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返信 ― 三十年前のラブレター

    誰にでも、
    生涯忘れられない人が
    いるんじゃないでしょうかーー

    実家の整理で、私は30年以上前の
    恋を見つけた。

    父から、「元彼のやろ」と
    手渡されたのは、
    写真立てに入った写真。
    当時の日記帳、
    彼からの手紙だった。

    なんとなく気恥ずかしかった。

    そっけなく受け取ったけどーー

    それらに触れた指先から
    あの頃の「想い」が流れ込んできた。

    写真の中の私は、
    サラサラのロングヘアで、
    かわいかった。

    当時は浅野温子に憧れていた。

    彼はショッピングセンターの憧れの的だった。
    めがね屋の店長。
    私はスポーツ用品店で
    アルバイトをしていた高校生。

    十八歳年上の彼に恋をした。

    それまでの恋は、
    たぶん全部「恋のまねごと」だった。

    初めて、本当に人を好きになった。

    十八歳になる少し前の私は、
    まだ子どもで、感情を持て余していた。

    でも彼は、大人だった。
    泣いても、怒っても、拗ねても、
    いつも困ったように
    笑って受け止めてくれた。

    愛することの切なさや、苦しさ、悦びを、
    私は彼から教わった。

    逢えた日の帰り道、
    私はいつも泣いていた。

    もっと一緒にいたかった。
    毎日、少しでも声が聞きたかった。

    今みたいに携帯電話もメールもない時代。
    つながりを感じるツールがなかった。

    淋しくて、苦しくて、
    それでも離れられなかった。


    ――約四年。

    まるでジェットコースター
    みたいな時間だった。

    別れる。
    やっぱり嫌。

    別れる。
    やっぱり嫌。

    それを一年繰り返して、
    私たちは少しずつ離れていった。

    三十年以上前の手紙を読み返した。
    日記も読み返した。


    「ヒロミ、絶対幸せになって欲しい」
    彼は何度もそう言った。
    聞くたびに、
    涙が止まらなくなった。


    だから私は、
    ちゃんと幸せになろうと思った。

    約束したから。


    あなたが願ってくれた通り、
    私は
    ちゃんと幸せになりました。

    就職して、結婚して。
    子どもはいないけれど、
    毎日を楽しく生きています。


    一緒に行ったウインドサーフィン。
    ハイラックスサーフの初期型でのドライブ。
    伊勢志摩への旅行。

    全部、全部、
    楽しかった。

    もらった指輪も、
    メガネも
    まだ持っています。

    本当に幸せな時間をありがとう。

    あなたは、もう七十代半ばですね。

    元気にしていますか?
    facebookで同じ名前を見つけて、
    思わずメッセージを送りました。

    でも、既読はつかないままです。

    最近は、動いていないアカウントも多いから。

    たぶん、もう届かないんだと思います。

    それでも、もし叶うなら。
    もう一度会って、
    「幸せになったで」って言いたい。

    「タケオさん、本当に大好きでした」って。



    あ……不思議な夢を見た。

    ヒロミだ。
    懐かしい…

    うろ覚えだけど
    「幸せになったで」

    少し年を重ねた彼女が
    笑っていた。

    それと、なぜかfacebook。


    「ヒロミ……もしかして」


    夢なのにーー

    5年ほど触ってない
    Facebookを、
    開こうとして、
    手が止まった。

    あ……IDもパスワードも
    わからない。

    〈ま、いっか……夢やし〉

    だけど、胸の奥が少し温かかった。


     
     
    妄想の世界で暮らしています。 気づけばいつも、 物語の誰かになっている。 甘い、苦い、光も闇も。 難しい言葉より、 心の奥で脈打つものを、 気取らずそのままに。 短編、中編、書きたい形で、気ままに。 始めたばかりで、不器用やけど。 ここは、わたしの物語のラボやねん。

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