技術があれば、価値があるのか。
職人の世界にいると、「腕がある」「技術がある」「センスがある」という言葉をよく使う。
綺麗に施工できる。仕事が速い。難しい仕事も納められる。図面を見れば、完成まで頭の中で組み立てられる。感覚ですぐ身に付けられる。
もちろん、それは職人にとって大きな武器だと思う。
俺自身、16歳からこの世界に入って、技術を身につけることに必死だった。
できなかったことができるようになる。
分からなかったことが分かるようになる。
昨日より速く、昨日より綺麗にできる。
それが凄く嬉しかった。
でも会社を経営して、人と仕事をするようになってから、少し違うことを考えるようになった。
技術があるだけで、その人には「価値がある」と言えるんだろうか。
例えば、とんでもなく腕のいい職人がいたとする。
誰よりも仕事が速い。施工も綺麗。難しい仕事もできる。
でも、挨拶をしない。時間を守らない。現場を汚して帰る。後工程の人のことを考えない。分からない人を馬鹿にする。自分ができればそれでいい。
それでも、「俺は技術があるから価値のある職人だ」と言えるんだろうか。
逆に、まだ入ったばかりの若い職人がいる。
仕事は遅い。分からないことも多い。一人ではできないこともある。
でも、使った場所を綺麗にする。
次に作業する人が困らないように片付ける。
分からなければ聞く。
教えてもらったら覚えようとする。
昨日できなかったことを、今日はできるようになろうとする。
じゃあ、その人にはまだ技術がないから「価値がない」んだろうか。
俺は最近、「価値」と「技術」は同じものじゃないんじゃないかと思う。
もちろん技術は必要だ。
俺たちはプロとしてお金をもらって仕事をする以上、「できません」で終わるわけにはいかない。
でも技術は、その人が持っている価値の一つでしかないのかもしれない。
同じ資格を持っている。
同じ8時間働く。
同じ材料を使う。
完成すれば、同じように電気がつく。
それなのに、「次もあの人に頼みたい」と言われる人がいる。
この差はなんなんだろう。
技術なのか…
速さなのか…
綺麗さなのか…
気遣いなのか…
責任感なのか…
安心感なのか…
人柄なのか…
たぶん、一つじゃない。
ここに「付加価値」というものがあるんじゃないかと思う。
付加価値というと、難しい経営用語みたいに聞こえる。
でも、もっと単純なものなんじゃないだろうか。
頼まれた仕事をする。
それだけなら、同じ仕事ができる人は他にもいる。
そこに「この人なら安心して任せられる」
「この人なら次の工程まで考えてくれる」
「何かあった時、この人なら逃げない」
そんなものが一つずつ積み重なって、「誰でもいい」が「あなたに頼みたい」に変わる。
それが、その人にしかない付加価値なのかもしれない。
資格を取ることだけが、自分の価値を上げることじゃない。技術を磨くことだけでもない。
仕事が終わったあと、次の人が使いやすいように一つ片付ける。相手が不安になる前に、一言報告する。見えないところでも手を抜かない。失敗した時に誤魔化さない。知らないことを、知らないままにしない。
そんな小さなことにも、価値は宿るんじゃないだろうか。
AIが進化して、便利な道具が増えて、仕事のやり方が変わっても。最後に「あの人に頼みたい」と言われる理由は、技術だけでは説明できない気がする。
だから俺も考えたい。
自分から「電気工事会社の社長」という肩書きを取ったら…
資格を取ったら…
会社の名前を取ったら…
それでも誰かに、「あなたに頼みたい」と言ってもらえるものが、自分には何個残るんだろう。
技術がある。
経験がある。
資格がある。
それは間違いなく武器だと思う。
でも、それだけで価値が決まるほど、仕事って単純じゃない。
明日も、いつも通り仕事に行く。同じ道具を使って、同じような仕事をする。
その中で一つだけ考えてみてほしい。
同じ仕事ができる人が何人もいる中で、それでも「あなたに頼みたい」と言われる理由は何ですか?
すぐに答えが出なくてもいい。
俺もまだ探しているからね。
もしかしたら、その答えを探し続けること自体が、自分に「付加価値」をつけていくことなのかもしれない。
技術があれば、価値があるのか。
俺は今、技術のその先にあるものを知りたいと思っている。
