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にゃんぷーとオコメ | 猫と青い屋根の家と、あの夏。

    文 spannko
    çľľ kohshiro

    * 創作大賞応募にあたり、少し手を加え、一気読みできる版を新しく公開しました。


    あらすじ

    湖のほとりの青い屋根の家。
    ここには3匹の飼い猫と3人の音楽家が暮らしていた。

    夏のある夜。
    ピアノの音に誘われたのか、一匹の猫が網戸の向こうに現れた。

    彼は山と空き家に住む自由な猫、にゃんぷー。
    家の中で兄妹猫たちと暮らす次男坊、オコメは
    にゃんぷーに向かって生まれて初めてというくらいの大きな声をあげ、
    自分でもびっくりする。
    そんな猫たちを横目に、
    住人のなっちゃんは構わず楽しそうにピアノを弾いていた。

    網戸一枚を隔てて始まった出会い。
    やがて、互いの生きる世界を知ることとなり、
    行き交う気持ちが、その境界線を破るほどに大きく揺れ動いていく。

    なぜ、その向こうに行くことができないのか。

    にゃんぷーとオコメ、
    それぞれの視点で紡がれる、
    あの夏の物語。



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    にゃんぷーとオコメ




    にゃんぷー その1


    記憶というのは、
    入れ物の中にどんどん溜まっていって、
    いっぱいにならないように古いものからどんどん
    砕けて、バラバラになって、小さくなって、
    空気みたいになって、
    消えていくんだと思う。


    ぼくの一番古い記憶は暗闇だ
    なぜか真っ暗なところにいた
    お腹が空いて、寒くて
    このままではまずいなと思った
    それで何も見えないけどウロウロしてたら、
    小さな光が見えて、
    なんとかしてその光の向こうへ行かねばと
    必死に這い出した

    そこは湖が見える山の上だった
    季節は夏で
    日差しは強いが、風がとても気持ちいい

    ぼくはこんなところで過ごすのは初めてだ
    でもぼくには、考えるより前に
    「こうしたらいい」ってわかるものが胸の真ん中あたりにあって、
    その通りにすると、
    食べたらいい虫にありつけたり、
    飲んではいけない水を避けたり、
    山の動物に出会う前に隠れることができたりした
    あとは雨が降っても濡れない快適な場所さえ見つかれば、なんとかここでも生きていけそうだなと思った

    ぼくは大人の猫だから、暗闇よりも前に生きていたところがあるはずなんだけど、
    今いる「ここ」は多分、
    前に暮らしていたそこよりずっと広くて自由だ
    気楽だけど気楽でもない
    まあ、そんなところだ

    それにしても、猫にはさっぱり出会わない
    山に猫は住まないのだろうか
    山を降りたところに、人の住む家がある
    あそこにいけば、仲間に会えるだろうか


    ぼくは山の暮らしを始めてちょっとしてから、
    思い切って人の家の方に降りていってみた
    そこはニワトリが小屋で住んでいたり、
    子供がたくさんいる家族の家だ
    庭には湧き水があって、
    ここの水ならいつでも新鮮に飲める
    ぼくが行くとニワトリが騒ぎ出したから、
    すぐに子供に見つかった

    「よお」

    挨拶すると、子供たちはかけよって来て

    「猫だ〜〜〜」「かわい〜〜」

    とか言って触ろうとする
    やめてくれ!ぼくはサッとかわす
    ぼくの胸の真ん中が、触らせてはいけないという
    生きるためには触らせないほうが良いみたいだ
    家の中にいる母さんが何かぽいと投げた
    魚だ!久しぶりに食べたなあ、美味しいなあ

    もしこの人たちが食べるものをくれるなら、
    湧き水もあるし
    ここにいるのも悪くないな
    もしこの家の中に入ってもよければ
    雨が降っても、寒くても
    大丈夫だなあ

    この家はドアも窓も開けっぱなしだから
    もしかしたら入っていいのかもしれない
    ちょっと家に入ってみるか

    「こら〜〜〜」

    さっきの母さんに追い払われた
    まあ、そうは簡単に行かないか
    隣にも家がある
    行ってみよう


    その家は誰も住んでいないみたいだった
    家の中はボロボロで
    ちょっと湿気ているけど畳もあるし、
    隠れるところもたくさんある
    ここなら雨には濡れないですむ
    夜も外ほど他の動物に怯えながら過ごさずにすみそうだ
    人に追い払われることもない

    よし、ここをぼくの住処にしよう

    ぼくは夜はこの家で過ごし
    朝は隣の家の湧き水を飲んで
    山へ狩りに行く
    朝ごはんを食べたら
    天気が良ければ山の木陰で
    雨が降ったら家で眠る
    毎日少しずつ、隣の家、また隣の家と探検にも行った
    どこの家もあんまりドアが開けっぱなしではない
    ちょっと窓から覗いても誰も反応しない
    そして、猫にはまだ出会えていない


    ある日、ぼくは車がたくさん走っている道の方まで、足を伸ばしてみようかなと思った
    昼間より夜の方が車が少なそうだから、夕方くらいからてくてく歩いて行った

    すると、車の走る道沿いに大きな青い屋根の白い家があって、そこから何か音が流れている
    これは知っている、確かピアノという楽器の音だ
    ぼくはこの音を聴くのは満更でもないなと思った
    でも気持ちよく聴いているのに、何回も止まったり、また戻ったりするんだ
    その度にぼくは走っていて急に止まる時みたいに、前足に力が入る
    やがて家から子供と女の人が出てきて
    「バイバ〜イ」と挨拶をして
    子供はそこに停まっている車に乗って道の向こうに走っていく
    女の人はまた家に入る
    すると次の車が来て、また違う子供が家の中に入っていって
    ピアノの音が聴こえ始める
    今度のピアノは安らかに聴けそうだな
    あっと、また止まった

    ぼくはここでピアノの音を聴いたり、
    人が出たり入ったりしてるのを見るのが面白くなってきて
    毎日夕方、ちょっと離れたところから、青い屋根の家の様子を眺めて過ごすようになった

    ある夕方、窓にサッと黒い影が見えた
    猫だ!
    この家には猫がいる!
    ドキドキ、ワクワクした

    ぼくはその夜、この家の窓へ近づいて猫たちに挨拶することにした


    にゃんぷー その2


    今夜はとても心地よいピアノが聴こえてくる
    途中で止まったり戻ったりしない
    音を頼りに家をぐるっと回ると、
    南側にある大きな、網戸の引いてある窓が開いていて、
    近くに行ってみると、あの女の人がピアノを弾いているのが見えた
    しばらくうっとりとその音を聴いた
    すると中の猫たちがぼくに気づいて
    近寄ってきた

    なんだ、3匹もいるのか!
    「誰だ!」
    「君は何者?」
    「どこに住んでいるの?」

    こいつら、人の言葉みたいなので話しかけてくる
    ぼくは猫らしく

    にゃあ!!

    と言ってやった

    そしたら黒いやつがフーーーッッと毛を逆立てやがった
    黒いやつの胸の真ん中のスイッチが入ったのが見えた
    そうだそうだ、ぼくらはこのスイッチのことを忘れちゃいけないぜ

    ぼくはよっこいしょとそこに横になった
    ちょっとゆっくりさせてもらうよ
    人の家に猫が住んでるのを見るのは初めてなんだ
    どんな暮らしをしているのか見させておくれ

    猫が騒いでいるのに気づいて、ピアノを弾いていた女の人が

    「あら、あなたどこの猫ちゃん?」

    と話しかけてきた

    ぼくはどこの猫でもない
    ぼくは自由なんだぜ


    ぼくはここでワタワタする猫たちが面白くて
    毎晩ここへ通うようになった
    君たちは獲物を取る練習をしているかね?
    もし万が一山に放り出されたら
    それじゃ生きていけないんだぜ
    そんな優越感も感じて
    少し気分がいい

    ある時、黒いやつがぼくを威嚇して大きな声を出した
    だんだんスイッチの入れ方がわかってきたんだな
    これで猫同士のやり取りができるってものだぜ
    面白くなってきたな



    黒いやつは「オコメ」と呼ばれていた
    白い大きいのが「オフトン」小さいのが「アズキ」で、なんて呼ばれるかってのが「名前」というらしい
    「アズキ」はメスだからか、途中からぼくらのやり取りに興味を示さなくなった
    メスってのは何を考えているのかほんとにわからない

    人間の方にも名前があって
    女の人は「なっちゃん」で
    もうひとり、夜になると帰ってくる男の子は
    「ほうすけ」だ
    よく、とんとことんとこと何かを叩いている
    この音を聴いていると、すごいスピードでどこまでもかけていけるような気持ちになる
    音ってのは面白いな

    ぼくは特に名前がない
    だからって、生きていくことになんの影響もない
    でももし呼ばれるとしたらどんな名前がいいかな
    そんなこと考えても仕方ないんだけどな


    今夜も遊びに行って、窓の近くにごろっと横になる
    すると黒いのがきてぼくを威嚇する
    ぼくも声をあげる
    今日は白いのも声を出してる
    おーいそろそろそっちへ入れてくれよ
    窓に近寄ると
    ガチャっと横の扉が開いて、女の人が出てきた
    そして何かをどん!と叩いた
    ぼくはびっくりして飛びのいた
    女の人の方を見ると
    大きな声を出して追っかけてくる
    ぼくは逃げた

    ひょっとして追っかけっこかな

    今度は違う窓に行ってみた
    また猫たちが寄ってきて大きな声を出す

    すると女の人が別のドアから出てきてまたぼくを追いかけ始めた
    今度はどこまでもどこまでも追いかけてくる
    ぼくは追いつかれないぜ

    逃げ切ったけれど、もうあの家に戻ってはいけない気がした
    ぼくは追い払われたのかな
    なんであの猫たちは家の中にいることができて
    ぼくは中に入れてもらえないのかな

    ぼくの胸の真ん中が一瞬キュウっとなった気がしたが、
    まあ、ぼくには住む場所があるし
    山で狩もできるし
    大丈复だ
    今日は家で眠ろう


    次の日からものすごい雨が3日間続けて降った
    ちょっとでも外に出たらずぶ濡れになる
    そしてまずいことにとても寒い
    濡れたら体温を奪われる
    これでは山に狩にはいけないな
    ぼくは家の中の小さな虫を捕まえて食べてやり過ごした
    普段入らないところにも入って虫を探したから
    ぼくの胸の白い毛はすっかり茶色くなった
    お腹が空いたな 寒いな
    早く雨がやまないかな

    4日後、ようやく雨が止んで、
    雨上がりは打って変わってすごい暑い日になった
    朝やっと少しだけ山で狩りができたけど
    ぼくはお腹が空きすぎて、うまくうごけないし、こんなんじゃ全然足りない
    だけど、この暑い中動く気にもなれなかった
    ぼくは大丈夫かな
    とりあえず湧き水を飲んで、
    大家族の家に入ってみたけど、また追い払われた
    今日は魚はくれないのか
    仕方ない、昼間は木陰で眠ろう
    なんだか力が出ない
    お腹が空いたな

    涼しくなった頃
    フラフラしながら歩き始めた
    なぜだかわからないけど
    あの青い屋根の家にたどり着いた

    猫たちに気づかれないように高い窓の下まで行ったところで、
    疲れ果てて横になった
    すると車が入ってきて、女の人が降りてきた
    すぐにぼくに気づいた

    「あらにゃんこちゃん、久しぶり、またきたのね
    。。。ちょっとみないうちに。。なんだかずいぶん薄汚れて痩せたわね。。
    ちょっと待ってて」

    女の人は家に入っていき、また出てきた
    この女の人は突然追いかけてくるかもしれないから
    3m以上近づいてはいけない
    とぼくの真ん中が言う
    女の人は何か持って近寄ってくる
    ぼくはふーーっと言って少し逃げた
    でもヘナヘナでまた横になった

    すると女の人はパラパラと何かを地面に置いた

    ひょっとして食べ物か?

