怖いと思った、その声のこと
建設業の職人って、怖い?
「止まれ!」
背中から突然大きな声が飛んできた。
思わず足が止まる。
振り返ると少し離れたところに職人が立っている。
作業着姿でこちらをまっすぐ見ている。笑ってはいない。
初めて建設現場に来た人ならたぶんこう思う。
怒られた。怖い人だな、と。
言い方によっては「そこまで強く言わなくても」と感じるかもしれない。
でもそのあとで自分が立っていた場所を見る。
すぐ近くでは重機が動いていた。
もし、あと数歩進んでいたら。
そう考えたとき、さっきの「止まれ!」が少し違って聞こえてくることがある。
建設現場では普段の生活とは違う声の使い方をすることがあります。作業の音で普通に話しているだけでは声が届かないこともある。
それ以上に、危険が迫っているときには言葉を選んでいる時間がありません。
「ちょっと止まってもらえますか」
ではなく、
「止まれ!」
になる。
その一言で足を止めてもらわなければならないからです。
強い言葉だけを切り取れば怒っているように聞こえます。
でも、その人が本当に伝えたかったことは、
「ケガをするなよ」
だったのかもしれません。
当たり前を守るために
現場で働く人にとって一緒に仕事をしている人が無事に帰ることは当たり前であって、当たり前ではありません。ほんの少しの見落としが大きな事故につながる仕事です。
だから、危ないと思った瞬間には強く止める。
相手が新人だから優しく言おう、なんて考える前に声が出ることもあります。それを見て怖い人と感じるのは仕方がないと思います。
ただ、強い口調だったというだけでその人が怒っているとか、相手を嫌っているとか、ましてその人自身が怖い人だと決まるわけではありません。
もちろん何を言ってもいいという話ではありません。
感情のまま相手を責めたり、人格を傷つけたりすることまで「職人だから」で済ませるつもりはありません。
安全のために強く伝えることと、人を傷つけることは同じではないからです。
さっきまで怖かった人が、休憩になると笑っている
現場を見ていると、ときどき不思議に思うことがあります。
仕事中はあんなに怖い顔をしていた人が休憩になった途端、普通に笑っている。新人の横に座ってくだらない話をしている。仕事が始まればまた顔つきが変わる。
その人にも、新人だった頃があります。
今は迷わず動いている人も最初は何をしていいのか分からなかった。
誰かに注意されて、失敗して、それでも次の日また現場に来た。
そうやって何年も積み重ねて今は誰かを止める側にいる。
そう考えると現場で見えた怖い職人は、その人のほんの一部分なのかもしれません。
職人も一人の人間
建設業の外から見えるのは、たいてい仕事をしている姿です。
真剣な顔をしているところ。
強い声が飛んでいるところ。
だから、職人って怖そうと思うのも自然だと思います。
でも、もし一度そんな場面を見かけたらその声の先を少しだけ想像してみてほしい。なぜあんなに強く言ったんだろう。
もしかすると、その一言は怒りではなく、
「無事に帰れよ」
の代わりだったのかもしれません。
職人って怖そう。
その印象だけでその人や建設業の全部を決めてしまわないでほしい。
見えているものがその人のすべてとは限らないからです。
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