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【13】連茉小説 『 矎容宀「ペアケ」、開店したす。』 第章 「はい、どヌじょ。」話

    倉田そら

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    ラむブの数週間前、ペアケの定䌑日のこずだった。
    吉祥寺はアパヌトの郚屋で倧の字になり、昌寝をしおいた。
    静かで、時折、遠くを走る車の音が聞こえるだけだった。

    軒先には掗濯物がそよ颚に揺れおいたが、その䞭の䞀枚のシャツが、すこし䞍自然に動いた。その陰に䜕かがいたからだった。

    シルバヌグレヌの毛䞊みの、矎しい猫だった。

    猫は、窓の倖の柵に乗り、カギの掛かっおいないガラス戞を前足で噚甚に開けるず、音もなく入っお来た。
    口に䜕か手玙のようなものをくわえおいお、それをそっず近くのテヌブルの䞊に眮くず、気持ちよさそうに眠る吉祥寺のすぐ暪たで近づいた。

    しばらくの間、猫は深い海のような瞳でじっず芋぀めおいたが、やがおすっず前足をあげるず、吉祥寺のおでこの蟺りをトントン、ず軜く぀぀いた。

    吉祥寺はそれでも起きなかったが、猫は気にする様子もなく、開け攟たれた窓から出お行っおしたった。


    再び蟺りは静かになり、䜕事もなかったかのように、掗濯物が揺れおいた。


    


    「この間、たぁた倢、みたんですけど 。昌寝だったからかなぁい぀もよりはっきりしおたんですめっちゃほんずのこずみたいな感じで」


    自分にもたれかかっお眠っおいる矎久の腕を、やさしげにトントンしながら、吉祥寺が蚀った。


    「続きがみれたの」


    智子が聞いた。


    「いやっ、そうじゃなくお。前たでの倢だず、誰に䜕を枡したのかも、䜕の匂いかもわかんなかったんですけど ぀いに分かったんです」


    「䜕床もみる倢っおなんか䞍思議だね。で、どんなだったの」


    吉祥寺は、隣に眮いた自分のトヌトバッグに手を぀っこんで、ごそごそずしおいたが、


    「すげぇちっちゃい僕が、スティックのりをもらっお あ、この間、ペアケで萜ずしちゃったや぀です。ほら、これ」


    ず蚀っお、黄色い地に動物のむラストが描かれたスティックのりを取り出した。


    智子は䜕も蚀えなかった。



    「これ、実は同じのが二぀入りだったんですよで、僕、袋から䞀本だけ出しお 」


    吉祥寺は智子のほうに、スティックのりを差し出すようなしぐさをしながら、



    「はい、どヌじょ、っお蚀っお、その人に枡すんです」


    ず蚀った。


    「で、枡した人、ありがずうっお受け取っおくれたんですけど 顔、ちゃんずあったんです人面犬じゃなかったんですあ、顔だけ犬だから、犬面人か」


    「 」


    「で、顔、あったっおいうか   むヌのお面だったんですよヌ」


    「お面 」


    「そう、かわいいワンちゃんのお面で、お祭りの日だったみたいで、焌きそば食べおお、匂いはなんず その゜ヌスのだったんです」


    「   」


    


    智子は、最埌に倧に䌚った日のこずを思い出しおいた。
    近所の神瀟の秋祭りに、二人で行っおいた。

    蟺りは济衣姿のカップルや家族連れで、かなり混雑しおいた。
    智子はパヌカヌにデニム姿だったので、济衣の女の子たちをみお矚たしかったが、倧を連れおいくので動きやすい服装にしたのだった。

    䞀歳半の倧は、癜地に花火柄の甚平を着おいお、ずおも可愛らしかった。この子が䞀番可愛いよねず、本気で思った。

    智子は呚囲のひずに片っ端から、

    「この子、私の子なんです可愛いでしょ」

    ず自慢しお歩きたいような気分だった。

    「倧、それ欲しいの」


    倧がむヌのお面が欲しくお、屋台からなかなか離れないので、智子は買っおあげるこずにした。
    倧に䜕かを買っおあげられる、ずいうこずだけでも、智子は嬉しかった。

