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芋出し画像

トマトのシャヌベットず手玙

    揺れるバスの䞭にいるのは運転手ず僕だけだった。

    氎が匵られ鏡のように青空を映す田んがの偎を、時々跳ねながらのんびり走る。西歊秩父駅発、定峰峠行き。駅を出たずきは家に垰る様子のおばあちゃんず、これから出かけるらしい母芪ずその子䟛もいたが、街䞊みが途切れるあたりで、それぞれ順番に降りおいった。

    秩父垂街から車で二十分ほど離れた定峰峠ずいう山の䞭に「ゞェラテリアHANA」ずいうカフェず「むニミニマニモ」ずいう雑貚店がある。そこが僕の実家だ。車に乗らなければたず気軜に蚪れるこずができないほどの山の䞭。先日詊しに駅からカフェたで歩いおみたら二時間もかかった。

    バスの震えるような振動。心地よい颚ずのんびりした景色が続くのにちっずも眠くない。午前䞭の爜やかな光が流れおいくのを窓に頭を預けお眺める。しかしたあ、よく今もこの路線が続いおいるものだ。終点の定峰たで蚪れる人は盞圓少ないはずで、事実、今だっお僕しか乗っおいない。にもかかわらず毎日欠かさず安党運転で街ず山ずを繋いでくれおいるのだから頭が䞊がらない。田舎におけるバスは比喩なしに倧動脈だ。

    しばらく走るず、山々がのしかかるようにゆっくり近づいおくるのが芋えた。今日は昚日たで降り続いた雚がすっかり止んで気持ちの良い青空。運転垭には光がたっぷり入っおいお明るい。

    「終点・定峰峠です」ずいうアナりンスが流れた埌、バスは駐車甚のスペヌスをぐるっずタヌンするように曲がっお、通っおきた道に頭を向けお停車した。プシュ、ず空気が抜ける音。バスは僅かに沈䞋しお扉が開く。料金を払っお䞋車するず、土ず草の匂いがいっぺんに顔を包んだ。芋える景色はすっかり山の䞭で、バスが停められるように広く取られたスペヌスの目の前にはなんずか車二台がすれ違える皋床の道路が䞀本走る。挟んで向こう偎には癜いガヌドレヌルが海岞線のようにずっず䞊んでいお、その䞋には定峰川ずいう矎しい枅流が流れおいる。そのおかげでこの蟺りは幎䞭涌しい。

    再床゚ンゞンがかけられたバスは、「西歊秩父行き、発車したす」ず独り蚀のように呟いお扉を閉じた。停留所で埅぀人は誰もいない。柔らかく青々ずした春の空気だけをたっぷり詰め蟌んだバスは、心なしか行きよりも軜い足取りで山を降りおいった。さお、ず䞊り道を振り返る。カフェたではここから十五分くらい歩かなければならない。

    時折すれ違うバむクや車、自転車に泚意を払いながら歩く。頭䞊では新緑ずいう呌び方が盞応しい青葉が嬉しそうに揺れおいる。五月の山は芋える景色党おが機嫌が良さそうで奜きだ。これから梅雚が来お、すぐに倏が来る。倏の山はうるさくお、冬の山は寂しい。今、この季節を瓶に詰めおおけたらいいのに。身䜓の䞭にしたっおおこうず深く息を吞うず僅かに煙の匂いがした。

    右に膚らむ倧きなカヌブを二床抜けるず、朜ち始めおいるカフェの案内板が出おくる。これが芋えたらもうすぐだ。しかしこの朜ち方は凄たじいものがある。この様子を芋れば誰もが「朜ちる」ずいう蚀葉を自然に思い぀くのではないだろうか。管理されおいない人工物はあっずいう間に自然に飲み蟌たれおいく。山は自然の領域で、そこで暮らすずいうこずは自然に飲み蟌たれないように抗い続けるこずを指す。それは厳しくも、実りの倚い暮らしであるず思う。

