
【IPOの現実】④「コンサル丸投げ」の末路。上場後に自社社員が全員フリーズする理由と、J-SOXという最強の武器
「IPO専門のコンサルに入ってもらおう。彼らに任せれば、上場までの書類作成も全部うまくやってくれるはずだ」
もし、経営層がそんな風に考えているなら、上場した瞬間にそのツケが一気に回ってくることを覚悟しなければなりません。
一時的にはコンサルタントの力でその場をしのげるかもしれません。しかし、彼らが去った後、残された自社社員が全く対応できずに管理体制が崩壊・破綻するケースを、私はこれまで何度も目撃してきました。
上場は会社にとってゴールではなく、過酷な「スタートライン」です。今回は、コンサル丸投げが引き起こす悲劇と、多くの企業が嫌嫌作っている「J-SOX」の本当の価値についてお話しします。
■ 「決算を早くしろ、脱エクセルだ」経営層の無茶振りに泣く現場
IPOを意識し始めた経営層は、確実に勘違いを始めます。
「上場するんだから、決算を早期化しろ。できないなら新しいシステムを入れればいい。エクセル仕事なんか今すぐやめろ」
何の経験もなく、これまで会社の日常的な「税務会計」しかしてこなかった生え抜きの経理部員にとって、これはまさに青天の霹靂です。
昨日まで平穏だった現場に、いきなり「IPO基準」という巨大な津波が押し寄せる。やり方もわからない、時間もない。だからこそ、経営層は高額な費用を払って「IPOコンサル」を雇い、すべてを丸投げしようとします。
コンサルタントは優秀です。上場審査に必要な「綺麗に整った書類」を理路整然と作ってくれます。しかし、本当の悲劇は「コンサルタントが去った後」に幕を開けます。
実態が伴わない、身の丈に合わない高度な仕組みだけが残り、自社の社員はそれをどう運用・更新していいか分からず全員がフリーズするのです。
■ 本当に力を入れるべきは、J-SOXの「三種の神器」
コンサルタントに書類を書いてもらう前に、会社が自ら本当に力を入れなければならない領域があります。それこそが「J-SOX(内部統制)の構築」です。
J-SOXと聞くと、多くの経理パーソンが「監査法人に提出するために、仕方のない無駄な書類仕事を増やされる手続き」だと嫌悪感を抱きます。
しかし、それは大きな誤解です。J-SOX構築の過程で必要となる「三種の神器」を思い出してください。
業務フロー(業務の流れの可視化)
業務記述書(誰が何を何のためにしているかの言語化)
リスクコントロールマトリックス:RCM(ミスが起きる場所と防ぐ方法の特定)
これらを自社の手で理路整然とした形に落とし込み、正しく整備・運用することができれば、何が起きるでしょうか。
実は、これまで「なんとなく前例を踏襲してやってきた不必要な作業」や「担当者の頭の中にしか入っていなかったブラックボックス」が完全に洗い出されます。不要な作業を徹底的に省き、システム間をスマートに繋ぐことで、結果として「決算の早期化」が自然と達成されるのです。
■ J-SOXは、バラバラな経理が「同じ方向」を向くための道具
多くの経理部門は、属人化された個々の作業の集まりになりがちです。特にIPOという激変期には、不安から作業者が変化に抵抗することも珍しくありません。
だからこそ、J-SOXが必要なのです。
J-SOXは、IPOのために渋々作るお荷物ではありません。「上場に向けて、経理全体が同じ統一された方向を向き、業務を洗練させていくための最強の道具」なのです。
コンサルタントに「形」だけを整えてもらい、上場後に破綻する会社にするのか。
それとも、J-SOXを道具として使い倒し、コンサルが去った後も自走できる強靭な組織を作るのか。
上場後に会社を支えるのは、コンサルタントではなく、今そこにいる自社の社員たちです。道具の主導権を、決して他人任せにしてはいけません。
[私のプロフィールと、30年の経理実績はこちら]