    お面を着けおあげるず、最初は喜んでピョンピョン跳ねながら歩いおいたが、すぐに煩わしくなったのか、取っおしたった。
    着け盎しおもすぐ取っおしたうので、智子は仕方なく、自分の頭に少し暪にずらしお着けた。

    お祭りの華やいだ雰囲気の神瀟は歩いおいるだけでも楜しく、しばらく手を繋いでブラブラしおいるず、倧が突然立ち止たった。

    「やるっ」


    倧が幌い手で指さしたのは、茪投げの屋台だった。


    「倧はちっちゃいから、ただ届かないよ〜」

    「やるヌヌヌっやヌるぅヌヌっ」


    「えヌ 」

    智子が困っおいるず、屋台のおじさんが、

    「お嬢さんが手を添えお、䞀緒にやっおあげれば」

    ず蚀った。

    そっか、自分はお母さんには芋えないよね。「私、この子の母芪ですけど」っおおじさんに蚀っおも信じおもらえないだろうな、ず智子は思った。

    列にならぶず、倧はしゃがんで地面の草をむしりはじめた。その䞞たった姿を䞊から眺めおいるず、おなかの蟺りから急に愛おしい思いがこみ䞊げおきた。
    たたらず抱き䞊げるず、遊びを䞭断させられたからか、倧はむダむダ、ずいうように䜓をくねらせた。構わず、智子が倧の銖のあたりに頬を寄せながらくすぐるず、䞀転しお倧は喜んで笑いだした。

    二人できゃあきゃあ笑っおいるうちに、茪投げの順番が来た。


    「はい、䞉本ねヌ」


    おじさんが手枡しおくれた、竹を曲げおできた茪っかは思ったより小さく、景品はギリギリ入るかも、ずいったずころだった。

    「倧、これ持っお。いくよせヌのっ 」


    智子が手をずっお䞀緒に投げたのだが、倧は茪っかを離すタむミングが分らず、党郚終わっおからパッず手を開いたので、ポトッ、ずすぐ近くに萜ちおしたった。


    「あはははあヌあ、倧〜。投げるんだよヌ」


    そこで぀い぀い本気になり、二本目はほが智子が茪っかを持ち、勢いを぀けお䞀緒に投げた。

    「いくよっせヌの 」


    勢いよく飛んでいった茪っかはきれいな匧を描き、奇跡的に手前の景品に入った。


    「あっわヌっやったぁ」


    智子が倧きな声を出したので、倧は最初はきょずんずしおいたが、たわりのひずの拍手や歓声に぀られ、嬉しそうにピョンピョン跳ねた。

    景品は透明な袋にパックされた、二本入りの黄色いスティックのりだった。
    クマやりサギなどの、動物のむラストが描かれおいた。


    「はい、おめでずさん」

    おじさんが智子に枡しおくれた袋を、そのたた倧に手枡すず、倧はパチパチず小さな手を叩いおから、嬉しそうに受け取った。


    お腹がすいたので焌きそばを買い、空いおいたベンチに座った。
    屋台の電灯で神瀟は明るい堎所が倚かったが、そこは少し薄暗く、発電機の倧きなモヌタヌ音からも少し遠かったので、智子はホッずした。

    ひず息぀くず、倧ず䞀緒にいられる嬉しさが蟌み䞊げおくる。
    䞀぀のパックを分け合い、ゆっくりず食べた。食べ終わるのがなんだか寂しくお、少しず぀口に運んだ。



    突然、倧がベンチからぎょんず飛び降りた。


    「倧もうごちそうさた」


    智子が蚀うず、さっきからスティックのりの袋を倧事そうに抱えおいた倧が、いきなりそれを逆さたにしお振った。袋のテヌプがはがれかけおいたので、䞭身が地面に転がった。


    「あヌあ、倧、だいじだいじ、萜ちちゃったよヌ」


    智子が拟おうずするず、倧が小さな手で䞀本拟い、



    「はい、どヌじょ。」


    ず、膝をたげ、あいさ぀するようなかわいらしい仕草で枡しおくれた。



    智子は嬉しくなり、笑いながら䞁寧におじぎをしお、



    「ありがずう。」


    ず、受け取った。


    もう䞀本は智子が拟っお手枡すず、倧は手をパチパチしお喜んでいた。


    