    今すぐそこに行きたい、がいけない
    ぼくはウロウロしていると

    「食べなね」

    と言って女の人は少し離れた

    ぼくはいつでも逃げれるように準備して
    それに近づいていって、ガツガツと食べた

    なんて甘い味がするんだろう
    甘くて、ちょっと懐かしい
    山で食べた虫やネズミとは全然違う
    こんなの食べたら、山では暮らせなくなるなあ
    だからあいつらは家の中で、
    スイッチも入れずに、ノコノコ過ごしてるんだな

    あっという間にたいらげたのを見て、
    女の人はもっとそのポロポロしたものを地面に置いた
    ぼくはまた食べる、一心不乱に食べる
    自分がどんなにお腹を空かせていたかがわかったよ


    「あなた、どこかの家の猫じゃないの?
    どこからきたの?ご飯食べれてないの?」


    女の人はたくさん質問した
    ぼくは全部答えたが、女の人にはにゃあとしか聞こえてないみたいだ

    「また食べにおいでね」

    そう言って女の人は家に入った
    この間はすごい勢いで追いかけてきたのに、今度はまた来いって
    なんだかよくわからないやつだ
    でもぼくのお腹は満たされて
    その夜は久しぶりにぐっすり眠った
    また明日もあの家に行ってもいいかな


    次の日の朝の山の狩りは、獲物があんまり採れなかった
    3日間の空腹と家の中で過ごしたことで
    動きが鈍くなっているし
    ちょっとだるい

    身体が本調子になるまで少しかかるかもな
    湧き水を飲んで、昼寝をして
    夕方は青い屋根の家に行った
    すると昨日と同じところに、ご飯が置いてある
    ぼくはむしゃむしゃ食べた

    それで少し散歩して、また戻ってきたらまたご飯が置いてある
    もちろんペロリとたいらげた
    ぼくは歓迎されているのかもしれないな

    いい気持ちになってきて、
    ぐるっと家の周りを回ったら、
    家の南側の、
    この間女の人が飛び出てきた扉のところにもご飯が置いてあった
    ぼくは警戒しながらむしゃむしゃ食べた
    少しずつ力が湧いてくる感じかした

    試しに次の日の朝、また青い屋根の家に行ってみた
    すると、朝もご飯が置いてある

    ひょっとしてぼくはもう、
    山に狩に行かなくてもご飯にありつけるのかもしれない
    というか、ぼくはここに住んでいいってことなのかな


    ぼくは毎朝毎晩、青い屋根の家にご飯を食べに通った
    昼間は青い屋根の家のすぐそばの木陰で涼しく過ごせる場所を見つけたから、そこにいるようになった
    あの空き家には雨の時と夜だけ帰るようになった


    昼間は「なっちゃん」がピアノをたくさん弾いている
    ぼくはそれを聴きながら木陰で昼寝するのが好きだった

    ふと家の中を見ると、黒いやつがソファの上で、同じようにピアノを聴きながら昼寝している

    ぼくはなんだか面白くなかった
    えい、脅かしてやれ

    にゃあ!

    ひとなきで黒いやつは目を覚まして、窓ぎわに寄ってきて警戒してる 
    ぼくが近寄るとふーーっと身体中の毛を逆立て始める
    すると「なっちゃん」はピアノを弾くのをやめて、
    「おこちゃん、だめだよ」
    と言ってたカーテンを閉めてしまった

    ああ、余計なことしてしまった
    ピアノ聴きながら昼寝だけしてればよかった

    そしたら、扉が開いて
    「ご飯置いておくよ」
    と「なっちゃん」が言って、ぽろぽろのご飯が置かれ、
    また扉の向こうに入って行った

    カーテンの向こうからピアノがまた聴こえてきた
    隙間から覗くと、黒いのは窓の外を警戒しながら、
    ピアノの上に寝そべって聴いている

    なんだよ、特等席じゃないか

    ぼくは「なっちゃん」の置いてくれたご飯を食べながら、
    少しだけ不満になった

    ぼくも中で聴けたらいいのになあ
    というか、なんだろうこの気持ちは 

    ぼくはなんでいつもここにいるんだろう
    なんで中に入れないのだろう
    なんで黒いやつはよくて、ぼくはダメなんだろう


    その時、また扉が開いた
    ぼくはびっくりして飛び退いた
    中から「なっちゃん」が出てきた
    やばい、また追いかけてくるか?
    逃げようと思ったら

    「にゃんぷー!」

    と「なっちゃん」がぼくを呼び止めた

    「にゃんぷー、おいで、にゃんぷー!」


    にゃんぷー?
    。。。ぶっっはっはっはっは!
    ひょっとして、ぼくの「名前」ってやつか!?
    なんて変な名前だ!ぼくは笑っちゃったよ
    そういえば、「オコメ」も「オフトン」も「アズキ」も変な名前だよな
    なっちゃんは本当に変なやつだな

    ぼくはちょっと警戒の紐が解けて、
    近寄っていった
    なっちゃんは袋を持っていて
    それを開けて、その中身を
    ぼくのご飯をいつも入れる透明のトレーに入れた
    すごくいい匂いがする
    食べていいのか?

    「にゃんぷー、どうぞ」

    すんごく食べたい 近寄っても大丈夫か?
    食べたい、危ない、食べたい、危ない
    が行ったり来たりしたが
    遂に食べたいが勝って
    なっちゃんのすぐ側で、その柔らかいご飯を食べた
    本当に美味しい ぼくはあっという間に、本当に10秒くらいで全部食べた

    「すごい食べっぷりだね!柔らかいの好きなんだね、また明日あげるね」

    そう言ってなっちゃんはぼくの頭の上に手を乗せようとした
    それはダメだ!!ぼくの真ん中が発動して、ぼくは飛び退いた

    「ごめんごめん、ポロポロのご飯ももう少し食べる?」

    なっちゃんはまたご飯を入れた

    ぼくは恐る恐るまた食べにいった
    食べれる時に食べとかないとな
    いつまた外に出れなくなるかわからないからね

    「じゃあ、またね。また明日の朝、食べにおいでね」

    「なっちゃん」は扉の向こうにまた入っていった


    ぼくはその夜、自分の住処に帰って、月を眺めた
    遠くからなっちゃんのピアノと、ほうすけのとんとこと、
    もうひとつ低くてあったかい森みたいな音もして
    その音が混ざったり、ひとつになったり、
    かと思えば散らばったりするのを聴きながら
    「にゃんぷー」と言う名前について考えていた

    とても変な名前だけど、
    今でも思い出すと笑っちゃうけど、
    名前があるっていうのは
    なんだか自分の形が生まれたような感じがするな
    そして、懐かしい感じもする
    つまり、とにかく悪くない

    ぼくはいい気分で月を眺めたんだ



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    にゃんぷー その3


    次の日の朝、青い屋根の家に行くと、扉の向こうから
    「にゃんぷー?いるの?」
    と言う声がした。

    ぼくは思わず
    「いるよ!」
    と返事してしまった
    なんだか嬉しいな

    「ちょっと待っててね〜〜」

    と言ってなっちゃんがぼくのご飯を持って出てきた
    昨日と同じ、柔らかいご飯と、ポロポロのご飯をたっぷりくれた

    「今日の夜は、私は出かけてしまっていないの。デカくまさんにニャンちゃんのご飯も頼んでおくから、また夜食べにおいでね。
    明日の夜には戻るからね。」

    そう言って扉の中に入り、なんだか忙しそうにバタバタして、大きな車にたくさん荷物を乗せて出かけていった
    誰もいなくなったら、あいつらは山に狩にもいけないし、どうやって暮らすんだろうか
    食べものはどうするんだ?デカくまって誰なんだ?

    いろいろ疑問も湧いたが、ぼくは昨日から美味しい柔らかいご飯を食べているせいか
    ものすごく身体が元気になってきていて、
    今日は山へ行ったら狩りがすごくうまく行く気がした
    それでその日はとっても暑かったけど、だいぶ山で動き回った
    夕方にはお腹が空いて、やっぱりまだ本調子でないからか、
    ヘナヘナしてきた
    青い屋根の家に行ってみたが、ご飯はなかった
    まだデカくまさんは来てないのかな?

    家の中を覗くと、あいつらはご飯を食べてるみたいだ

    もしかすると夜になるのかもしれないからもう少しここで待ってみよう


    黒いやつは相変わらずこちらを睨みながら座っている
    あいつが家のボスなのかな
    いや、あの2階の窓のところにいるのは白い大きなやつだ
    猫ってものは高いところにいる奴が強いんだ
    ってことはあの家のボスはあの白いやつか
    あいつに勝ったらぼくもあの家に入れるのかな
    お腹が空いているからか
    ぼくは、猫らしいことばかり考えてしまうな
    早くご飯が食べたいな

    しかし、何時になってもデカくまさんは来なかった

    ぼくの透明のトレーは透明のままで
    ぼくのお腹はいよいよぺこぺこで、またあの雨の続いた日の時みたいに
    動けなくなってきた
    ぼくは思い切って中の猫たちに話しかけてみることにした

    「お〜い」

    すぐに黒いのが寄ってきて威嚇の声をあげる

    「そう、いきり立つなよ。今日、デカくまさんとやらはご飯をくれにきたか?」

    こちらは冷静なのだが、話しかければ話しかけるほど、黒いのは身体を大きくする。
    そしてついにボスと思われる白いのもやってきて、低い声で唸り始めた。
    そうか、今日はなっちゃんがいないから気合い入ってるんだな。

    ぼくは一歩近寄って、
    「お腹が空いちゃってさ・・・」

    と言いかけた途端、黒いのが網戸をバン!!と猫パンチしてきた
    ぼくは0.2秒くらいの誤差でパンチ仕返した

    戦うってことか、よし、これは縄張り争いの始まりだな
    ぼくは腹ペコで、身体はヘナヘナしてたけど、
    応戦体制に入った

    黒はいよいよ身体中の毛を逆立てて、身体を大きくして、
    元々身体が大きいから、すごい大きな岩のように見えた
    そこからゴンッと繰り出されるパンチはなかなかなもので、
    ぼくは負けまいとパンチ仕返した
    ぼくは山で鍛えた筋力があるからな
    部屋でゴロゴロしてる奴らとはパンチの「質」が違うんだぜ
    ただ、今日は本当に腹ペコだし本調子でないから、力が半分くらいしか出ないな

    網戸越しの猫パンチ合戦は、大きな威嚇の声と共にヒートし
    テンションも上り詰めた時、

    バリバリバリッ

    網戸が破れた

    その時、破れた網戸の隙間から
    ぼくには網戸越しでない家の中のくっきりとした景色が見えた
    黒い猫の鼻先 驚いた白い猫の顔
    なっちゃんがいつも弾いているピアノ
    その向こうにある猫たちのご飯

    お腹が空いた
    あそこにあるご飯が食べたい
    でもぼくはここに入れてもらえない
    ここに生活している猫たちはずるいな
    怖がっている白猫にイラッとする
    立ちはだかる黒猫がちっとも話にならなくて邪魔だ
    今なら中に入れる

    いろんな気持ちが一気にぼくに押し寄せて、
    ぼくの中の最後に入れるスイッチがカチンと入った


    そこから先は何も覚えていない


    気付いたら昼間で
    青い屋根の家の外にいた
    最終スイッチが入ったのはおそらく初めてで
    ぼくも動揺していたし
    すごく興奮したあとだからか
    自分が空っぽみたいな感じで
    何をする気にもなれないし
    身体を動かすのも辛かった

    目の前の網戸が破れて、窓も開いている
    ぼくは家に入ったんだよな
    何も覚えてないが、この空っぽな感じが答えだ
    猫たちの姿が見えない
    今も破れた網戸から中に入ることはできるけど
    今日はもうこの中に入る気にはなれない

