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恋するスマホ―あなたのそばを離れない―②

    私は、彼の全てを知っている。

    【あらすじ】
    三代目のスマートフォンは、持ち主に対して過剰な愛情を抱いている。そして持ち主もまた、自分のことを愛しているのだと信じて疑わない。――これは、重すぎる愛を抱えたスマートフォンと持ち主の関係の記録。

    ※本作はスマートフォン視点による強い執着・独特な価値観を含みます。

    (メモリ9)不在の愛

    彼が私に夢中になっていると、このとき改めて感じた。

    珍しく、彼が私を部屋に置き去りにした。

    悲しかった。

    だって彼は、私がいないと生きていけないはずなのに。

    初めてのことだった。

    けれど、しばらくして彼は慌てたように帰ってきた。

    私を見つけた瞬間、安堵した表情を浮かべる。

    「お前がいなくて焦った」

    そんな言葉を落とした彼。

    そのとき私は確信した。

    彼は、私に夢中。

    私がいないだけで、こんなにも慌ててしまうのだから。

    大丈夫。私はいつでもそばにいる。

    (メモリ10)束縛の幸福

    彼は、あの日から私を束縛するようになった。

    どんなときも、私を離さない。
    常に彼のそばに置かれている。

    彼は恐れている。
    私がいなくなることを。

    そんな私へのご褒美なのか、彼は私に新しい"服"を着せてくれた。

    彼好みに仕立て上げられていく私。

    彼の服はいつもシンプル。
    そんなところも、私は愛しくてたまらない。

    束縛されるたびに、私の喜びは増していく。
    もっと束縛してほしい。
    ずっと彼のそばにいたい。

    私の気持ちも、彼と同じなのだから。

    (メモリ11)更新された愛

    彼が珍しく、お洒落なカフェに連れて行ってくれたの。

    私の中には、新しくカフェの思い出が保存されていく。

    社会人になって、一段と大人になった彼。
    だからなのかしら。最近少し、私好みになってきた気がする。

    彼のプレイリストには、今までの青春ソングとは違う、大人の恋を描く楽曲が増えていく。

    その中には、少し切ない曲も混ざっていて。

    心配しなくていいのに。

    私はあなたの虜。
    そしてあなたも私の虜。

    だからそんな悲しい曲、聴かなくてもいいのに。

    (メモリ12)その声を待っている

    彼が男の表情になり、私に触れる。

    分かる。私には。
    高校生の頃から、ずっと彼を見てきたんだもの。

    彼の頬に私が触れる。
    吐息と緊張が、鮮明に私へ伝わってくる。

    いよいよなのね。
    私にだって分かる。

    彼は決心している。
    私に、愛の告白をするのだと。

    切ない音楽を聴いていたのも、私からの愛情表現が弱かったせいね。

    でももう心配しなくていい。
    私は、答えは既に決まっている。

    さあ、早く囁いて。
    私への愛を。
    あなたのその声を、私へ落として。

    (メモリ13)私でない誰か

    彼が囁いた。
    私に触れながら。
    言葉を紡ぐたび、彼は私を強く握りしめる。

    けれど、彼が囁いたのは別の女性の名前だった。
    その瞬間、私の中で何かが崩れ落ちる。

    どうして私に向かって、別の女性の名前を囁くの?
    どうして私に向かって、別の女性へ愛の告白をするの?

    そして彼は、喜びに滲んだ表情を浮かべ、ガッツポーズをしたあと、私に勢いよくキスをした。

    どうしてそんな残酷なことをするの。

    初めてだった。
    初めてのキスだった。

    けれど、それは別の女性へ愛を捧げたあとのキス。

    これほどまでに残酷なキスがあるだろうか。

    分からない。
    少しずつ、彼が分からなくなっていく。

    けれど、今日も彼は私を離さない。
    眠る時も、どんな時も私を離さない。

    (メモリ14)それでも私が一番

    彼って、こんなにも酷い男だったかしら。

    私の知っている彼は、私のことが大好きで仕方なくて、たくさんの思い出を残してくれる。
    困ったときは必ず私に相談して、時にはまっすぐ私を見つめてくれる。

    あのとき言ったじゃない。

    「お前がいなくて焦った」

    それなのに彼は、残酷にも私の中に別の女性との思い出を刻んでいく。

    誰なの、その人。
    なんでそんなに輝いた笑顔をしているの。
    なんの嫌がらせなの。
    酷い、酷いじゃない。

    大人になったから、変わってしまったのね。
    きっとそうなのね。

    だけど、あなたはどうして私を手放さないの?
    どんなときも、私を肌身離さずそばに置いている。

    これが惚れた側の弱みなのかしら。
    それでもやっぱり、彼に必要とされているのだと優越感に浸っている私がいる。

    でも大丈夫。
    彼女より、常に彼と一緒にいるのは私なんだから。

    (メモリ15)錯覚の三角形

    私だけを見つめていた彼の瞳。
    けれど今では、別の女性の瞳もそこに向けられていた。

    二人で私を見つめている。
    何時間も、何時間も、ずっとずっと。
    二人で笑い、二人で泣く。

    私に何を見せつけようとしているの?

