
床屋 兼 殺し屋 プロローグ
この街には床屋が3軒ある。
1000円カット、3000円カット、5000円カット。消費税のことはさておき、だいたいそんな価格だ。いちばん繁昌しているのは1000円の店で土日だけでなく平日もお客さんが並んでいる。
3000円の店はいつも暇そうだ。前を通りがかると、黒くてゴツいバーバーチェアの上で猫が丸くなっていて、店主は待合スペースで新聞をひろげている。一度も話したことはないが、人が良さそうな店主だ。
5000円の店は外に面したガラスにいろんなパーマメンの写真が貼られている。20代から60代まで、ゆるふわパーマからごりっごりのパンチパーマまで。カット代は5000円だが、パーマ代をプラスすると10000円を超えちゃうだろうね。
💈
ある日、3000円の店の前を通りかかると警察官が店主と話していた。猫はいつものチェアの上ではなく、落ち着きなく店内を歩き回っていた。
悪事や犯罪とは程遠いであろう店主が職務質問されている……!
いや、職務質問ではなく、ただの世間話かもしれないし、巡回連絡かもしれない。ただ、警察官の横顔がすこし強ばっているように見えたのが気になった。
店の向かい側にある自販機でお茶を買いながら耳をすましていたら警察官が出てきた。
「では明日の11時。よろしくお願いします」
扉の隙間から猫も外に出てきた。ひなたぼっこでもするのかなと見ていたら、なんと警察官の後ろをひょこひょことついていくではないか。アイツめ、床屋猫のふりをした警察猫だったのか。
🐈
そのあと私は5000円の店に直行した。リーゼントがビシッときまっている店長(私はリー長と呼んでいる)がシャンプーをしながら耳元で言った。
「かゆいところ、ありませんか?」
「あの猫、警察猫だったよ」
リー長の指の動きが2秒ほど止まった。
めずらしく動揺しているじゃないか。
「ここらへんですか?」
「そこそこ。明日の11時」
「分かりました」
「ハサミ一挺借りていい?」
「お預かりしたバッグに入れときます」
「ありがとう」
✂︎
翌日、私は3000円の店に向かった。定休日でもないのにブラインドが下ろされていて、玄関先では猫が丸まっている。足音に気づくとゆったりと起き上がり、私に歩み寄ってきた。

私はポケットの中のハサミを握り直して、店の扉を開けた。カランコローン
「なーんだ。リー長が来ると思ってたのになあ」
カミソリを研いでいた店主が、私の顔をみて残念そうに呟いた。