    日差しを避けて、茂みの中に横たわって
    目を瞑って ぼくの胸の真ん中の感触を探ってみた
    どうやらあの白いのには勝ったようだ
    だけど、だんだん身体の感覚が戻ってくると
    痛みを感じるようになってきた
    ぼくは前の腕と、胸に、もしかしたら顔にも
    結構な傷跡がある
    黒いのと戦ったのかな
    あいつには勝った気がしない
    そうか。。。なかなかやるな、あいつ。。。
    白いのには勝って、黒いのとは同点てところだろうか

    ぼくは疲れて、眠くなって、そのまま茂みの中で寝てしまった

    するとガサガサッと茂みに入り込んでくるやつがいる
    びっくりしてぼくは家の方へ逃げた
    大きな人が「お〜い」と誰かを呼んだり、電話したりしてる
    猫が逃げたと思ったのかな、あいつらは中にいるぞ
    ぼくらは熱いバトルをしたんだぜ

    なっちゃんがいつも出てくる扉の前で立っていると、
    その大きな人が茂みから出てきて
    ぼくに気付いた

    「おまえか、えらいことしてくれたな 悪さしたから飯はやらんぞ」

    この人がデカくまさんか?
    っていうかぼくは悪さしたのか?
    喧嘩を売ってきたのはあいつらだぞ
    それに、ぼくもだいぶまいっているんだ
    縄張り争いは猫の世界では当たり前のことなんだ
    勝ったんだからご飯置いていってくれ

    デカくまさんは 近寄ってきてシッシッとぼくを追い払った

    「見つからねえわ、外の野良猫だけ家の周りをうろうろしてる」

    電話先の誰かと話してる
    なんだか緊迫した雰囲気だ
    もう一回ぼくを追い払って、デカくまさんはいなくなった

    夕方になると、もうひとり女の人が家に来て
    ぼくのことを見つけた

    「あなたがにゃんぷーね。オコメとオフトンとアズキを知らない?」

    ぼくの名前を知っていると言うことはこの人はなっちゃんの仲間かな
    でもぼくは、いよいよ喧嘩の傷も痛いし、お腹は相変わらず空いていて、
    返事をする気力もなかった

    その女の人は家に入っていって、ああ、2階で白いのを見つけたみたいだ
    全員家にいるから大丈夫だよ
    白いのは負けたから、多分ショックで落ち込んでるよな
    ぼくたちのルールなんだよ、そういうものなんだよ

    女の人も誰かと電話で話しながら、帰っていった


    静かな夕暮れだった
    目の前には破れた網戸
    あいつらの姿はない
    2階にいるのかな
    あいつらの空っぽのご飯の皿も飛び散らかったままだ
    お腹が空いたな
    そういえば昨日から何も食べていないんだった
    この青い屋根の家の1階は
    ぼくは白いやつに勝ったから
    もう自由に出入りしていいということだろうか
    もうすぐなっちゃんが帰ってくる
    その時家にいたら、びっくりしてまた追いかけてくるかもしれない
    あれは本当に怖い
    もう住処に帰ろう
    何しろ疲れた 静かに眠りたい

    ぼくはゆっくり住処の方に歩いていき、湧き水を少し飲んで
    住処のいつもの場所に横たわると
    あっという間に眠りに引き込まれた

    目が覚めたら夜になっていた
    少し動けそうだ
    ぼくはどうしても気になって
    また青い屋根の家に様子を見に行った

    車があるので、なっちゃんが帰ってきているみたいだ
    いつものご飯の場所に行くとご飯が置いてあった
    ぼくはまた一心不乱にそのご飯を食べた
    にゃあ、と言ったが誰も出てこない
    うろうろしてみたけどどの部屋もカーテンが閉まってるし、窓も閉まってる
    明日になったらまた窓が開くだろうか
    あいつらはどうしてるだろうか
    モヤモヤとしながら住処に戻ると
    やっとご飯にありつけたにもかかわらず
    ぼくはいよいよ本当に空っぽで
    落ちるように
    また深く深く、眠った



    にゃんぷー その4


    次の日の朝、
    ぼくはちょっと回復したみたいだ
    ぼくは勝ったんだったよな
    ぼくもあいつらと同じように
    あの家に入ったり
    あいつらみたいに
    ソファに座ってピアノを聴いたり
    当然できるできるだろう
    あいつら、特に黒は
    多分猫の世界のことちゃんと思い出したよな
    ぼくたちはたたかって、やりあったんだ
    そんな気持ちが湧いてきて
    ちょっとウキウキしながら青い屋根の家に行った


    昨日と同じく、家の南側はどの部屋の窓もカーテンも閉まっていたが
    1箇所だけ北側の高い窓が空いているので、
    ジャンプして中を除いた


    なっちゃんがいる
    あいつらもいるじゃないか
    ぼくはうんと背伸びして、窓に手をかけて窓から顔を出した
    そして
    「おーい」
    と声をかけた
    なっちゃんが
    「きた!!!」

    と言って、慌てて寄ってきて、さっと窓とカーテンを閉めた

    なんだよ、そんなに慌てなくてもいいのに
    それで、いつもの扉のところに行ってみると、
    なっちゃんが扉から出てきた

    ぼくはちょっと自慢げに

    「よお、おかえり 気づいてると思うけどぼくは白いネコに勝ったんだ。
    だから、ぼくもこの家に入っても良いんだぜ」

    「にゃんぷー、うちに入ったの?何があったの?うちには住めないよ」

    なっちゃんはぼくの言ってることがわかってるのかな
    大抵とんちんかんですれ違うことが多いけど、
    ときどきわかってるのかなって思ったりする

    そうか、住めないのか
    うーん、猫のルール的には住んでいいんだけどな
    住めなくてもいいけどさ
    いつもぼくは外で、あいつらが中ってさ
    たまにはぼくも入れてくれたっていいんじゃないの?

    「あなたのこと、探してる人がいるかもしれないから、張り紙を作ったわ。」

    「それは無駄だよ、ぼくは記憶の限り、山と空き家に住む自由な猫だ」

    なっちゃんはそれだけ言ったら家に入っていった。
    ほらな、またすれ違った
    そしてなんだかそっけない
    またちょっともやっとしたが
    まあ、やっぱりこんなもんだよな


    それ以来、青い家の窓とカーテンはしまったままのことが多くなった
    なっちゃんがいる日は
    たまにカーテンが空いてたりするけど
    ピアノの部屋の窓は閉まったままだ
    網戸が破れているから仕方ないか
    でも、ぼくはもう無理には入らないよ
    あの時は喧嘩だったんだし
    最終スイッチ入ってしまったから仕方なかったんだ
    なんだかぼくは最近、仕方ないとばかり言ってるな

    ぼくは窓に近寄ってみた
    あの日以来黒いやつの監視体制が厳しくなっていて
    ちょっとでも寄ろうものなら、窓が閉まってるのに、ものすごい声で威嚇するんだ
    そうすると、なっちゃんがサッとカーテンを閉めてしまう

    ぼくはあいつらと本気でやり合っただけなんだ
    そして、少なくとも白とは勝負がついたんだ
    そんなに壁を作らないでほしいな

    カーテンが開いているのを見つけるたびに、
    なんとかわかってもらいたくて
    窓の外に立った
    慎ましく座ってみたりもした
    でもその度にカーテンが閉められた
    そんなこと、今までもたくさんあって
    大したことなかったはずなのに
    ぼくはカーテンが閉められる度に
    自分の胸の真ん中がちょっとずつ痛んでいくような感じがした

    ご飯はくれるんだ
    朝行っても、夕方行っても
    なっちゃんはご飯をくれる
    でもなんかそっけないんだ

    まあ、こんなもんか
    こんなもんだよな 仕方ない
    そうやって仕方ないと呟くたびに
    ぼくは見た目も、心も
    外に住む猫らしくなっていった


    そんな風に日々が過ぎていくにつれて
    時折、夏とは違った風が吹くようになった
    夜はちょっと寒いなと感じる

    ある夕方、すごい風が吹いたと思ったら
    その晩はとても寒くて
    ぼくは住処の隅っこの古い布の中に入って眠った
    この先、寒くなっていくのか
    そしたらこんな布では耐えられないな
    そういえば夏が過ぎたら秋で、秋が過ぎたら冬が来る
    ここの冬は予想するに、とてつもなく寒い
    ぼくはそうしたら、生きていけないだろう
    切実な問題が目の前に現れた
    そのおかげで、少し頭がスッキリしてきた

    そもそも、ぼくは
    あの青い屋根の家に入りたいのだっけか
    別に勝負する前は家に入りたいなんて思っちゃいなかったよな
    どう考えても黒いのも白いのもいて
    ぼくがあの家でゆっくりできるスペースなんてないだろう
    あの家に入るのは無理だって、初めからわかっていたことだ
    確かにぼくはちょっと、あいつらみたいな暮らしが、いいなって思ったときもある
    それにちょっと懐かしい感じがしたんだよな
    だけどそんなことは、まあ、どうでもいいことだった
    このまま寒くなって、ぼくは生きられるかどうかが
    今は1番の問題なんだ

    ぼくはいつの間にか眠っていた
    寒かったのでできるだけ丸く小さくなって眠ったからか
    くるくる回る螺旋階段のようなところを
    ずっと降りていってるのか
    昇っていってるのか
    わからないけど
    歩いている夢を見た
    ずっとずっと歩いていくと
    突然空の高いところの雲の上みたいな
    もしくは湖の真ん中の水面みたいなところに出た

    そこには大きくあったかい「声」があって
    ぼくを包みながら、いろいろ質問するんだ
    ぼくは答えるたびに、ぼくの真ん中が輝きだし
    どうしたらいいのかがわかった

    ぼくはどうやら、暗闇の前、人間の家に住んでいたみたいだ
    ぼくは何にも覚えてないけど、
    ぼくがときどき、懐かしいなと思うのはそのせいみたいだ
    記憶は消えても、匂いとか、肌触りとか、そんなものは空気の中に残っているんだ

    そして、ぼくが今一番望んでいることは
    「寒くなる前にどこでもいいから家に入れて欲しい」
    ということだった

    「声」が言った

    「なっちゃんにお願いしたいことはありますか?」

    なっちゃんか、あの人は正直何考えてるかわからない
    いつ追いかけてくるかもわからない
    でも頼りになるんだ
    それは、わかる

    「なっちゃんにはできることがあるはずだ。ぼくが寒くなる前に、どうにか寒くなくてすむ場所にいられるようにすること。なっちゃんにお願いしたい」

    そういうと、ぼくはすっかり心が決まった
    「声」はぼくをあたたかく包んで、
    なんだか懐かしい、母さんみたいな匂いがして
    すっかり安心して
    あたたかい日差しの中、ぼくは目を覚ました



    ぼくはとにかく伝わるか伝わらないかわからないけど
    全身全霊でなっちゃんにお願いしに行かなければ!と青い屋根の家にいそいだ。

    するとなっちゃんが扉の向こうから久しぶりに
    「にゃんぷー?」
    と呼んだ

    ぼくは
    「そうだよ!!」
    と叫んだ

    扉からご飯を持ってなっちゃんが現れる
    なっちゃんは久しぶりにとっても機嫌がいい

    「ぼくは寒くなる前に、どこかの家に入りたいんだ!協力してほしい あなたの力を借りるしかないんだ!」

    「にゃんちゃん、ポスターを作り変えたよ。もう元々の飼い主さんは現れないかもしれないから、寒くなる前ににゃんちゃんをお家に入れてくれる人を募集したの 保健所にも連絡して、協力してもらうことにしたよ」


    昨晩の夢は
    魔法だったのか?


