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Second Wind|第36話 よく似た景色[イクス]

    Second Wind

    第1章『Superstar』
    第36話 よく似た景色[イクス]


     翌朝――。

     僕は寝不足の頭を抱えながら、マネージャーのリウさんと大急ぎで朝食を済ませ、台詞合わせに付き合ってほしいと頼んで、早めに部屋に引き上げた。

     今日の撮影の前に、どうしても試しておきたいことがあったのだ。

     (“壁の、向こう側”……)

     昨夜、去り際に唯さんがくれたヒントが、頭の中でじわじわと光を放ち始めていた。

     “彼女と、そして観客が納得するようなやり方で”――。

     その言葉が、一瞬たりとも僕の心を離れることはなかった。


     「それでは、シーン185、本番入ります!」

     その日の撮影は、ホテルのエントランスでのシーンからだった。

     夕食の約束を交わした早妃のもとへ、アレンはバラの花束を持って現れる。ホテルのロビーで彼女を待つアレン。やがて一段一段、ゆっくりと階段を降りてきた早妃は、ココア色をしたサテン地のシックなドレスに身を包み、こぼれるような輝きを放っていた。

     思わず、目を見張るアレン。
     けれど彼は、あえて平静を装い、にこやかにこう告げた。

    「貴女が素晴らしい仕事をしてくれたお礼に、今夜はとびきりのディナーをごちそうしますよ」


     ……続いて、ホテルのレストランでのシーンへと移る。

     二人の前に運ばれてくる、上等なワインと素晴らしい料理の数々。
     窓の外には、美しい夕日の名残を映す黄昏の空。夏のスペインの緩やかな時の流れが、二人の心を少しずつ溶きほぐしていった。

     これまでは互いに触れたこともなかった、さまざまなことを語り合う二人――。

     「はあ……本当に、美男美女よねえ。こうして両方に着飾られると、思わず目が離せなくなっちゃう」

     海外ロケ終盤という安堵感も手伝ってか、いつもは仕事に徹するスタッフ達からも、今日はそんな吐息が漏れ始めていた。

    (これだけ反応が良ければ、ファンからの受けも何とか期待できそうだ――)

     そんな予想を、ナルシスティックというよりあまりにも戦略的に思い描きながら、僕はふと、このシーンが昨夜の僕たちにどこか似ていることに気づき始めていた――。


    *続き | 第37話 魔力の正体[唯]
    *目次 | 長編小説『Second Wind』



     
     
    長編小説『Second Wind』を連載中。 華やかな世界の片隅で、静かに止まってしまった時間が 再び動き出すまでの物語。 静かな始まりから、やがて運命を揺るがす奔流へ。