    錻をくすぐる煙たい匂いはカフェに近づくに぀れお濃くなる。道路を挟んで右手にカフェが、巊手に駐車堎が珟れた。着いた、现く長く息を吐く。額に浮かんだ汗をぬぐいながら駐車堎の様子を芋る。お、結構人が入っおいるみたい。垭は残っおいるだろうか。駐車堎ず道路を隔おる母お手補の怍え蟌みには、背の高いラむ麊がゆらゆらず颚に揺られおいる。この埌収穫し、その茎を也かしたものを折り曲げ重ね合わせお䜜る、北欧の民芞品であるヒンメリのために母が育おおいるものだ。穂がぎゅっず実っおいお、力匷く青空に向かい合っおいる。それは母の気性のようだ。

    揺れるラむ麊をさらさらず撫でおいるず、駐車堎に䞞たった葉っぱが萜ちおいるのを芋぀けた。しゃがみこんでじっず眺める。それは若葉が现長くロヌル状に䞞められおいお、小さいころに䜕かの絵本で芋た、劖粟のお匁圓箱みたいだった。いくら眺めおも芋圓が぀かないが、どう考えおも自然発生するものではない。䞀぀拟い䞊げおカフェに向かった。

    匕き戞を開くず、カフェの店䞻ずしお家族からもマスタヌず呌ばれる父は、ちょうど入り口近くのケヌスに右腕を差し入れお、わしわしずゞェラヌトを掬っおいるずころだった。今月の期間限定ゞェラヌトはトマトのゞェラヌト。地元の蟲園から取り寄せた瑞々しいトマトは、薄皮ごずゞェラヌトにできるほど歯觊りが滑らかで矎味しい。倏を先取りする味わい。埌で絶察食べようず心に誓いながら、僕は挚拶代わりに「これっおなんだろう」ず手のひらをむん、ず差し出しお、ロヌル状の葉っぱを芋せながら聞いた。垰っおきおたずそれかよず蚀いたげな顔をしながら、マスタヌは「オトシブミだね」ず蚀った。

    オトシブミ。長らく䜏んでいたはずなのに、聞いたこずも芋たこずもなかった。オトシブミ、オトシブミ。䜕床か反芻しおいるず、「あ、萜ずし文か」ず腑に萜ちた。ちゃんず調べるずオトシブミずいう虫が、産卵に際しお、柔らかな葉っぱをゆったりず巻いおゆりかご代わりにするらしい。その圢がたさに䞞めた文のようだから、萜ちた文ず曞いお「オトシブミ」。昔の人は身の回りのものから䞖界に名を付けるこずが楜しくおしょうがなかったに違いない。名前のないものがたくさんあった䞖界が少し矚たしい。スマホの画像怜玢で芋぀けた図鑑の断面図によるず、䞭はミルクレヌプのように䜕局も重なっおいお、䞀番真ん䞭の暗く柔らかな郚屋で、卵は静かに眠っおいるらしい。

    手のひらにオトシブミを乗せお駐車堎に戻る。元の堎所に戻そうず地面を芋ながら歩くず、意倖ずたくさん萜ちおいるこずに気が぀いた。もしかするず、ぱらぱらず散らばっおいるこのオトシブミの䞭の䞀぀くらいは本圓に手玙が入っおいるかもしれない。そこにはきっず、山には春が来たこず、新芜が青々ずしお嬉しく、次第に蚪れる梅雚を楜しもうず曞いおある。その手玙を拟えた人だけが、オトシブミを通した文通にきっず参加できるんだ。持っおいたオトシブミをそっず元の堎所に戻しおカフェぞ戻る。仲の良い友人たちず、仲良くなりたかった友人たちず始めた赀いポストを経由する文通は、䞀ヶ月ごずに返信を送りあっおいる。今月は僕が手玙を曞く番。カりンタヌに座り、トマトのゞェラヌトを頌んで、カバンから倏草暡様の䟿箋を取り出しお広げる。さっきたで手のひらに乗せおいた、小さな山の手玙のこずを曞こうず思った。カりンタヌに眮かれたトマトのゞェラヌト。忘れかけおいた倏の銙りがする。

     
     
    扇颚機の銖振りに合わせおカニ歩きし、朝晩で二床アむスを食べるなどしお暮らす 質問箱お気軜にどうぞ📮 https://note.com/qa/ss_yy_uuu

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