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京大ニート、建築家になる⑮

    完結編(独立10年と未来)

    徐々に自営業の生活にも慣れ始め、
    3年目以降は仕事も順調に増えた。
    気付けば前職で担当していたような金額、規模の家も設計出来るように。
    工事中の案件は毎週欠かさず現場へ通ってきた。
    少しでも完成度を高めたかったから。
    あと、職人さんとか大工さんと話すのも好きだった。

    前職のようにたくさんの仲間と一緒にっていう感じではなくて、
    自営業特有の孤独感も感じつつ、目の前の仕事に専念する日々。
    (これ、業種関係なく同じ立場の方なら共感いただけるかも。
    仕事、お金、誰にも言えない事もありますよね。)

    一番気になっていた収入面でもちゃんと生活出来るようになったし、
    経営の勉強なんて全然してこなかったけど、
    熱意や好きという想い、技術も鍛えれば、なんとかなるんだなって思った。
    後はやりながら、時々痛い目にもあって、そこから学べば良い。

    2025年、気付けば独立して10年となった。

    (個人事業は10年生存率1割だそうで、よく粘りました(パチパチ)。)
    ちょっとは自分を褒めてあげても良いかな。

    ただ、この10年、上手くいった事ばかりではなかった。
    設計したくても契約が取れなかった案件、
    絶対に入賞したかったコンペで何度も落選、
    相変わらず悔しい経験も嬉しい事と同じくらいあった。

    でも、10年間で約40件の仕事に恵まれた。
    相変わらず人を雇わず、必要な時だけ外注する独自スタイルだったので、
    全件、僕自身で実施設計までやりきった。
    (これで設計力が高まったのは間違いない!)
    充分な量だし、たくさんの施主さんに出会えたのも財産となった。

    数えてみると、独立後だけで設計コンペの受賞数は22件となっていた。
    おおよそ10回応募して、入賞は良くて1、2回だから、
    軽く100回以上はチャレンジして、80回以上は負けたという事になる。
    まさに安藤忠雄さんが言う「連戦連敗」だ。
    でも、結果を残すなら、やはり試行回数は多いほうが良いんだと実感した。
    世の中には凄い人たちがたくさんいるから。
    負けた回数なんて誰も見ていない。

    そして、早いもので前職も含めると約20年もの期間、設計してきた。
    建築を勉強し始めてからだと四半世紀!!
    体力、精神力のある人生の大事な時、建築に情熱を注げたのは幸せだった。
    独立も含めて正直、何の後悔もない。
    上手くいった事もそうでない事も、全部自分で決断、挑戦してきたから。

    独立10年となった今では、世の中も大きく変化した。
    戦争、急激なインフレ、資材・職人不足。
    もう簡単に注文住宅で新築を建てる、というのが困難な時代へ突入した。
    AIが人の仕事を奪う、なんて事も始まっている。
    過去のやり方のままでは設計事務所や工務店も厳しくなるかもしれない。
    自分自身も変化していく必要があると思うし、
    新しい事にもチャレンジしてみたい気持ちも芽生えていた。

    もちろん、今後はリノベが仕事の中心になりそうなので、
    引き続き今までの実績からさらに上積みしていきたいし、
    現在は3Dプリンター住宅の開発にも関わっている。
    インフレ、職人不足の時代に、
    もしかしたら大きな社会的意義があるかもしれない。
    これはコンペで選出いただいてスタートしたプロジェクト。
    コンペ案が選ばれて実現するのは人生で初めてで、
    やっぱ、やり続けてたら時々良い事起こるんですよね。
    是非、40代でもワクワクする気持ちを持って取り組みたい。
    そして他者と比較するのではなく、自分らしく、自分のペースで。

    ちなみに、このNOTEを書き始めたのも新しい事の1つ。
    今までの決して王道ではない僕の経験を、言葉として残しておきたかった。
    (同じように悩む人が将来読んでくれるかもしれないから。)

    建築家になるためには、大学で著名建築家に師事、大学院へ進学、
    アトリエ事務所か組織設計、大手ゼネコンで修行して独立。
    という王道ルートがある。

    そして、自分は大学で建築家の研究室落選、院にも進学せず、
    2年以上のニート、ハウスメーカーの設計士で9年勤めて独立した。
    王道ルートはどれも通れなかった人生だ。

    でも、ニートで悔しい想いを経験し、
    ハウスメーカーで9年、無我夢中、全力で修行した事は、
    独立後に自分の武器となり、大きな支えとなっていた。

    遠回りしたと思っていたのに今、
    設計事務所を作り、建築家として生きているではないか。

    「建築家になりたい。」その夢が叶っていた。

    20歳の時に思い描いた著名なスター建築家ルートとは違い、
    全くもって想像もしないような道のりだったけど。
    人生って不思議ですね。
    遠回りや寄り道も案外悪くないかもしれない。

    心理学者アドラーは、

    「過去は変えられる」と言った。

    過去に起こった事実は変わらない。
    でもその後の頑張りや努力によって、
    当時は失敗だと自分で思っていた事が、
    未来になると、自分には欠かせない大切な経験や財産に変わる時が来る。
    過去の意味が変わる体験を、
    自分の人生でリアルに経験出来て、アドラーの言ってる事が理解出来た。
    真っ黒だったニート時代の色が、徐々に徐々にゆっくりと変化して、
    今、僕には白く、そしてほんのりと輝いて見える。

    もし、どんなに光の当たらない、悔しくて苦しい時間があったとしても、
    なんとか気持ちを持ち続け、やり続けてさえいれば、
    どんな形でかはわからないけれど、
    いつかきっと報われる時がやってくる。そう信じたい。

    今、挫折し夢破れそうになった20代の自分に一言伝える事が出来るなら、
    こう言ってやりたい。

    「お前、諦めなくて良かったな。」


     
     
     
    大手ハウスメーカーのチーフアーキテクトを経て独立。 独立までのプロセス、自身がこれまでに設計した実例で語る家づくり、手書きプレゼンを公開していきます。 http://sqool-archi.com/

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