    なんとばっちり会話が一致したよ
    へへ、気持ちいいもんだな
    ぼくも上機嫌だ、なっちゃんの上機嫌がうつったみたいだ
    なっちゃんも何か心が決まったんだな
    ぼくとなっちゃんは
    そうだな、ぼくの家を見つけるプロジェクトの同志ってところだ
    よろしく頼むぜ


    その日から、ぼくはスッキリした気持ちで
    青い屋根の家にご飯を食べに行った
    あいつらにはあんまりはちあわせないように気をつけた
    山の狩も再開した
    もう昼間も過ごしやすくなったから、
    動きまわるのはやっぱり気持ちいい


    ご飯の入っている透明のトレーは、
    軽くて、ぼくがご飯を食べていると、どんどん前にズレていってしまうんだ
    それをなっちゃんは押さえてくれる
    その時、ぼくとなっちゃんはとても距離が近くなるんだけど、
    まあ、いいかなと思う 同志だしな
    それで、ときどきどさくさに紛れて、なっちゃんはぼくの頭を触るんだ
    まあ、いいかなと思うけど
    あんまり触るのがあからさまになると、ぼくの胸の真ん中はやっぱり危険!と言うので
    やめてくれと少し下がる

    「にゃんちゃん、あんまり触らせてくれないと、引き取り手が見つからないよ」

    そうなのか?
    じゃあ、少し我慢してみるか
    でもぼくの胸の真ん中は絶対だし、強いから
    おっと、それ以上はやっぱり無理だよ


    ある日、
    ぼくは頭を触られるたびに逃げるから
    なかなかご飯が食べられなくて
    それを見て、なっちゃんはそこにお尻をついて座った
    何もしないよという合図かな
    確かにこれなら、立ち上がったら逃げれば間に合うな
    ぼくは警戒しつつも、安心してご飯を平らげ
    なっちゃんから1mくらいのところに横になって、毛繕いをした

    スーっといい風がふくと
    目の前の草が少し揺れる
    ぼくはすっかりリラックスしてるな
    なっちゃんがなんかずっと喋ってるけど
    今日はあんまり聞かなくてもいい感じがするし
    こんなひとときが無性に心地よくて、あったかくて、どこか懐かしかった
    ぼくはこの時間が好きだな

    「じゃあね、にゃんちゃん、またね」

    「よろしく頼むよ」

    なっちゃんは扉の向こうに消えた
    ぼくとなっちゃんは会話はまだたまにすれ違うけど
    同じ方向に向かっているのをいつも感じる
    それがすごくぼくに力をくれた

    そうやって毎日過ごすうちに
    ぼくはなっちゃんにいつの間にか気を許し始めていた

    なっちゃんと住んだらずっと心強いのにな
    と思ったりするけど、いや、とすぐに掻き消す
    そうだった、それは無理なんだった

    「ぼくの新しい家にはやっぱり猫がいたらいいな」

    「人間とは話が半分くらいしか通じないからな、あとはあったかければいい。でもできたら人間は家族だといいな、子供は男の子はすぐ尻尾を引っ張るから、女の子がいたら、きっと仲良くなれると思うんだ。これでもナイーブだからな、猫が好きな人がいいな」

    「欲を言えば、ピアノを弾いている横で寝れたら最高だな」
    (止まったり戻ったりしないやつ)

    ぼくは毎日思いつく限りのぼくの家像をなっちゃんに言うようになった

    そうしたらぼくも前を見て進めるだろ

    「にゃんちゃん、あなたはどこからきたのかしらね?」

    相変わらず会話はすれ違ったり通じたり

    でもあの螺旋階段の向こうの、「声」に出会って
    ぼくの気持ちは決まったんだ

    ぼくは冬を超えて、まだ来年の春、花が咲くのが見たい
    だからぼくは前に進む

    そんなぼくと、なっちゃんの様子を
    黒いやつがずーーーっと見てるのも知っている
    大丈夫だよ、ぼくはきっともうすぐここを去るからさ
    それまで楽しくいさせてくれよ



    画像

    にゃんぷー その5


    なっちゃんが出てくる扉の横に
    稲の苗箱がいつまでも片づけられずに積んである
    ぼくは夕方、その上に座って過ごす
    そこは中の猫たちからは見えないし
    なっちゃんが呼ぶ声にもすぐ返事できる


    ある日、苗箱の上でうとうとしているときだった


    「おい」


    カーテンと窓の間に黒いやつが入り込んで、じっとこっちを見ている
    威嚇の声ではない
    でも目は逸らさない


    「お前うちには住めないぜ」


    ぼくは余計なことはしないと何も返事はせず、目を逸らして眠ってるふりをする


    「もうすぐお前は捕まって、別の家にいくんだ」


    知ってるって そのためになっちゃんもぼくも
    進んでるんだ


    「それまでに、絶対お前を家に入れないぞ。この家の1階はぼくの縄張りだ!」


    ぼくはとてつもなくイライラした
    お前に何がわかる
    冬に生き残れるかとかも考えずに
    ソファでゴロゴロしてるだけだろ
    確かにおまえのパンチはなかなかだったし
    身体の割に早く動ける
    でもこの間のぼくは、ヘロヘロだったんだ
    本気出したら、絶対におまえよりぼくの方が強い!

    危うくスイッチが入りそうになり
    ぼくは深呼吸をした
    しかしイライラはおさまらず、
    この日はなっちゃんに会うこともなくご飯だけいただいて
    住処にもどった


    あの黒が一階の主なんだな
    じゃあ、ぼくは
    あいつに勝てば
    あの家に入れるってことだな


    そんな考えが波のように押し寄せた
    おかしいな、あの家に入ることはもう諦めたのにな
    ぼくの頭はまた少し、モヤモヤし始めた


    次の日、朝起きてなっちゃんからのご飯をもらいにいくと


    「にゃんちゃん!ついににゃんちゃんをもらってくれる人が現れたよ!しかも2人も手を挙げてくれたのよ!
    1番目の人の家には猫ちゃんがいてね。。。」


    なっちゃんが嬉しそうだ
    おお、よかった、遂に見つかったか
    だけどなんでだ 嬉しいけど
    ちょっとどうでもいい
    おかしいな、ぼくはそれを1番に望んでいたのにな


    ぼくは朝食のあと
    山へ狩にいった
    日に日に涼しくなっていくので、昼間の方がむしろ動きやすい
    ぼくは山でいつもよりたくさん動いた
    なぜなら
    あいつに勝つためだ
    ここを去る前に、あいつに勝つ
    あいつに勝つには相当鍛えて
    相当気合を入れなければだ

    そして万が一ぼくが勝って
    あの家の一階がぼくのなわばりになったら
    なっちゃんもきっとどうぞと 
    ぼくを家に入れてくれるだろ
    あれ、ぼくはどうしたいんだっけ


    ぼくはもりもり食べて、たくさん動いた
    なっちゃんはたくさんご飯をくれる
    そして毎日ぼくをなでようと試みるが
    それはやっぱりぼくは無理だった
    でも、ぼくは自分に力が漲ってきているのを感じた
    体調は万全だ
    いつでも行ける
    あとはやつと対戦できるチャンスだ


    何事もなく、次の家に行った方がいいよ
    心の中で「声」がする
    わかってるって、
    そのチャンスがくるとは限らない
    来なければそれまでってことだ
    でも、別にここに住みたいって言ってるわけじゃないんだ
    あいつとの決着なんだよ
    黒のことを思い出すとまたイライラして、
    ぼくはじっとその時を待つようになった



    その日はとても暖かい日だった
    なっちゃんは洗濯物を干して、珍しく窓を開けて網戸を引いた
    そしてその部屋は網戸を引いた時は絶対に扉を閉めて、中の猫がこの部屋に入れないようにするんだけど
    その日は


    「たまには風を通しましょ」


    と扉を開けた

    中の猫たちはみんな寝てるみたいだ

    もしかするとチャンスかもしれない
    ぼくは静かに草むらに隠れた


    なっちゃんはうたを歌いながら
    お皿を洗ったり、机で何かしたり、
    それからピアノを弾いたりして


    お昼頃車で出掛けていった
    洗濯物の部屋の扉を閉めずに


    ぼくは網戸にゆっくり歩いていき
    網戸越しに思いっきり


    にゃああああ


    と言った


    すると黒がすかさず飛んできた
    ものすごく身体を大きくして
    いきなりスイッチオンし、威嚇し始めた
    ぼくはそれに呼応するようにスイッチオンし
    また網戸越しの猫パンチ合戦だ
    今日のぼくは、この間のぼくとは違うんだぜ
    ものすごい攻防に網戸が前よりも勢いよく破れた


    バリバリバリバリッ


    ぼくはものすごい勢いで家に突っ込んだ
    ぼくは絶対に負けない
    ぼくは黒より早い
    ぼくは黒より強い
    ぼくは絶対に勝つ

    一階も2階も駆け回り
    何度も取っ組み合いになった

    白いのは大きいのも小さいのも隠れてるみたいで
    一度も鉢合わせしなかった

    ぼくと黒だけが
    本気でやり合った


    気付くとぼくは
    黒の後ろ足に噛みついていた
    黒の足から血が流れ、黒の全身から力が抜けた
    猫は背後を取られた方が負けなんだ
    ぼくは黒の前から去り
    洗濯物の部屋に行って
    破れた網戸から外に出た


    ぼくは勝った
    これでこの家の一階はぼくの縄張りだ
    落ち着かなくて、身体中を舐めた
    あいつはやっぱり強かった
    でも勝った
    そりゃそうだ、ぼくは山で鍛えて準備したんだ
    ぼくは勝ったんだ
    ぼくは興奮していた


    ぼくはなっちゃんが帰ってくるのを、いつもの扉の外で待った


    しばらくすると車の音がしてなっちゃんが帰ってきた


    「ただいまあ」


    家の中に入り、買ってきたものを片付けたりしている音がする
    そのうち、なっちゃんが慌てて洗濯物の部屋に走ってきて、網戸が破れているのを見つけて
    「ああああ!!」と叫んだ
    破れた網戸からぼくがいるのを確認して
    「にゃんちゃん、そこにいるね」
    といって洗濯物の部屋の扉を閉めた


    「オフトーン、オコチャーーーン、アーちゃーーん!!!」


    と猫たちが家にいるか確認をしている


    「オコちゃん!!どうしたのたいへん!!!」


    黒を発見したみたいだ
    他の猫もいるよ
    みんな外には出てない

    なっちゃんは家の中をドタバタドタバタ走り回っている
    いつもの扉も開いて、ぼくのトレーにご飯を入れたりもした
    相当テンパってるな


    「おーい、ぼくは黒いやつに勝ったぞ」


    と言ってみたけど、特になんの反応もなく


    「にゃんちゃん。。。。ああ、ごめんなさい 私が扉を開けっぱなしにして出掛けたのが悪かった」


    と言って、扉の向こうに消えていった

    しばらくすると車に黒を入れたカゴが乗って、
    なっちゃんと黒は出かけていった

    車で一緒にお出かけか
    それはいったいどんなもんなんだろうな


    数時間して、ふたりは戻ってきた
    かごから黒の声が聞こえたが
    だいぶ参ってるな
    そりゃそうだ 負けたんだものな

    その夜はまた前みたいに
    青い屋根の家の窓もカーテンもぴっちりと閉まったままだ
    一回住処に戻って、
    また夜に青い屋根の家に行ってみると
    トレーにはご飯が置いてあった

    ぼくはいったいいつ家に入れるのかな
    明日になったら入れるのかな
    きっといろいろが落ち着いたら
    どうぞと家に入れてくれるだろう


    ぼくはひとりでご飯を食べた


    次の日、なっちゃんが出てくる扉の前に、銀色の大きな網目の
    細長い箱が置かれていた
    中にダンボールが敷いてあって
    そこにご飯が置いてある
    そうか、いよいよぼくの部屋ができたのかな
    そんなことしなくたって扉を開けてくれればぼくは家に入るよ
    でもこの箱の中でご飯を食べると
    なっちゃんはいつもみたいにどさくさに紛れてぼくに触れないから
    ちょっと安心して食べられる
    あんまり中に行くと入り口に戻るのが大変だけど、なっちゃんが立って動く頃にはぼくは逃げれるから大丈夫だ


