの在庫が切れております」という言葉。

    その瞬間、CEOの機嫌が目に見えて険しくなりました。「なぜ、これほどの名店に在庫がないんだ」と言わんばかりに、あからさまに不機嫌になるその姿を見て、私は英語の緊張を忘れて圧倒されていました。

    「ああ、これがフランス人が自国の超一流ワインに持つ、絶対に譲れないプライドと矜持なのだ」と、私の心に深く刻まれた夜でした。

    2. ピザが先なら、下げさせろ!「第一の皿」を巡るランチの惨劇

    無事に(?)イタリア傘下となり、今度はイタリア人たちとのビジネスが始まります。ある日、近所のカジュアルなイタリアンレストランで、当時の仕入れ部長と、イタリア本社から出張してきた社員、そして私の3人でランチをすることになりました。

    頼んだのは、ごく一般的な「パスタとピザのセットランチ」。

    日本のランチタイムですから、厨房はとにかく出来上がった順に料理を運んできます。そして、最初にテーブルに届いたのは、こんがりと焼けたピザでした。

    それを見た瞬間、隣にいた仕入れ部長が激怒したのです。

    「パスタが先でなければダメだ! 一度下げてくれ!」

    言い切る部長に圧倒され、お店側は申し訳なさそうにピザを一度引き取り、窯の片隅で温め直す羽目に。その後、ようやくパスタが提供され、その後に「窯の片隅で温められていた熱々のピザ」が出てきました。言わずもがな、テーブルに流れる空気はなんとなく気まずいものに……。

    実は、当のイタリア人ゲストはそれほど気にしていなかったのです。どうやら仕入れ部長が「忖度(そんたく)」をしすぎてしまったようでした。

    後に知ったことですが、イタリアの正餐において、パスタは「プリモ・ピアット(第一の皿)」、ピザや肉料理などはその後に来るもの。その知識が頭にあった仕入れ部長の、まさかのフライング激怒。今思い出しても、なんとも不思議で、ちょっとおかしい事件でした。

    3. 「シャリだけおかわり!」イタリア人が見せた、食への凄まじい貪欲さ

    2000年代初頭といえば、今とは比べものにならないほどの円高時代。イタリア本社からやってくる内部監査人のアテンド(接待)は、経理を担当していた私の役目でした。

    「せっかく日本に来たのだから、夕食は寿司が食べたい」

    彼からのリクエストでした。イタリアで食べる日本食は非常に高額らしく、ここぞとばかりのチャンスです。

    カウンターに座り、マグロをはじめとする一般的なネタをひと通り楽しんでいたのですが、突然、彼が目を輝かせて驚くべき要求をしてきました。

    「あの『すし飯(酢飯)』だけを、もっと食べたい!」

    ネタではなく、まさかのシャリ指名。職人さんに無理を言って、お皿に酢飯だけをこんもりと盛ってもらいました。

    彼は「これ、本当に美味しい、美味しい!」と大絶賛しながら、ペロリと平らげ、あろうことか「おかわり!」まで要求。

    イタリア人が持つ、美味しいものに対するストレートな情熱と、深い貪欲さ。そのエネルギーの凄まじさに、私はただただ圧倒されました。結局、彼が滞在している間に、私たちはその寿司屋に3回も通うことになったのです。

    結び:胃袋で味わったM&A

    フランスの「美学と矜持」、イタリアの「情熱と貪欲」。

    会社の親会社が変わるというビジネスの荒波は、私にとっては、両国の強烈な食文化を胃袋で体感する、かけがえのない異文化理解の旅でもありました。

    どちらが良い悪いではなく、どちらも最高にチャーミングで、食を愛している。

    あの激動の2000年代初頭を思い出すとき、私の口の中には、今でもあの香港のワインの渋みと、窯片隅で温め直されたピザの香ばしさ、そして大盛りの酢飯の甘酸っぱい味が、鮮やかによみがえってくるのです。

    他の【食と酒】シリーズはこちら

    [私のプロフィールと、30年の経理実績はこちら]https://note.com/stag_accountant


     
     
    はじめまして、Account systems laboです。 経理・財務をメインに管理部門で20年以上の実務経験。多様なERP導入やIFRS/USGAAP対応、IPO準備、近年10年は内部監査を主導。業務効率化と統制強化の実践知を発信します。

    あなたへのおすすめ