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擦過 − すれ違う想い –



いつもと違う ここにいる


笑ったね

その視線の先にいたのは
わたしじゃなかったよね

その笑顔に触れられる距離は
もう
わたしのためのものじゃなかった

それでも
胸の奥で あなたに返事をしてしまった

呼びかけられたわけじゃないのに
体の奥で 昔の鼓動が
勝手に形を取り戻していく

いま わたしは
いつもと違う ここにいる

さっきまで あなたと同じ空気を吸っていたのに
指の間から こぼれる水みたいに
静かに流れ去っていく

その透明な流れを
掬おうとするたび
掌の温度が 遠のいていくのがわかる

見えている景色は あの日と同じなのに
光の深さも 影のやわらかさも
全部 あなたといた景色とは違っていた

遠くを渡る風の向こうで
わたしの場所は
別のぬくもりに包まれている

夢じゃないよね

だって 肌の奥底が
あなたを覚えている

それでも まだ
頬の内側に あたたかいものが残っているんだ

…聞こえてないよね

わかってる

でも 何がいけなかったのかな

あの日も 昨日も
わたしは同じように笑っていたのに

気づいたら
足もとだけが 見知らぬ場所に変わっていて
あなたは もうそこで立っていなかった

どこでずれたの

いつ すり替わったのか

思い出を探しても
答えは滲むばかりで

触れようとしたら
指の間から するりと抜けていく

温度だけが 置き去りになって

いま わたしは
いつもと違う ここにいる

*

いつもと違う きみがいた


笑ったね

きみの隣にいたのは
たしかに 僕だった

でも あのとき
きみは 本当に僕を見ていたんだろうか

違う
僕のほうこそ
きみの隣にいる僕を 見ていなかった

風は吹いていたのに
揺れなかった

触れていたはずのぬくもりが
どこか 宙に浮いたままで

言葉は届いていたかもしれない
でも その奥にあるものに
なにひとつ触れなかった

きみは 気づいていた?
僕の影が もう
きみの足もとに映っていなかったことを

きみは 変わらなかったよね
最後まで 変わろうとしなかった

それなのに
遠く感じたのは
きみじゃなくて
僕のほうだった

手は伸ばしていた
つもりだった

声も返していた
つもりだった

でも 本当は
ただ そこにいるだけの僕を
置き去りにしていたんだ


いつもと違う
きみがいる


今でも よくわからないまま

いつもと違う きみがいた





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