    「にゃんちゃん、あなた本当に強いのね」


    「そうだよ、ぼくは強いんだよ」


    「にゃんちゃんがおこちゃんと仲良くしてくれたら、うちで飼えたかもしれないなあ
    オコちゃん、足を大怪我して、ご飯も食べずにずっと眠ってるよ。。。
    やっぱり難しいね」


    「ぼくは勝ったんだから、家には入れるんだよ
    新しい家にも行くけどさ、でもその前に扉を開けておくれよ
    いったいいつになったらぼくはこの家に入れるんだ?」



    ぼくはずっと青い屋根の家のそばにいたから
    なっちゃんはぼくを見つけると、長細い箱の中にご飯を入れてくれた
    その日は3回ぼくはこの箱の中でご飯を食べた
    だけどこの日も家には入ることはできなかった


    次の日もまた次の日も
    なっちゃんは箱の中でご飯をくれたし
    朝は扉の向こうから「にゃんちゃんいる?」と呼んでくれるし
    ご飯はぼくの好きな柔らかいやつをたっぷりくれるし
    ご飯食べてる間ゆっくり座って話してくれたりする
    新しい家の話もしてくれた
    だけど


    「いつこの家に入れるの?」


    といくら聞いても、その声は届いてないみたいだった


    黒いやつの怪我はそんなに悪いのかな

    多分ぼくはもうすぐ、この家を去る
    新しい家にいくんだ
    それはわかってるし、それはお願いしたことで
    本当になっちゃんは頼れるやつだなと思う
    でもその前に、ぼくはぼくの勝ち取った家に入りたい
    ぼくはこの気持ちに固執した


    ある朝、
    なっちゃんがいつものように箱の中でご飯をくれて


    食べ終わって、もう一回
    「家に入れてくれよ!」と言ったら


    なっちゃんは何か呟いて
    立ち上がって扉を開けたんだ


    遂に入れてくれるのか?
    開いた扉の中を見ると
    そこに黒いやつがいて
    まんまるの目でこちらをみていた


    ぼくはなっちゃんを飛び越えて、家の中に走り込んだ
    黒いのが逃げたから
    黒いのを追いかけた
    怪我したって言ってたけど
    全然走れるじゃないか やるな!
    ぼくらは一階を走り回り
    2階へ行き、また一階を走り回った
    まるで風みたいだ
    こいつと走り回るのは気持ちいい
    窓のカーテンのところに追い詰めたら


    「ぼくは追いつかれないぞ」


    と言って黒いやつはまた逃げ出した
    それでぼくもカーテンから這い出して追いかけたら
    今度は後ろからなっちゃんが
    大声で何か言いながら
    何かを振り回して
    ぼくを追いかけてくるじゃないか


    ぼくは本当に怖かった
    いや、待ってくれよ
    なっちゃん、扉を開けてくれたんだろ?
    それに今日はけんかはしてないぜ
    追っかけっこしただけだよ
    よく考えてよ
    威嚇の声は一つも上がってないだろう?


    なっちゃんは
    「にゃんちゃん、それはダメだ!にゃんぷー!!!外に出ろー!!!」
    と大声で喚きながらものすごい勢いで追っかけてくる
    どの部屋に行っても追いかけてくるんだ
    ぼくは2階のたくさんものがある部屋の立て看板の下に潜り込んだ
    隠れたつもりが、下半身は丸見えだ
    これ以上は進めない
    やばい!


    なっちゃんが部屋に入ってきた
    扉を閉めた


    「にゃんちゃん?いるの?」


    にゃああああ


    ぼくはないた 
    こわかった


    「にゃんちゃん、窓を開けておくから外に出なね」


    そう言ってなっちゃんはその部屋から出ていった
    本当に怖かった
    なっちゃん。。。あいつはなんなんだ?
    そうか、あいつがこの家のボスか
    じゃあ、無理だなあ ぼくはなっちゃんに勝てる気がしない
    しばらくすると車の音がした
    ほうすけでも送りにいったんだろう
    今ならここを出れる
    ぼくはおそるおそる立て看板の下から後ろ歩きで出ようと動き始めた

    「あなた、この家に住みたいの?」


    同じ部屋から声が聞こえた

    「・・・アズキか?」

    「あなたが飛び込んできたから、ここに逃げ込んだのに、あなたも逃げ込んできて、とてもこわかったわ」

    「ぼくはメスに手は出さないんだ」

    「あなた、その窓から出たら、もううちに住むチャンスはなくなるわね」

    「でもぼくは勝ったんだぜ」

    「出た、勝ったとか負けたとか
    そんなのどうでもいいことなのよ
    それは猫の世界のことよ」

    「ぼくは猫だぞ」

    「ここは人のうちよ 勝った負けたで物事は決まらないのよ
    。。。あなたが兄さんたちと仲良くできてたら この家に住めたかもしれないわね」

    「そんなの。。。無理だ あいつらだって無理だろう。それにぼくは住みたいとはいっていない」

    「あとはなっちゃんに撫でさせてあげた?なっちゃんはあなたのこと撫でたいのよ」

    「いや、それも無理だ
    ぼくの胸の真ん中が危険!!ってなるんだ 仕方ないだろう?」

    「仕方ないなら仕方ないわね
    無理なら無理だわ
    あなたはあなたの都合ばかり
    でもその窓から出たら
    新しい家にいくことすら、もう無理かもしれないよ」

    「でも、あいつ怖いんだよ」

    「私だって今、あなたが怖いわよ」


    少しの間、しーんとあたりが静まり返った


    「もっと素直になりなさいよ 人の世界では、どう思っているかが大事みたいなのよ」


    ぼくは、どう思っているか?
    ぼくはぼくの真ん中が、どうしたらいいか知っている
    その通りに生きてるんだ
    だけど、ぼくはどう思っているか、ということか?
    そんなの知ってどうするんだ
    そんなの知ったって、どうにもならないものはどうにもならないし
    生きるためには邪魔になることもあるぞ


    その時ガラッとドアが開いた
    なっちゃんが入ってきた
    ぼくは緊張した
    ぼくはなっちゃんが出て行った時と同じところで同じ格好をしている

    「にゃんちゃん、窓から出ていかなかったんだね」

    なっちゃんの声は
    さっきとは打って変わっていつも通りだ

    にゃああ

    とぼくは言った

    なっちゃんは立て看板をちょっとずらした
    看板と看板の間からなっちゃんの顔が見えた

    その顔を見て


    「ぼくもこの家に居させてくれよ〜〜」


    ぼくはそう言っていた


    なっちゃんはぼくをちゅーるで誘き出そうとした
    でもぼくは怖くて体が動かない
    胸がキュウとなって何もできない

    「にゃんちゃん、今日は外に出よう」

    なっちゃんは看板の周りを片付け始めた
    その間ぼくは何回も

    「ぼくもこの家に居させてくれよ〜〜」

    と言った
    まるで心の中の言葉が堰を切ったように
    何回も言った

    「看板どけるよ」

    なっちゃんは立て看板を退けた
    ぼくは一目散にその部屋から逃げた
    一階に降りると行き止まりだ
    なっちゃんが降りてくる
    慌ててUターンすると
    いつもなっちゃんがご飯を持って出てくる
    ぼくがさっき飛んで入ってきた扉が開いていた
    ぼくはそこから、風の如く外へ飛び出した



    外に出てからも
    ぼくはずっと走った
    ぼくは「この家に居させてくれよ」と言った自分が
    とても嫌だった
    それでも、でもあの家に住みたいと心底思っていた
    ぼくはそんな自分から逃げるように走って走って
    山の上に行き
    木々の間を走り回り
    やがて疲れ果てた頃に湧水にたどり着いた
    ごくごく水を飲んでいると

    「あ、猫また来た〜〜」

    と子供らがやってくる
    背中を触ってくる
    もう、どうでもいい

    「撫でれた〜〜!!」

    と喜んでいる
    そうか、撫でれると嬉しいのか
    撫でられるのも、多分そんなに悪くない
    でももうよくわからないや
    ぼくは住処に行って
    いつもの場所で丸くなって
    目を閉じた


    暗闇に堕ちていくようだ
    ぼくの初めの記憶の暗闇かな
    ぼくは胸の真ん中がとってもヒリヒリしていた
    何度も「どう思ってるか」を言ったからかな
    そしてなっちゃんは
    ぼくを追い出した
    ぼくはもう、本当にどうでもいい

    螺旋の階段を
    またずっと歩いていた
    上っているのか 降りているのか
    相変わらずわからない
    いつまで歩いても
    この間みたいな空のようなところには出ないし
    「声」にも出会えない

    あるのは
    「ここに居させてくれよ」と言った
    ぼくの本心と
    それは叶わなかったという
    事実だ

    ぼくは歩きながら
    何度もその事実に直面した
    なんでだよう と気持ちが爆発しそうになった
    ずっとずっと歩くにつれて
    いろんなことが思い出された
    なっちゃんのピアノ
    初めてあの家に行った時に3匹が話しかけてきたこと
    なっちゃんに追いかけられたこと
    にゃんぷーと呼ばれて気分よく月を眺めたこと
    美味しかったご飯
    黒との対決
    黒と思いっきり走ったこと
    なっちゃんと扉の外で過ごした静かな時間
    アズキの声
    立て看板の隙間から見えたなっちゃんの顔
    情けないぼくの言葉

    目が覚めたら、ぼくは初めの記憶の暗闇に戻ってたらいいのになあ

    だけど何度目を覚ましても
    ぼくは青い屋根の家の記憶が消えていない
    揥珏き
    全部が終わったんだと
    そう思うようになった
    ぼくは深い深い穴に落ちていくようだった



    にゃんぷー その6


    どのくらい眠っただろうか
    外は雨みたいだ
    お腹が空いてきたな
    どんなに落ち込んでも腹は減る
    ぼくは食いしん坊だな
    ぼくは生きている
    雨が止んだら山に狩に行くかな
    ぼくは自由な猫だ
    ぼくはどのくらい、この生活を続けられるのかな


    雨がスッと止んで、晴れ間が見えたと思ったらまた降る
    そんな天気が数日続いた
    夜はだいぶ寒くて、
    住処の古い布の中では厳しくなってきた


    ぼくは雨が止むととぼとぼ歩いて、
    あちこちウロウロしたが
    やっぱり最後には青い屋根の家にたどり着いてしまった
    ぼくの透明のトレーはまだあるかな
    怖いな 見たくないな お腹すいたな

    ぼくはしばらくウロウロして
    でもお腹が空いているのがやっぱり勝って
    おそるおそる覗いてみた
    ご飯が乗っている!!