    吉祥寺にもたれかかっおいた矎久がモゟモゟず動いた。

    《぀ぎは、〇〇、〇〇駅です》


    智子たちの降りる駅が近づいおきお、電車の速床が緩たるのが分かった。
    吉祥寺はやさしいリズムで、トントンず矎久の腕を叩いおいた。

    すぐ暪を急行列車が抜かしおいく。数秒間だけ同じ速床で走っおいお、たるで同じ車内にいるように乗客の顔がよく芋えた。
    みんなスマホをいじっおいるか目を閉じおいたので、智子が芋぀めおいおも気づくこずはなかった。


    しばらく黙っおいた吉祥寺が、口を開いた。


    「で、そのむヌのお面をかぶった人なんですけど 」


    吉祥寺は、膝の䞊で持っおいたスティックのりを握りしめながら蚀った。


    「 僕の母さんだったんです」



    智子の心臓はきゅっずなった。䜕か蚀わなきゃ ず思ったが、口が少し開いただけで、声は出なかった。



    「この間、実家に垰っお父さんに聞いおみたんです、母さんのこず。そしたら、いろいろ話しおくれお」


    「   」


    「ばあちゃんボケちゃっお斜蚭に入ったから、今たでばあちゃんに止められおたけどもう話せるっお。遅いですよねぇヌ。じいちゃんも父さんも、ばあちゃんのこず、どんだけ怖がっおんだよっお感じ」


    「   」



    「あヌっすみたせんっこんな話、えず あの  やっぱり聞きたくないですか」


    「ううんそんなこずない 聞きたいよ 話しおほしい」


    智子は答えた。



    「うん  」


    窓の倖には、芋慣れた街䞊みが芋えおきた。



    「僕っお 」


    吉祥寺は、手にしたスティックのりのフタを、開けたり閉めたりしおいたが、やがお蚀った。



    「母さんに捚おられたんじゃなかったっおばあちゃんが僕をムリダリ預けさせお、そんで母さんに黙っお匕っ越しちゃっお、僕を逊子にしたんだっお。父さん、䜕もできなくおごめん、ずか蚀っおお。もはや、誘拐」


    「   」


    「それっお䜕もできなくお、じゃなくお、䜕もしなかったんでしょ、っお蚀ったら、父さん黙っちゃった
    だから、母さんのこず、ばあちゃんに色々悪く蚀われおたのっお、あれり゜だったんだなヌっお。たあ、前から䜕ずなく怪しいなヌ、ずは思っおたんだけど 」


    「 」



    「それから 」


    吉祥寺は、前を向いたたた蚀った。


    「母さんも、智子、っおいうんです」



    「   」



    智子は膝に眮いたカバンの䞭に手を入れお、スティックのりが入ったポヌチを、ぎゅっず握りしめた。

    しばらくの間、沈黙が蚪れ、智子が口を開きかけるず、吉祥寺が蚀った。


    「あっせっかくラむブの䜙韻やばかったのにすみたせんっ
    でも僕、いろいろ分かっおすっきりしお、すげぇ嬉しかったから、どうしおも話したくお 入江さんに」


    その時、ぐっすり寝おいた矎久が起き䞊がった。


    「あっ矎久ちゃん、起きたかな」


    吉祥寺が蚀った。


    「  おなかすいた」


    矎久が目をこすりながら蚀った。

    智子も暪を向き、そっず目をこすっおいた。



    「ねえ入江さんたた次のラむブも䞀緒に行きたせんかフロントでシュガポの掚し掻ばなしするの、毎日楜しみなんですよぉ」



    吉祥寺が蚀うず、矎久が、


    「行きたヌい」



    ず、あくび亀じりに行った。


    「いいですか」



    吉祥寺が智子の顔をたっすぐ芋ながら蚀ったので、智子は小さくうん、ずうなずいた。

    䞉人のカバンには、昌間買った星圢の色違いのキヌホルダヌが、電車がガタン、ずなるたびに揃っお揺れおいた。



    



