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動かない船と、走る車の中で——パティ・スミスとコルトレーン

    Rolling Stone誌に掲載された、パティ・スミスのジョン・コルトレーン論「To Talk With God」を読んだ。

    この文章は、Coltrane: The Definitive Visual Celebration of the Legendからの先行抜粋である。パティ・スミスのほか、カルロス・サンタナ、フィル・レッシュ、ウェイン・コインらも寄稿しているという。

    パティ・スミスが十六歳の頃からコルトレーンを聴いていたことにも驚いたが、さらに印象に残ったのは、後期のフリーな演奏まで深く聴いていたことだった。

    彼女は1967年、ニューヨークのセント・ピーターズ教会で行われたコルトレーンの追悼礼拝の外に偶然居合わせ、アルバート・アイラー兄弟やオーネット・コールマンの演奏を耳にしている。

    後年、夫のフレッド・“ソニック”・スミスと暮らしていた頃には、庭に置かれた壊れた古い船の中でコルトレーンを聴いた。

    その船は海に出ることができなかった。けれど、激しい雨の日には、ビールとコーヒーを持ち込み、《Live at Birdland》《Olé》《Meditations》をかけた。雨音と音楽が混ざり合うなか、二人は黙って航海した。

    現実には一歩も動いていない。それでも音楽は、二人を別の場所へ運んだ。

    私は車の中では、よく《My Favorite Things》を聴く。よく知られた旋律が反復されながら、少しずつ見慣れない場所へ入っていく。その動きが、車窓の風景によく合う。

    フリー・ジャズを聴くのは、おもに自宅だ。コルトレーンだけでなく、アイラーもオーネット・コールマンも聴く。

    後期のコルトレーンでいちばんよく聴くのは、《Live at the Village Vanguard Again!》である。

    コルトレーン、ファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ラシッド・アリらの演奏により音楽は形を失うのではなく、演奏しながら新しい形を探し続けているように聞こえる。

    パティ・スミスは、動かない船の中で《Olé》や《Meditations》を聴いた。私は自宅で《Live at the Village Vanguard Again!》を聴き、車の中では《My Favorite Things》を聴く。

    聴く場所も、よく手に取る作品も違う。

    それでも、コルトレーンの音によって、いまいる場所から別の場所へ運ばれていく感覚には、どこか共通するものがある。

    パティ・スミスにとって即興演奏は祈りだった。

    私にとってもコルトレーンを聴くことは、音楽を鑑賞するというより、少しだけ別の場所へ移動することに近い。

    走る車の中でも、動かない船の中でも、音楽は航海を始める。

     
     
     
    日々の思索を書き留め、書き溜めてきたものを、 少しずつ綴っています。 しばらく書かずに過ごした時間も含めて、 ようやく形にできるようになりました。 ここで書くのは研究ではなく趣味ですが、 自分の思考の層から言葉を掬い上げる姿勢だけは 変えませんのでお読みいただければ幸いです。

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