    ぼくは家のみんなが寝静まって、電気も完全に消えて
    物音もしなくなるのを待って
    そっとトレーの前に座った
    ポロポロのご飯が少しだけ
    だいぶ湿気てる
    長い時間ここにあったんだな
    ぼくはあっという間にたいらげた


    ぼくは嬉しかった


    次の日も雨だったが、夕方に少し止んだので、
    ぼくは青い屋根の家に走った
    ぼくにあたってくる風がだいぶ冷たい
    ポロポロご飯がまた少し置いてあった
    そっと、物音を立てずに、トレーのご飯をいただいて住処に帰った


    なっちゃんはぼくがご飯を食べにきたことに気づいたんだな

    気づかれないように食べなきゃな
    また追いかけられたらたまったもんじゃない

    次の日の明け方 まだみんな起きていないころ
    青い屋根の家に行くと、
    あの銀色の箱の入り口に
    ポロポロご飯と、その横にぼくの大好きな柔らかいのが少し置いてあった

    美味しいなあ
    なっちゃん、ぼくの好きなのよくわかってるなあ


    その日の夜はポロポロご飯と柔らかいかつおぶし

    その次の日の朝は銀色の箱の前に
    ポロポロご飯と柔らかい煮干しが置いてあった
    ぼくはお魚が大好きなんだ


    なっちゃんは本当にぼくの同志だったな


    ぼくは少しずつ元気になってきた
    この調子で絶対に見つからないようにご飯をいただこう

    この日は山に狩に行った
    だいぶ獲物の勢いが弱まっていて
    たくさん採ることができた
    寒くなるとはこういうことか
    山から降りてくると
    あ、青い屋根の家の車がない
    ひょっとして出かけているかな
    ご飯があるかちょっと覗いてみよう


    銀色の箱の中に
    柔らかいご飯とポロポロが置いてあるじゃないか

    ぼくはそろそろと近づいて
    いつでも逃げれるように準備して
    ご飯をいただいた

    その時後ろでがさっと音がした
    ぼくは急いで逃げた


    「にゃんちゃん!!?」


    ぼくは立ち止まった


    「にゃんちゃん、にゃんぷー、待って、行かないで〜〜
    この間はごめんね〜〜〜怖かったよね、ごめん、行かないで、おいで、にゃんぷー」


    ぼくは振り向いた

    なっちゃんが向こうに立っていて
    ぼくの方を見ている


    ぼくの中の記憶が
    ぼくの中でひとつになって
    まるで大きな熱い塊のようになって
    胸の中から飛び出した


    「なっちゃん!!」

    ぼくは初めてなっちゃんのことをなっちゃんと呼んだんだ

    「なっちゃん!なっちゃん!!」

    「にゃんちゃん!!おいで!!」


    なっちゃんは座った
    何もしないよという合図だ


    「にゃんちゃん、ごめんね にゃんちゃんおいで!」


    「なっちゃん!寒かったよ!なっちゃん!
    こわかったよ!追いかけられるのこわかったよ!
    もうダメだと思ったよ!
    お腹すいたよ!」


    ぼくは思いつく限りの「どう思っているか」を
    ぼくの心に任せて叫びながら
    銀の箱の前まで歩いて行った

    「にゃんちゃん、待っててね」


    なっちゃんは家の中に走って入って行って
    急いでいつもの扉から出てきた
    いつもの風景だ
    懐かしいな


    「お腹すいたよ!ご飯くれよ!!」


    あれだけ食べたのに、ぼくは本当に食いしん坊だ


    「にゃんちゃん、戻ってきてくれてありがとう
    はい、にゃんちゃんの好きな柔らかいのだよ」


    そう言って、ぼくの透明のトレーにご飯を入れた
    なっちゃんはトレーが動かないように抑えてくれて
    やっぱりたまにどさくさに紛れて頭に触った
    ぼくは少し我慢した
    人間は撫でれると嬉しいんだもんな
    そしてぼくも、実は満更でもない


    なっちゃんはお尻をついて座った
    ご飯を食べ終わったぼくはやっぱりちょっと離れて座って
    毛繕いをする



    「にゃんちゃん、嬉しいな
    戻ってきてくれて、本当にありがとうね」



    何度もなっちゃんはいう


    ぼくもまた会えて嬉しいんだよ
    そしてなっちゃんの顔を見てすぐわかった
    ぼくたちの別れの時が来たんだね


    「にゃんちゃん、なっちゃんはね
    明日の朝、にゃんちゃんを捕まえます
    それでね、病院に連れていって手術をするよ
    大丈夫だよ、こわくないよ
    眠って目が覚めたら終わってるから
    それでね、新しいお家の人と一緒に
    にゃんぷーを迎えにって
    それで新しいお家に、ついににゃんぷーはいけるんだよ」


    なっちゃんは、しばらく黙ってぼくが毛繕いしているのを眺めていた


    「にゃんちゃん、夜も食べに来てね
    明日の朝もだよ そしたらね、なっちゃんはにゃんちゃんを捕まえるからね」


    そうか、そういうことか
    うんうん、わかったよ


    ぼくはその日、ずっと青い屋根の家のそばにいた
    ぼくがなくと、なっちゃんは何度も出てきて
    銀色の箱の中で
    煮干しをくれたり
    ちゅーるをくれた
    この銀色の箱のことはうすうす勘付いてはいたけど
    ここがぼくのご飯の場所で
    この中に入って
    ぼくは新しい家にいくんだろ
    ぼくはわかってるよ


    扉の向こうに猫の気配はなくて
    窓もカーテンもびっちりしまってるから
    ぼくが前みたいに飛び入っても
    大丈夫なようにしてるんだろう

    きっと中で黒がぼくの声を聞きつけて
    警戒しているかもしれないな
    あいつと走るのは楽しかったな


    夜は住処に帰って眠った
    ここで寝るのももう最後ってことだ
    この家があってありがたかったな


    朝になった
    ぼくは家を出て
    湧き水を飲んだ
    この湧き水は格別に美味い
    ぼくは山の方をまわって
    山の上から少しの間湖を見て
    青い屋根の家に向かった
    朝露が冷たくて足がジンジンする
    山の風は冷たくて
    もう心地よいを超えていた
    空には雲が少しだけ浮かんでる
    今日はいい天気になりそうだ


    ぼくはいつものように苗箱の上に座って
    なっちゃんを待った
    朝日が昇る頃
    家の中で音がしはじめて
    なっちゃんが降りてきた


    「にゃんちゃんいる?」


    なっちゃんの声がする


    「いるよ!なっちゃん!!」


    ぼくは思いっきり答えた


    なっちゃんがたくさんご飯を持って出てきて
    ぼくの透明のトレーにたっぷり乗せてくれた
    一瞬ぼくの中に
    また
    ぼくはこの家に住めるかもしれないのかなという想いがよぎった


    なっちゃんはぼくのご飯を銀色の箱の一番奥に入れた
    流石に奥すぎるなあ
    でもこの箱はこわい思いをしたことがないから大丈夫だろう
    何かあればすぐに逃げればいい
    ぼくはおそるおそる箱の奥まで行って
    念の為ご飯をひとくちとって箱の外に飛び出た
    なっちゃんは見てるけど 何事もない
    大丈夫かなともう一度ご飯を食べに箱の奥まで入ってご飯を食べ始めた


    すると カチャン と小さな音がした
    ぼくはちょっとびっくりして箱から出ようとした
    でも出口がない
    ぼくは一瞬でパニックになった
    出口はどこだ?
    やばいぞ!
    なっちゃん!何するんだ!
    ふざけるな!
    ぼくの胸の真ん中が危険信号を鳴らし続けた

    するとふわっと辺りが暗くなった

    「にゃんちゃんごめんね、玄関の中に運ぶからちょっと我慢して」

    にゃああああ

    ぼくはないた


    かごがゆらゆらと揺れて
    車の音がしたり
    かちゃかちゃ音がしたり
    怖い


    でも玄関の中に入ったらとても静かだった
    すぐにぼくは落ち着いてきた


    一瞬住めるかもと思った
    ふわっとしたものが
    掻き消され
    ぼくの胸の真ん中は
    また痛んだ
    本当になっちゃんは
    気を許すとこれだ


    「にゃんちゃん、ここで少しの間我慢しててね
    1時間後に車に乗って、ドライブするよ!」


    出れなくなった時はびっくりしたけど まあ、大丈夫だ
    もう、うまくいかないのには
    だいぶ慣れた
    それに はは
    ぼくはやっと家の中に入れてもらったな
    最後にぼくの願いが叶ったってやつだ


    暗くて静かな家の中はとても落ち着いた




    1時間後、なっちゃんはぼくを銀の箱ごと車に乗せた
    へえ、これが車の中か
    黒もこれに乗って出かけてたな
    外は見えないけど
    多分天気がいいな
    あったかいな


    なっちゃんが箱に被せている布をちょっと上げて
    顔を出した

    ぼくは

    にゃああ!

    と言った

    「さあ、にゃんちゃん
    これが最初で最後の二人きりのドライブです!
    楽しみましょうね!」

    ピアノの静かな音が流れた

    そういえば最近
    なっちゃんのピアノが全然聴こえなかったな
    あのピアノを聴きながらの昼寝 最高だったな
    まだ暑い夏だったよな


    「にゃんちゃん、戻ってきてくれた時本当に嬉しかったんだよ!」

    「ぼくもだよ」


    「にゃんちゃんと外でゆっくり過ごす時間が好きだったよ」

    「ぼくも好きだったよ」


    「何度も追いかけちゃってごめんね」

    「あれは本当に怖かった」


    「それにしてもにゃんちゃんが家に飛び込んできた時はびっくりしたなあ。にゃんちゃんは風のように素早いね」

    「あの黒もかなり素早いぜ ぼくはあいつと走るのは爽快だったな」


    「新しい家はきっとあったかいよ。みんなと仲良くね。きっとすぐ慣れて楽しく過ごせるよ。」

    「うん、その点についてはぼくはかなり前向きだから大丈夫だよ」


    「本当のこというと にゃんちゃんと一緒に暮らしたかったなあ」

    ぼくもだよ、なっちゃん
    でも、ぼくたちは
    横に並んで
    前を向いて進む
    同志なんだよな
    ぼくはなっちゃんが見つけてくれた
    新しい家にいくんだ
    ぼくは前に進む


    なっちゃんはずっと話していた
    ぼくは相槌を打ってたけど
    だんだん眠くなってきた
    ピアノの音が心地よい
    とってもリラックスしていた
    なっちゃんと暮らすっていうのは
    こういう感じだったんだろうな
    それがわかっただけでも
    ぼくの人生万々歳だ



    ぼくの覚えている記憶では
    ぼくは暗闇から生まれた
    山と空き家に住む自由な猫だったけど
    いろんなことがあったな
    自由ってこういうことなんだな
    次に目が覚めたら
    ぼくの一番初めの記憶は
    どのあたりになるのだろうか
    でもぼくは
    どこからでも
    前を向いて生きていくだろう










    画像

    オコメ



    ぼくは小さな小屋の藁の上で生まれた

    そこは馬や牛や、ウサギや山羊や 
    いろんな動物のいるところで、
    おじさんがボスで
    赤いランドセルを背負った女の子たちが、
    ぼくのお母さんにご飯をあげにきていた
    人も動物もたくさんいるのがぼくのはじまりだった
    毎日とても賑やかな中で、
    ぼくはたくさんの兄弟と一緒に母さんのミルクを飲んだ

    ある日、女の人が僕を帽子にいれて、そこから連れ出した
    ぼくはそこを去るのがとても寂しくてたくさんないた
    ランドセルの女の子たちも泣いていた
    母さんの姿は見えなかった

    女の人と車に乗って、たどりついたところは湖のほとりの
    青い屋根の白い2階建ての家だった

    家にはぼくとおなじ小屋で、ぼくより20日早く生まれた、兄さんがいた
    それからほうすけっていう男の子もいて、たくさん遊んでくれる
    女の人はなっちゃんといって、ピアノを弾く人で、ご飯をくれたり、
    抱っこしてくれたり、トイレの世話をしてくれたり、
    とっても優しかった
    ぼくはすぐにここが好きになった

    兄さんとしばらくふたりで過ごしたけど、
    ある時 メスの猫がうちに来た
    名前はアズキだって
    ぼくには妹もできた

    兄さんは虫を研究するのが好きで、いつも外に出たがった
    なっちゃんは30秒だけ兄さんを外に出すんだ
    それで兄さんは大満足なんだよ
    こう言ったらなんだけど、少し兄さんはどんくさいところがあって
    ぼくは兄さんよりずっと動きが速いし、力も強い
    っていうか、ぼくは誰よりも強いから、
    いつだってぼくが獲物をゲットできる
    だから、この獲物は誰にも渡さないぞ

    家の一階はぼくの場所だ
    兄さんはそれがわかって2階で過ごすようになった
    妹はわりと自由だった
    ぼくが兄さんも妹も守ってやるんだ
    その代わりになっちゃんの抱っこも一番にもらう


    昼間は窓からの風にあたりながら、なっちゃんがピアノを弾いている側で、誰にも邪魔されずに昼寝するんだ
    それがすごく好きなんだ

    夜はなっちゃんに猫じゃらしで遊んでもらう
    ぼくが遊んでいると兄さんもアズキも集まってくるんだけど
    ぼくは誰よりも早いし、強いから
    余裕でぼくが勝ち取るんだ
    でも勝ってばっかりだと退屈になんだよな
    だから、たまに兄さんやアズキにも譲ってやるんだ

    ぼくはとっても満足した毎日を送っていた


    ある夏の夜
    あいつがやってきたんだ
    窓の外からうちを眺めている
    それで網戸のすごい近くまで来て、にゃあにゃあいうんだ

    ぼくは毛を逆立てて、すごい声を出して追い払う
    その時はぼくも自分でびっくりするほどの声が出る

    だけどやつはびくともしないでまた夜になると来るんだ
    ふざけるな、ぼくの家には入れないぞ
    みんなさがってろ

    あるとき、あんまりぼくが大きな声を出すので、
    なっちゃんが外に出ていって、
    あいつを道の向こうまで追いかけて追っ払った
    それでしばらくあいつは姿を見せなくなったんだ
    そうだ、あいつはあいつの家に帰ればいいんだよ


    ところがしばらくすると、またあいつはやってきて
    なっちゃんがそいつの異変に気づいた
    初めて来た時よりも汚れて痩せてきてるんだ
    なっちゃんは今度はやつにご飯をあげた
    するとすごい勢いでガツガツ食べた

    なんだ、あいつ家がないのか?
    一人なのか?どこに住んでるんだ?

