メインコンテンツへスキップ

気配ー0.001%の部屋ー

    最終章 顔見知り


    エントランスの外は、思ったより静かだった。

    刑事と別れたあと、私はすぐには警察へ向かわなかった。

    その代わり、建物の外に立っていた。

    視線は、エントランスに向けたまま。

    「来るかもしれない」

    男の言葉が、頭の中に残っている。

    この建物に出入りできる立場なら、

    今日も、来る可能性がある。

    ただの偶然ではなく、

    "いつも通り"に。

    風が、少しだけ強く吹いた。

    花壇の花が揺れる。

    時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。

    何人かが出入りした。

    住人。配達員。

    そのどれもが違う。

    ——来ないのかもしれない。

    そう思い始めた、そのとき。

    エントランスの向こうに、人影が現れた。

    作業着。

    迷いのない足取り。

    胸の奥が、わずかに固くなる。

    ——来た。

    男は自然な動きで中へ入ってくる。

    まるで、何度もここに来ているかのように。

    私は、その様子を見ていた。

    逃げることも、隠れることもなく。

    ただ、立ったまま。

    やがて、男がこちらに気づく。

    一瞬、視線が合う。

    そして、足を止めた。

    「こんなところで会うなんて……」

    少しだけ間を置く。

    「どなたか、知り合いでもいらっしゃるんですか?」

    彼は軽く笑った。

    「仕事ですよ。点検で来てます」

    「点検ですか……」

    言葉を選ぶ。彼は日常の点検だと言い張るが、

    目は笑っているようでそうは見えなかった。

    「うちのアパートに出入りされている業者さん、だったんですね」

    「まあ、そんなところです」

    短い返事。

    わずかな沈黙。

    そのとき——

    「外で何してらしたんですか?」

    彼のほうから、そう聞かれた。

    一瞬だけ呼吸が止まる。

    でも、すぐに整える。

    「あっ、いや……ちょっと、警察の方と待ち合わせしていて」

    その言葉を口にした瞬間。

    彼の視線が、わずかに揺れた。

    ほんの一瞬。

    「……最近、物騒ですもんね」

    言いながら、すでに体の向きが変わっている。

    「じゃ、俺ちょっと急いでるんで——」

    言葉を言い切る前に、歩き出す。

    「失礼します」

    振り返らない。

    足取りだけが、わずかに速くなっていた。

    ——逃げた。

    胸の奥で、確信が静かに固まる。

    映像で見た顔。

    写真の中の人物。

    そして、今の反応。

    すべてが、ひとつにつながる。

    私は、その背中を追わなかった。

    呼び止めもしなかった。

    ただ、見送った。

    完全に姿が見えなくなってから、

    ゆっくりとスマホを取り出す。

    手は、思ったより震えていなかった。

    番号を押す。

    コール音。

    すぐに繋がる。

    「……はい」

    男の声。

    私は静かに言った。

    「今、エントランスの前にいるのですが」

    一度、息を整える。

    「警察の方が言っていた通り、例の人物が来ました。……今、逃げていきました」

    短い沈黙。

    「……わかりました。こちらでも確認します。その場を離れないでください」

    通話が切れる。

    スマホを下ろす。

    画面には、さっきまで開いていた「友達」とのトーク画面が残っている。
    『最近、彼くんとどう?』 昨日、何気なく送った私のメッセージ。そこには既読がついたままで、返信はない。 彼女は知っているのだろうか。彼が仕事と偽り、私の部屋の床下で息を潜めていたことを。もし彼女が何も知らないのだとしたら、私は、彼女から「平穏な日常」を奪う死神になる。 真相を暴くということは、誰かとの繋がりを断ち切ることでもあるのだ。 ポケットの中でスマホが震えた。警察からではない。友達からの、短い返信。 『うん、順調だよ!またノロケ聞いてね(笑)』 その無邪気な絵文字を見た瞬間、私の胸の奥で、何かが音を立てて崩れ落ちた。もう、あの頃のように彼女と笑い合うことはできない。犯人が捕まったとしても、私たちが失った「0.001%」の信頼は、二度と元には戻らない。

    風が、また吹く。

    花壇の花が揺れる。

    ちゃんと、上を向いて。

    私はそれを見ながら思った。

    ようやく、終わりに近づいている。

    でも。

    本当の意味での終わりは、まだ先だ。

    友達に、どう話すのか。

    この部屋に、このまま住み続けるのか。

    答えは、まだ出ていない。

    それでも。

    「何もなかった」

    そう言われ続けた日々は、もう終わった。

    自分の感覚は、正しかった。

    それだけで、今は十分だった。

    「ただいま」

    いつかまた。

    この言葉を、何の重さもなく言える日が来るといい。

    そう思いながら、私はその場に立っていた。

    やがて遠くから、男の足音が聞こえてくる。

    ——

    ドアの隙間に挟んだあの髪の毛は、もうそこにはなかった。
    床に落ちたそれを見つけたとき、
    私はようやく、自分の正しさを手に入れたのだと思った。
    部屋の中では、 誰もいないはずのテーブルの上で、
    友達にもらった青いボールペンが、
    明日を待つように、光を反射して、静かにそこにあった。
    (了)

    ※本作は、ChatGPT cloude Gemini 最終稿はAIアシスタントとの対話を通じて構成・推敲を行いました。



     
     
     
    2次障害を伴うADHD。只今絶賛母さんやり直し中。趣味は1人カラオケと絵を描くことと言語活動 ※ここで使用している写真は全て私が携帯で撮影したものです

    あなたへのおすすめ