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誰かを特別に想うことは、いけないことですか?


    今でも、答えの出ない保育園での出来事があります。

    ある男の子Aくんがいました。

    2歳児クラスから担任をしていた子です。

    とても賢くて。

    言葉もよく知っていて。

    でも、自分の思い通りにならないと、
    友だちに指示を出したり、大人に反発したり。

    周りとぶつかることも少なくありませんでした。

    「どうしてそんな言い方するんだろう」

    そう思われることもあったかもしれません。

    でも私は、その姿を見るたびに、

    「Aくんは、本当は何を伝えたいんだろう」

    そんなことを考えていました。
     

    ──
     
     
    Aくんが描く絵には、
    不思議な特徴がありました。

    人を描いても、

    自分を描いても、

    輪郭がないのです。
     
     
    絵の勉強会で、
    ある先生がこんな話をしてくださいました。

    「たくさん抱きしめられることで、こどもは"自分"という存在の輪郭を感じていく、という見方があります」

    もちろん、それだけでこどもの絵を説明できるわけではありません。

    でも、その話を聞いた時、

    私はAくんのことが頭に浮かびました。
     
     
    Aくんを0歳児から知る先生たちは、

    「お母さんに抱っこされている姿を見た記憶がない」

    そんな話をしていました。

    それを聞いた時、

    胸が締めつけられるような気持ちになったのを覚えています。

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    ──
     
     
    年長になり、

    卒園まであと数か月となった冬。

    Aくんが、初めて私の膝の上に座ってきました。

    本当に初めてでした。

    2歳、4歳、5歳と担任してきましたが、

    甘えてくることなんて、
    一度もありませんでした。

    だから、その瞬間が嬉しくてたまりませんでした。

     
    それから少しずつ、

    私のそばに来ることが増えました。

    「はなせんせい、いっしょによもう」

    そう言って絵本を持ってきたり。

    何かあると私を探したり。

    きっと、本当はもっと前から甘えたかったんだろうな。

    そんなふうに思いました。
     
     
    ──
     
     
    担任同士で話し合いました。

    「Aくんに、少し一対一の時間を意識して作ってみようか」

    絵本を読む時間。

    ちょっとしたやりとり。

    ほんの少しだけ、

    Aくんが安心して甘えられる時間をつくることにしました。

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    私はその時間が苦ではありませんでした。

    むしろ、

    Aくんの表情が少しずつ柔らかくなっていくのを見るのが嬉しかったんです。
     
     
    ──
     
     
    でも…

    あれから何年も経った今、

    私は別のことを考えるようになりました。

    あの時、

    周りのこどもたちはどう見ていたんだろう。

    「なんで、Aくんだけ?」

    そう思っていた子もいたかもしれない。

    担任の中にも、

    「特別扱いになってしまわないかな」

    そう心配をしていた先生もいました。

    その意見も、

    よく分かります。

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    ──
     
     
    Aくんには、

    あの時間が必要だった。

    今でもそう思っています。

    でも同時に、

    ほかのこどもたちの気持ちも、大切です。

    公平って何なんだろう。

    みんな、同じように関わることなのか。

    それとも、

    必要としている子に、

    必要な時間を届けることなのか。

    その線引きは、

    思っていたよりずっと難しいものでした。
     
     
    ──
     
     
    結局、

    途中からは一対一の時間を少し減らしました。

    あの時の判断が正しかったのか。

    最初の関わりが正しかったのか。

    今でも分かりません。
     
     
    ──
     
     
    私は今でも、

    「あの時は、あれでよかった」

    と言い切ることはできません。

    でも、

    「あれは間違いだった」

    とも思えないんです。

     
    だから今日も、

    こどもと関わるということの難しさを思い出すたびに、

    Aくんのことを思い出します。

    そしてまた、

    答えの出ない問いを抱えたまま、

    考え続けています。


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