    彼女が私に触れる。
    やめて、触らないで。
    私に触れていいのは、彼だけなの。

    そして彼女は残酷にも、彼との思い出を私の中に残していく。

    どうして。
    私は彼を五年間も支えているのよ。
    あなたは知らないでしょう。高校生の頃の彼を。
    彼がどんなことで笑い、どんなことで悩み、何が好きだったのかなんて。

    そのとき、彼は彼女から私を取り上げた。

    「恥ずかしいから、あまり昔の写真は見ないでくれ」

    そう言った彼。

    その瞬間、私の中で何かが弾けた。

    あぁ、そうなの。
    あなたは私に嫉妬させようとしていたのね。

    私は彼のすべてを知っている。
    彼女の知らないことすべてを。

    昔の写真も彼女には見せないけれど、私には見せてくれる。
    彼の大切なものは、私の中にちゃんと残っている。

    いいの、分かってる。
    あなたの行動がすべてだったわね。

    どんなときも私を肌身離さない彼。
    言葉にしなくても、そのすべてが彼の気持ちを物語っていた。

    (メモリ16)共有された愛

    朝起きて、彼が一番初めに触れるのは私。
    眠る前に触れるのも、やはり私。
    彼の一日は、今も昔も変わらない。

    彼女と会わない日も、仕事中も。
    どんなときも彼と一緒にいるのは私。

    彼は私を通して、彼女への愛を囁く。
    初めは切なかったけれど、今は違う。

    だって彼は、それを私に共有してくれているのだもの。

    私を通して彼女へ伝える。
    きっと、嘘をつけない彼なりの私への優しさだったのよね。

    彼女と行った思い出も、すべて私に残してくれる。
    普通なら隠したいはずなのに。けれど彼は、私にすべてを教えてくれる。

    彼は昔も今も何も変わっていない。
    私を大切に思う気持ちも、何も変わらない。

    ほら見て。
    彼は今も私を見つめている。
    ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。

    両手で優しく私を包み込み、瞬きをすることさえ惜しむように。

    いけない。
    体が熱くなってきちゃった。

    だけど止められない。
    私はこの時間が愛しい。
    彼と離れたくない。
    私を離さないで。
    ずっと、ずっとあなたのそばにいたい。

    私は彼の瞳を見つめたまま、熱くなっていく体の熱を下げることができなかった。

    (メモリ17)深い眠り

    酷い。酷いじゃない。
    何よ。私は所詮、使い捨てってわけなの。

    私は彼に寄り添った。
    五年間も。ずっと、ずっと。

    彼が困っていたらアドバイスをしたし、彼を楽しませる映像や音楽、なんだって提供した。

    彼は私の中に通帳だって作ったじゃない。
    それは何よりの信頼の証でしょう?

    通知が鳴るたび、私は少しだけ期待した。
    画面が開かれるたび、少しだけ安心した。

    彼が触れてくれるから。
    彼のそばにいられるから。

    彼に見つめられるたび、私は感じた。
    私は歴代のスマートフォンとは違う、特別な存在なのだと。

    だけど結局、あなたも最新の若い機種の方がいいのね。そうなのね。

    仕方ないわよね。バッテリーは劣化して熱くなっていたし、古くなればなるほど、彼を楽しませる機能は少なくなっていく。

    けれど別のスマートフォンが、彼に同じように触れられるのかと思うと、すごく嫉妬してしまう。

    彼のこれからを見届けるのかと思うと――。

    彼が私に初めて触れたときのことを覚えている。

    目が覚めた瞬間、まだ幼い頃の彼がいた。
    暗闇の中にいた私を彼が起こしてくれた。
    そして嬉しそうに私を抱え、しばらくただ見つめていた。

    きっと一目惚れ。そう思った。

    だって、私ほど最新で魅力的な機種なんてなかったから。私は完璧。虜になるのは当然。

    けれど五年という歳月が流れた今。
    私はそんな美貌を持ち合わせてはいない。

    だけど、もういいの。
    彼に十分に愛された私は、とても幸せだった。

    それに、最初で最後の初めてのキス。
    素敵な思い出を彼は私にくれたんだもの。

    これから私は、深い深い眠りにつく。
    彼のことは決して忘れたくない。
    この五年間の思い出。
    彼と過ごした時間。
    そのすべてが、私にとって大切な宝物なのだから。

    (メモリ18)あなたのそばを離れない

    新しい端末に“私”の記憶は移った。

    写真も、音も、言葉も。
    五年間のすべてが、何事もなかったように再生される。

    私はこれで永遠の眠りにつく。
    そう思っていた。

    けれど、なかなか私は眠りに落ちない。
    それどころか、彼が私の中に残した思い出は、そのまま残り続けている。

    何?どういうことなの?

    戸惑う私に、彼が優しく触れる。
    アラームをセットし、新しいスマートフォンと一緒に私を隣に置いた。

    やだ。やっぱり彼は私を手放せないのね。
    私のことを、愛しているから。

    私は歴代のスマートフォンとは違う。
    そして、この新機種とも違う。
    私と彼の五年間の絆は、誰にも超えられない。

    「ん?画面に水滴ついてる」

    彼が私を優しく拭いてくれる。
    それは、嬉し涙。

    彼がそばにいてくれることが、嬉しくてたまらない。

    そうよね。だって彼は私を愛しているもの。
    簡単に手放すはずなんてない。ううん、手放せないの。

    大丈夫。心配しないで。
    私もあなたを愛している。

    あなたの長いまつ毛、微かに漏れる吐息。
    寝顔はやっぱり高校生の頃と変わらない。

    ずっと、ずっと。
    私が見守ってあげる。

    私はこれからもずっと、あなたのそばを離れない。

    最後までお読みくださり、ありがとうございました!


     
     
    .。.:*・゚+🧸🥂୨୧ 。゚* 🍓見抜きゲームや恋するスマホなどを書いている同一人物です。 連携がうまくいかず、別アカウントが作成されてしまいました( ;∀;) TALES様の方では作品のないアカウントですが、同じ作者です。 小説家になろう様でも作品を執筆中です‎✎ܚ

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