
雨の日の傘
拝啓 忘れてきた傘へ
朝は、あんなに頼りにしていたのに。
玄関を出たとき、雨はかなり降っていた。
今日は絶対に必要だと思った。
駅までの道も、
会社までの道も、
あなたがいなかったら困っていた。
それなのに。
帰るころには、晴れていた。
私は普通に会社を出た。
普通に電車に乗った。
普通に家の玄関を開けた。
そして、傘立てを見て思った。
あ。
あなたがいない。
そこで初めて思い出した。
朝、あれほど一緒だったのに。
雨が止んだだけで、
私はあなたの存在まで忘れたらしい。
薄情だと思う。
でも、たぶんまたやる。
次の雨の日、
会社の傘立てで再会したら、
「あった!」
と、まるで探していたみたいな顔をすると思う。
探してはいない。
今まで忘れていた。
ごめん。
でも、また雨が降ったら頼りにしています。
敬具
こちらの企画に参加させていただきました。
#拝啓文芸部
#雨の日の傘