
泣ける歌
先日、夫と出かけた。
この日は車を使った。
出発のときにエコバッグを持ち忘れたので、先に夫に車に行っててもらい、私が取りに戻った。
エンジンがかかった車の助手席に乗り込むと、音楽がかかっていた。
「これ誰の歌?」
「JUJU」
夫は特別好きなアーティストはいないらしく、いつも適当にプレイリストを選んでかけている。
「なんか懐かしいね。今日はどんなプレイリストなの?」
「ん?‥‥泣ける歌」
「泣ける歌?え、めずらしい!」
「いつもは『夏に聴きたい歌』みたいな季節系か、ドライブに最適!みたいなやつじゃん。」
「なんか、泣くとスッキリするっていうじゃん」
「えっ!?」
「泣きたい気分だったの?大丈夫?」
「なんか悩みある?聞くよ?」
「ふふっ。いや、特にないけどさ」
ほんと、夫は時々よくわからないことを言う人だ。
その後も掘り下げて聞いてみたけれど、すごく悩んでるとかでもなく、なんとなくこのプレイリストを選んだようだった。
その「泣ける歌プレイリスト」は、
JUJUの他に、西野カナ、HYなどが続いた。
私が、自分からは積極的に聞いてこなかった人たちの音楽。
なんか新鮮な感じ。
「さっちゃんの泣ける歌ってなに?」
お出かけの帰り道。
今度は私が運転している車の中で、夫が聞いてきた。
この質問は、たぶんこれまでの人生で聞かれたことがないかもしれない。
だからすぐには答えられなかった。
でも、私は音楽を聞くことが好きだから、自分なりの答えを見つけて返したい。
‥‥と数秒の間に思っていた矢先、一瞬で昔のことがぶあっと思い出された。
前職でつらかったときに聞いて、涙が出たやつ。
‥‥んーと、あれ!
えっと、‥なんだっけ。
雰囲気は浮かんでいるのに、歌ってる人とタイトルが思い出せない。
ちょうど信号待ち。
「あれ!」でピンと立てた私の人差し指に、夫が自分の人差し指をゆっくりとくっつけてきた。
「‥ト モ ダ チ」
「もー、E.T.じゃん」
ふたりで「あはは」と笑う。
こんなことをしているから、せっかく歌を思い出しそうだったのに、スッと出てこなくなる。
あの頃、何度も聞いてた歌なんだけど。
記憶をたどる。
「‥‥思い出したわ、エルトン・ジョンの『Your Song』だ」
「んー、わかんないや」
「きっと聞いたことあるはずだよ、検索してみて」
夫のスマホを通じて、Bluetoothでイントロが車内に流れた。
懐かしい、ピアノのイントロ。
「これこれ!」
「あ、これ聞いたことある」
夫もピンときたみたい。
「私、普段はあんまり洋楽聞かないけどさ。なぜか当時はこれよく聞いてたんだよね」
「仕事つらいなぁって思いながら聞いてて、歌詞の意味とかさ、読んだら泣けてきたんだよねぇ」
そんな会話をしているうちに、私にとっては一番心に響くフレーズに差し掛かった。
How wonderful life is
While you're in the world
涙が流れていた。
「えっ、ちょっとすごくない?私いま泣けてるんだけど」
「ティッシュちょうだい」
「えっ!?ほんと?」
夫が驚いていたけど、私も驚いた。
あの頃は毎朝仕事に行くのがしんどくて、
何度も、「全然向いてないな」「辞めたいな」と思っていたこと。
食欲が無くなったこと。
なんとか自分を励まそうと、当時見ていた「進撃の巨人」の世界観よりはマシだよね、と考えてみたりもしたっけ。
そんなあの頃も、夫がいてくれた。
「私にとっての泣ける歌、ほんとだったでしょ」
「うん、実証されたね」
家に着いたら、昼寝から起きた猫たちがいつも通りに「ニャー」と出迎えてくれた。
夫は夫で、ちゃっちゃと部屋着に着替えてごろごろし始めた。
泣ける歌の余韻は、もうなかった。