
Second Wind|第20話 彼の畏れ[イクス]
Second Wind
第1章『Superstar』
第20話 彼の畏れ[イクス]
カットの声と共に、僕を取り巻くエキストラたちの熱狂が嘘のように冷めてゆく。
(ふう、やれやれ)
1シーン目としては、かなりやりやすかった。何しろ人目を集めることほど、僕らが慣れている状況なんてないのだから。
サングラスを外すと、ふと唯さんと目が合った。
今は美術商らしい、いくぶん地味な服装に身を包んでいる。
それでも、やはり遠くからでも思わず目を留めてしまうくらいに綺麗な人だった。
さすがに本番ともなれば、美しさもオーラも一段と増している。それに気のせいか、なんだかさっきより顔色もずいぶん良いように見えた。
(ひょっとして……チョコバー、食べてくれたのか?)
本番前に女優さんが食べ物を口にしないことはわかっていた。けれど、もしかして、という想いがよぎって、僕は思わずぎこちなく微笑みかける。
……思いっ切り、目をそらされてしまった。
やっぱり、おかしな奴だと思われてしまったらしい。
(あぁ……キオに、なんて言ったらいいかな……)
CDを渡した時の、唯さんの反応を楽しみにしているであろうキオの顔を思い浮かべて、僕はそっと気が重くなった。
*続き | 第21話 戦いの火蓋[唯]
*目次 | 長編小説『Second Wind』