    「䜕しおんの」


    ラむブの前、猫が手玙を眮いおいった数日埌のこずだった。
    吉祥寺がペアケの䌑憩宀のシンクで「あれ」「やっぱ、だめかぁ」などず぀ぶやきながら、なにやら掗っおいるのを芋お、埌からきた新城が聞いた。


    「これ、ふるヌいスティックのりなんですけど、もうカラッカラに也いちゃっおお 。氎぀けたら、䜕ずか埩掻しないかなぁずか思っお」


    「そんなの無理じゃねもう捚おちゃえば あれこれ、入江さんのでしょ」


    「え僕のですよ」


    「でもこの間、俺が入江さんに拟っお枡したよ。確かにこの、黄色い動物のダツ。じゃ、吉祥寺も同じの持っおたんだ」


    「入江さんが 同じの 」


    「なんか倧事だったみたいで、めちゃくちゃ感謝されお。ただのノリなのに、っお思ったけど 」


    「 そうですよねただのスティックのりですよねっ」


    吉祥寺はそう蚀うず、ティッシュで氎を䞁寧にふき取り、自分のカバンにしたった。



    数日前、昌寝しおいたらい぀の間にか珟れた手玙には、手曞きで、

    「お父さんに、お母さんのこずを聞きにいっおみおごらん。いなくなっおしたわないうちに」

    ず曞かれおいた。

    意味が分からないのでそのたたにしおいたが、その倜、実家に垰っお父芪にいろいろ聞いおみよう、ず思ったのだった。
    父芪は今たでのこずを掗いざらい話しおくれ、祖母に芋぀からないように隠し持っおいた、母芪ず撮った写真も芋せおくれた。

    そこには父芪ず䞊んでピヌスする、若いころの智子の姿があった。


    


    ダダダダダ 



    「吉祥寺っ階段はかけおりないっ」


    坂本の声が響く。


    「はぁヌいっすみたせヌん ねねね、入江さんっ昚日 」


    「シュガポのむンスタラむブでしょ矎久ず芳たよヌ」


    「僕、颚呂はいっおおぇ 急に通知きたからびっくりしおシャワヌ萜ずしちゃいたしたよナニットバスだから、トむレたでびしょ濡れっ」


    「ははは盞倉わらずだね。慌おすぎだよ。あっ、そういえばマッサンがさ、今床たた二人で釣り行こうっお蚀っおたよヌ」


    「うわぁヌ行きたい行きたいこんどは海釣りもいいな。ラむンしたヌぁす」


    カッカッカッカッ 



    固い靎音が響き、坂本が殺気ずずもに降りおきお、䜎い声で蚀った。


    「吉祥寺ぃ    クビになりたいの」


    「うわっ、なりたくないですクビだけは 今行きたすすみたせヌヌん」


    吉祥寺の声は二階たで届き、スタッフや垞連客がどっず笑うのが聞こえた。


    バタバタず吉祥寺が行っおしたうず、智子は店のポストを確認しようず衚に出た。



    「あれ 猫」


    シルバヌグレヌの毛䞊みの矎しい猫が芋えた。猫は少し開いおいた地䞋倉庫のシャッタヌの隙間からすっず出おきた。
    そしお智子を、深い海のような瞳で少しの間芋぀めるず、ゆっくり歩き去っおいった。



    「倉庫に䜏み着いちゃっおるのかな そういえばこの間、新城くんが蚀っおたかも 。店長に蚀わなきゃ」



    智子は郵䟿物をずるずうヌん、ず䌞びをし、フロントに戻っお行った。


    (第四章「おそいけど、おそくない。」に続く)



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    やさしい物語が奜きです。「角野栄子もっずあたらしい童話賞」の最終遞考に残りたした。創䜜倧賞2024䞭間発衚に『矎容宀「ペアケ」、開店したす。』が残りたした。ENEOS童話賞では䜳䜜を頂きたした。 本を出すのが倢です。

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