    兄さんが心配そうにこちらを見ている
    兄さんはあいつの気持ちをわかってしまっているんだ
    そう、ぼくもわかってる
    あいつはうちに入りたいんだ
    絶対に入れるもんか
    ぼくがこの家は守るんだ


    なっちゃんはあいつのことを「にゃんぷー」と呼び始めた
    変な名前だ ぼくのオコメって名前もちょっと変わっている
    兄さんなんてオフトンだ
    なっちゃんのセンスはちょっと面白いんだよな

    にゃんぷーは毎日ご飯を食べに来るようになった
    なっちゃんは決してあいつを家に入れようとはしなかったけど、
    にゃんぷーと日に日に仲良くなっていった
    仲良くなればなるほど、ぼくは窓の外の見張りを強化した
    なっちゃん、あんまり仲良くなると、あいつは危険だよ
    兄さんも妹もずっと落ち着かない
    ぼくは夜もずっと窓を見張るようになった

    なっちゃんは時々、ピアノの演奏のために家を留守にするんだけど、
    その週末はほうすけも
    もう一人のうちの住人の熊之助も一緒に出かけるという
    完全に留守番だ
    その頃、ぼくは毎晩網戸越しにあいつとバトルしていたので、
    なっちゃんは、暑いけど夜は窓を閉めてもらうよう、留守の間の世話をしてくれるデカくまさんに頼んでいた
    そしてにゃんぷーのご飯もあげてほしいとお願いしていた

    なっちゃんたちが出かけた日
    午後にでかくまさんがきてたくさんご飯をくれた
    でかくまさんは
    「まだ暑いから窓閉めなくていいな」と言って出ていった
    そのままその日、デカくまさんは来なかった
    多分お酒飲んで酔っ払っちゃんたんだな
    にゃんぷーのご飯もあげてない

    夜になった
    にゃんぷーがやって来た
    お腹を空かせるけど、あいつのご飯は置いてない
    だからか、いつもより中に入りたそうだった
    なっちゃんがいないのも知ってるんだな
    よし、今日はいよいよぼくの出番だ
    アズキ!どこかに隠れてろ!

    ぼくは網戸の前に立って、にゃんぷーを追い払おうと大声を上げた
    にゃんぷーもしつこいくらいに寄ってくる
    くるな!と網戸を叩くと、にゃんぷーもなんだと!と反撃してきた
    兄さんも横でふーーーっと声をあげている
    アズキはもうどこかに隠れて姿が見えない
    ぼくもどんどん気持ちが高まって、
    すごい勢いで網戸の叩き合いになった

    突然 叩き合っていた網戸がうねり、めくれて
    そこから、外の暗闇がずっと遠くまであるのが見えた
    やけにくっきりしたにゃんぷーがそこにいる
    にゃんぷーの目はお月様のように黄色いんだな


    その瞬間 にゃんぷーはすごい勢いで家に飛び込んで
    兄さんを追いかけ始めた
    しまった!入られた!!
    ぼくも二人を追いかけた


    そこから記憶がすっかりない


    気がつくとぼくは2階の押入れの中にいた

    外は夜かな朝かな 身体が動かない

    腕が痛い

    「おーい、オフトン、オコメー」

    ほうすけの声がする

    「オフトーン、オコメー、アズキー」

    遠くでなっちゃんの声もする

    ああ、よかった
    帰ってきたんだな

    ガラッと押し入れが開けられた
    ほうすけがぼくをみつけた

    「なっちゃん、オコメがいたー!」

    なっちゃんは走ってきて
    「オコちゃんいた〜よかったあ」とぼくを抱っこした


    兄さんは?アズキは?
    アズキはいる!
    兄さんは?

    「あ〜オフちゃんもいたあ よかった〜」

    兄さんは2階の縦型のピアノの上で震えていた
    ひとことも口を聞かないし、目も合わない
    なんだかお尻と足先が汚れている
    兄さんはすごい綺麗好きだから、どうしたんだろう
    よく見ると左のお尻から血が出てる
    ほうすけが兄さんの汚れた足をお風呂で洗った

    1階に降りると2箇所の窓の網戸が破れていた
    いったい何があったんだっけ
    ぼくはどうしていたんだっけ
    アズキに聞いたけど、隠れていて何もわからないと言う
    ぼくの前足の傷をみると、ぼくはあいつと戦ったのか?

    外にはあいつがいる

    なっちゃんは家中の窓とカーテンを閉めた


    その日からずっと家のカーテンは閉めっぱなしだ
    だけどなっちゃんは朝と夜、あいつにご飯をあげている
    あいつも外でにゃあにゃあ言ってご飯をせがむんだ
    兄さんはずっと口を聞かないし、寝てばかりだ

    なっちゃん、まさかあいつも一緒に住もうなんて考えてないよな
    兄さんがあんな目にあったんだよ
    ぼくは心配で心配で、なっちゃんのことも、
    カーテンのむこうの窓の向こうの様子も
    ずっと監視していた


    ある時、なっちゃんが一枚のポスターを描いた

    「里親さん募集」

    そこにはにゃんぷーの写真が貼ってあった
    よし!そうだよな!さすがなっちゃん!
    誰かあいつのことをとっとと連れていってくれ!

    ぼくは嬉しくてこのことを兄さんに報告した
    兄さんはほっと一息ついて安心した様子だった
    そして久しぶりに口を開いた

    「ぼくは負けてしまった 油断していた
    力が抜けてしまった
    ぼくはあいつの気持ちがわかっていた
    あいつはぼくたちがうらやましかったんだ
    ぼくたちはあたたかくて安全なところにいる
    そしてひとりじゃない
    あいつもそれが欲しかったんだよ

    でもぼくは負けしてまったから、
    もし今度あいつが家に入ってきても何もできない
    どうぞって言うしかないんだ
    それは猫のおきてだろ
    お前もわかってるよな

    だから、オコメ この家とアズキのことはお前が守ってくれな」


    兄さんがこんなこと頼むの初めてだ
    兄さんはあれ以来ずっと一階で、ぼくの見えるところで寝ている
    きっとまだ怖いんだ
    あいつがここを去るまで、絶対にこの家は守る!

    ぼくは心に誓った

    なっちゃんはピアノを教えている
    毎日何人も子供達がやってくる
    その日はお母さんと小学生の女の子姉妹がうちに来た
    その子たちの家には可愛いメス猫がいるんだって
    ピアノのレッスンの前に、必ずぼくや兄さんや妹をなでなでしてくれるんだ

    その子たちのお母さんがなっちゃんに言った

    「里親募集の猫が気になっています」

    「本当ですか!?」

    「うちの1匹のオス猫が去年亡くなっちゃって、メス猫ちゃんが寂しそうなんです。まだ1歳だし、大人の猫とも仲良くなれるんじゃないかなって」

    「わかりました。そうしたら、いろいろ段取りして連絡しますね。どうもありがとう!!」

    「何か手伝うことあったら言ってください!!」

    ついに!にゃんぷーの引取り先が決まった!
    あと少し、あと少し気を抜くな
    夜は声がするけど窓は空いてないから大丈夫。
    昼間暑いとなっちゃんは窓を開ける
    その時だけパトロールだ
    見つけたら追い払う
    それにしても、夜は寒くなってきたな
    アズキ、兄さん、今夜は一緒に寝よう
    一緒に寝るとあったかいんだよな
    あいつは外にいるんだろ
    寒いかもしれないなあ
    どうやってどこに寝てるんだろうなあ

    次の日、なっちゃんは忙しそうにあちこち電話していた
    あいつを捕まえて、病院に連れていって、
    そのままあの子たちの家に連れていくんだそうだ
    捕まえるための捕獲機も借りれることになったらしい
    もう大丈夫だ



    暖かい昼だった
    なっちゃんは外に洗濯物を干して、網戸をして、家に風を入れた
    にゃんぷーはいない、きっとどこかで日向ぼっこでもして、
    体を温めているんだろう
    なっちゃんは

    「ちょっと捕獲機を借りに行ってくるね」

    と車で出掛けていった。
    ちょうど気持ちの良い風の吹く、いい日だった。
    ぼくも気持ちよくソファでうとうとしていた。

    その時 


    にゃあ


    あいつがやって来たんだ
    なっちゃんが開けていった窓の網戸のところに
    手をかけて、にゃあにゃあ鳴いてる
    あと少しなんだ
    絶対にダメだ
    兄さん、アズキ、隠れてろ!
    ぼくは体を大きくして、にゃんぷーを威嚇した
    にゃんぷーはいつも通り平気な感じで 
    入れてくれ〜と言わんばかりに網戸に手をかけている
    くるな!!ぼくはまた必殺猫パンチを繰り出した
    にゃんぷーの勢いも凄かった


    バリバリバリバリッ


    この間より大きく網戸が破れた
    その途端、にゃんぷーは今度はぼくを追いかけ始めた
    ぼくは逃げた
    逃げては転んで、取っ組み合って、
    出ていけ〜〜!!!
    いっくら戦っても
    今日のにゃんぷーは全然譲らない
    取っ組み合って窓の棚から落ちた時に、
    ぼくは足を打った
    少しの間足が動かなかった
    慌てて棚に飛び乗ったけど、
    にゃんぷーは勢いよくぼくのうしろ足に噛みついた
    その時、全身から力が抜けた
    ぼくは負けたんだ
    後ろを取られたら もう降参するしかないんだ

    そんなぼくを見て
    にゃんぷーはゆっくりと破れた網戸から出ていった

    ぼくはしばらく動けなかった

    静かな静かな昼下がりの音がした

    ぼくは棚から降りて、濡れた下半身と、
    血の流れている足を必死に舐めた
    心臓がずっとドキドキ言っている
    なっちゃんが帰ってきたらどうしよう
    兄さんごめん、ぼくは守れなかった
    兄さんは?
    アズキは?どうしてるかな 大丈夫かな


    外で車の音がして、
    なっちゃんが帰って来た

    「ただいま〜」

    といつものように上機嫌だ
    こんなぼくの姿、見つけたらガッカリするよな

    気づかないでくれ
    でも隠れる力もないよ


    なっちゃんはぼくに気づかずに、買い物を台所にしまったり、
    トイレに行ったりと忙しそうだったけど、
    床におしっこが散っていることや
    ちょっと部屋の様子がおかしいことに気づいて
    慌てて洗濯物の部屋にかけていった

