
螺旋
夜は まだ沈みきれず
触れてはならない境界を抱き
高層の影と影のあいだ
薄い月光が 肌の上をなぞる
閉じた窓の外では
濡れたアスファルトを 車輪が擦り
その余韻が 空気を震わせ
喉の奥で 脈は膨らむ
指先はまだ 触れてはいない
それなのに 体温の気配だけが漂い
皮膚の奥で 甘く鈍い痺れを育む
湿った吐息が 互いの境界を滲ませ
香水でも汗でもない 混ざりあった匂いが
この部屋の空気を湿らせる
滲み出す衝動は
鎖を解くためではなく
絡みつき 締め上げるために生まれ
核心の奥 濃く熟れた色を灯す
舌先で触れる直前の果実のように
その内側だけが熱を孕み
外側は 最後まで静謐を装う
瞼の裏で
深紅と墨色がゆらぎ
理性は 湿った声の奥で
音もなく 形を失う
明日の光など もう待てない
夜の底にだけ咲く一瞬が
わたしを確かに生かし
そして 崩そうとしている
許されぬと知りながら
その歪んだ希いは
体内の海を ゆるやかにかき乱し
冷たい星明かりすら 熱を帯びさせる
わたしは抗わず
その深みに沈む
肌を破り 血のような熱を滲ませながら
螺旋を交わし
抗えぬ宿命を絡め取り
香りと湿度を纏う
そして
その罪を ゆっくりと呑み込む