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278.【小説】誰のせいでもない 12-ある刑事の記録-何故、佐久間修は死んだのか。

    【第11章:声なき手紙】


    封筒を開けたのは、自宅に戻ってからだった。夜の帳が下り、部屋に灯る小さな明かりの中。葛木は、その一枚の紙を丁寧に取り出した。

    便箋は黄ばみかけており、折り目が深かった。筆跡は、癖のあるものではなかった。ただ、ところどころに書き直した跡があった。

    それは、佐久間修が遺した唯一の言葉だった。

    ──もし、これを読む人がいるのなら。

    私のことを知ろうとした、数少ない人なのかもしれない。

    ありがとう、と書くのは少し違うかもしれない。
    でも、もしもあなたが「何が起きたのか」を理解しようとしてくれたなら、私は、その沈黙の中で少しだけ救われた気がする。

    私は、誰かを救いたかったのかもしれない。でもそれ以上に、「自分を理解してほしかった」のだと思う。

    ありがとう。
               ──佐久間 修

    葛木は、手紙を読み終えても、すぐには封を閉じなかった。

    誰も、彼を殺していない。  
    けれど、誰も彼を救わなかった。

    皆が佐久間を語った。  
    誰もが彼に期待し、すがり、賞賛し、裏切った。 だがその誰も、彼の“内側”には触れようとしなかった。

    彼は、誰にも理解されないまま死んだ。  そして今、自分だけが──

    「……いや、もう遅いんだ」

    葛木は、小さくつぶやいた。

    彼を理解したとて、それは、すべてが終わった後だった。


    【SNS・メディア断片:佐久間修の死をめぐって】

    ▶「“理想に殉じた男”佐久間修氏の実像に迫る。」

    ▶「誰にでも優しかった。笑顔を絶やさなかった指導者。」

    ▶「本当は家族思いだった?近隣住民が語る“素顔”。」

    ▶「私も佐久間さんに助けられた一人です。」

    ▶「#佐久間修を忘れない。」

    投稿は、波のように押し寄せ、また引いていった。

    葛木は、スマートフォンの画面を伏せて、ただ静かに目を閉じた。



     
     
     
    https://seagullworks.jp/ 海と風の都市作家。 都市の静けさと気配を描く。 歩く、聴く、書く。 余白に、わずかな苦味を残して。 マタイの福音書 19章24節 「金持ちが神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」 それでも、人は今夜を生きる。

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