    「ああああ!!!」

    叫んでいる
    兄さんも2階から降りてきた
    ああ、無事だ、よかった

    「みんないる?オコちゃんは!?」

    部屋を見回して、ぼくに気づいた

    「オコちゃん!!どうしたの!大変!大丈夫!?ごめん!なっちゃん扉を閉めないで出ちゃったよ!」

    なっちゃんはバタバタ走って、外のにゃんぷーを確認したり、窓やカーテンを閉めたり、アズキを呼んだり、忙しそうにしながら、何度もぼくのところに来て、傷をみたり、体を撫でたり、電話をしたりと慌てていて
    でもぼくはまだずっとドキドキハァハァしていて
    全然大丈夫って言えなかった

    なっちゃんがぼくを洗濯ネットに入れようとしたけど、
    ぼくは大きくて入らなくって
    それで頭だけ被った形で、入れ物の中にぼくを入れた
    ぼくは何が何だかわからなくなって、鳴いた
    やっと声が出た 
    なっちゃんは入れ物に入ったぼくを車に乗せた


    「大丈夫だよ、オコちゃん」


    なっちゃんは静かなピアノの曲をかけて、車を走らせた
    洗濯ネットからぼくは顔を出した
    入れ物には窓があったけど、
    なっちゃんがタオルをかけてくれたから、外が見えなくて
    でもかえって安心した
    ぼくはこれからどうなっちゃうんだろう

    ぼくが行ったところは、病院だった
    明るい女の先生たちが、ぼくの体を見たり、足の傷をみたりした
    足に水をかけられた時は痛かった!!
    初めて足が痛いことに気づいた
    ああ、そうだあいつに噛まれたんだった
    そうだ、ぼくは負けたんだったなあ

    女の先生は熱いタオルでぼくの身体を拭いてくれた
    ぼくの体は少し綺麗になった
    舐めても舐めても綺麗にならなかったから、助かった
    首の後ろがちょっとちくっとした
    そうしたら少し落ち着いてきた


    なっちゃんはぼくを家に連れて帰った
    バスタオルを敷いてくれたけど、そんなところには寝たくなかった
    足から血が流れてるから歩くと赤い足跡がつく
    静かなところに行きたい
    ぼくはソファの下に入った
    兄さんが心配そうにウロウロしている
    大丈夫だから放っておいてほしい
    少し、眠りたい


    目を開けたら夜になっていた
    体が少し寒いな
    ソファの下から出ると、なっちゃんがいた

    「オコちゃん大丈夫?今日はレッスンもお休みにしたから、ゆっくりしようね」


    さっきよりも足が動く
    ぼくはソファの上に飛び乗った
    そしてそこに横になった
    柔らかくてあったかい

    なっちゃんがぼくの下にバスタオルを敷いてくれた
    それでなっちゃんも熱いタオルで僕の身体を拭いてくれた
    僕も一緒に身体を舐めた
    それから、くだみたいなものを口に入れてきて、
    なんだと思ったら水が出てきた
    ぼくはずっと水を飲んでなかったことに気づいた
    口の中がカラカラだ
    美味しい!ぼくはたくさん水を飲んだ

    「オコちゃん、怪我までして守ってくれてありがとうね。オフトンもアズキも、オコちゃんのおかげで無事だよ。すごいね、怖かったね、強かったね」


    そうか、ぼくは負けたんだけど、ぼくばがんばったんだな、そして、それをなっちゃんもわかってくれてるんだな

    それを聞いてすこし安心して
    そしてまた眠った
    ずっとずっと眠った
    体が重い
    痛い


    目を覚ますと朝になっていて
    また目を覚ますと夕方になっていて

    その中で少しずつ、お腹が空いてきたり
    トイレに行ったり
    カウンターの上にも飛び乗れるようになった
    でもやっぱり、ソファの上のバスタオルの上で
    たくさんたくさん眠った

    なっちゃんが外に出て、あいつにご飯をあげているのも聞こえた
    あいつがにゃあにゃあ鳴いているのも聞こえてる
    ぼくは負けたから、あいつは自由にここに入ってきてもいいことになる
    だけどなっちゃんはいつも通り、あいつを中に入れない
    だからあんなに鳴いてるんだろうな
    もしも、今あいつが入って来たら
    ぼくは「どうぞ」と言わなきゃいけないのか?
    そんなことしたくないなあ

    そんな夜なっちゃんがほうすけに

    「にゃんぷーは食いしん坊だから、捕獲機の中にもズイズイ入ってご飯を食べるのよ。だから、簡単に手動で入り口を閉めて捕獲できると思う。来週捕まえて病院に連れて行くのよ」

    と話していた。ぼくはそれを聞いてほーーっと息をついた。
    やっと終わるんだな。だけどそれと同時に、なんだろう、ちょっと物足りないような 心に穴があるみたいだ
    ぼくはまだ回復してないんだな
    もっともっと寝よう


    その夜は急に寒くなった
    あいつが初めて来たのは暑い夏の夜だったけど
    気付いたらもう秋だ
    このまま冬になったら、ここは凍るほど寒いし、雪もたくさん降るし、
    あいつは多分冬を越せないよな
    うまく捕まえられるといいな
    だけどあいつはすばしっこいからな
    なっちゃん失敗しないといいな



    夢を見た
    広い広い砂の上にぼくはいる
    目の前に走っているのは あいつだ
    ぼくはあいつを追いかけてる
    あいつが右に曲がるとぼくも右に曲がる
    あいつが左にジャンプしたらぼくも左にジャンプするんだ
    そうするとだんだん、あいつとぼくがひとつの風みたいになって
    すごく速く走れるんだ



    にゃあにゃあ
    あいつの声で目を覚ました


    なっちゃんが捕獲機の中でご飯をあげる練習をしているんだな
    ぼくは久しぶりに台所に行った
    勝手口の扉の向こうになっちゃんとあいつがいる
    夢の中でたくさん走ったからか
    身体が軽い
    もう足も全然痛くない

    なっちゃんが勝手口を開けて入ってくる
    そのドアの隙間からあいつが見えた


    その瞬間あいつはまた家の中に走り込んできた
    ぼくは逃げた
    なっちゃんも大声で何か言いながら追いかけてくる
    なんだ?夢の続きか?
    ぼくは走った 家の中を
    窓の方へ、2階へ
    ドキドキする
    もうやめてほしい
    でもどこか楽しい
    ぼくは追いつかれないぞ

    あれ、もう追いかけてこないや
    なっちゃんがあいつを追い詰めてる
    すげえ、なっちゃん強いんだな
    あいつは2階の一番奥の部屋に入っちまった
    もうそれ以上先にはいけないんだよ

    なっちゃんは1階に降りてきて、ぼくと兄さんを探した
    そして1階のリビングに僕らを入れて扉を閉めた
    アズキはどこにいるかわからないけど、いつもうまいこと隠れているから大丈夫だろう

    なっちゃんはあいつのいる2階の奥の部屋へ行って、ゴソゴソしていた
    しばらくすると、あいつが慌てて降りてきて外に走って行く音がした

    それきり、あいつは姿を現わさなくなった


    なっちゃんはすごくガッカリしていた
    自分がにゃんぷーを追い詰めて、怖い思いをさせてしまったと泣いていた
    おいおい、ぼくたちもだいぶ怖かったんだぜ
    でももうすぐ捕獲できそうだったんだもんな
    日に日に朝晩が寒くなってきてる
    これを逃したらもう、あいつはダメかもな

    だけどね、なっちゃん
    あいつはすぐ家の周りにいるんだよ
    ぼくたちは知ってるんだ
    だってよく見てよ、ぼくたちずっとカーテンの向こうの窓の外を気にしてるでしょ
    あんな食いしん坊だったんだから
    ご飯置いておけばすぐ戻ってくるよ
    待ってればいいんだって

    次の日
    「ご飯がなくなってる!にゃんちゃんきてるよ!」
    嬉しそうになっちゃんが言う
    ほらね、言ったでしょ
    筋金入りの食いしん坊なんだから 来るに決まってるって


    また次の日
    「私は明後日、にゃんちゃんを捕獲機で捕まえると決めました!姿を見せてくれそうにないので、ご飯を置いて、罠で捕獲します」
    となっちゃんは決意をほうすけや熊之助に告げていた。
    捕獲機の罠かあ、びっくりするだろうな、あいつ
    言ってもビビリだからな 大パニックだよな

    そのまた次の日
    買い物から帰ってきたなっちゃんが外で騒いでいる
    「にゃんちゃーん、にゃんちゃーん、ごめんね、この間は驚かせて、おいで、大丈夫だから!!」

    にゃあにゃあ

    あいつの声も聞こえる
    ほらね、言ったでしょ すぐに戻ってくるからって
    よかったね
    だけどさ、絶対もう家に入ってくるようなことしないでよ

    なっちゃんは勝手口の扉を開ける時は、台所の扉を全部閉めて、
    万が一にゃんぷーが入って来ても、
    ぼくたちの方には来ないようにしてくれていた
    だからぼくもそんなにそわそわしないで済んだけど、
    でも夏からずっと監視体制だからね
    カーテンは閉めっぱなしで、外の景色も見れないし

    その夜 なっちゃんはとても緊張していた
    明日の朝、にゃんぷーを捕まえるのだそうだ。
    ちょっと辛そうだったけど、心を決めた様子だった
    ここのところピアノも全然弾いてくれない
    明日あいつが捕まったら、ぼくらの日常は戻ってくるのだろうか


    翌朝、なっちゃんは台所であいつを呼んだ
    外であいつの声がした
    なっちゃんは台所の扉を閉めて勝手口を開けて
    あいつと話しながら、静かにあいつを捕まえた
    しばらく捕獲機に布をかけて玄関の中に置いていたみたいだけど
    なっちゃんが厳重に近づけないようにしてたから
    ぼくらは様子を見ることはできず、
    少し離れて玄関の方をそれぞれが見つめていた

    やがて車の音がして、
    なっちゃんは車にあいつを乗せて、出掛けて行った

    あいつがいなくなった

    やけに静かで
    通りの車の音がすごく鳴り響いていた

    数時間してなっちゃんは家に帰ってきて
    家の中の全部のカーテンを開けた

    光がわっと差し込んだ
    あいつがくる前ってこんなだったかな

    アズキは窓辺で眠ってる
    兄さんはまた、外の虫を研究しに行きたいとか言い出すのかな

    ぼくはとっても安心している
    あいつの気配をもう感じないのはもちろんなんだけど、

    ぼくはぼくより強いやつがいることがわかったし
    ぼくはすごく速く走れることもわかった

    だから、なんだか
    とっても安心してるんだ


    これから先、あいつくらい速く走るやつに会えるのかな






    あとがき


    2025年の夏、にゃんぷーは突然うちに来るようになった猫でした。

    初めはふっくらしていて、
    どこかの飼い猫が遊びに来ているのだと思っていました。

    けれど日に日に薄汚れ、痩せていき、
    迷い猫だと気づきました。

    ご飯をあげ、飼い主を探しました。
    見つからないので里親募集をしました。

    その間、三度、私が留守のあいだに、
    にゃんぷーは網戸を破って家に入りました。
    うちの三匹の猫たちとも、いろいろなことがありました。

    この話をすると、恐ろしい野良猫だと怖がる人もたくさんいました。

    でも私は、困りながらも、その野生味に心を掴まれ、かっこいいとさえ思ってドキドキしたのです。

    にゃんぷーがうちを去ったとき、私の中にはたくさんの気持ちが溢れていて、この物語を一気に書き上げました。

    ひと夏の、にゃんぷーと、
    うちの猫たちと、なっちゃんの物語。
    最後まで一緒に旅していただき、本当にありがとうございました。


    #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門



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    spannkosmo

     
     
    musician pianist singer song writer compose 長野県 木崎湖畔に猫3匹と暮らす音楽家  ピアノ 作曲 作文 田んぼ  http://www.folkevise.net/spannko

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